「SOCIAL INNOVATION WEEK 2025」部活動地域移行・学校教育におけるアーバンスポーツの可能性

2025.11.26

2025年10月31日(金)、ソーシャルとカルチャーデザインの祭典であるSOCIAL INNOVATION WEEK 2025(SIW)の一環として「部活動地域移行」「学校教育」におけるアーバンスポーツの可能性と題したセッションが開催された。

本セッションでは、部活動の地域移行、学校教育におけるアーバンスポーツの可能性、そしてカルチャーと暮らしが育つ場所をいかに創出するかという3つのテーマを軸に、自治体担当者やトッププレイヤー、指導者らが登壇し、活発な議論が交わされた。

SIW_2025_KKA00031.jpg
登壇者の7名
(写真左から田中豊氏、松浦政行氏、大下義邦氏、水谷洋夫氏、AYANE氏、FISHBOY氏、渡邊マーロック氏)

登壇者には、一般財団法人渋谷区スポーツ協会 副理事長の田中豊氏、横須賀市役所 文化スポーツ観光部アーバンスポーツ推進担当課長松浦政行氏、北九州市 都市ブランド創造局スポーツ振興課アーバンスポーツ担当課長大下義邦氏、京都市役所文化市民局市民スポーツ振興室スポーツ企画課長の水谷洋夫氏が参加した。加えて、昨年度の全日本チャンピオンであるB-GirlAYANE氏、CyberAgent Legitディレクターであり渋谷区の部活動改革にも携わるダンサーのFISHBOY氏も登壇した。

ファシリテーターは、渋谷未来デザインでスポーツプロデューサーを務め、パリオリンピック・ブレイキン競技監督も担う渡邊マーロック氏が務めた。

登壇者プロフィール

田中豊

SIW_2025_KKB00017.jpg

一般財団法人渋谷区スポーツ協会副理事長
1986年渋谷区役所入職。スポーツ行政の専門職員として、スポーツ振興事業、スポーツ施設の計画・整備、パラスポーツ推進事業などを担当。オリンピック・パラリンピック推進課長、スポーツ振興課長、スポーツ部長などを歴任。2022年シブヤ部活動改革プロジェクトの推進団体である一般社団法人渋谷ユナイテッドを設立。2024年一般社団法人渋谷区体育協会と合併し、一般財団法人渋谷区スポーツ協会を設立し、現職に至る。

松浦政行

SIW_2025_KKB00030.jpg

横須賀市役所文化スポーツ観光部アーバンスポーツ推進担当課長
出身:千葉県富里市 趣味:サーフィン 星座:牡羊座 血液型:A型 MBTI:ESFP(エンターテイナー) 所属:横須賀市役所 文化スポーツ観光部企画課兼アーバンスポーツ推進担当課長
仕事: 横須賀市でBMX・ストリートダンス・パルクールなどのアーバンスポーツを活用したまちづくりを担当しています。日々、イベント開催や練習環境の整備、普及事業などを通じて、アーバンスポーツを横須賀に根付かせる活動に奮闘中!

大下義邦

SIW_2025_KKB00046.jpg

北九州市都市ブランド創造局スポーツ振興課アーバンスポーツ担当課長
1997年に北九州市役所へ入職。市民課での窓口業務や給与課での内部管理、市長秘書や東京事務所での企業誘致など、多彩な業務を経験。近年はラグビーワールドカップ2019ウェールズ代表キャンプ、東京オリパラ、世界体操・世界新体操、パルクール世界選手権など数々の国際スポーツ大会を担当。

一地方公務員としての立場から、スポーツを通じて世界と地域をつなぐ役割を担い、現在は「北九州市をアーバンスポーツの聖地へ」と熱意をもって挑戦し、ワールドスケートボードストリート2025北九州を担当している。

水谷洋夫

SIW_2025_KKB00051.jpg

京都市役所文化市民局市民スポーツ振興室スポーツ企画課長

AYANE

SIW_2025_KKB00084.jpg

BGIRL / 株式会社IAM
6歳頃からダンスを始め、10歳でブレイキンと出逢う。 2013年頃からは国内のみならず、数多くの海外の大会でも活躍。 2017年10月、地元である大阪狭山市の観光大使(現在特命大使)に任命される。 2022, 2023年度JDSF BREAKING強化選手となる。

