アクションスポーツシーンでは、「スポンサー」を禁句にしてみよう【新連載】FINEPLAY INSIGHT 第一回

2019.05.13
FINEPLAY編集部

かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の新連載「FINEPLAY INSIGHT」がいよいよスタート。

東京五輪でのスケートボード、スポーツクライミング、BMX、サーフィンといった種目の実施が決まり、次回のパリ五輪では追加種目の有力候補としてブレイキン(ブレイクダンス)が最終選考に残るなど、世界的にアクションスポーツ(とひと括りにしてはいけないのですが、便宜的に)への注目が高まっています。

去る4月19日(金)〜21日(日)にも、フランス発の都市型スポーツの祭典「FISE」が広島市で大々的に行われ、日本代表のアスリートたちが数多くの種目で表彰台に上がり、国内でもその機運や注目度は高まる一方です。

こうした機運の高まりを受けて、このFINEPLAYコラムではシーンの発展のために有益と思う、さまざまな内容を連載していきたいと思います。自分自身、プレイヤーとしてはブレイキンがバックグラウンドなのですが、二足のわらじ的にマーケティングの世界で12年間、さまざまな企業とお仕事をしてきました。そうした自分の経験を、失敗も成功も含めてシーンの皆さんとシェアして、よりよいシーンの発展のお手伝いになれればと思います。

第一回目からちょっとカドが立つのですが、今回は僕も実によく相談を受ける「スポンサー」の捉え方についてです。

ビジネスにおける、ストリートのポテンシャル

まずスポンサー論の前に、アクションスポーツやストリートの世界のプレイヤーというのは、いまのビジネスの世界で求められるポテンシャルを多分に秘めているというコトに触れておきたいと思います。

例えばパッと思いつくだけで、以下のようなものがあります。

一つ目は、フリースタイルという概念が心身に染み付いていること。今、ビジネスの世界で言われている概念にアジャイルやOODA(この用語自体に実践的な意味は大してありませんが、気になれば調べてみてください)というものがあるのですが、これらは「とりあえずやってみよう」という、機動的なビジネスの行動概念です。これをストリートの皆さんというのは、フリースタイルという概念の中で、アドリブとかインプロヴァイズというモノが体に染みついているわけです。まさにJUST DO IT的な価値観ですね。これはビジネスパーソンとしては非常に今求められている資質なのです。

2つ目の大きなポテンシャルは、ストリート特有のユニバーサルなセンスです。僕は今でこそ競技レベルでは踊っていませんが、15年以上ブレイキンをずっとかじってきて、それこそ国内だろうが国外だろうが、性別、年齢、国籍、障害などなどが全く関係のない、本当にフラットな世界を身をもって知ることができました。シーンの中心にいない僕ですらそうなのです。世界の狭さを身をもって知っているストリート最前線のプレイヤーというのは、正直言ってそのへんの一流企業のサラリーマンよりもずっと国際コミュニケーション能力に長けている人が多いのです。ストリート界隈には、受験的な言語能力以前の本質的なユニバーサルコミュニケーション能力を培っている人が多い、と僕は思っています。

3つ目は、オリジナリティの概念です。ストリートというものは、どこかで源流に反骨精神が共通してあるもの。やはりどの領域でも、人と違った考えやスタイル、自分らしさ=オリジナリティをベースとしてアウトプットするという価値観が根強くありますね。これもまた、今のビジネスにおいて非常に求められる資質なのではないかと思います。どの企業もこれまでのやり方では手詰まりで、そこかしこにCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル:企業がベンチャー投資を行う部門のこと)や新規事業部が立ち上がって、新しいことを考えられる人材のニーズはますます増していきます。これに対して人と違うことをやってやろうという血が流れているストリート出身の人材というのは、相当なポテンシャルがあると思います。

「スポンサー」という、魔の思考停止ワード

僕の懸念は、こういったストリートやアクションスポーツ出身の人たちが持つポテンシャルをシーンの発展のために活かしきれていない、ということです。さらにその根本原因を指摘するとすれば、企業や行政側がそのポテンシャルを「見出していない」のではなく、シーン側にそれをビジネスの文脈に翻訳出来る人間が決定的に不足しているというコトになるでしょう。それがこのコラムを通じて多少なりとも改善していきたい課題です。

僕はブレイキンがバックグラウンドで、一応はそれなりにシーンにいましたので、僕のところにも最近実に多くの相談が寄せられてきます。中でも「将来(キャリア)」と「スポンサー」に関する相談は非常に多い(笑)。相談が寄せられるということはそれだけその2つがシーンにとってのイシュー=課題になっているということですね。今回はそのうち「スポンサー」について問題提起したいと思います。

まず結論をぶっちゃけますと、「スポンサー」という言葉は禁句にしてみるといい。これは相談する人に必ず言っています。

理由は簡単で、「スポンサー」とは魔の思考停止ワードだからです。かくいう自分もその昔、しかも広告代理店をやめてからしばらくはこの「スポンサー」というマジックワードに捕らわれてしまっていました。ですから懺悔を持って僕は言えるわけです、「スポンサー」という発想は捨ててみよう、と。

