「スノーボーダーとして自分たちが恩恵を受けている自然に少しでも恩返しがしたい」この言葉がとても印象的だった。
自然をフィールドに活動しているスノーボーダーが自然の恩恵を受けると共に肌で感じたのは気候変動や自然環境の変化。そのような自然を自らの手で守りたいという思いから環境保全のため「自伐型林業」で持続可能な森づくりに取り組み、「表現者×自伐型林業」というライフスタイルで山を利活用し、自然と共生した多様な生き方を体現しているスノーボーダーや様々なジャンルの表現者により構成された団体がある。
今回は現役スノーボーダーでありながら林業をメインに活動しているDIVERSE LINES CLUBにて代表を務める天野紗智(あまの・さち)さんと同団体でフォレストマネジャーを務める高橋龍正(たかはし・りゅうせい)さんのお二人にインタビューを敢行。自身のスノーボーダーとしての活動、林業を始めたきっかけ、そして今後のDIVERSE LINES CLUBの展望などを聞いた。
スノーボードが見せ続けてくれる新しい世界

初めにお二方のスノーボードとの出会いを聞かせてください。
高橋龍正さん(以下:T):僕が生まれてすぐに父親がスノーボードを始めたため、家族の影響で3歳からスノーボードを始めました。本当に小さい頃から始めたので物心がつく頃には既に滑れていました。毎週のように家族みんなでスノーボードをするようになり、うまくなっていくうちに僕自身本格的に競技として取り組むようになりました。
天野紗智さん(以下:A):私は元々バスケットボールをしていてインターハイやインカレに出場していたアスリートでした。スノーボードは19歳の頃に始めたのですが、ずっとチームスポーツをやってきた私はスノーボードの勝ち負けだけではない、自分のスタイルを「表現する」楽しさを知ってどんどんのめり込んでいきました。
アスリートとしてはどんな経歴をお持ちでしょうか?
T:僕は幼少期から競技をしていたので大会にもたくさん参戦してきました。中学生の頃にプロ資格を取得して何度か全日本選手権優勝も経験しました。18歳の頃には日本代表としてワールドカップも転戦しましたが一年くらい大会を周ってみて、人と競うことはあまり自分には向いてないと感じたので、ビデオ撮影などの作品作りに転向し被写体のライダーとして活動するようになりました。
転向後もいくつかの大会には出場し、2016年に中国の北京であったBeijing summer rail jamが3位、2015年に東京の六本木であったBurton rail daysで日本人最高位の6位になりました。現在はメーカーの広告塔として撮影したり、自分の滑りを表現するために、色々なビデオクルーのメンバーと精力的に作品作りを行っています。
A:スノーボードの「表現」する部分に惹かれて始めたこともあり、うまくなればなるほど、大会で勝ちたいというよりも自分の滑りを映像で表現してみたいと思うようになっていきました。そこからライダーがたくさん出るような大会でリザルトを残したり、色々な人に滑りを見てもらえるようになって、ライダーになるチャンスが巡ってきたことで映像で表現できる機会が増えていきました。
大会での優勝経験が何度かあるくらいで目立った経歴というものは特にありませんが、ライダーとして自分のかっこいいと思うスタイルを表現し、スノーボードの魅力を発信し続けています。

アスリートとして活動してきたからこそ経験できたことはありますか?
T:小学生から20歳くらいまで大会転戦のため冬はほとんど海外にいるような生活をしていたので、世界中色々な国に行って現地でたくさんの友達ができた経験は自分の世界を広げてくれたのでスノーボードを通して得られた貴重な経験です。
また競技を辞めてからもスノーボードを続けていく中で、撮影ライダーとして自分にできることの幅が広がり、スキー場のような決められた場所だけではなく、自分が滑りたかったポテンシャルのある山にも行けるようになりました。競技をしていた頃には見られなかった新しい世界を体験できるようになったので、スノーボードを通じてそういった世界を渡り歩けていることはすごい経験で財産だと感じています。
A:私もスノーボードをしていたおかげで、スノーボードをするためにカナダにワーホリに行くという目的ができて、長期間海外に住むという経験ができました。スノーボードが私を突き動かして新しい世界を見せてくれたことで視野が広がったので、スノーボードをやって本当に良かったです。
また、海外で1年通して充実した生活を送ることができたことで、日本に帰ってきてから冬しかできないスノーボードと仕事をどう組み合わせて向き合っていくかなど、自分の将来について考えるきっかけにもなりました。
昨今のスノーボード業界では、ライダーたちは冬にスノーボードをするため夏場はがっつり働く形が主流なのでしょうか?
A:日本代表やトップクラスの選手は別ですが、ほとんどのライダーは夏場に活動費用を稼いで冬に一所懸命スノーボードをするというサイクルで毎年活動しています。もちろんそのサイクルが一年間通して自分の満足できるライフスタイルとして送れている方は問題ないと思います。でも私に関してはやりたい仕事ができていた訳ではなかったので「どうしたら山の近くでスノーボードも遊びも仕事も境界線無く生活できるのかな?」とずっと考えていました。
スノーボードも仕事も両立できる生活がしたい

スノーボーダーとして活動しながら林業に関わろうと思ったきっかけを聞かせてください。
A:まず山に近い生活がしたいと思い立って、長野県に引っ越して雪山と東京の二拠点生活を始めました。長野県を選んだ理由も東京からそこまで遠くないことから、都内で仕事があっても行き来しやすいだろうという軽い気持ちからでした。
こっちで暮らし始めてからしばらく経った時に知り合いの方から「林業だったらスノーボードをする自由な時間を作りながら暮らせるんじゃない?」というアドバイスをもらったので、まず林業の研修を受けたことが林業に興味を持ち始めたきっかけです。

T:(天野さんと)一緒に会社を立ち上げたので林業に興味を持ち始めたきっかけはほぼ同じですが、僕自身は東京から長野に22-23歳の頃に引っ越してきました。それからここ長野で歳を重ねていくうちにスノーボードを続けながら他のこともやりたいと思うようになりました。現実的にスノーボードだけで食べていくこともずっとできるわけではないと分かっていたので、じゃあ何をしようと考えた時に林業が選択肢にありました。
林業が良いと思った理由は、僕の勝手な想像ではあったのですが、季節に左右されない自由が利く業種なんじゃないかと思っていたからです。そのような自由な部分がスノーボードとマッチしていて、冬はスノーボードしながら時間がある時に林業できるのではと思って始めることにしました。実際に林業をやってみるとすべてが思い通りになるわけではありませんが、自分の時間を自分で作ることができるので、冬はスノーボードに向き合うことができています。根本的に山が好きなので自分に向いている仕事だと思っています。
注目したのは自伐型林業。スノーボードとの共通点は「表現」すること

DIVERSE LINES CLUBを立ち上げて、最初はどのように林業に携わり始めたのでしょうか?
A:2018年に団体を立ち上げたのですが、自分たちで山を持っているわけでは無いのでどうやって始めるかは凄く悩みました。立ち上げ当初は地元の農家さんを手伝ったり、色々なバイトを掛け持ちしたりしながら活動していました。その中で「これから林業で地域の森を守る活動をやっていきたい」という思いを色んな人に話していたら、地域の農家の方が「うちで持っている山があるからそこでやってみないか?」と言ってもらい林業をスタートすることができました。
林業のやりがいを聞かせてください。
A:森を管理していく中で森をどう活用したら面白いのか、また伐採した木を地域の方やおもしろいアイデアを持つ方にどういう風に使ってもらえるかを考えていくとすごく夢が広がります。木をただ売るだけではなく「表現」するために活用できる。そういったことを自分たちで発信できることが楽しいです。
また、何より自然が大好きなので一年を通して森や自然に囲まれて活動することで、仕事と暮らしと遊びの境界線が少ない環境で生活できていることが心地良いです。

T:僕は基本的に現場に出て活動する立場なので、四季を通して寒い日も気持ちいい日も肌で感じながら山の成長を見られることが楽しいです。林業の専門的な話になりますが、林業にも施業方法がいくつかあって一般的に知られている林業は50年くらいのスパンで木を全部切って新しい木を植え直す「皆伐林業」というスタイルになります。
でも僕たちがやっているのは「自伐型林業」という山の中の不必要な木を「間伐」という方法で取り除き、良い木だけを山に残してあげる作業を定期的に繰り返していくスタイルです。一つの山を長い年月ましてや一生かけて面倒見ていくような林業なので、少しずつ山をより良くしていくことにとてもやりがいを感じます。
A:私たちはスノーボードというスポーツで山や自然の恩恵を常に受けているので、自分たちの仕事を通して少しでも自然に恩返ししたいという思いもあります。そういう意味では自分たちが管理する山の状態が長い年月をかけて良くなっていく様子を見られることはとてもこの仕事のやりがいを感じる瞬間です。

