「みんなにカッコいいって言われるプロライダーになりたい」世界が大注目するBMXキッズライダー松浦葵央の挑戦

2023.04.05
text and interview by 畠山大樹

東京オリンピックをきっかけに知名度と人気が急速に上がっている「BMXフリースタイルパーク」。2022年度世界チャンピオンの中村輪夢選手を筆頭に日本人選手たちが世界に名を馳せ始めている中、今世界が注目している次世代の日本人キッズライダーがいる。

彼の名前は松浦葵央。弱冠12歳ながら世界トップ選手でもメイクが難しい高難度のトリックの数々を世界最年少で成功させるといった偉業を成し遂げ、今もなお世界最年少記録の数を増やし続けている。そんな彼が更なる成長のために選んだのは、東京オリンピック金メダリストのローガン・マーティンを始め世界のトップ選手たちを有するBMX大国のオーストラリア。12歳で単身オーストラリアへ行き短期留学を経験した彼に今回はインタビューを敢行。留学経験談から、BMXとの出会いと強さの秘訣、今後の目標と夢まで色んな角度から松浦選手に迫った。

松浦 葵央(以下:A)
松浦 父 (以下:T)

弱冠12歳で単身オーストラリアへ留学

まずはオーストラリア留学おかえりなさい。初めて留学してみていかがでしたか?

A:言葉が通じなくても、聞き取ってくれるから言葉が伝わらなくても、楽しかったです。ホームステイ先の人が優しかったので英語も順調に覚えられそうだなと思いました。

ちなみに英語の方はうまくなりましたか?

A:まだしっかり話せないけど、上手くはなりました。今では言ってることは大体理解できます。

勉強はオーストラリアの学校でやっていたんですか?

A:はい。ゴールドコーストにある語学学校で読み書きをメインに学んでいました。同い年くらいの外国人の子もいっぱいいました。日本人の子はあんまりいなかったですけど、中国人の方が多かったです。会話の練習は基本的にホームステイ先でやっていました。

どうしてこのタイミングでオーストラリアに留学に行こうと思ったんですか?

A:9月に初めてオーストラリアへ行った時に、向こうの選手とコミュニケーションに苦労したので、早く英語を覚えたいなと思って今回行くことにしました。

英語勉強のための留学だと思いますが、BMXはどれくらい乗っていましたか?

A:月曜日~金曜日の平日は学校に行ってずっと勉強をしていたので、自転車はほとんど乗っていないです。週末だけ友達と一緒に乗りに行く感じで過ごしていました。

英語勉強の中で何に一番苦戦しましたか?

T:今まで小学校にも英語の授業はありましたが、勉強というより英語に触れるための授業でしたし、担当してくださった留学先のコーディネーターさんも「(日本で)あまり変に英語を覚えて来なくてもいいです」という感じだったので、海外の語学学校に関しても仕組みがあまりわからないまま行きました。

実際に行ってみるとかなり語学学校のレベルが高く、葵央もこれは「ヤバイ」となったようでした。それから一ヵ月くらいは英語を勉強していく中でも、なかなか思うように上達できなくてへこんだ時期もあったみたいです。

その頃にBMXを通じて現地の友達ができて、またとある友達のお母さんで日本人の方もいたので英語の覚える大変さも教えて頂きました。それからみんなとBMXに乗って会話をしていくうちに、2か月目の真ん中くらいから少しづつ理解できるようになっていきました。そういう辛い時期も乗り越えさせてくれたBMXの存在は本当に大きいですね。

言葉が通じなくても、BMXが国境を越えて通じ合わせて後押ししてくれたんですね。ちなみにオーストラリアのBMXの練習環境は日本と比べてどうでしたか?

A:すごい色んなパークがたくさんあったので、日本より乗りやすい環境でした。

T:自転車で自走したり、歩いていけるような場所では無いんですけど、車で行ったら5分くらいで着くような場所にパークがいくつかありました。お友達のご家族にも色々連れて行ってもらえたので色々なパークにいけました。向こうはコンクリートボウルが多いので、練習というよりも遊びの延長くらいでBMXを楽しんでいたみたいです。

今回オーストラリアに行ってみて、どんなことが経験できましたか?

A:オーストラリアに行って、最初の頃は向こうのいろんな人と話すのが少し怖かったんですけど、日本に帰るころにはそのような怖さは無くなったので良かったです。

英語に対する怖さが無くなったという事は、葵央くんが世界へBMXを挑戦していくにあたって自信に繋がりましたか?

