パークは新時代の訪れを印象付ける結果に。第5回日本スケートボード選手権大会

2022.11.30
text & photo by Yoshio Yoshida

2022年はパーク種目にとって時代の境目に。

11月24日から11月27日かけて新潟県の村上市スケートパークで開催された第5回マイナビ日本スケートボード選手権大会のパークは、近年成長著しい若手の台頭をさらに印象付ける結末となった。

ではどんなところにそういったポイントが詰まっていたのか!?
さっそく女子パークから中身を見ていこう。

今大会優勝候補と目されていた藤井 雪凛。マックツイストは出せないまま6位に終わってしまった

まず出場選手に目を向けると、当初は四十住さくら以外はフルメンバーのエントリー予定だったが、東京五輪銀メダリストの開 心那や、X Games日本人初のゴールドメダリストとなった中村貴咲らが欠場。

そうなると注目は、10月のアーバンスポーツTOKYO 2022 Skateboard Festivalやアルゼンチンで開催されたWORLD SKATE GAMESのバートで優勝している藤井 雪凛と、昨年の全日本選手権と今春の日本オープンを制した草木ひなのらによる優勝争いに注目が集まっていた。

一回りスケールの大きくなった滑りで史上初の2連覇

昨年と比べさらに安定感と高さが増した草木ひなののバックサイド540

ただ結果は草木ひなのが2位におよそ4.5ポイントの差をつける圧勝劇となった。
これで彼女は女子パーク史上初の全日本選手権2連覇となり、日本オープンと合わせてWORLD SKATE JAPAN主催の国内大会は3連勝と実力が本物であることを証明。いよいよ来年は世界大会への本格チャレンジのスタートとなることだろう。

実際に彼女の滑りを見ると、期間中は公式練習からフルスロットルでパーク全体を流していた姿が印象的で、スピードも出場メンバーの中では最速だったといって良いのではないだろうか。もちろんスピードが速くなると、それに応じてエアーも高くなる。そうなるとトリックにも余裕が生まれてくるのだが、それは彼女のキラートリックのひとつでもあるバックサイド540からも見てとれた。

昨年はまだマスターして間もない状態で完成度もそれほど高くなかったため、ランディングで深くしゃがみこんでしまう仕草が見られていたのだ。そのため着地後はスピードがあまり残っておらず、パークによってはメイクできないところあったことは、本人が自ら口にしていた事実。

しかし今は着地で立てるようになり余裕が生まれてきている。今後は対応できるパークの種類を増やすのはもちろんのこと、ルーティーンのラストではなく繋ぎに持ってきたり、バリアル540などさらに発展させたトリックの習得に取り組んでいくことで、さらなる成長が見込めるのではないだろうか。

聞けば彼女はこの大会のために村上に通い詰めており、ローカルからは常に真剣に滑り続けていたとの話も聞いている。この1年でグンと成長したのも頷けるし、そういった姿勢と誰にでも分け隔てなく接する気さくな人柄は、彼女のスケート人生をより良いものにしてくれるのは間違いないだろう。

3本目に初トライ。そしてパーフェクトメイクをしたキックフリップ・インディーグラブ

地の利を生かした念願の姉妹での表彰台

2位の菅原 芽依。バックサイドメロンエアー

続いて2位と3位だが、開催場所でもある新潟県村上市をホームとする菅原 芽依と菅原 琉⾐姉妹が勝ち取る結果となった。ここは空調付きの全天候型屋内施設でコンディショニングルームなども併設しているため、環境面は間違いなく国内最高峰。

よく環境が人を育てるというが、彼女たちの結果を見るとそういったところも多分に影響しているのだろう。しかもパークスタイルはストリートに比べて歴史も浅いため、まだまだ数も少ない。もちろん本人達の努力もあるのは百も承知だし、実際に菅原 芽依はキックフリップインディーグラブをランの中でメイクしている。ただコンテストの会場が全てを知り尽くしたローカルパークであったことも大きいだろう。
そういったところも含めて、この結果は環境整備が産んだひとつの成果ともいえるのではないだろうか。

そんな女子パークとなった。

3位の菅原 琉⾐。バックサイドキックフリップ。

あの金メダリストの出場で話題性はNo.1

彼の出場は大きな話題を呼んだ。平野歩夢のフロントサイドノーズグラインド

続いて男子パークになるが、マスメディアの注目は全種目の中でNo.1だったことは間違いないだろう。なぜなら東京五輪男子パークの日本代表で、今年初旬の北京五輪スノーボードハーフパイプの金メダリスト、平野歩夢が出場を決めたからだ。

聞けばおよそ3年ぶりの地元開催だったことと、実兄の平野英樹も出場することが決め手となったそう。優勝争いは、その平野に加え、彼と最後まで東京五輪代表の座を争った昨年の全日本選手権の覇者、23歳の笹岡建介と、直近の日本オープンの覇者でX Games 2022 Chibaでも4位に輝いた17歳の永原悠路らを中心に13歳の猪又 湊哉ら若手がどう食い込んでくるかが見どころだったと言える。

二度あることは三度あった!?