やりがいが多い仕事である一方で林業業界の現実的な課題はありますか?
T:実は日本は戦前にしっかり山に木が植えられたこともあって、今では木が大きくてすごく良い山がたくさんあります。でも産業が発展していく中で林業が衰退した様々な歴史的背景もあり、日本の山はたくさんポテンシャルがあるのに活かしきれていないのが現状です。
A:私たちは山主さんの代わりに管理が行き届いていない山の手入れをする活動をしていますが、そのような山が増えている一方で林業者はどんどん減っている現状がある中、山の手入れをすることの大切さをみんなが認知しているわけではないので、なかなか管理を任せてもらえないという課題はあります。私たちとしてはもっとたくさんの山を手入れして良い森を増やしていきたいですが、この思いをみんなに知ってもらうことが難しくてもどかしい部分です。
T:僕たちがやっている自伐型林業に関しても、まだ認知が広がっておらず必要性を感じられている方が少ないので、団体として林業者を増やすための研修会を開いたり、地域の方に自伐型林業のことや山の管理の大切さを知ってもらうために、地域のイベントで「木こり体験」としてノコギリで丸太を切って創作するワークショップも開催しています。このような活動を通してもっとたくさんの人に森を管理する大切さを知ってもらいたいと思っています。

A:また林業者を増やす活動をしている理由は、今地域に私たちのような活動をしている人がほとんどいない現状に加えて、移住者や移住希望者、アスリートでありながら自由に活動したい人たちから「自然と共に暮らしながら仕事をしたい」という声が上がっているからです。
ただ彼らが私たちのように林業を始めるきっかけがほとんど無いので、自ら研修会を開催して仲間を増やしていければ、持続可能な森が増え、自治体や地域の方にも声が届きやすくなるのではと思って精力的に普及活動をしています。
アスリートとしての経験が林業という新たなチャレンジを支えた

今までスノーボーダーとして活動してきた中で「林業」という新たなキャリアへ踏み出すことへのチャレンジはありましたか?
A:林業であれば自由な時間が作れてスノーボードと両立できるのではないかと思って始めましたが、本当に林業で生活していけるのかや事業資金面での不安がすごくありました。でも実際にやってみたら地域の人の理解や応援してくれる人たちの存在があったり、国の助成事業に採択してもらえたりと大きなチャレンジでしたがやってみることで道が拓けていきました。
T:林業はやはり最初の設備投資が個人レベルでできるものではないので、ゼロから始めた僕たちには参入障壁が高く難しかったのですが、管理する山が一つ決まってからはなんとか事業計画や予算をまとめて実際に形にすることができて僕にとってもすごいチャレンジングな経験でした。
また林業は毎日同じ作業のようで全く違うので、日々トライアンドエラーを繰り返しながら前進しています。自然相手の仕事なので怪我などの危険と常に隣り合わせですが、最悪な状況にならないようにセーブしながら作業することもチャレンジングです。現状幸い無事故で活動できているので今後も気を付けてやっていきたいと思います。

スノーボーダーとしての経験が林業に活かされている点もありますか?
A:はい。スノーボーダーとしての活動の中で自分を表現してアピールすることはずっとやってきたことなので、林業でも同じようにやっているだけです。例えば、私は「こんな滑りで魅せます」というのと同じで、林業でも「こんないい森にします」ということをアピールして、活動を広げていくことはスノーボードも林業も一緒だと思います。
また、ただ林業をするというわけでは無く、「アスリートのセカンドキャリア問題の解決を目指す」という活動にも共感して応援してもらったり、スポンサーのような形でサポートしてもらえています。
「林業はかっこいい」を伝えたい

お二方の林業への思いを聞かせてください。
T:自伐型林業の間伐する木を見極めて選木し、良い山を作り上げていくことには美学が詰まっていて、そういったこだわりはスノーボードと通じるものがあると感じています。そのような点からも林業はかっこいいものだと僕は思っているのですが、業界は高齢化が進み、まだアナログな体制でやっているところがほとんどなのでその魅力が伝わっていないんです。
そこで表現者として活動している自分たちが「林業はかっこいい」ということを発信していくことで色々な人が林業に興味を持ち、自分たちのようなライフスタイルをしてみたいと思ってもらえるようにしたいです。
A:スノーボードを含めストリートのスポーツって大体最初はかっこいいからという理由で始めると思うんです。それと一緒で自分たちの活動を通して林業がかっこいいと思ってもらえて、憧れの仕事やライフスタイルになれば嬉しいです。ディバースラインではスノーボードと林業の活動、そしてライフスタイルを合わせた映像も発信しているので、今後も続けていきたいと思っています。

今後どのような活動を考えられているのか聞かせてください。
T:ディバースラインはまだこれからの団体なのでまずは林業の活動の幅を広げ、たくさんの山を管理していきたいと思っています。でも自分たちだけでは限界があるのでもっと周りを巻き込んで仲間も増やしていきたいです。近くの地域に僕たちのような団体が増えていくことで自治体や行政にも声が届きやすくなると思うので、そのためにも今後も積極的に講習会や研修会は開催していきます。
あと僕はやっぱりスノーボーダーなので、個人的には雪山に山小屋を作って泊まれるようにして、次の日の山を滑る生活もしてみたいですね。現実的な山の利活用案としてはマウンテンバイクコースやトレイルランコース、キャンプ場を作るようなことは今後やっていきたいと考えています。

A:私もそのような山の利活用をしたいと思ったのはスノーボードがきっかけでした。特に私がワーホリで訪れたカナダのウィスラーで経験したスノーボードをしながら仕事をして暮らすというライフスタイルは、私の好奇心や探求心を満たしてくれて、日本に帰っても同じような環境作りがしたいという思いにさせてくれました。どこまでできるかは分かりませんがスノーボードと仕事と遊びに境界線がない生活ができたら最高です。
そして林業を通して貢献したいことは、環境保全やセカンドキャリア・デュアルキャリア構築、地域活性化などたくさんありますが、林業と山の利活用をしながら、原点である自然と共に生活したり仕事したりすることの楽しさや豊かさを伝えるということをし続けていきたいです。
セカンドキャリアを考えるアスリートたちに伝えたいこと

自身の経験から現役のアスリートたちへのアドバイスや伝えたいことはありますか?
A:スノーボードでライダーを目指し始めたときから、自分なりに精一杯頑張ったことで、撮影の機会を作ることができたり、海外で滑りたいという次の目標が見えてきました。いつも目の前のことに一生懸命チャレンジしてきたからレベルアップができて今があると思っています。
そのような経験から私が言えることは、目の前の目標に対して全力でチャレンジしてほしいということです。そして目の前のことをやり切った先にある次のステージでも全力でチャレンジする。このようなチャレンジを繰り返していくことで自分が本当にしたいことや目指したいところが見えてくると思います。
T:素直に自分と向き合ってシンプルに好きだと思った環境に飛び込めば良いのかなと思います。仕事にしてもスポーツにしても自分に合うものをやることが一番良いと思っているので、自分としっかり向き合って自分の好きなものを見つけてあげると自ずと自分の行きたい道へ段階を踏んで導いてくれると思います。

セカンドキャリアないしデュアルキャリアを歩む先輩として今後どんなアスリートたちが増えて欲しいですか?
T:最近思うことですが、今の時代一つのことだけに固執する必要はないのではと感じています。もちろん一つのことを続けて極めていくことにも大きな価値があると思っています。でも別にそれ一つだけではなくもう一つやもう二つ付随するものを生活に取り入れることは自分の選択肢を広げてくれると思っているので僕はオススメしたいです。
A:私は自分のやっていることにこだわりを持って欲しいと思っています。どうしてもアスリートは勝ち負けで判断されてしまいますが、自分にしかないスタイルにこだわりを持ち続けていれば、そのかっこよさを認めてもらえたり、そこから別の何かが生まれてくる可能性もあり次のステージでも活かせると思います。自分の信じた道を進み、たくさん新しい世界を見て欲しいです。
一般社団法人ディバースライン(DIVERSE LINES CLUB)について
2018年12月設立。DIVERSE LINES CLUBは表現フィールドである自然を自らの手で守りたいという思いから環境保全に繋がる具体的な方法として「自伐型林業」による長伐期多間伐施業で持続可能な森づくりに取り組んでいる。「表現者×自伐型林業」というライフスタイルで自然を守りながら多様な生き方を体現している。
スローガンは「OUR LINES CREATE A CULTURE」。自分たちが描くラインが新たなカルチャーを作り上げていくことを願ってDIVERSE LINES CLUBと名付けられた。
天野紗智プロフィール

秋田県出身のスノーボーダー。3歳からスキーを始め、19歳でスノーボードに転向。スノーボードを始めて間もなくカナダ・ウィスラーを訪れ壮大なビッグマウンテンで繰り広げられる世界レベルのスノーボードに心動かされ、自分自身も人の心を動かすライダーを目指すようになる。法人立ち上げ翌年の2019年にはスノーボード、自然に対する考え方、森林の活用などをさらに深く知るために再度カナダへ渡る。そして、2020年帰国後ディバースラインの代表として本格的に始動。活動フィールドである自然を守る取り組みとアスリート活動を並行し「環境・人・社会」を豊かにするライフスタイルを目指している。
高橋龍正プロフィール