A:はい、とても自信に繋がりました。

世界が大注目する選手となった彼とBMXの出会い

BMXを始めたきっかけを聞かせてください。

A:BMXショーを小さいころ初めて見て、そこからカッコいいなと思って乗り始めました。

そのBMXショーはどこで見たんですか?

T:埼玉の所沢ですね。所沢市に祖母の家があり近くに公園があるんですが、その公園で遊んでいた時にBMXを練習している人もよく見かけることもありました。そんな時たまたまその公園で開催されていたお祭りでBMXショーを見た時に改めて「こういう遊びがあるんだ」というのに気づいたみたいです。当時は2歳~3歳でしたが、それからBMXが気になり始めて、ライディングのビデオをずっと見るようになったり、遊びに行く先々でBMXを見つけては乗りたそうにしていました。

それから数年経って7歳の頃にBMXを始めようと思い、鵠沼の方でBMXができるところを探していたらパークと自転車屋さんを見つけたので満を持してBMXフリースタイルパークを始めました。なので元々周りにBMX関係者やライダーがいたわけでは無かったですね。

葵央くんはBMXのどんなところが好きですか?

A:全部好きですけど、特に技とかジャンプがカッコいいところが好きです。色んなライダーがいて、それぞれライディングやトリックも違うのでそういった自分だけのスタイルがあるのがカッコいいです。

葵央くんのスタイルとしてライディングの時に意識していることはありますか?

A:ジャンプやセクションのこなし方など綺麗に乗っているところを見せたいと思っています。乗り方にしてもトリックにしても余裕を持ってスムーズに見えるように意識してます。

ちなみに何が葵央くんをBMXにここまで熱中させているんでしょうか?

A:BMXに乗っているうちに出来る技が増えていく中でやりたい技がどんどん出てきたり、色んなBMXの動画を観ているうちに「この技やりたいな」と思ったりもするので、そういうことをずっと続けているといつもモチベーションは高いままですし、BMXに飽きることはないですね。

高難度の大技を繰り出す彼の強さの秘訣は「基本を突き詰めること」

普段は日本で練習していると思うんですけど、どこでどんな練習をしているんですか?

A:新横浜のスケートパークによく乗りに行くのですが、普段はトリックよりもライディング中にバタバタしないように着地やトランジションを意識して丁寧に乗る練習をしています。

丁寧に乗れるようになると、大会等でどう活かされるのでしょうか?

A:スピードが落ちなくなるので、セクションで大技を入れる場合も余裕を持ってジャンプしてトリックが出来たりするのでライディングが全体的に綺麗になります。

ハイレベルな大技も葵央くんの特徴ですが、大技はどう練習していますか?

A:始めにやりたいトリックをイメージしてから、危なくて難しい技だったらスポンジプールとかで練習して感覚を掴んでから本番という感じで練習しています。

T:小さいころからトリックを練習してきたんですが、当時は親側もどう教えたら良いか分からない状態だったので結構ケガに繋がってしまうことも多かったんです。

そのような経験を重ねていくうちに「自転車の乗り方に基本があるだろう」と気づき、まずはトリックに挑戦する以前に「乗り方の綺麗さ」の中に基本スキルが詰まっていると思ったので「上手な乗り方」を二人で研究しました。

綺麗で丁寧な乗り方を研究していくうちに、アールだったりいろんなセクションでの乗り方を知り、本人の中でもトリックのタイミングがより見つけやすくなったことでトリックに対する想像力が増えたんです。

トリックの種類に応じて「この技はこのタイミングで飛ぶ」とか、なんとなくイメージできるようになってきてから、実際の練習としてスポンジプールでトライして少しずつ身体で覚えていく感じになっていますね。

今までのケガの経験があったからこそ基本的な乗り方を意識されるようになったんですね。

T:乗り方に関してはゴールはなく永遠に追及していくものだと思うんですが、本人も「基本的な乗り方」を追求していくおもしろさに気づけるようになってからずっと乗っていますね。また大技に対する恐怖心も基本を突き詰めていくことで少しずつ無くなっているように見えます。

そういう意味でも新横浜のスケートパークのボウルセクションはトリックをしなくても楽しく乗れて基本スキルを磨けるのでよく行くんですが、このスタンスがオーストラリア留学でも実は活かされていたんです。

オーストラリアとは違ってまだ国内にはボウルセクションのあるパークが少ないので、近くに新横浜スケートパークがあること自体すごく恵まれていて、そのおかげで最近になって綺麗に乗るということが凄く練習になるということに気づけたのでありがたいです。今はその繰り返しで、基本を突き詰めているうちにまたやりたい技が出てきて、じゃあトライしてみようというサイクルになっています。

そのような練習を取り入れている中で、葵央くんが参考にしているBMXライダーはいますか?

