ブレイキン聖地“溝の口”に世界的アーティスト「DRAGON76」のミューラルアートが誕生!【本人インタビュー】

2025.11.07
text and interview by Daiki Hatakeyama

この度、日本のストリートカルチャー発信の中心地であり、世界で大活躍するB-Boy/BGirlたちが生まれた「ブレイキンの聖地」として知られている「MIZONOKUCHI(溝の口)」を象徴する壁画がJR南武線武蔵溝ノ口駅の南北自由通路に展示されている。今回の作品はストリートカルチャーの世界で活躍する日本人ミューラルアーティストDRAGON76氏が制作を手がけ、まさにブレイキンの聖地「MIZONOKUCHI」の歴史を伝え、日本のストリートカルチャーの今を表現する地域から愛される作品となった。

なお、ここ「MIZONOKUCHI」はパリオリンピックの金メダリストであるB-Girl Amiや世界で活躍するB-Boy Shigekixが幼少時代から練習しスキルを磨いたスポットであり、世代を超えたブレイクダンサーたちが今もなお集まることで国内外に知られている特別な場所だ。

今回のプロジェクトは、より多くの人々に「MIZONOKUCHI」を知ってもらうべく、川崎市出身のダンサーB-Boy KATSU ONEB-Boy Steezが中心メンバーとなり、高津区内の団体や学校、ダンス関係者と共に「高津区ブレイキン・モニュメント制作委員会」を結成したことがきっかけで始動した。

壁画の前で集合写真を撮る
高津区ブレイキン・モニュメント制作委員会の関係者とDRAGON76氏

12日間の制作期間を経て完成した今回の壁画の一般公開を祝して「MIZONOKUCHI ブレイキン・アート完成記念セレモニー」が先月10月11日(土)に執り行われ、今回の制作に携わった「高津区ブレイキン・モニュメント制作委員会」のメンバーはもちろんのこと、JR武蔵溝ノ口駅駅長や川崎市長をはじめ官公庁の来賓の方が招かれ、JRや駅ビルを利用される一般のお客様にもオープンな形でお披露目された。

本セレモニーではここMIZONOKUCHIを拠点に活動するB-Boy/BGirlが、若手からレジェンドまで一堂に会し、この記念すべき日を共に祝うパフォーマンスを魅せて会場を沸かせた。パフォーマンス後はその流れでDRAGON76氏が壁画に名入れを施して作品の完成が発表された。

ブレイキンパフォーマンスの様子
DRAGON76氏の名入れの様子

その後は制作委員会のメンバーや川崎市長らがお祝いの言葉を述べ、DRAGON76氏が壁画のコンセプトや経緯を説明。最後に関係者による集合写真が壁画の前で撮られてセレモニーは幕を閉じた。

なお今回、FINEPLAY編集部は独自にセレモニー後のDRAGON76氏へインタビューを敢行。今回の壁画の制作秘話をはじめ、彼がミューラルアートを通して伝えたいストリートカルチャーへの思い、またこのシーンに関わる次世代に伝えたいこと、そして最後に今後の展望について聞いた。

是非このインタビューを読了していただいた皆さまには実際に「MIZONOKUCHI」へ足を運び、自分の目でこの壁画を見て、アートの中に込められたストリートカルチャーの思いを肌で感じ取って欲しい。

ミューラルアーティスト“DRAGON76” スペシャルインタビュー

DRAGON76(以下:D)

自分の好きな絵を200%突き通した上で完成した、今後のストリートカルチャーの聖地の顔となる歴史的な作品

―  12日間の制作期間の末に、溝ノ口駅の作品が完成しましたが率直に今の感想を聞かせてください。

D:今回は制作期間もしっかりもらえましたし、天候に左右されることもなく、想定していた日数を全て使い切ることができたので、作品のクオリティ的には最高に良いものができたと感じています。

また僕自身、ヒップホップカルチャーが大好きですし、僕の息子もブレイキンをしていることもあってブレイキンのカルチャーをとてもリスペクトしています。

そういった経緯もあり、今回このブレイキンの聖地である溝ノ口駅で壁画を描くという日本のヒップホップシーンにとって歴史的な瞬間に携わらせてもらえたことがとても光栄ですし、その中でも自分の好きな絵の案を200%通させてもらって1ミリも妥協することなく作品を描けたことがすごく嬉しいです。

―  今回の作品のコンセプトについて教えてください。

D:「MIZONOKUCHI」というこの場所自体が世界に発信できるぐらいブレイキンの有名なスポットであり、昔から色々なレジェンドB-Boy/BGirlの方々がここで踊り続けて、代々脈々と受け継いできたという背景があるので、今回はその日本のヒップホップカルチャーの聖地を世界に対して発信することがすごく重要な役目だと感じていました。