新潟県出身のスノーボーダー。親の影響で3歳からスノーボードを始める。中学・高校と世界を目指しスロープスタイル日本代表としてワールドカップを転戦。その後Burton rail days 6位、Beijing summer rail jam 3位など国内外の大会で活躍。近年はBurtonライダーとしてビデオ撮影を精力的に行い、ストリートからバックカントリーまで独自性の強いライディングでオールラウンドにこなし国内外のビデオクルーと共に数々の作品に出演している。そしてディバースラインでは取り組みの1つである自伐型林業のリーダーを担い、持続可能な森林を作ることで自分たちの活動フィールドを守り「環境・人・社会」を豊かにするライフスタイルの構築を目指している。
また現在はVECFOOTというスノーボードクルーと映像プロジェクトに取り組んでいる。
VECFOOTとは
浅間の麓で「スノーボード」「クライミング」「マウンテンニアリング」「アート」など、 様々なカルチャーに小さい頃から触れてきた僕らは、気づけば大人になっても深みを探求していた。 自然の中で培った経験と技術と知識を持ち寄り、探求し、記録し、表現していく。
Starring:
Ikumi Imai, Ryusei Takahashi, Kurumi Imai, Isagi Funayama
Film:
Yasuaki Yamagata, Kosuke Kobayashi
Edit:
Kosuke Kobayashi
Design:
Arata Funayama
Support:
BURTON, QUIKSILVER, DRAGON, NIDECKER, FW, ANON, YONEX, HERENESS
SPECIAL EDITION