A:中村輪夢くん、ローガン・マーティン、パット・ケーシー、オーストラリアのショーン・ガードナー、あとデニス・エナーソンも好きなのでよく動画を見て参考にしています。他にもオーストラリアで乗っている中でカッコよくて参考になるライダーもいっぱいいました。そういった形でみんなのライディングを見て「自分もこの技をやりたい」と思ってやってみることもあります。

練習の中でトリックのメイクに苦戦した時にアドバイスを貰ったり相談するような人はいますか?

A:行き詰まったら、僕の尊敬しているライダーに相談したり、同い年のライダーの子にも聞いたりしますし、あとはお父さんと動画を一緒に見たりしながらどうしたら良いかを話しあったりしています。

今、力を入れて取り組んでいるトリックはありますか?

A:フレア540は、オーストラリアに行ってから挑戦しているトリックで、この間初めて1回できたばっかりで今も練習しています。

メイク率はどれくらいですか?

A:3回くらい挑戦して1回出来ただけです。

T:でもトライできたのも一日だけだったんです。カイル・バルドックのパークでレッスンを受けて、その次の週に違うパークのレジーマットの上で初めてトライして何回目かで1度だけ成功できた感じです。

本人も3Dの回転が好きなのでトライするまでイメージはずっとしていました。小さい頃からフレアは出来ていましたし、それからも複雑な回転の軸を探したり、3Dの動きにずっと注目していたのでイメージはバッチリでした。その状態で最後のキッカケをプロに教えて頂いたことでカチッとはまってチャレンジできた感じですね。

やっぱりイメージ出来ないと難しい大技だと思いますし、そのためにもずっと基本を突き詰めてやってきた甲斐があるなと感じます。

また大会の時に自分が良いライディングをするために意識していることはありますか?

A:大会でやるルーティーンとトリックのイメージは絶対しますし、あとは自分が苦手な技はちゃんとメイクできるようにもう少しイメージを深めてからライディングに入れるようにしています。

海外に挑戦して気づいた成長の秘訣は「遊んで楽しむこと」

今回のオーストラリア留学も含め海外での挑戦を始めた葵央くんですが、ローガン・マーティンを始め海外のトップ選手と同じパークで練習してどうでしたか?

A:乗り方も技もやっぱりカッコいいですね。でも特にカッコいいと思ったのは乗り方です。ジャンプ後のバックサイドへの合わせだったり。ライディング中もスピードが落ちないところ、ジャンプの高さや大技もすごいので世界のトップレベルを肌で感じられました。

またオーストラリアで同年代のライダーたちと乗ってみて感じたことはありますか?

A:日本は技ばっかり練習する子が多いんですが、オーストラリアは乗り方が綺麗で自分がやりたいようなスタイルに既になっている子が多いのでレベルが高いなと思いました。

オーストラリアと日本のBMXシーンの違いってどこだと思いますか?

A:日本は「大会があるからそのための練習をしよう!」みたいな子が多い一方で、オーストラリアは「大会!大会!」っていう感じではなくて友達と一緒に乗りながら遊ぶ中で上手くなっている子が多いです。

去年のNITROジュニアゲームズが葵央くんの海外初の大会だったと思います。日本の大会と比べて初めての海外の大会はどうでしたか?

A:乗り方にしても技にしてもレベルが1段階高かったです。

T:NITROジュニアゲームズはお祭りみたいな感じで大会という印象では無かったです。どちらかといえば競うよりも表現する場という感じだったので好きなように乗っていました。その中で技や得点がどうという訳では無く、とにかくアピールするような感じでした。

大会というよりはジャムセッションのようなスタイルを評価してくれるコンテストだった感じですか?