FISHBOY

SIW_2025_KKB00094.jpg

CyberAgent Legitディレクター
10代前半からあらゆるダンスコンテストで優勝。 23歳で世界大会優勝、 30歳 RADIOFISHを結成。’PERFECT HUMAN’ が大ヒット。紅白歌合戦出場を果たしました。イギリスで行われる世界最大のオーディション番組、ブリテンズゴットタレントでは最高の栄誉であるゴールデンブザーを獲得。

D.LEAGUEにおいてCyberAgent Legitの監督としてチーム3年連続リーグ優勝&最優秀監督賞を獲得。 渋谷区の部活動改革プロジェクトにおいては渋谷ユナイテッドダンスクラブにて総合演出・監修を務めている。

渡邊マーロック

SIW_2025_KKB00200.jpg

渋谷未来デザイン / スポーツプロデューサー
日本のBBOYであり、2024年パリ五輪では日本代表の監督としてチームを成功に導いた。マーケティングと競技の両分野のスペシャリストとして活動。現在は日本ダンススポーツ連盟の理事として、競技強化から普及・ブランド戦略まで幅広く牽引。渋谷未来デザインでは、企業との連携や地域を巻き込むスポーツプロデュースでも実績を重ねており、その視点は常に現場と社会をつなぐような活動をしている。

アーバンスポーツのルーツ

SIW_2025_KKB00210.jpg

セッション冒頭では、渡邊マーロック氏により、ブレイキン、ヒップホップをはじめとしたアーバンスポーツのルーツが語られた。ブレイキンを含むヒップホップカルチャーは1970年代ニューヨーク・サウスブロンクスで誕生した。MC(ラップ)・DJ・ブレイキン・グラフィティの4要素を持ち、その発祥の地はブロンクスリバーコミュニティセンターの広場とされている。

当時、ギャング抗争の中でDJが音楽を流し、ダンスやグラフィティが生まれたことがヒップホップの始まりとして語られている。路上などの公共空間を舞台に人々が集い、コミュニティが形成されながらカルチャーが育った歴史である。

AYANE氏とFISHBOY氏も路上で練習したことのある経験を共有した。AYANE氏はトランポリン競技を通じて偶然ブレイキンに出会い、練習場所に集まる人々との交流に感動したと述べた。FISHBOY氏は、一緒に踊りたいという気持ちが教え合いの文化を生み、それが価値観の広がりにつながったと語った。

スポーツ基本法改正と部活動地域移行

SIW_2025_KKB00338.jpg

2025年の注目点として、スポーツ基本法が14年ぶりに改正されたことが挙げられる。従来の「する・見る・支える」に加えて「集まる・繋がる」が新たに明記された。これは公共空間を起点とするアーバンスポーツの特徴と一致し、日本のスポーツ政策がアーバンスポーツに追いついてきたことを示している。

渋谷区では令和3年に渋谷部活動改革プロジェクトが始動し、その中でユナイテッドクラブが設立された。初年度からダンスクラブがスタートし、現在で5年目となる。FISHBOY氏がディレクターを務める同クラブでは主に土日を中心に約30名が参加しており、特に中学年代女子の運動部参加率の低さを補う人気クラブとして定着している。

FISHBOY氏は、当初は学校ごとで固まりがちな生徒も多かったが、「集まる・繋がる」を意識したコミュニケーションによって壁が薄れていったと語った。

SIW_2025_KKB00076.jpg

AYANE氏も、異なる価値観が共有されていく過程はダンスの魅力であると述べた。ダンスをはじめとし、アーバンスポーツは大人が教えるだけでなく、仲間を見て学び盗む非形式的学習を通じて発展してきた文化、人と違うことが評価されるアートであり、互いの個性を認め合える世界であると述べられた。

各自治体のアーバンスポーツ部活動地域移行

SIW_2025_KKB00020.jpg

指導者確保が最大の課題とされる中、多くの自治体が地域移行に向け動き始めている。北九州市では来年度より週末のみ地域展開を開始予定で、ダンスやスケートボードの民間クラブも受け皿として準備が進んでいる。