FINEPLAYはアクションスポーツ・ストリートカルチャーに特化した総合ニュースメディアです。2013年9月より運営を開始し、世界中のサーフィン、ダンス、ウェイクボード、スケートボード、スノーボード、クライミング、パルクール、フリースタイルなどストリート・アクションスポーツを中心としたアスリート・プロダクト・イベント・カルチャー情報を提供しています。
アクションスポーツ・ストリートカルチャーの映像コンテンツやニュースを通して、ストリート・アクションスポーツの魅力を沢山の人へ伝えていきます。
●今日 ○イベント開催日
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surf満点ライドから涙の初優勝までドラマが生まれたS.LEAGUE最終戦2025.04.242025年4月16日から19日の4日間、さわかみS.LEAGUE24-25 最終戦GRAND FINALSが東京五輪の会場にもなった千葉県長生郡一宮町釣ヶ崎海岸(通称:志田下ポイント)で開催された。今大会は、ショートボード、ロングボード、マスターズに加え、ボディーボードの特別戦も実施され、多彩なカテゴリーが繰り広げられる豪華な舞台となった。 ショートボード女子は、今大会を待たずして中塩佳那が初代S.LEAGUE チャンピオンに決定。ロングボードは浜瀬海と田岡なつみがすでにS.LEAGUEチャンピオンに確定しており、GRAND FINALSではショートボード男子とマスターズクラスのS.LESGUE初代チャンピオンが確定する。さらに、来季からS.LEAGUEは、「S1(1部)」と「S2(2部)」の2部制に移行。今シーズンのランキングで翌シーズンの所属リーグを左右する重要な1戦になる。 波の方は大会初日は肩から頭サイズの波が押し寄せていたが、日が進むにつれて徐々に落ち着き、波数の少ないコンディションへ。選手たちはその変化に対応すべく、小波用のサーフボードに切り替えるなど細やかな調整を重ねながら熱戦を繰り広げた。 悲願の優勝を勝ち取った塚本勇太 塚本勇太 ©︎S.LEAGUE ショートメンズのファイナルは塚本勇太と古川海夕の対決に。塚本勇太はこれまでのヒート、点数が狙える良い波をじっくり待つスタイルで試合に挑み、残り時間がわずかという場面で見事な演技を披露し、逆転で決勝まで勝ち上がってきた。ファイナルでも、古川海夕が積極的に波に乗ってスコアを重ねるのに対し、塚本勇太は波を厳選する戦法を貫く。後半に入ったところで、塚本勇太がエクセレントスコアとなる8.00ポイントをマークし逆転。古川海夕は優勝に必要な9.00ポイントを追い求める展開に。そのまま試合は終了し、塚本勇太が悲願の初優勝。試合終了後には感極まって男泣きを見せた。 稲葉玲王と喜びを分かち合う塚本勇太 ©︎S.LEAGUE 古川海夕 ©︎S.LEAGUE 安定した試合運びで野中美波が優勝 野中美波 ©︎S.LEAGUE ショートウィメンズのファイナルは野中美波と川合美乃里の戦いに。川合美乃里は1本目に6.00ポイントをマークし、バックアップを4.60ポイントと揃える。一方の、野中美波は徐々にスコアを伸ばす試合運びで、5本目に6.75ポイントをスコア。さらに終盤には7.25ポイントを叩き出し、自らのハイスコアを塗り替え、見事優勝を飾った。 野中美波 ©︎S.LEAGUE 川合美乃里 ©︎S.LEAGUE マスターズ優勝とS.LEAGUEチャンピオンを手に入れた牛越峰統 牛越峰統 ©︎S.LEAGUE マスターズ決勝は牛越峰統、今村厚、佐藤千尋、山田桂司の4名によるヒートとなった。この決勝で2位以上に入ればS.LEAGUEチャンピオンが確定する今村厚は序盤から積極的にスコアを重ねリードを広げる。しかし、牛越峰統が8.50ポイントをスコアし一気にトップへ浮上。そのままリードを守り切り、見事GRAND FINALS優勝とS.LEAGUE初代チャンピオンの座を手に入れた。 牛越峰統 ©︎S.LEAGUE 森大騎が圧巻の“満点”パフォーマンス! 森大騎 ©︎S.LEAGUE ロングボードメンズファイナルは森大騎と初ファイナル進出を果たした西崎公彦の戦いとなった。ファイナル序盤、西崎公彦が積極的に波にアプローチをしていく。 一方の森大騎は波をじっくり見極めながらチャンスを待つ展開に。そして迎えた2本目、完璧なラインディングでパーフェクトスコアの10.00ポイントを叩き出す。勢いに乗った森大騎は、3本目に掴んだ波でも再びパーフェクト10.00ポイントをスコアし、なんと満点の20ポイントをスコアする。西崎公彦も、9.00ポイントをスコアし健闘を見せるが、試合は終了。見事、森大騎が最高の形で優勝を飾った。 西崎公彦 ©︎S.LEAGUE 森大騎 ©︎S.LEAGUE 吉川広夏が涙の優勝 吉川広夏 ©︎S.LEAGUE ロングボードウィメンズのファイナルは吉川広夏と田岡なつみのマッチアップとなった。吉川広夏が序盤にエクセレントスコアとなる8.25ポイントをマーク。一方、田岡なつみは小波ながら形の良い波をキャッチし6.75ポイントをスコア。さらに後半には9.00ポイントを叩き出し、逆転を狙う。しかし吉川広夏も終盤に8.15ポイントを出し、バックアップを塗り替え、田岡なつみが逆転するために必要なスコアが7.4ポイントに差を広げる。田岡なつみは残りわずかのところで波をキャッチしたが、6.65ポイントとわずかに届かず。吉川広夏が見事、S.LEAGUE最終戦で優勝を果たした。 田岡なつみ ©︎S.LEAGUE 吉川広夏 ©︎S.LEAGUE ボディーボード特別戦も白熱した戦いに 粂総一郎 ©︎S.LEAGUE ボディーボードの特別戦はJPBAランキング上位7名とアマチュア1名で行われた。メンズは2024年度のグランドチャンピオンに輝いた、粂総一郎が最後の1本で逆転し優勝に輝いた。一方、ウィメンズは我孫子咲良がプロ初優勝を飾った。 我孫子咲良 ©︎S.LEAGUE 粂総一郎 ©︎S.LEAGUE ショートボード男子初代S.LEAGUEチャンピオンは稲葉玲王 稲葉玲王 ©︎S.LEAGUE S.LEAGUEチャンピオン争いをしていた小林桂がR2で敗退し、残るは稲葉玲王と西優司に。稲葉玲王はR3で敗退し、西優司が優勝すればS.LEAGUEチャンピオンの可能性が残る状況。しかし、西優司はQFで塚本勇太に敗れ、稲葉玲王が見事初代S.LEAGUEチャンピオンを獲得した。 来シーズンは6月からスタート! ©︎S.LEAGUE S.LEAGUE25-26ツアーは2部リーグ制に分かれて開催。S2 TOURは6月19日から21日にS.LEAGUE 井戸野浜海岸でスタート。マスターズのトライアルも同時開催で行われる予定。S1 TOURの開幕戦は7月10日から13日に北海道勇払郡厚真町の浜厚真ポイントで開催。来シーズンのS.LEAGUEにも注目! GRAND FINALS結果 《ショートボード男子》優勝:塚本勇太2位:古川海夕3位:和氣匠太朗、大原洋人 《ショートボード女子》優勝:野中美波2位:川合美乃里3位:中塩佳那、川瀬心那《ショートボードマスターズ》優勝:牛越峰統2位:今村厚3位:山田桂司4位:佐藤千尋《ロングボード男子》優勝:森大騎2位:西崎公彦3位:堀井哲、中山祐樹 《ロングボード女子》優勝:吉川広夏2位:田岡なつみ3位:菅谷裕美、小林恵理子《ボディーボード男子》優勝:粂総一郎2位:加藤優来3位:近藤義忠4位:蛭間拓斗 《ボディーボード女子》優勝:我孫子咲良2位:山下海果3位:相田桃4位:大木咲桜
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skateイレギュラーな厳しい条件下で優勝を勝ち取ったのは池田大暉「第3回マイナビスケートボード日本OPEN supported by Murasaki Sports」ストリート男子決勝2025.04.142025年4月12日(土)に「第3回マイナビスケートボード日本OPEN supported by Murasaki Sports」ストリート種目 が松阪市総合運動公園スケートパークにて開催された。3年後に開催されるロサンゼルスオリンピックを見据えた新たなシーズンのスタートとなる、2025年シーズン最初の公式開幕戦。今大会は国際大会派遣選手の選出や2025年強化指定選手の選考に関わる重要な大会ということもあり新世代も含めた実力者が全国からエントリー。大会当日は翌日の13日に予定されていた決勝のスケジュールが雨天予想されたことから、本来予定されていた準決勝を取り止め、予選の結果から上位8名が決勝に進出、予選同日の12日中に決勝も実施する展開に。そんな本決勝は全46名の出場者の中、予選を勝ち上がった合計8名で競われ、スタートリストは宮本浬央、竹下煌輝、八島璃央、酒井太陽、渡辺星那、安倍来夢、池慧野巨、池田大暉。 ラン1本目 強風や明るさが変化し、見え方が変わっていく変則的な環境の中非常に苦戦することが予想される決勝。最初のフルメイク者となったのが、世界レベルのライダーを輩出し続ける静岡の新世代期待の竹下。スピードに乗ってメインのハンドレールに入っていくと「キックフリップフロントサイドボードスライド」でスタートしていくと、バンクトゥオーバーのダウンレールで「バックサイドテールスライド」、ギャップ状のバンクトゥバンクでの「フロントサイド360」からバンク飛び出しで「ノーリーインワードヒールフリップ」、ラストはメインのハンドレールで「フロントサイドテールスライド」と非常に正確なデッキコントロールを見せフルメイクし最後はジャッジに小さく手を合わせてお辞儀するなどその丁寧さが人柄にも表れており、69.65とまずまずの滑り出しだ。 @WSJ 続いてスコアメイクを見せたのが。昨年の日本選手権3位で福島の雄、八島だ。メインのハンドレールで「キックフリップフロントサイドリップスライド」という高難易度トリックからスタートしていくとギャップ状のバンクトゥバンクでは「ノーリーヒールフリップ」、スロープレールアップを「バックサイドビッグスピンフロントサイドボードスライド」と繋ぎ、ダウンレールで「スイッチフロントサイド270フロントサイドリップスライド」を決め、ラストのダウンレッジでの「バックサイドクルックドグラインドノーリーフリップアウト」をミスするも72.03をマーク。フルメイクとはならなかったがポテンシャルでハイスコアを叩き出したのが優勝候補の池田。