この絵では「ヒップホップというニューヨークで生まれたカルチャーが海を渡り日本に来て、日本の美意識や色々な要素と交わり合いながら新しい文化として発展してきた」というストーリーを自分で作り、昔ながらの古い日本のトラディショナルなモチーフと、ヒップホップカルチャーやアメリカの文化が混ざり合ったらどういう化学反応になるのかを想像して作ったのがこの絵の真ん中のキャラクターになります。

デザインはストリートやアメリカ的でありながらも、絵の中のダンサーやファッションには日本的な要素を取り入れることで、どこか日本を感じられるようにしています。海外の人に向けて「これが一番かっこいい日本のヒップホップ」と誇れて、また日本のB-BoyやB-Girlも自分たちのカルチャーに誇りを持てるような絵を作りたいと思い、時間をかけて色々考え制作しました。

 ミューラルアートは街の人々と対話しながら描き上げていくところが個性的な面ですが、今回の作品を描くにあたって地域の方の反応はどうでしたか?

D:今回意外ですごく良いなと思ったことがあります。元々若い人たちはこのような駅構内でストリートアートやスプレーアートをすることに興味を持ってくれるだろうと思っていたのですが、意外と年配の人たちが興味を持ってくれたことが嬉しかったです。今回の絵のデザインが日本風であったり、日本の伝統的な要素を取り入れて描いたことに対しての反応が大きかったのかなと感じました。そういう意味では日本風のデザインで今回描き上げて本当に良かったなと思いましたね。

MIZONOKUCHI ブレイキン・アート完成記念セレモニーの様子

―  ちなみにアメリカや日本全国で制作をされているDRAGON76さんですが、各地域ごとのミューラルアートに対して反応の違いを感じる点はありますか?

D:はい、あります。もちろん普段活動しているニューヨークと日本ではミューラルアートを取り巻く環境は全然違いますし、アメリカの中でも他の州では反応が全然違います。

ニューヨークを例にすると、普段描いている時に通行人の方々が作品を見て「良いな!」と思った瞬間にタイムラグなくフレンドリーに声をかけてきて、その感じた思いをすぐ表現してくれます。逆にそれが仇となって描いている途中にめちゃくちゃ話しかけられることで自分の集中力が途切れてしまうこともあるのですが、コミュニケーションを取ってくれることは嬉しいです。また街中で描くことの醍醐味は、そのような街の人とコミュニケーションが取れてリアルな反応をもらえるという良さだと思っています。

一方で、日本はそこまで良いと思った瞬間にすぐ声をかけてくれるわけではないのですが、しばらく作業しているところを見ていてくれて、自分が休憩や作業を止めてお茶や水を飲んでいる時に声をかけてくれるのですごい節度を感じます。この距離感はすごく独特で日本ならではですが、同じ日本人としてはその空気を読んでくれる心地よさがありますね。

ミューラルアートとブレイキンが共存するストリートカルチャーについて感じること

―  そんなミューラルアートやブレイキンも含め、長年関わって来られたストリートカルチャーはDRAGON76さんにとって改めてどのようなものですか?

 D:ストリートカルチャーは元々はニューヨークで生まれたカルチャーですが、それが日本にやって来て、その当初から長年ヒップホップやブレイキン、ストリートアートに携わってきた人たちが今では「俺たち・私たちの文化」として誇れる存在になっているという点がすごく大きいなと思います。

今ではストリートカルチャーといえば多くの人に知ってもらえていて、関わっている人の数も多いですが、特に10~20年前はマイノリティの文化だったので、そこに対しての誇りというのは他のカルチャーよりもすごく強いのではないかと感じています。

―  昔から国内でもブレイキンとミューラルアートの距離感は常に近かったのでしょうか?

D:そうですね、近かったです。大きく括るとブレイキンもミューラルアートもヒップホップカルチャーから始まったものなので、普段から聞いている音楽やノリもすごい近いものがあります。個人的なことで言えば、特に息子がブレイキンをやっていて、B-BoyやB-Girlとの距離も近いということもあって僕自身共感できる部分も非常に多いです。

―  同じヒップホップカルチャーを起源としているとのことですが、ミューラルアートを描いている時にブレイキンとリンクしているような感覚を感じることもありますか?

D:感じますね。表現方法は違えど、どちらも同じヒップホップやストリートの表現なので。アートはビジュアルで見せるので目から入ってくるメッセージになります。視覚的にメッセージを伝えるからこそ、絵に意味を込める時は頭で色々考えて、どうしたら相手に伝わるかを考えながら描いています。

一方でダンスは体でその瞬間に見ている人たちに何かを伝えるものだと思います。でも本質的にどちらも伝えたいことは明確な言葉ではないにしても、自分の中にあるフラストレーションやピースなことなどを表現するという点においては共通点を強く感じています。

また僕はヒップホップが「ピース・ラブ・ユニティ」を掲げているすごいピースな文化であるところが好きで、それはブレイキンの人たちも一緒で、元々はコミュニティが対立していたところを暴力ではなくダンスバトルで決着をつけるという文化から始まりましたし、暴力を使わず何かを伝えるという点で共通するところは歴史的にも深くあると思います。

DRAGON76が大事にしているストリートカルチャー「芯」の部分と次世代に伝えたいこと

―  ストリートカルチャーが社会に浸透していく動向をどう捉えていますか?

