満身創痍でも勝ち切る強さ。女王・四十住さくら「X Games Chiba 2022 Presented by Yogibo」  金メダルの裏に隠されたストーリーとは!?

2022.04.28
左から銀メダルの開心那、金メダルの四十住さくら、銅メダルの手塚まみ
texy by Yoshio Yoshida / photo by Yoshio Yoshida / ESPN Images

女子パークは日本勢が表彰台独占。その裏には実に様々なストーリーが隠されていた。

“日本勢が表彰台を独占”

4月22日から3日間にわたり開催された世界最高峰のアクションスポーツのビッグイベント、「X Games CHIBA 2022」の女子パークは最高の結果で幕を閉じた。

日本の女子パークは東京オリンピックでワンツーフィニッシュしていたこともあり、もともと世界的に見ても抜きん出た強さを誇っていたものの、前評判通りに結果を残すことは容易なことではない。
それは東京五輪に続き見事金メダルを獲得した四十住さくらについても例外ではない。

五輪よりも進化した姿を見せた“絶対”女王

金メダルを獲得し、笑みをこぼす四十住さくら

彼女のランについてはすでに多くの方がご覧になっていると思うので、詳細については割愛させていただくが、自身が直後のインタビューで話していたように、一本目を無事にノーミスで終えたことで緊張から解き放たれた彼女は、徐々に本領を発揮していく。

2本目には練習ではあまり乗れていなかったノーハンドのバックサイド540(背中を進行方向に向けて1回転半する大技。手でボードを掴まない方が高難度とされている)を、ディープエンドと呼ばれるコース内の最も深いコーナーで成功させると、4本目にはコンテストでは初披露となるヒールフリップインディ(カカトでボードに縦回転を加え、後ろ側の手でお腹側から掴むトリック)も同じディープエンドで成功。五輪からの進化を見せてくれると同時に、女王の風格も漂わせる、まさに貫禄勝ちとなった。

ライディング中も表情は常に冷静沈着。心底自分を信じているからこそ醸し出せる雰囲気なのだろう。

実際に筆者も今回の四十住のランは目の前でシャッターを切りながら見ていたのだが、その仕草や表情に緊張や動揺は一切見られず、常に仲間と鼓舞しあいながら、自らは落ち着きはらった様子で物事を捉えているように見えた。

滑走順がきて滑り出しても、実に堂々としているので見ていて安心できるというか、これはいってしまいそうだなという予感がしたのだ。他の選手にはない独特の安定感は、トリックの難易度だけでは推し量れない風格のようなものも兼ね備えていたように思う。

ただ、それも今までの膨大な練習量がそうさせているのだろう。

彼女に近しい方から人柄を伺うと、「とにかく負けず嫌いで純粋。毎日何時間も練習し、マシーンのように滑り続ける」「5時間ぶっ続けで滑り続けるから、さくらの相手をするには3人いないと無理」「テレビは一切見ないし、なんの話題にもついていけない。移動時間は体力温存のために寝るし、帰って来てからも翌日の練習のために寝ることの繰り返し」などなど、自分が肌で感じた“風格”を、身に纏うだけのエピソードがてんこ盛りなのだ。

大一番の真っ只中ながらこの表情。どこか余裕を感じさせる雰囲気も彼女ならでは

アザだらけの脚でも勝ち切る勝者のメンタリティ

ズボンの中はアザだらけ。それでもメイクしたノーハンドのバックサイド540

ただ、それでも今回の優勝への道のりは決して平坦ではなかった。

コンテスト終了後に彼女が自身のSNSに投稿したことで明らかになったのだが、練習で激しく転倒し、足がアザだらけの状態で参戦していたのだ。

スケートボードにケガはつきものではあるが、そういった逆境を跳ね除ける精神力もまた彼女の強みなのだろう。 そしてファイナルの4本目には足がつっていたことも報告しているので、まさに満身創痍で手にした勲章だったと言えるのではないだろうか。