バンクトゥのフラットレールで「キャバレリアルインバックサイドテールスライド」でスタートしていくと、返しのダウンレールでは「バックサイド270リップスライド」から「バックサイド270アウト」を完璧に繋いでいき、着地後すぐにボディバリアルし体勢を整えると会場は少しざわつかせ、そのままメインのハンドレールで「フロントサイドノーズブラントスライド」、ギャップ状バンクトゥバンクでは高さのある「360フリップ」、カーブで「バックサイドクルックドグラインド」から掛け替えを狙ったが少し浅かったか、ラストはダウンレッジで「バックサイドノーズスライドノーリーフリップアウト」を決め、そのままボルケーノでスピンするスコアとは関係ないがサービス精神も忘れない池田の真骨頂を見せ、会場を盛り上げ77.69と暫定首位に立った。 @WSJ ラン2本目 中々スコアを伸ばせない中、1本目から修正してきたのが渡辺。メインのハンドレールを「ヒールフリップフロントサイドボードスライド」でスタートすると、アールでは「アーリーウープのバックサイドリップスライド」、バンクトゥのカーブでは「ヒールフリップノーズグラインド」、バンクトゥのフラットレールで「バックサイドビッグスピンフロントサイドブラントスライド」を1本目から見事リカバリー、ラストはステアからフラット面まで全越えの「バックサイドヒールフリップ」を決め74.07と暫定2位に浮上。1本目と同じく1ミスながらスコアを伸ばしてきたのが池だ。ギャップ状のバンクトゥバンクを「スイッチフロントサイド180キックフリップ」で越えていくと、バンクを使った「ノーリーハーフキャブヒールフリップ」、メインのハンドレールで「フロントサイドフィーブルグラインドフロントサイド180アウト」、バンクを使ってステアを「インポッシブル」で登ると真ん中のバンクトゥバンクについたレールで「フロントサイド270リップスライド」から返しのダウンレールで「キャバレリアルバックサイドテールスライド」をミス。このセクションは練習中から各ライダーが「照明の関係で見えづらい」と言っていたがその影響が出たか。フルメイクではないが繰り出していたトリック難易度もあり72.10と暫定3位でトリックセクションに望みを繋いだ。 @WSJ トリック1本目 1本目でまずハイスコアを出したのが優勝候補の一人、八島。メインのハンドレールで正確なデッキコントロールを見せ、「キックフリップフロントサイドスミスグラインド」を1発で仕留め、87.43。これに続いたのが福岡の新鋭、酒井だ。スイッチスタンスでメインのハンドレールへ向かうと、「スイッチフロントサイドスイッチオーバークルックドグラインド」を決め、会場をどよめかせた。スコアも85.31とハイスコアを叩き出した。トリックセクションを得意とする池がこの流れを凌駕する。フェイキースタンスでメインのハンドレールに向かうと「フェイキーキャバレリアルバックサイドテールスライド」を決め、ここまでの最高スコア89.13をマークした。 @WSJ ランを終え暫定首位の池田は1本目を決めきれず、池を追いかける形になった。 トリック2本目 1本目の成功者もここでスコアを揃え勢いに乗りたいところだが誰も決められない流れが続いた。2本目もスコアメイクに各ライダーが苦戦する中、唯一のスコアメイク者となったのが勢いに乗る池のみだった。得意のスイッチスタンスでメインのハンドレールに向かうと、「スイッチフロントサイドフィーブルグラインドスイッチフロントサイド180アウト」をこれまた一発で仕留め、今大会初の90点台となる92.68。 @WSJ 優勝争いにはここで離されたくない「池田も1本目同様、メインのハンドレールでシュガーケーングラインド」を狙うもこれもミスし流れは完全に池に向いているか。 トリック3本目 予選1ヒート目のトップバッターから決勝に残った大阪の新星、宮本がここでようやくスコアをマーク。メインのハンドレールで「バックサイドフィーブルグラインドキックフリップアウト」を決め87.54とハイスコア。ランセクションで好位置につけた渡辺もようやくスコアメイクする。ロールインから勢いよくスタートするとバンクトゥオーバーのダウンレールで「ヒールフリップバックサイドリップスライド」を着地で少し態勢を崩したがなんとか成功させ、80.82と優勝争いに望みを繋いだ。愛知のテクニカルライダー、安倍もこの流れに続いた。1本目からトライしているメインのハンドレールで「フロントサイド180スイッチバックサイドフィーブルグラインドスイッチフロントサイド180」、通称グレープフルーツグラインドからのリバースアウトという超高難易度を決めここまで3番目のハイスコア88.75とこちらも優勝争いに踏みとどまった。ここまでスコアメイクに苦戦していた池田は何か閃いたようにメインのステアからかなり幅のあるトランスファーでのダウンレッジでフロントサイド50-50にトライするも惜しくもミスとなったが本人は何か手応えを掴んだ様子にも見えた。 トリック4本目 何かを感じ取った不気味な池田を突き放しておきたい池はメインのハンドレールで「バックサイドフィーブルグラインドフロントサイドビッグスピンアウト」を狙うも決まらず。 ここで3本目に何かを感じ取った池田がついに目を覚ましたか。3本目同様メインのステアからかなり幅のあるトランスファーでのダウンレッジで「フロントサイド50-50グラインド」を見事2回目の挑戦で成功、これは練習でも一切やっていなかったという圧巻の発想力とスキルで90.64と暫定首位の池を射程距離に捉えた。 @WSJ 暫定首位は唯一スコアをフルマークしている池、2位に池田、3位安倍となり、最終トライまで混戦模様となった。 トリック5本目 全ライダーに表彰台のチャンス残った最終トライ。宮本はメインのハンドレールで「バックサイドテールスライドビッグスピンフリップアウト」を狙ったが惜しくもアウトが合わず、6位で終えた。竹下はバンクトゥオーバーの「ダウンレールでキックフリップバックサイドリップスライド」を見事に決め81.77とスコアを揃えることに成功し暫定3位に浮上した。 @WSJ 優勝候補の八島もメインのハンドレールで「キックフリップフロントサイドノーズグラインド」を狙うも決めきれずに5位。酒井もメインのハンドレールで「スイッチオーバークルックドグラインドからビッグスピンショービットアウト」を狙ったが決まらず8位。渡辺はメインのハンドレールで「ヒールフリップフロントサイドブラントスライド」に挑んだがうまくハマらず、7位。逆転表彰台を狙った安倍はバンクトゥバンクで全越えの「バックサイド360」を狙ったが惜しくも決まらず4位で今大会を終えた。猛追を見せる池田を引き離したい池もメインの「バックサイドフィーブルグラインドフロントサイドビッグスピンアウト」に再度挑むも回転が合わず池田の結果を待つ形に。 @WSJ こうなると流れは完全に池田に傾いたか、メインのステアからかなり幅のあるトランスファーでのダウンレッジで今度は「フロントサイド5-0グラインド」を一発で決め、92.26をマークし逆転優勝となった。 @WSJ 大会結果 優勝 : 池田大暉 260.59pt2位 : 池慧野巨 253.91pt3位 : 竹下煌輝 220.73pt4位 : 安倍来夢 160.29pt5位 : 八島璃央 159.46pt6位 : 宮本浬央 156.55pt7位 : 渡辺星那 154.89pt8位 : 酒井太陽 148.54pt 最後に 天候によるスケジュール変更や、男子の予選の時間に強風や照度の変化など非常に難しい環境の中開催された今大会。優勝した池田大暉は世界レベルのスキルを保持していることは周知の事実だが、それ以上に自分のペースに引き込む上手さは天性のものだと今回改めて確信した。2年前に笠間で開催された第2回大会の同大会でもスコアメイクできるセクションと見るや否や、徹底的にそこを攻め2位になった過去と今大会が非常に重なって感じた。世界で戦う上で、高難易度を実行できるトリックスキルは当然必要だがその場でこういったポイントにアンテナを張り、いち早くキャッチすることも非常に重要な要素だ。池田のもう一つの魅力は、本人が狙ってかどうかはわからないが会場を自分の空気に変えてしまうパーソナリティだ。ただ底抜けに明るい人間性だけでなく、裏付けされた実力と相まってその場のオーディエンスを完全に引き込んでいる。筆者が昔から魅了されてきたスケートボーダーの要素だと感じた。その上でコンテストも勝ち切るあたりスター性としか言いようがない。型にハマらないそのスケートボードスタイルは今後も世界各地を引っ掻きまわすことが楽しみだ。今大会、苦手のランセクションでも強さを見せた池慧野巨。苦手克服と元々の強みであるスイッチスタンスでの高難易度トリックに独特のトリックチョイスとその脱力スタイルから繰り出される確かな技術と内に秘めた力強いライディングスタイルは世界でも評価が高いことをコンテストでも証明しつつある。今後世界トップのコンペディターにどんな戦い方で応戦し、またそれらを優っていく姿を想像するだけで非常にワクワクした気持ちが止まらない。これは初めてSLSに日本人として出場し世界を切り拓いてきたパイオニア、瀬尻稜を初めて見た時の感情に非常に類似している。 これまで日本のトップ争い常連となった八島璃央、安倍来夢、渡辺星那らも今後まだまだ伸びしろしかなく、このまま終わるような実力者たちではない。一方、歴代日本王者である佐々木来夢、海外経験も豊富な松本浬璃、日本のトップ争い常連の甲斐穂積、繁延亜周らが予選で敗退する波乱も起こった。注目はこの常連組に変わって決勝に入った新世代の台頭だ。決勝に残った宮本浬央、酒井太陽、そして見事3位で表彰台に登った竹下煌輝の13歳トリオをはじめとして世代だ。このメンツを見てもストリート日本男子の層の厚さがより一層増したことを意味している。日本が世界に誇る筆頭格、堀米雄斗、白井空良、小野寺吟雲、根附海龍、青木勇貴斗らが頭一つ抜けていることは現時点では変わりはないが間違いなくその距離が少しずつ縮まってきてはいると感じる。女子同様、ワールドスケートの「年齢制限」の規定は非常に気になるが、ロサンゼルスオリンピック2028の戦いは開幕したので今後の代表争いに一戦一戦目が離せなくなりそうだ。最後に、今大会も日本強化指定選手選考会という位置付けの大会であることから、みんな同じ条件とはいえ天候やコースコンディション、明るさなどに左右されない本当にスキル勝負のできる環境での開催を心から望む。実際予選では1ヒート目と5ヒート目ではコースの照度や風の強さ気温などが全く異なる環境となっていたように感じる。さらにはライダーから「このセクション暗くて見えづらい」などの意見も多数聞こえてきた。これでは自然環境に依存することのない競技スケートボードとは違い、ストリートシューティングのような環境に思えてしまう。これだけスケートボードパークが建設され、屋内全天候型のパークも多数出来ているのに、スケジュールを圧縮してまでやらなければならない状況は勿体無いと感じている。やはりスキルを競い合うフォーマットであれば筆者は純粋にスキルや発想で勝負できる環境での戦いを見たいと強く願う。