なぜ「スポンサー」が思考停止ワードかというと、その言葉を使う限り多くの人は「自分がやりたいことのためにおカネを出して欲しい」という思考からどうしても逃れられないからです。夢や将来をアテにして、いつの間にかおカネを出してもらうことが目的化してしまう。そしてそれは多くの企業やブランドにとって、お願いされた夢を応援するために一度は出しても、相当な高確率で永続性の無いおカネの出し方になるのです。ようするに、続かないのです。

コラボレート発想が、ポテンシャルを活かす光明

ではどうしたらいいのか。これも結論から申し上げますと、僕は勝手に「コラボレート発想」を提唱しています。

これは東京大学で2017年に僕が主任講師を務めていた「ストリートと社会」と言う自主ゼミでもお話しした内容なんですが、スポンサーと言うのは慈善事業ではなく、多くの場合は投資としてのロジックが成立しているモノだと思っておいた方が良いのです。例外は多数あれど、企業は基本的に「リターンを求めておカネを払うのだ!」という大前提を肝に命じておくべきです。もちろん偉い人たちが決めてしまう場合も多々ありますが、それをアテにしていてはいつまでも博打を打つようなものですね。

さて、実際に「コラボレート発想」とは何かといいますと、やることは2つです。1)企業に対して返せるリターンを設計する、2)リターンをベースに、WIN-WINになるアイディアを生み出していく。この手順で、企業とのシナジーを考える際に、あなたの発想はかなり自由度と説得力が増してくるはずです。

ではまず1)のリターンについて。具体的には、リターンにはどのような種類があると思いますか?

たとえばリーチ(情報発信や情報伝達の総量)ですね。企業があなたのコンテンツと組むことで、普通の企業活動や通常の広告では達成出来ないリーチをリターンとして得られるのであれば、それは大きなメリットです。広告代理店やテレビ局などがスポンサーシップを売るときは、実はこのリーチの定量的な計算(メディアプランニングといいます)がものすごく大事になってきます。それを非常に明快に、おカネに換算したらいくら分の情報発信力がスポンサーパッケージについてきますよ、ということを説明するわけです。マーケティングではこのリーチの先に理解や想起、行動などの指標があるのですが、それはまた追々説明します。

他には、イベントのスポンサーシップでしたら集客が魅力的なリターンである場合もあり得るでしょう。ある会社が商品のトライアル(試用、試乗、試着など)を非常に重要視している場合は有効かもしれません。マーケティングの課題によって、このトライアルに重点を置いている会社は意外と少なくありません。あるいは、単純に顧客体験(CXとかUXとか言います)を重要視している企業でしたら、ここが大事かもしれませんね。ただし忘れてはいけないのは、そうしたトライアルの1人あたりに通常いくらかけていて、あなたのスポンサーになることによってその費用対効果をどれだけ高められるか、という、やはり定量化する視点です。

あるいは、人的な資産に魅力を感じてくれるかもしれません。アスリートやアーティストを用いた企業のイメージアップとか、そういう昔ながらの手法です。昨今はインターネットのおかげで映像作品や音楽作品などを簡単に世界中に発信出来ますので、ドキュメンタリー映像のようなコンテンツを売れるレベルのクオリティで生み出せば、企業イメージを改善してあげられるかもしれません(ただし、これは単純に広告を作るだけだとほとんど不可能でしょう)。その場合も、誰に対して、どれくらい改善してあげられるのかを考えて話すことが重要です。ただしこのアプローチは、今のストリートやアクションスポーツのアスリートにとってはもう少し先の話になるかもしれません。僕の見立てでは、メジャースポーツのトップアスリートに比べて、世の中に対する影響力がまだまだ小さすぎるのです。

では、コラボレート発想の手順2を考えてみましょう。上記のようなリターンをベースに、それぞれの良いところを引き出してWIN-WINとなるようなアイディアはどういうものがあるでしょうか?

例えばアスリートの影響力が少ないのなら、それを逆手に取ってアスリートをその企業の社員として採用してもらう枠を設けて、それ自体を情報発信してみてはどうでしょう。そうすることで、企業は若く新しい才能を持った社員を生活ごとバックアップしている事実を作り出すことができます。事実はマーケティング活動において最も重要な要素です。そして何より、すでに述べたようなストリートならではのポテンシャルを持ったユニークな人材を獲得することが出来ます。ちなみに僕は実業団ストリートチーム構想を勝手に提唱しているのですが、それは次回の連載で取り上げます。

他にも、コミュニティセンターを一緒に作って企業の情報発信基地にしていくとか、ストリートの古着を集めて途上国に送るプロジェクトとか、企業が単純におカネを出す以外の「事実をつくりだす」コラボレート発想というのは、たくさんの視点があると思っています。大切なのは、世の中をよく観察することです。世の中の価値観とマッチした魅力的な事実は、たくさん報道してもらえたり、たくさん注目してもらえたりする可能性を秘めています。