そして優勝してなお、「自分が練習してきた、出したいルーティーンは全部乗れなかったので、それは次に乗れるようにもっと頑張ります」と更なる進化を誓ってくれた。

母の誕生日にゴールドメダルという最高の結果を残した彼女の、これからの更なる進化に期待したい。

メダルが確定し、堂々と自らのプロモデルを掲げる四十住

流行ではなく“スタイル”で時代を牽引する13歳

世界一のノーズグラインド。そう言って差し支えないほど余裕のある動きだった開心那

続く銀メダルは開心那。これも東京オリンピックと同じ結果となったわけだが、当時より身長が5cm以上も伸びたという彼女は、以前よりも大人びた風貌へと成長し、よりスマートな滑りに進化していたと思う。

そして現在のガールズシーンでは勝つために欠かせないと言われている540を取り入れずとも優勝を争えるのが、彼女のライディングスタイルを表現しているのではないだろうか。中でもフロントサイド・バックサイドお構いなしに軽い動きでふわっとした途中抜けを見せるノーズグラインドはその真骨頂と言える。まだ13歳と伸び代は十分なだけに、2年後のパリでは彼女が金メダルの最右翼になっていても、決して不思議ではない。

以前よりも少し大人びた雰囲気に。それでもまだ13歳とメダリストの中では彼女が最も伸び代を秘めている

本場に認められたトランジションの申し子

後ろ足の寝かせ具合に注目。スケートボードはこういった“個性”が評価される世界だ

そして3位に輝いたのは手塚まみ。

彼女はオリンピックには出場していないので一般の方からしたら馴染みが薄いかもしれないが、実は本場アメリカのカンパニーから直でサポートを受けている数少ない選手のひとりで、先日もカリフォルニアで開催されたP-Stone Cupという、業界きってのコアなコンテストでも優勝するほどシーンにその存在を認められている選手なのだ。

中でも後ろ足を寝かせる独特なスタイルのフロントサイドスミスグラインドは、自身の代名詞とも言えるだろう。

他にも過去にこの大会で優勝した経験を持つ中村貴咲も5位に輝くなど、本当に層の厚い女子パーク。出場していない選手の中にも、先日全日本選手権を連覇した草木ひなのや藤井雪凛など、未来のメダル候補がひしめいている種目なので、今後も日本が世界のシーンをリードしていくことは間違いないだろう。

ひとつひとつの仕草がアメリカナイズドされている手塚。本場で認められているのも納得だ。

Wエントリーでも栄冠を勝ち取ったジャガー・イートン

このエクステンションでのフロントサイド ノーズグラインドフェイキーで優勝を手繰り寄せた

続いて男子パーク。

こちらは東京オリンピックの男子ストリートで銅メダリストとなったジャガー・イートンが、X Gamesでは初のゴールドメダルを獲得。3本目でノーミスのランを披露して東京五輪5位のキーラン・ウリーを追い抜き、手にした栄冠なのだが、今回はストリートとのWエントリーであり、そちらでも5位の成績を収めている。

ただ、改めて当日の彼を振り返ると凄まじい強行スケジュールであったことが確認できる。

今回は天気の関係でタイムスケジュールがより詰まったものになり、当初15時30分スタート予定だった男子ストリートが12時30分からに変更。これはパークで優勝を飾ったわずか1時間半後だったこと、しかもその間女子ストリートの決勝も行われていたので、ストリート決勝はろくに練習時間も取れないまま迎えていたのだ。

会場内では男子パークの時にこれもまたX Gamesだといった実況の声も聞こえていたが、その言葉の裏には真剣な勝負の世界でありながらも、競技会とは違うエンターテインメント性も兼ね備えているんだよという意味のように聞こえた。それもまたこのイベントの魅力のひとつなのであろう。