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skate思い出の地、松阪で悲願の初優勝というドラマが!「第3回マイナビスケートボード日本OPEN supported by Murasaki Sports」ストリート女子決勝2025.04.132025年4月12日(土)に「第3回マイナビスケートボード日本OPEN supported by Murasaki Sports」ストリート種目が松阪市総合運動公園スケートパークにて開催された。3年後に開催されるロサンゼルスオリンピックを見据えた新たなシーズンのスタートとなる、2025年シーズン最初の公式開幕戦。 今大会は国際大会派遣選手の選出や2025年強化指定選手の選考に関わる重要な大会ということもあり新世代も含めた実力者が全国からエントリー。大会当日は翌日の13日に予定されていた決勝のスケジュールが雨天予想されたことから、本来予定されていた準決勝を取り止め、予選の結果から上位8名が決勝に進出、予選同日の12日中に決勝も実施する展開に。そんな本決勝は全22名の出場者の中、予選を勝ち上がった合計8名で競われ、スタートリストは綿引愛留、中山楓奈、榎並琴音、福田碧、尾関萌衣、大西七海、伊藤美優、松本雪聖の順となった。 ラン1本目 まずは緊張感のあるトップバッターでスタートした綿引愛留がいきなり先制する。メインのハンドレールを「フロントサイド50-50グラインド」でスタートしていくとギャップ状のバンクトゥバンクで「キックフリップ」、再びハンドレールで「バックサイドフィーブルグラインド」、ダウンレールで「バックサイドスミスグラインド」とテンポよく繋いでいくと、ラストはバンクからのフラットレールで「キックフリップフロントサイドボードスライド」までフルメイクし62.59といきなり60点台をマーク。13歳とは思えないメンタルの強さを見せ、期待感を持たせると同時に後続へのプレッシャーをかけた。1本目で頭ひとつ抜けたのが、同じく13歳の松本雪聖だ。メインのハンドレールを「バックサイドスミスグラインド」を素晴らしいスピード感でスタートしていくと「キックフリップフロントサイド50-50グラインド」、バンクトゥフラットレールでは「キックフリップバックサイドリップスライド」、ギャップ状のバンクトゥバンクではフラットまで届く飛距離の完璧な「キックフリップ」、再びメインのハンドレールでは「フロントサイドフィーブルグラインド」と回しトリックを複数入れ込んだランをフルメイクし67.08となった。暫定2位の綿引と約4ポイントしか差がつかなかったのは、トリック難易度を考えると疑問に残るが1本目を暫定トップで折り返した。 松本雪聖のライディング@WSJ ラン2本目 ランセクションが1つマスト採用となるルールなので1本目でフルメイクできなかったライダーは巻き返しを図りたいところ。2本目でしっかり修正してきたのは尾関と大西だ。尾関はメインのハンドレールを「バックサイドリップスライド」でスタート、ダウンレールをバンクオーバーで「バックサイドフィーブルグラインド」、ステアを「ヒールフリップ」、1本目でミスしたギャップ状になっている幅の広い方のもしっかりカバーし64.59をマーク。 尾関萌衣のライディング@WSJ 大西もメインのハンドレールを「フロントサイドオーバークルックドグラインド」で飛び出すとダウンレールで「フロントサイドブラントスライド」、メインのハンドレールで「バックサイド50-50グラインド」、ギャップ状の広い方のバンクトゥバンクで「キックフリップ」、ラストはスロープレールで「バックサイド50-50キックフリップアウト」までフルメイクし65.65と暫定2位につけた。 大西七海のライディング@WSJ 世界大会経験豊富な中山と伊藤だが、中山はフルメイクできず、伊藤もランの構成は非常に高得点に期待できたが要所で精細を欠いてしまい、暫定4位でトリックセクションで巻き返しを狙う。 トリック1本目 綿引、榎並らがメインのハンドレールでしっかりスコアをマークする中、1本目でハイスコアを叩き出したのは尾関と松本だ。首位争いでプレッシャーをかけたい大西はメインのハンドレールで「バックサイド5-0グラインド」を成功させ65.73とランに続きハイスコアをマークした尾関は得意のバンクから飛び出しトゥ超えでのダウンレールで「バックサイド5-0グラインド」をハイスピードで成功させ今大会初めての70点台となる70.10のハイスコア。 尾関萌衣のライディング@WSJ トリックセクションで逆転を狙う伊藤はメインレールで「フロントサイドブラントスライドショービットアウト」を狙うがミス。これらのプレッシャーをものともしなかったのが松本だ。メインのハンドレールで「キックフリップフロントボードスライド」を寸分のブレもなく完璧に成功させ今大会のハイエストスコアを更新する77.88をマークし暫定首位をキープした。 松本雪聖のライディング@WSJ トリック2本目 パークスタイルとの2刀流に挑戦している福田がバンクトゥレールをフラット部分からダウン部分まで全流しの「バックサイドクルックドグラインド」で57.38をマーク。表彰台争いで優位に立っておきたい尾関はメインのハンドレールで「バックサイドフィーブルグラインドフロントサイド180」を狙うもミス。この隙を逃さなかったのがここまで抜群の安定感を見せている大西だ。メインのハンドレールで「フロントサイドブラントスライド」を決めると小さくガッツポーズを見せ、スコアも67.31と揃え暫定2位につけた。 大西七海のライディング@WSJ さらに後続を突き離したい松本は、バンクから飛び出した「キックフリップバックサイドリップスライド」をフラット部分からダウン部分にまで全流しを決め75.76と独走体制に入った。 松本雪聖のライディング@WSJ トリック3本目 3本目を決めたのはここ最近で成長著しい姿を見せる北陸の新鋭、榎並と表彰台圏内につける尾関だ。榎並はメインのハンドレールで「フロントサイドブラントスライド」を成功させ66.21をマークしスコアを揃えた。尾関は2本目でミスしたメインのハンドレールで「バックサイドフィーブルグラインドフロントサイド180アウト」を見事リカバリーし63.42と暫定3位につけた。 尾関萌衣のライディング@WSJ 4本目は全員決められずスコアを出したライダーなしで最終トライへ。ここまで暫定首位は松本、2位に大西、3位尾関と続いた。 トリック5本目 綿引は2トライ目から果敢にトライしていたバンクトゥのフラットレールで「キックフリップフロントサイドブラントスライド」を最後まで決めきれず6位で今大会を終えた。福田と榎並も最後までスコアアップを狙うも惜しくも決めきれなかったがスコアは揃えられ福田が5位、榎並が4位となった。世界王者の経験もある優勝候補の伊藤は1本目からトライしていたメインのハンドレールでの「フロントサイドブラントスライドショービットアウト」を最後まで決めきれず7位。オリンピックメダリストで主要国際大会経験豊富な中山も終始トリックが定まらずトリックセクションでのスコアメイクはなしとなり8位で今大会を終えた。注目の表彰台のプレイス争い。暫定3位につける尾関はバンクトゥオーバーのダウンレールで「バックサイドリップスライド」を決め65.34と大西を上回り暫定2位につけた。 尾関萌衣のライディング@WSJ 大西も逆転優勝を狙い、バンクトゥのフラットレールで「フロントサイドブラントスライドキックフリップフェイキーアウト」を狙うも決めきれず3位となった。ウイニングランとなった松本は3トライ目から挑戦していた「キックフリップフロントサイドノーズグラインド」に挑戦するも決めきれなかったが、ワールドスケートジャパンの大会では初優勝となった。 大会結果 @WSJ 優勝 : 松本雪聖 220.72pt2位 : 尾関萌衣 200.03pt3位 : 大西七海 198.69pt4位 : 榎並琴音 176.18pt5位 : 福田碧 165.76pt6位 : 綿引愛留 121.17pt7位 : 伊藤美優 61.98pt8位 : 中山楓奈 48.47pt 最後に 今大会、終始強さが光った松本雪聖。初めてワールドスケートジャパンの大会に参戦したのが今回の開催地となった松阪総合運動公園スケートパークで、その地で初優勝というなんともドラマチックな展開となった。天候によるスケジュールの変更、強風による砂塵と花粉によって気管支炎を発症し、ここ数日は満足に睡眠が取れなかったという決して盤石ではなかった状態でのこの結果は今後も非常に期待感を抱かずにはいられない。世界王者やオリンピックメダリストのトリックセットと比較しても勝るとも劣らない難易度で、特に回しトリックからのセクショントリックでの安定感は以前にも増して完成度と安定感を感じられた。さらには予選で2回しかトライできない中、1本目をミスし追い込まれた状況にも関わらず、2本目でしっかりリカバリーし首位通過するあたり、メンタル面の成長も見受けられた。今後、世界のトップ争いをする上でどのようなスキルアップ、トリックチョイスをしていくのか非常に楽しみだ。新世代の台頭も目を引いた今大会、3位となった大西七海は安定感という面では今大会の出場全ライダーの中でナンバー1だと感じた。あとは一発の爆発力を磨けば今後世界のトップ争いに十分に加わることが予想される。日本の女子ライダーでは唯一と言っても良いハイスピード、ぶっ飛びスタイルで会場を沸かせた尾関萌衣も今後非常に注目だ。海外ではブラジルのパメラ・ロ-ザ、アメリカのポエ・ピンソンらを彷彿とさせるそのライディングスタイルは世界でも評価されていくことは間違い無いだろう。あとはトリック精度と、難易度をどこまで上げられるかが世界トップレベルで戦う上で重要になってくるのではと考える。