T:本人の順位としては4位でしたが、結果も大会後にこちらから聞いたから教えてくれただけで実際3位までしか発表されていなかったんですよ。なので大会のスタンスとしても順位にこだわらず純粋にBMXを楽しむことに重きを置いているように感じましたね。

そのため形式上は大会ではあるものの、本人も競っている感覚はないので純粋にライディングを楽しめていました。出場者の中で上手い人もたくさんいるんですが、本人は周りを気にせず自分に何ができるかを集中してライディングできていましたし、本当に誰が上とか下とかそういう見方では無くて表現の仕方に重視したコンテストという風に感じました。

オーストラリアではパークで乗るライダーたちも、丁寧に乗ることや色んなラインを色んなスタンスで乗って遊ぶ人が多いなと感じます。そのように楽しんでいるうちに基本スキルが勝手に身に付いて行くので大会に出るようになった時も技のタイミングやコツに気づきやすくなるんだと思います。

本人も日本にいると大会のための練習をしがちなので、オーストラリアに留学したことで楽しみながら乗ることが練習になるということに気づけたんだと思います。

改めて今回オーストラリアでライディングして感じたことを聞かせてください。

A:やっぱりBMXを遊びながら乗れていたので、トライしたトリックの難易度は高かったけどすごい楽しかったです。

松浦葵央の将来の夢と今後の目標

今年のシーズンで目指していることはありますか?

A:大会での目標はJFBFシリーズで、自分のできるベストなトリックをみんなに見せて1位が取りたいです。また大会でプロみたいにカッコよく乗れるようにその練習のためにもまた留学に行くのが今の目標です。

また海外に行く予定もありますか?

A:実は今月末にもう一回オーストラリアに今度はBMXをメインにして留学に行きます。街は同じゴールドコーストですが、BMXもアクティビティとして取り入れている学校に3週間通って、オーストラリアには全部で6週間いる予定です。英語もBMXも両方上達できるように頑張ります。

最後の質問ですが、葵央くんは将来どんなBMXライダーになりたいですか?

A:「Nitro World Games」、「オリンピック」、「X Games」、「Vans BMX Pro Cup」などいろんな世界大会に出て、たくさん活躍して、成績を残して皆にカッコいいって言われるようなプロライダーになりたいです。また僕自身が色んな人にBMXを教えられるライダーになることも夢です。

松浦葵央プロフィール

2010年7月10日生まれ。神奈川県横浜市出身のBMXライダー。2歳の時に見たBMXショーに憧れを抱き、その後、7歳から本格的にBMXフリースタイルパーク種目を始める。競技を始めてすぐに世界最年少の7歳で大技「バックフリップ」を成功。また9歳の頃には同じく世界最年少として大技「フレア」も成功させた、世界がいま注目する天才BMXライダー。東京五輪金メダルのローガン・マーティンらが使用しているBMXメーカー「HYPER」より10歳からサポートを受け、11歳となった今では「コーク720」や「バックフリップテールウィップ」を世界最年少で成功させるなど、大技を次々と習得し世界最年少の実績を残し続けている。2028年ロサンゼルス五輪のBMXフリースタイルパークで金メダルを目指す注目のキッズアスリート。

執筆者について
FINEPLAY編集部
FINEPLAY は世界中のサーフィン、ダンス、BMX、FMX、スケートボード、スノーボード、クライミングなどストリート・アクションスポーツに関する情報を提供するWebマガジン
ピックアップフォト
アクセスランキング
FINEPLAY
アクションスポーツ・ストリートカルチャー総合メディア

FINEPLAYはアクションスポーツ・ストリートカルチャーに特化した総合ニュースメディアです。2013年9月より運営を開始し、世界中のサーフィン、ダンス、ウェイクボード、スケートボード、スノーボード、クライミング、パルクール、フリースタイルなどストリート・アクションスポーツを中心としたアスリート・プロダクト・イベント・カルチャー情報を提供しています。

アクションスポーツ・ストリートカルチャーの映像コンテンツやニュースを通して、ストリート・アクションスポーツの魅力を沢山の人へ伝えていきます。

直近のワークショップ
直近のワークショップはありません
イベントスケジュール
11月 2024
     1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
« 10月   12月 »

●今日 ○イベント開催日

ピックアップフォト
編集部おすすめ記事
アクセスランキング
FINEPLAY
アクションスポーツ・ストリートカルチャー総合メディア

FINEPLAYはアクションスポーツ・ストリートカルチャーに特化した総合ニュースメディアです。2013年9月より運営を開始し、世界中のサーフィン、ダンス、ウェイクボード、スケートボード、スノーボード、クライミング、パルクール、フリースタイルなどストリート・アクションスポーツを中心としたアスリート・プロダクト・イベント・カルチャー情報を提供しています。

アクションスポーツ・ストリートカルチャーの映像コンテンツやニュースを通して、ストリート・アクションスポーツの魅力を沢山の人へ伝えていきます。

配信先メディア一覧