リーダー不在の危機を乗り越え、強固な団結を手に入れた「TOK¥O TRICKING MOB」が見据える新たなステージ

2020.02.26
photo by Shohei Shibata

「これからはトリッキングにしかできないことをやっていきたい」

トリッキングの世界大会で日本人として初めて世界王者に輝いたDaisukeを中心に2016年に結成された、現在8名のメンバーからなるトリッキング・パフォーマンス・グループ「TOK¥O TRICKING MOB」(以下、「TTM」)。2019年4月にDaisukeがイベントで受傷したことで、リーダー不在での活動を余儀なくされていたが、現在ではDaisukeも徐々にチームに復帰、完全復活へ向けて始動中だ。
当時の状況と、それによって変わったチームの意識とは。Daisukeとその弟Reijiにチームや取り巻く環境の変化、そして「TTM」が目指す新たなステージについて話を聞いた。

写真左からReiji、Daisuke / photo by Shohei Shibata

ーー前回インタビューをさせてもらってから2年ほどたちましたが、そこからトリッキングのシーンはどのように変化しているのでしょうか。

Daisuke 僕が世界大会で日本人初のチャンピオンとなったのがちょうど2年前、前回のインタビューを受ける少し前のことでした。
翌年も日本人が優勝したことで、日本のトリッキングのシーンは海外から大きな注目を集めるようになりました。実際に僕自身もそれから仕事で忙しい日々が1年ほど続きました。
トリッキングのシーンで特に変化を感じているのは競技人口が増えたことです。それまでは日本でトリッキングをしている人口は500人ほどだったと思うのですが、今では1500人から2000人ほどがトリッキングをしています。

Reiji 当時トリッキングのシーンでは強豪選手の年齢層が高く、僕らは若い世代と呼ばれていました。しかし現在では、むしろ若い世代の活躍が目立っており、その選手層も若い世代のボリュームが多くなっています。
日本は世界一のトリッキング強豪国と呼ばれるほどに成長してきました。
トリッキングのシーンが盛り上がっていくことにつれて、他のカルチャーとの交流も増えていきました。クランプやスケートボード、ダブルダッチの方との仕事も多く、いろいろなカルチャーの第一線で活躍している方とつながっていくことにはとても刺激を受けています。

ーーお兄さんのDaisukeさんを見ていて、Reijiさんがトリッキングを始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

Reiji やはり、兄の影響が大きいですね。Daisukeのかっこいい姿を見て、トリッキングをやってみようと思ったのが12歳の頃のことです。
トリッキングを始めて今年で8年目、兄とは別種目で世界チャンピオンになり、2 on 2では4連覇をすることもできました。

ーーReijiさんがトリッキングを始めた頃と現在では、周りの変化を感じますか。

Reiji トリッキングを始めた頃は右も左も分かりませんでした。一番変化を感じているのは、2年前はテレビやイベントの仕事に「アクロバット」というジャンルで呼ばれていたのが、現在では「トリッキング」というジャンルで呼んでもらえるようになったということです。
「トリッキング」という固有名詞が世間に認知されたということは、トリッキングのカルチャーにとって大きな成果だと思っています。
それからもう一つ、兄と一緒にトリッキングのシーンを築いていく中で、今後の若い世代のためにももっとシーンに関わっていかなければと思うようになりました。

Reiji「『トリッキング』という固有名詞が世間に認知されたということは、トリッキングのカルチャーにとって大きな成果だと思っています」 / photo by Shohei Shibata

ーートリッキングのカルチャーを今後どのように発展させていきたいですか?

Reiji トリッキングというスポーツはまだまだ認知度が低いので、誰でも知っているスポーツになるように、その価値観を丸ごと変えていきたいですね。
例えば、トリッキングはドラマやアクション系の映画によく使われているのですが、それがトリッキングであると知っている人はまだまだ少ない。もっとその認知度を広めていきたいと思っています。

Daisuke トリッキングに携わる人たちの価値を上げていくような活動をしていきたいと思っています。
先日ミュージカルを見る機会があったのですが、そこで気づいたことがありました。それは、ミュージカルにはさまざまなパフォーマーやアーティストが携わっており、当然そのパフォーマーやアーティストをマネジメントする会社があるのですが、アクロバットのパフォーマーを扱う会社は少ない気がしました。
その中で、僕たちがもっと活躍することにより、全てのアクロバットのパフォーマーを引っ張る存在でありたい。まだ経験は浅いですが、トリッキングのシーンを引っ張ってきた自負もあります。今後は一線で活躍するということよりも視野を広く持って、トリッキングのカルチャーを支えたいと思っています。

ーー現在までトリッキングを続けてきて、お二人にとってトリッキングの魅力とはなんでしょうか。

Daisuke 僕にとってのトリッキングの魅力はその希少性にあると思っています。日本では知名度も上がってきていますが、まだ珍しいスポーツです。珍しいという点では、さまざまなメディアがトリッキングのことを取り上げてくれるようになり、そのおかげでたくさんのかっこいいパフォーマーやアーティストに出会うことができました。

Reiji トリッキングの魅力は競技者、観戦者双方に需要があることですね。
トリッキングは競技者からすれば個性を表現できるスポーツ。そして、観戦者からすれば、通常のスポーツでは味わうことのできない、新鮮な驚きを感じることができるスポーツです。

Daisuke「トリッキングの魅力はその希少性にあると思っています」 / photo by Shohei Shibata

ーーチームのことをお伺いします。「TTM」としてはどのような変化があったのでしょうか。

Reiji Daisukeがケガをしたことで半年ほどリーダー不在の期間が続いたことは、チームに大きな影響を与えました。それまではメンバー同士の仲が良すぎるために、ゆるみがちだったチームの雰囲気をDaisukeがきっちり締めてくれていたのですが、まとめ役がいなくなってしまったのです。
そこでリーダーがいなくても仕事ができるようにと、メンバーの一人ひとりがより責任感を持って仕事に取り組むようになりました。
いつでもリーダーが安心して帰ってくることのできるチームになろうと誓い、チームとしての団結も以前より強くなりました。