新世代の活躍とは対照的に精細を欠いた世界トップ常連勢の伊藤美優と中山楓奈。フィールドやコンディションがフィットしなかったのか、戦略的にも上手く立ち回れていなかったように感じた。とはいえ、実力は誰もが知る世界トップレベルということもありすぐに修正してくると予想する。さらに今回新世代の台頭を象徴したのが、こちらも世界大会経験豊富な上村葵が予選で敗退したことだ。こちらも目まぐるしく変更されるスケジュールやコンディションに泣いた結果となったがこのままで終わる実力ではないので今後の巻き返しに期待したいところ。ここに今大会には出場していないが、歴代オリンピック金メダリストの吉沢恋、西矢椛、世界最高スコアを保持する織田夢海らがいる日本のロサンゼルスオリンピック出場争いはこれまでにない戦国時代を迎える幕開けとなった。ついに始まったRoad to ロサンゼルスオリンピック2028、1大会も目が離せなくなりそうだ。ここでワールドスケートから気になる情報が発表された。「パリオリンピックが終わり、包括的な競技の結果、2028年以降、ワールドスケートボードツアーに参加する選手の最低年齢を14歳とする」旨の内容だ。これにより「2014年1月1日から2014年12月31日の間に生まれた選手は2025年1月1日から12月31日の間に開催されるすべてのイベントで11歳とみなされ、この年齢が2028年ロサンゼルスオリンピックの選考大会に関する最低年齢となり、それ以降に生まれた選手は対象外となります」選考会を実施した後にこの決定発表は非常に混乱、困惑を招きかねる事案と筆者は感じた。こちらの情報は今後も引き続き注視する必要があると同時に、これらを目指して日々努力しているライダーが落胆することのない結果となることを心より願います。
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skate歴代全日本チャンピオンを下した志治群青が初優勝!「第3回マイナビスケートボード日本OPEN supported by Murasaki Sports」パーク男子決勝2025.04.112025年4月5日(土)〜4月6日(日)に「第3回マイナビスケートボード日本OPEN supported by Murasaki Sports」 が鵠沼海浜公園スケートパークにて開催された。女子同様に昨年パリオリンピックを含む世界的に大きな注目を集めたシーズンが終わり、次は3年後に開催されるロサンゼルスオリンピックを見据える中、新たなスタートが切られた2025年シーズンの公式開幕戦が今大会。 今大会には国際大会派遣選手の選出や2025年強化指定選手の選考に関わる重要な大会ということもあり全国から実力者たちが集まったが、大会当日は雨天が見込まれていたため、本来予定されていた準決勝を取り止め、予選の結果から上位8名が決勝に出場する展開に。その中で迎えた決勝日は女子決勝後に雨天に見舞われ大会は中断。雨雲が去りパーク内の状況が元に戻るまでに4時間を要し、選手たちはコンディションを整えるのに苦戦を強いられたが決勝では見事なライディングを見せていた。 そんな本決勝は全38名の出場者の中、予選を勝ち上がった合計8名で競われ、スタートリストは溝手唱太、永原悠路、岡田光瑠、西川有生、徳田凱、櫻井壱世、志治群青、猪又湊哉の順となった。 大会レポート 【ラン1本目】 櫻井壱世のライディング©︎WSJ 女子カテゴリーと同様に今大会の決勝は、45秒のラン3本目のうち1本のベストスコアが採用され、一度ボードからを落ちた時点でランを続行できなくなるフォーマット。一発目から攻めのライディングで後続にプレッシャーをかけるか、後半で攻めのトリックにトライするかなど戦略が分かれる中で、いずれも1本目は走り切ってフルメイクすることでしっかりスコアを残しておきたい。 永原悠路のライディング©︎WSJ まず決勝1本目から好調なライディングを見せたのはパリオリンピック日本代表の永原悠路。過去に日本OPENでは2大会で優勝している永原はハイエアーと回転技そしてグラインドトリックを入れ込んだハイレベルなランを見せる。トランスファーでの長い「フロントサイドノーズスライド」や「キックフリップインディグラブ」、ディープエンドでの「バックサイド540」、そして最後はエクステンションでの「キャバレリアルディザスター」をタイムギリギリで決め切りフルメイクすると68.55ptをマークし幸先の良いランを見せる。 櫻井壱世のライディング©︎WSJ その永原を超える攻めのライディングを見せたのは世界大会のSimple Sessionで2年連続準優勝に輝いた櫻井壱世。櫻井は多くのトリックバリエーションを豪快なライディング落とし込んだランを見せる。ディープエンドでの「バックサイド540」や、トランスファーでの「バックサイドテールスライド」。コーピングでの長い「フロントサイドフィーブルグラインド」やエクステンションでの「キャバレリアル540」を決め切りフルメイクすると70.02ptをマークし暫定1位に躍り出た。 そして今回は上位には食い込めなかったものの今後の活躍に注目が集まっているのは今大会最年少ファイナリストとなった西川有生。バーチカル仕込みの見事なグラインドトリックとエアーが特徴的な彼は、ディープエンドでの豪快な「キャバレリアル720」をはじめ、トランスファーでの「キックフリップインディグラブ」、エクステンションでの「バックサイド540」、そして最後には「キックフリップ540」をトライするも惜しくも転倒。そんな彼のスコアは転倒したにも関わらず51.47ptをマーク。決めきっていれば上位に食い込むライディングだっただろう。その後は残念ながらスコアアップができなかったが今後が注目のライダーだ。 【ラン2本目】 永原悠路のライディング©︎WSJ 2本目では、櫻井や永原が残したスコアがプレッシャーとなってか、大半のライダーたちがスコアアップに苦戦する展開となり、ラスト1本で確実に高得点を残さないと表彰台争いは難しい状況となった。 そんな中でしっかり1本のミスを修正して、スコアを伸ばしてきたのは溝手唱太。ラン1本目では63.99ptと順調な滑り出しを見せた溝手は、2本目でトランスファーでの「バリアルフリップインディグラブ」、コーナーでの丁寧な「フロントサイドフィーブルグラインド」、そしてトランスファーではギャビン・ボドガーさながらの「アラウンドザワールド」などをメイクし、1本目をアップデートしたライディングでスコアを67.46ptまで引き上げた。 永原悠路のライディング©︎WSJ そしてその溝手の後にライディングし更なるスコアアップを目指したのが永原。1本目をアップデートし、トンネル上のコーナーで飛び切り「キックフリップインディグラブ」や、エクステンションでのハイエアーの「アリーウープ」、そしてディープエンドでは1本目と同様のクリーンな「バックサイド540」、最後は「キックフリップ」からのワントリックにトライするも惜しくも失敗し転倒。それでも65.38ptをマークしラストランに望みを繋いだ。 そしてここで触れておきたいのが徳田凱。独自のスタイルで観客を魅了する彼はコーナーでの「フロントサイドノーズグラインド」、そしてディープエンドでの「バックサイドノーズスライド」などで今回も会場を沸かせた。惜しくも2本目で転倒があり3本目はDNSとなったが、怪我から復帰した若きスタイラー大会再参戦は感慨深いものがあった。今大会は良い結果で終われなかった彼だが今後の活躍に期待したい。なお2本目を終えた時点では暫定1位が櫻井、2位が永原、3位が溝手の順となったが、予選を1位で通過している猪又湊哉と同じく2位通過の志治群青がラスト1本でどのようなライディングを見せてくるかで大きく順位が変わることが想定されたため最後まで分からない試合展開となった。 【ラン3本目】 志治群青のライディング©︎WSJ 最終ランとなった3本目は多くのライダーがミスをしてスコアアップができない状態になる中、表彰台争いには大きな変化が見られた。まずは3本目のランでベストスコアを残したのは岡田光瑠。1本目や2本目でなかなかスコアが伸び悩む中、最終ランではスムーズで完成度高いライディングで繋ぐ。トランスファーでの「ステイルフィッシュグラブ」やディープエンドでは「バックサイド540」「バックサイドテールスライド」、そして永原同様にトンネル上のコーナーで飛び切り「キックフリップインディグラブ」などを綺麗に決めるもラストトリックで失敗。52.36ptとスコアを伸ばしたが惜しくも6位で大会を終えた。 そして3本目で一番で気になるのは猪又と志治がどう表彰台争いに食い込んでくるのかだ。惜しくも暫定トップ3の櫻井、永原、溝手がスコアアップできない中で、順番が回ってきたのは志治群青。 志治群青のライディング©︎WSJ 志治はまずエクステンションの「バリアルフリップディザスター」でライディングを始めると、コーナーで「フロントサイド540」、トランスファーでの「フロントサイド360」と「バックサイドスミスグラインド」。そして彼の特徴的なトリックでもある豪快な「ジュードーエアー」。さらにはギャップ越えの 「バックサイド360」を決め切りフルメイクでランを終えた。自身のパーフェクトランには志治本人も両手を挙げて喜んだ。そんな彼の見事なランには76.26ptがスコアされ、一気に暫定1位に躍り出た。 そして最後に逆転が必要とされたプレッシャーのかかる状況でのランを迎えたのは猪又湊哉。予選では唯一の90点台を叩き出した彼だが、決勝では1本目の66.20ptをトップスコアとして最終ランに挑んだ。自分の持つトリックを出し切ることができれば優勝の可能性もあったが、ランの前半にディープエンドでの「バリアルフリップバックサイド540」に失敗。この瞬間に志治群青の優勝が決まった。昨年の全日本選手権では3位となった彼だが、今大会での優勝は初めて。永原や猪又など歴代全日本チャンピオンがいる中で見事表彰台の頂点の座を獲得した。 大会結果 左から櫻井、志治、永原の順©︎WSJ 1位 志治 群青 / 76.26pt2位 櫻井 壱世 / 70.02pt3位 永原 悠路 / 68.55pt4位 溝手 唱太 / 67.46pt5位 猪又 湊哉 / 66.20pt6位 岡田 光瑠 / 52.36pt7位 西川 有生 / 51.27pt8位 徳田 凱 / 14.55pt 最後に ©︎WSJ 今大会を通して感じられたのは男子パーク種目の急激な成長だ。パリオリンピックには永原悠路だけの出場となったが次回のロサンゼルスオリンピックでは3人出場している未来が想像できるくらい各ライダーのレベルアップが感じられる大会であった。 一方で、今後これらのライダーたちを差別化するのは高難度のトリック習得はもちろんのこと、いかに高い精度で常に披露できるのかなのだと、今までも言及してきたことが再認識させられた大会でもあった。今後彼らが切磋琢磨し合い、自分たちが持つベストトリックを世界最高峰の場で決め切ることで、海外のトップライダーたちの牙城を崩す未来も期待したい。 2025年も早速勢力図に新たな変化も見られたスケートボードの大会シーズン。ここからロサンゼルスオリンピックに向けて歩む3年が、日本の男子パーク種目シーンの新たな進化を生むことを期待しながら今シーズンも彼らの活躍を追っていきたい。