D:若い人たちが何かを表現したいと思う時に、ストリートアートを選んでくれることは僕にとっても嬉しいことです。僕はストリートアートを本当に楽しくやっていて、スプレーでミューラルアートや壁画を描くのがすごく楽しいです。

制作期間中も「早く次の日になって続きを描きたい、早く目覚めて描きに行きたい」となるぐらいストリートアートが大好きなんです。その楽しさをもっと人に知ってもらいたいし、ハマる人は絶対ハマると思うので、そういう人たちにストリートアートを通してもっと人生を楽しくしてもらえたらと思っています。

―  ご自身の表現において、ストリートカルチャーの大事にしている「芯」のようなものはありますか?

D:最近いろんなところでもよく言っているのですが、アートにしてもどんな仕事でも、やっぱり基本は社会貢献が大事だと思っています。アートを描くことは自分のエゴでやることでもありますが、プラスして社会に貢献したいという思いが強いです。

世の中や社会を動かしたいというような大それたメッセージではないのですが、例えば今回のような駅という場所で描いていて、日々大変な仕事をされている方や毎朝出勤される方がこの絵からパワーをもらえるような、そういう人たちの力になれる絵を描きたいと思っています。だからこそネガティブな絵はあまり描きたくないです。

―  ストリートアートに関わる若いアーティストや次世代に伝えたいことはありますか?

D:一つ大きなこととしては、若いうちに時間がある時に英語は絶対に覚えた方が良いということです。将来どんなことをやっていくにも、英語が話せると本当に世界が広がりますし、それによって出来ることが増えます。

ストリートアートは実力社会なところもあるので英語が話せなくてもその先はあるかと思いますが、話せたらそれだけもっとその先の道や手段が絶対ありますし、英語というコミュニケーションの中で何かが生まれていくのが結構大きいからです。

英語を話せるように努力するのはすごく大事です。僕自身もまだまだ苦戦していますし、もっと早く勉強すれば良かったと思うことは多いので、ストリートアートに限らずストリートカルチャーに関わる次世代には声を大にして伝えたいです。

今後の展望について

―  今後の展開や考えていることはありますか?

D:アメリカで活動している中で、まだまだ日本で知られていないやばくてすごいかっこいいアーティストに会うことが多くあります。なので自分の活動の中で出会ったイケてるアーティストを日本に呼んで、彼らの作品やそのスキルを知ってもらえるような機会を作りたいと思っています。

それによって、日本ではまだ知られていなかったアートに触れ合えるチャンスを作りたいですし、スプレーアートなどが日本でもっと人口が増えていけばストリートアートのシーンが盛り上がると思いますし、きっとスプレーももっと手に入りやすくなるだろうなとか考えています(笑)

また他ジャンルなど興味があることに対しては今後もコラボレーションしていきたいと思っています。個人的にサッカーが好きなのですがスポーツは色々コラボしたいですし、ファッションや音楽など興味があることはジャンルを問わず一緒にコラボして作品づくりをしていきたいと思っています。

―  最後に今後直近で計画されているイベントやワークショップ等がございましたらお聞かせください。

D:11月7日からロサンゼルスで個展があるのですが、日本国内だと来年から千葉で壁画フェスティバルを立ち上げる予定で、そこに先ほど言ったやばい海外アーティストを呼んでストリートアートを盛り上げたいと思っています。

あとはまだ日程は決まっていないのですが、自分の地元の滋賀県日野町で、僕と町のみんな一緒に音楽とアートの2daysのフェスを2年に1回開催していて、そこでは自分の活動を通じて知り合ったやばいミュージシャンやアーティストを呼んでいるのですが、そのフェスを来年開催する予定です。

DRAGON76プロフィール

1976年滋賀県生まれ。 2016年よりニューヨークを拠点にストリートアートをベースとした壁画アーティストとして活動。過去と未来、静と動、正義と悪など、相反するものの共存をテーマに作品を制作し、作風は常に進化し続けている。これまでに手掛けた最大の壁画は256フィート x 53フィートで、2021年にテキサス州ヒューストンで国連の委託を受けて制作。米国の48か所で壁画を描いた経験を持つ。

またART BATTLE NYで3度優勝、2018年US CHAMPIONSHIPで優勝し初代全米チャンピオンとなり、NEW ERAやX-LARGEなどのブランドとコラボレーションも数多く経験。 また、彼のアイデンティティである日本の伝統的な侍を現代風にアップデートしたオリジナルキャラクター玩具「DR76」は数分で完売した。なお今回の壁画の舞台となった川崎市では2019年と2020年に、市役所本庁舎の工事現場の仮囲いに巨大なミューラルアートを制作した実績があり、川崎での壁画制作は3度目となる。

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FINEPLAY編集部
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