京都市は令和10年度に中学校の部活動廃止と地域移行を計画しており、今年度下半期よりダンス・ダブルダッチ等で実証事業を開始している。横須賀市では地域移行はまだ進行段階にあり、BMXやパルクールなどダンス以外の指導者確保が課題となっている。

SIW_2025_KKB00057.jpg

渋谷区では代々木公園BE STAGEを拠点としたストリートスポーツクラブが発足した。ブレイキン、ダブルダッチ、フリースタイルフットボール、スケートボードの4競技を体験するマルチスポーツ型クラブである。

子どもたちは4種目全てに取り組み、年間のゴールとして全種目の成果発表会を目指す。指導陣には世界レベルの競技者達が名を連ね、特に褒めて育てる指導スタイルが子どもたちの自信を育む点が高く評価されている。AYANE氏は「きっかけはどこに落ちているかわからない。選択肢と出会いを与える場として素晴らしい取り組みです。」と述べた。

SIW_2025_KKA00011.jpg

アーバンスポーツが学校と地域の未来をどう変えるかという議論では、「集まる」「繋がる」「育つ」が主要なポイントとして強調された。指導者が毎回いなくても成立し、大人に教わらず見て盗む非形式的な学びでアーバンスポーツが進化してきた点が述べられ、それは技術だけでなく生き方や教育的な価値も提供している。

セッション内で特に重要視されたのは繋がりだ。子供たちは、学校では接しない社会の大人とも交流し、心も繋がる信頼関係を構築する機会を得る。さらに、子供の頃から違いを認識する経験は、将来その違いが争いになるのを避ける上で非常に重要だと指摘された。

アーバンスポーツは、公共の空間を基盤としたコミュニティ文化から生まれ、自ら学び、繋がりを育む独自の価値を持つ。部活動の地域移行が進む中で、自治体の取り組みや民間との連携が課題解決の鍵となっている。本セッションでは、教育現場におけるアーバンスポーツの有効性と、子どもたちの居場所、自己肯定感を育む力が再確認された。各地域が拠点を形成し、全国的な交流が広がることで、スポーツが文化として根付く未来が期待されている。

執筆者について
FINEPLAY編集部
FINEPLAY は世界中のサーフィン、ダンス、ウェイクボード、スケートボード、スノーボード、フリースタイル、クライミングなどストリート・アクションスポーツに関する情報を発信するスポーツメディアです。
ピックアップフォト
アクセスランキング
FINEPLAY
アクションスポーツ・ストリートカルチャー総合メディア

FINEPLAYはアクションスポーツ・ストリートカルチャーに特化した総合ニュースメディアです。2013年9月より運営を開始し、世界中のサーフィン、ダンス、ウェイクボード、スケートボード、スノーボード、クライミング、パルクール、フリースタイルなどストリート・アクションスポーツを中心としたアスリート・プロダクト・イベント・カルチャー情報を提供しています。

アクションスポーツ・ストリートカルチャーの映像コンテンツやニュースを通して、ストリート・アクションスポーツの魅力を沢山の人へ伝えていきます。

おすすめのイベント
直近のおすすめはありません
直近のイベント
直近のイベントはありません
イベントスケジュール
11月 2025
      1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
« 10月   12月 »

●今日 ○イベント開催日

ピックアップフォト
編集部おすすめ記事
アクセスランキング
FINEPLAY
アクションスポーツ・ストリートカルチャー総合メディア

FINEPLAYはアクションスポーツ・ストリートカルチャーに特化した総合ニュースメディアです。2013年9月より運営を開始し、世界中のサーフィン、ダンス、ウェイクボード、スケートボード、スノーボード、クライミング、パルクール、フリースタイルなどストリート・アクションスポーツを中心としたアスリート・プロダクト・イベント・カルチャー情報を提供しています。

アクションスポーツ・ストリートカルチャーの映像コンテンツやニュースを通して、ストリート・アクションスポーツの魅力を沢山の人へ伝えていきます。

配信先メディア一覧