実際にストリート競技ではあえてシューズを脱いだパフォーマンスをする者もいるなど、また違った側面からこの一大イベントを盛り上げていたのではないかと思う。

2位に輝いたキーラン・ウリーのフロントサイドノーズグラインドミドルポップアウト

大躍進となった日本勢の活躍

日本勢としては最高の4位に輝いた永原悠路

そしてこの競技の日本勢だが、東京オリンピックの結果からもわかるように、現状では日本が唯一と言っていいほど世界の壁に阻まれている種目で、今回も厳しい戦いが予想されていた。

ただ蓋を開けてみると出場していた笹岡建介、永原悠路の両名とも決勝に進出。これはX Games史上初の出来事(笹岡に関しては過去にDEW TOURで決勝進出の経験あり)であり、地の利はあったのかもしれないが、今後の躍進を期待させてくれるものだった。

今年は時代の分かれ目になる可能性も!?

今年に入ってノリノリの永原。決勝1番手に登場し、柵からのドロップインで会場を盛り上げた。

最終的な順位は16歳の永原悠路が初出場で4位、長年日本男子のパークシーンをリードしている23歳の笹岡建介が7位となったわけだが、 この結果が時代の分かれ目になる可能性あるのでは!? と筆者は密かに感じている。

と言うのも、昨年末の全日本選手権では笹岡建介が2位以下を大きく突き放す圧勝劇を演じたわけだが、中身をみるとスピードやエアーの高さを含めた、ひとつひとつのトリックをとことんまで磨き上げた総合的なスキルの高さの賜物だった。

実際に2位以下をみるとトリック単体の難易度だけでいえば笹岡を上回る者がいたのもまた事実。スケートボードは10代が体格の成長とともに技数やスキルが伸びる年代であり、20代以降は10代で身につけた核となるスキルにどう上乗せしていくかと言う段階に入っていく。

そう考えると、今年に入って永原は日本オープンで笹岡を破り優勝、そして今回も日本人としては最高となる4位と、10代も後半を迎えたことでいよいよ化けてきた感があると感じるのは筆者だけだろうか。

「やりたいことは全てできたので悔いはないです。」とは言っていたものの、「技のメイク率だったり、デカさだったりまだまだ足りない部分はたくさんあるので、この経験を次に活かしてもっと頑張っていきたいです」という言葉には、今後の更なる進化を期待せずにはいられない。

対して「1本しか自分の納得した滑りができず、それも順位に繋がらなかったので最後攻めようと思ったら1本目でミスしてしまったので悔しい気持ちでいっぱいです」と悔しさを滲ませていた笹岡。

もちろん彼もこのまま黙っているわけではないだろうし、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた経験値は他の追随を許さない。今年序盤に感じた悔しさをバネにさらに這い上がってくれることだろう。日本男子のパークシーンは、今後もこの2人を中心に歩みを進めていくに違いない。

今回は7位に終わった笹岡。だがこれで黙っている彼ではないだろう

どこでも変わらないスケートボーダーの称え合う”姿勢

親友の2人はいつもこうして互いを称え合っている

では最後にこれぞスケートボードというエピソードをご紹介。

東京五輪では選手同士が互いを支え合い、讃えあう姿が賞賛を浴びたが、今回も多くの場面で目撃することができた。SNSでは四十住さくらが彼女をここまで引っ張り上げてくれた先輩である中村貴咲に対し、いつもありがとうと感謝を伝えれば、後輩である永原悠路に対しては4位最高だったと労いの言葉をかけると、永原も相談など聞いてくれてありがとうと感謝で返す。

大会中も彼らがお互いを鼓舞し合う姿を見る度に、筆者は夢中でシャッターを切っていたし、こう言ったスケートボードの真髄やコアとなる楽しむ気持ちを、いろいろな人に感じとってほしいと心底感じたのも付け加えて日本初開催となったX Gamesパークの記事を締めくくりたいと思う。

会心の滑りを見せた永原を撮影しながらハイタッチを交わしているのは金メダルを獲得した四十住さくら

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