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skate怪我を乗り越えて強さを見せた草木ひなのが優勝!「第3回マイナビスケートボード日本OPEN supported by Murasaki Sports」パーク女子決勝2025.04.092025年4月5日(土)〜4月6日(日)に「第3回マイナビスケートボード日本OPEN supported by Murasaki Sports」 が鵠沼海浜公園スケートパークにて開催された。昨年パリオリンピックを含む世界的に大きな注目を集めたシーズンが終わり、次は3年後に開催されるロサンゼルスオリンピックを見据える中、新たなスタートが切られた2025年シーズンの公式開幕戦が今大会。 今大会にはオリンピックメダリストである四十住さくらや開心那が欠場した一方で、国際大会派遣選手の選出や2025年強化指定選手の選考に関わる重要な大会ということもあり全国から実力者たちが集まった。大会当日は決勝日に雨天が予想されたことから、本来予定されていた準決勝を取り止め、予選の結果から上位8名が決勝に出場する展開に。 そんな本決勝は全17名の出場者の中、予選を勝ち上がった合計8名で競われ、スタートリストは福田碧、加藤渚都夏、小川希花、貝原あさひ、鷹野芙由佳、藤井雪凛、能勢想、草木ひなのの順となった。 大会レポート 【ラン1本目】 貝原あさひのライディング ©︎WSJ オリンピックや国際大会と同様に今大会の決勝は45秒のラン3本目のうち1本のベストスコアが採用されるフォーマットで行われた。このフォーマットは一度ボードからを落ちた時点でランを続行できなくなるため、後半で攻めのトリックにトライするためにも1本目は走り切ってフルメイクすることでまずベースとなるスコアを残しておきたいところ。 決勝1本目最初の滑走者となったのは福田碧。福田は様々なグラインドトリックをベースに取り入れた全体的に流れるようなライディングを見せる。エクステンションでの「ブラントtoフェイキー」やコーピングでの「フロントサイドリップスライド」を決め切りフルメイクすると62.85ptをマークし幸先の良いランを見せた。 そんな福田の後に滑走しフルメイクしたのは加藤渚都夏。彼女はトランスファーでの「アリウープ」をメイクすると、エクステンションでの「リーンエアーtoテール」やコーピングでの「バックサイドボードスライド」などスタイルのあるライディングで59.19ptをマークした。 貝原あさひのライディング ©︎WSJ 他のライダーたちがなかなかスコアを伸ばせずにいる中で、彼女たちを上回るスコアをマークしてきたのは貝原あさひ。まずはディープエンドでの豪快な「マドンナ」をはじめ、エクステンションでの「ノーリーバックサイドディザスター」、そして最後には「フェイキーオーリーtoバリアルフリップ」をメイクして66.47ptをマークし次のランへ繋いだ。 草木ひなののライディング ©︎WSJ 今大会予選1位通過で決勝に挑む草木ひなのは、1本目から暫定1位のスコアをマークするライディングを見せる。全体的に余裕を感じさせるスタイルで一つ一つ丁寧にトリックをこなしていく彼女はトランスファーでの「アリーウープサランラップ」や、コーピングでの「バックサイドスミスグラインド」、そして最後はディープエンドで「フロントサイドロックンロールスライド」をメイクしてランを終えると67.88ptをマーク。2本目以降でのライディングでのアップデートを予感させるライディングで1本目を終えた。 【ラン2本目】 藤井雪凛のライディング ©︎WSJ 2本目では、1本目でのスコアが伸び悩んだライダーたちが大きく順位を上げる展開に。やはり1本目では少し体が温まっておらず思ったようなライディングをできていないような様子も見受けられたが、この2本目のランではラスト1本の前に高得点を叩き出したいという強い気持ちも感じられた。 まずは1本のミスを修正して、スコアを伸ばしてきたのは小川希花。ラン1本目では終始見事なライディングを見せるもタイムアウトギリギリの最後で転倒し、57.27ptと惜しくもスコアを伸ばしきれなかった。2本目ではミスを修正し、ディープエンドの「バックサイドスミスグラインド」、コーピングでの「フロントサイドスミスグラインド」や「バックサイドフィーブルグラインド」そして「バックサイドブラントスライド」など1本目で見せたハイレベルなトリックをクリーンに決めて最後までフルメイクし、スコアを63.87ptまで引き上げた。 そして小川と同様に1本目のランをアップデートしてきたのは鷹野芙由佳。1本目では惜しくも途中で転倒してしまいスコアを伸ばせなかった彼女だが、2本目ではトランスファーの「フロントサイドリップスライド」を皮切りにディープエンドでの「バックサイドスミスグラインド」、そして「フロントサイドボーンレス」など最後までトリックを決め切りフルメイクで終えるとスコアを64.61ptまで引き上げた。 藤井雪凛のライディング ©︎WSJ さらにその鷹野よりも大きくスコアをアップデートして見せたのが、ここ鵠沼スケートパークをローカルとしている藤井雪凛。1本目では中盤にトランスファーでの「アリーウープノーズグラブ」で転倒してしまったものの2本目では見事に修正。トランスファーでの「キックフリップインディグラブ」をはじめ、「アリーウープノーズグラブ」、そして決勝では彼女だけが見せた中央のスパインからサイドのボウル面へのトランスファーをメイク。トリックだけではなく終始高いエアーとスムーズなライディングでランをまとめて66.93ptまでジャンプアップした。2本目を終えてラスト1本を前に暫定では1位が草木、2位が藤井、3位が貝原の順となり、この時点では上位3名が4点以内でひしめき合っていたことから、ラスト1本でどのようななトリックを見せるかに注目が集まった。 【ラン3本目】 草木ひなののライディング ©︎WSJ 最終ランとなった3本目はほとんどのライダーがベストランにトライするもミスが続きスコアアップができない状態に。そんな3本目のランでベストスコアを残したのは能勢想。予選では70.52ptをマークし草木に続き2位で決勝へ駒を進めた彼女。1本目でのミスから1本ずつスコアアップして見せた中、最終ランでは様々なセクションを見事に使いライディング。特にディープエンドでは「バックサイドテールスライド」「フェイキーキャバレリアル」そして「バックサイドバリアルフリップ」などを綺麗に決めて64.06ptとスコアを伸ばしたが惜しくも5位で大会を終えた。 そして気になるのは貝原、藤井、そして草木によるトップ3争い。まず貝原がさらにスコアを伸ばすべく終盤で「フェイキーバリアルフリップインディグラブ」にトライするも転倒し惜しくもスコアアップならず。続いて藤井は前半で「キックフリップインディグラブ」に失敗し残念ながら草木に迫ることはできなかったが、その後藤井は時間外で本来メイクしたかったディープエンドでの「マックツイスト」をギャラリーに向けてメイクし会場を盛り上げた。 草木ひなののライディング ©︎WSJ そして暫定1位の座を死守しウィニングランとなった草木ひなの。1本目と2本目ではメイクしていなかったディープエンドでの「バックサイド540」をセカンドトリックで綺麗に決め切ると、その後はコーピングでの「バックサイドスミスグラインド」や、ディープエンドの長い「フロントサイドロックンロールスライド」などをメイクしフルメイクでランを終えた。そのスコアはなんと80.11ptと後続を大きく引き離し、見事完全優勝を成し遂げた。 草木はその後自身の決勝ランを振り返り、「(藤井)雪凛ちゃんがマックツイストを決めていたからバックサイド540を決めたいと思った。」と話していたが、草木は現在肩を痛めており今大会には痛み止めを飲みながら挑むほど状態だったという。この背景から改めてライバルたちの存在の大きさや、お互いに高め合うことができるスケートボードの持つカルチャーの素晴らしさを再認識させられた大会だった。 大会結果 左から藤井、草木、貝原の順 ©︎WSJ 1位 草木 ひなの / 80.11pt2位 藤井 雪凛 / 66.93pt3位 貝原 あさひ / 66.47pt4位 鷹野 芙由佳 / 64.51pt5位 能勢 想 / 64.06pt6位 小川 希花 / 63.83pt7位 福田 碧 / 62.85pt8位 加藤 渚都夏 / 59.19pt 最後に ©︎WSJ 今大会を通して感じたのは国内女子カテゴリー全体の競技力の底上げだった。それはトリックレベルのことに限って差しているのではなく、ルーティンの構成からライディング中でのトリック遂行力など包括的に見てライダーたち全体のレベルが上がっていると感じとれた。 その背景を考察すると、このスケートボード・パーク種目が持つお互いを称え合い高め合う点がこの競技レベルの底上げに影響していると筆者は考える。オリンピアンを含め多くのライダーが日本を飛び出し、世界で活躍することで年々レベルアップしていくこの日本のスケートボードシーンだが、そういった世界で活躍するライダーが日本国内で練習したり、大会に出場したりと国内のライダーとの接点が増え、お互いに切磋琢磨していることが日本全体のレベル向上に繋がっているのではないだろうか。 さあ今年も始まったスケートボードの大会シーズン。3年後に控えるロサンゼルスオリンピックに向けてはもちろんのこと、競技レベルが上がっているこの日本でオリンピアンを含めたシーンを牽引するライダーに対して国内のライダーたちがどのように台頭してくるのかにも注目していきたい。