ーーDaisukeさんがケガをしてしまった時はどのような状況だったのですか。

Daisuke イベントショーケース出演中の事故でケガをしました。
ショーケースの最後の技でスプリットと呼ばれる前後開脚で着地をするところがあり、慣れた動きだったのですが、運悪く膝が悪いところに入ってしまったのです。「痛い」と思った瞬間、これはただごとじゃないぞと思いました。
ショー自体は問題なく終わり、翌日病院に行ったのですが、診断の結果は前十字靭帯の断裂と半月板の亀裂、内側靱帯の損傷でした。
ケガをしてから手術をするまでに、膝の曲げ伸ばしを正座ができるまでにした方が術後の経過が良いということで、それができるまで手術ができませんでした。入院は1週間ほどで済んだのですが、手術までは嫌な1ヶ月間を過ごしました。

Daisuke「『痛い』と思った瞬間、これはただごとじゃないぞと思いました」 / photo by Shohei Shibata

ーーチームのメンバーはどのような反応だったのでしょうか。

Reiji 一緒にステージに出ていたのですが、耳打ちで膝を痛めたと言われた時には落ち込みました。
まずは冷静な対応が必要だと思い、すぐに応急処置をしました。その時には無我夢中だったのですが、応急処置を終えて一人になってから、リーダー不在のチームをどうしていったらよいだろうかとぼんやり考えていました。
チームのメンバーとも話し合い、Daisukeが復帰する頃にはきちんと迎え入れることができるように、一人ひとりが個人でしっかり仕事ができるようになろうと話し合ったことを覚えています。

ーーDaisukeさんはケガの後、チームに対してどのようなことを感じていたのでしょうか。

Daisuke 今まで大きなケガをしたことがなかったので、はじめは驚きました。ケガをすることでたくさんの人に迷惑をかけてしまったことに対しても落ち込みましたし、自分が引っ張ってきたチームの今後に対する不安もありました。
メンバーに対しては、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。しかし、僕が不在でも自分たちの力でやれるようになって欲しいという思いもありました。

ーー全く動けない時期はどのようなことをして過ごしていたのですか。

Daisuke ケガをしてから2ヶ月ほどは松葉杖での生活でした。その頃はストレス発散でカラオケに行ったりすることもありましたが、プラスに捉えてリハビリやジムでのトレーニングに精を出していました。
あと、チームに貢献できることは何かを毎日考えていましたね。1人でYouTube投稿をし始めたのもその時期です。

Daisuke「チームに貢献できることは何かを毎日考えていましたね」 / photo by Shohei Shibata

ーー今のチームを見てどのように感じていますか。

Daisuke 現在では、徐々にチームで一緒に練習ができるようになったのですが、その中でメンバーの成長を日々感じています。
トリッキングとしての動きのボキャブラリーも圧倒的に増え、技術のレベルも高くなっていますし、表に出る活動だけでなく、レッスン講師や個人としての仕事もしっかりできるほどに成長していることにも驚きました。

ーー最後に、チームとしての目標を教えてください。

Daisuke これからのチームとしての目標は、自分たちが作っているクリエイティブなものや、自分たち自身に価値がつくような活動をしていくことです。これまでのパフォーマーとしての仕事から一歩先へ進めて、個人がレベルアップし生まれ変わった「TTM」としてクリエイティブな活動をしていきたいと思っています。

Reiji トリッキングは他のエンターテイメントとの相性が良いので、これからはトリッキングにしかできないことをやっていきたいと思っています。その上でアーティストとしての活動をしていきたいと思っています。それが「TTM」が目指す新たなステージです。

Reiji「これからはトリッキングにしかできないことをやっていきたいと思っています」 / photo by Shohei Shibata
執筆者について
FINEPLAY編集部
FINEPLAY は世界中のサーフィン、ダンス、BMX、FMX、スケートボード、スノーボード、クライミングなどストリート・アクションスポーツに関する情報を提供するWebマガジン
ピックアップフォト
アクセスランキング
FINEPLAY
アクションスポーツ・ストリートカルチャー総合メディア

FINEPLAYはアクションスポーツ・ストリートカルチャーに特化した総合ニュースメディアです。2013年9月より運営を開始し、世界中のサーフィン、ダンス、ウェイクボード、スケートボード、スノーボード、クライミング、パルクール、フリースタイルなどストリート・アクションスポーツを中心としたアスリート・プロダクト・イベント・カルチャー情報を提供しています。

アクションスポーツ・ストリートカルチャーの映像コンテンツやニュースを通して、ストリート・アクションスポーツの魅力を沢山の人へ伝えていきます。

直近のワークショップ
直近のワークショップはありません
イベントスケジュール
11月 2024
     1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
« 10月   12月 »

●今日 ○イベント開催日

ピックアップフォト
編集部おすすめ記事
アクセスランキング
FINEPLAY
アクションスポーツ・ストリートカルチャー総合メディア

FINEPLAYはアクションスポーツ・ストリートカルチャーに特化した総合ニュースメディアです。2013年9月より運営を開始し、世界中のサーフィン、ダンス、ウェイクボード、スケートボード、スノーボード、クライミング、パルクール、フリースタイルなどストリート・アクションスポーツを中心としたアスリート・プロダクト・イベント・カルチャー情報を提供しています。

アクションスポーツ・ストリートカルチャーの映像コンテンツやニュースを通して、ストリート・アクションスポーツの魅力を沢山の人へ伝えていきます。

配信先メディア一覧