ストリートと違って、ビジネスでは「思い」だけでは限界がある

冒頭に述べたように、ストリートやアクションスポーツの出身者には、今の世の中でとても必要とされている資質が備わっています。その資質を活かすには、世の中をよく観察して、世の中で起きていることを言語化出来るようになることが大切です。「なんかカッコイイじゃないですか」とか「夢があるんです!」といった「思い」だけだと、ストリートでは皆が付いてきますが、全くロジックの異なる企業相手のビジネスでは限界があります。

重要なのは、表面化している事象のまだ表面化していない深層を言語化して、「世の中では今これが起きていますが、その深層とはこういうことで、そこにまだ気づいていないこういうチャンスがあります」というように、企業もまだ気づけていないチャンスを言語化して説明出来るか、ということです。

具体的に考えてみましょう。冒頭申し上げたようなストリートやアクションスポーツの盛り上がりは、今表面上では五輪種目への採用という形であらわれています。その深層とは、何でしょうか。

例えば、世界の人口動態を考えてみましょう。日本はこの先しばらく人口減少と高齢化が進むばかりですが、海外は途上国を中心にどんどん若者が増え、人口も増えてきます。そうすると、IOCとして五輪をビジネスにしていくにはこうした世界の国々において五輪への注目や人気を維持することが至上命題になります。すなわちあと2大会もすれば、五輪のメインストリームは今のメジャースポーツではなく、ストリートやアクションスポーツに代わっている可能性は十分にありますよね。世界で同時中継される競技が入れ替わるかもしれません。企業と話す時に、アクションスポーツが注目されている事象の根本をこのあたりから議論出来ると、いっそう魅力が増すかもしれません。マーケティングは博打ではないですが、成功確率を高めるための投資です。このように、他の企業より少し先の視点を一緒に見ることは非常に重要です。

もう一つの視点として、ユニフォームを考えてみましょう。上記のようなメガトレンド(世の中を動かす大きな流れ)があるときに、スポーツのユニフォームはこれまでのような「バッジ文化」であり続けるでしょうか?もしかしたら2030年代の五輪で世界中に中継される人気種目では、アスリートの格好はパーカーやTシャツ、スニーカーが殆どかもしれませんね。そうすると今までスポーツメーカーだけにメリットがあったユニフォーム文化が大きく転換していく可能性があります。もはやバッジではなく、デザインとしてロゴやグラフィックが取り入れられることは、大いに考えられるでしょう。五輪はルールが厳しいですが、競技団体が主催する世界選手権やプロリーグはもっとチャンスが広がりそうです。そういった目線でアパレル会社やスポーツブランドと話してみることも魅力的に映るかもしれません。

まだまだたくさんのWIN-WINの考え方はあると思いますので、ぜひそれぞれのリターンやWIN-WINとなるコラボレート発想を磨いてみてください。

ユニークネスを発揮するために

と、偉そうに書いていますが、冒頭申し上げたとおり、僕もかつてはスポンサーというものを深く考えず、広告代理店ノリで今思えば恥ずかしいお願いをたくさんしてきました。当時取り合っていただいた企業の方々からは色々な気づきを与えていただき、大変感謝しています。しかし上記の様なことにはたと気づいて、こちらからスポンサーという関係をお断りすることも何度かありました。

今回は僕の懺悔も含めた「スポンサー」の捉え方を簡単に紹介してきましたが、とにかく大切なことは、起きていることだけでおカネを無心するのではなく、コラボレート発想をベースに企業がまだ気づけていない可能性を提示し、かつそれをなるべく定量的にも説明出来るようにしておくことです。そうすることで、なぜあなたの提案がほかよりも優れているかを説明出来るようになりますし、ストリートやアクションスポーツで培ったあなたのユニークネスが何倍も魅力的に発揮できるでしょう。さまざまなシーンがリンクしてこれからの環境を進化させていくには、こういったことが必要な考え方だと信じています。

ここまで読んでくださって、大変感謝です。次回は、今回も少し触れた「実業団ストリートチーム構想」についてお話ししたいと思います。

次回:<提言>アクションスポーツに実業団チームを | FINEPLAY INSIGT 第二回

AUTHOR:阿部将顕/Masaaki Abe(@abe2funk)
大学時代からブレイキンを始め、国内外でプレイヤーとして活動しつつも2008年に株式会社博報堂入社。2011年退社後、海外放浪やNPO法人設立を経て独立。現在に至るまで、自動車、テクノロジー、スポーツ、音楽、ファッション、メディア、飲料、アルコール等の企業やブランドに対して、事業戦略やマーケティング戦略の策定と実施を行う。
現在、戦略ブティックBOX LLC代表、NPO法人Street Culture Rights共同代表、(公財)日本ダンススポーツ連盟ブレイクダンス部広報委員長。建築学修士および経営管理学修士。

執筆者について
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