やはりエアーの高さは圧倒的。笹岡建介のステイルフィッシュ

ただ蓋を開けてみれば、優勝候補と目されていた人物の中では最も若い永原悠路が2位の笹岡建介に5点差以上をつける圧勝劇となった。
昨年は笹岡建介がただ1人70点代を叩き出し、2位に9点近い差をつける独壇場となったが、今年に入ってからは順位が入れ替わり、春の日本オープンは2人揃って70点代を叩き出したものの2位に甘んじ、 X Games Chibaでも7位と、4位の永原に先着を許していたのだ。

だからこそ今年最後となるこの舞台では、「3度目の正直」としてリベンジと共に2連覇を果たすのか、それとも「二度あることは三度ある」となり、永原の時代到来を決定づける一戦となるのに注目していたのだが、結果として後者となってしまった。

ただ、それでも彼は今回土壇場でさすがの滑りを披露してくれたのも事実。実際に準決勝も決勝も2本目までフルメイクすることができず、極限まで追い込まれていたのだが、どちらも3本目でフルメイクするというドラマを生んでくれた。

特に準決勝は2本とも序盤でミスが続き、現場でシャッターを切っていた自分にはメンタル的にも相当喰らっていたように見えた。だがそこで彼に声をかけたのがボードスポンサーである13mindのボス、上田豪さんだった。そこで発破を掛けられてから息を吹き替えし、見事に予選を突破。最終的には2位に輝いている。

彼の持ち味は圧倒的なスピードと高さであり、実績やキャリアも日本のトップと言って差し支えない。それほどの存在でありながら、一旦歯車が狂うと取り戻せなくなってしまうのが、スケートボードの難しいところであり、魅力でもあるのだなと改めて痛感した。そう感じた彼のランだった。

ボードの一部が欠けた状態で圧巻の圧勝劇

優勝した永原悠路のキックフリップインディー

そしてそんなを笹岡を破って見事に優勝を果たした永原悠路である。
彼が2本目に見せたランは間違いなく今大会のベストランだろう。

ただ彼は現在最も勢いのある選手だけに、点差からして今回は全く危なげなく勝てたと思う人がいるかもしれないが、そんなことはない。実は直前の公式練習では540もミスが目立つ状態で、あまり調子が良くなさそうに見えた。さらにそんな状況でデッキがチップしてしまい、テールが少し欠けた状態で大会に臨んでいたのだ。

ただ本人曰くそこで新しいデッキにした方がもっと調子が悪くなるとのことだったので、彼も笹岡同様かなり追い込まれた精神状態であったように思う。
案の定1本目は序盤でミスをしてしまい、わずか6点台だったことからも緊張がこちらにも伝わってきていた。そんな中での2本目のランである。これには目の前で見ていた自分も優勝は決まったか! と思うほどだった。

ただ勝利者インタビューではやりたかった技が全部できなかった。3本目でキックフリップバックサイドリップスライドがやりたかったと課題を口にしていたので、これから彼はさらに伸びていくことだろう。

男子パークはまだまだ世界のトップとの差はあるが、彼とそれに続く次世代のキッズ達がその差を埋めていってくれるに違いない。

フロントサイドミュートノーズボーン

将来の躍進を期待させるキッズ世代の活躍

唯一無二のオリジナルスタイル。栗林錬平のスーパーマングラブ

実際に3位に食い込んだ栗林錬平も永原と同じ17歳であるし、他ライダーと明らかに違うトリックチョイスは間違いなく”記録よりも記憶に残る滑り”だったといえる。

さらに4位に食い込んだのは笹岡建介も所属するTRIFORCE SKATEBOARD ACADEMYセレクトチームのアップカマーであり秘蔵っ子、わずか10歳の三竹 陽大だった。5位の猪又 湊哉も10月のアーバンスポーツTOKYO 2022 Skateboard Festivalでは永原を破って優勝を果たしている13歳のアップカマーだ。

4位はわずか10歳の三竹 陽大。サラッとメイクした540。将来が楽しみな逸材だ。

5位の猪又 湊哉も13歳にして完成度の高い滑りを披露する。540ステイルフィッシュ。

このようにパーク種目はストリート以上に若年層の突き上げが凄まじい状況にあり、彼らが強化指定選手の枠をゲットしたことは日本の未来のスケートシーンのことを考えれば、ポジティブな要素といえるだろう。

これらの事実を踏まえれば、数年後は男子パークも世界のトップと肩を並べる状況になっていても決しておかしくない。
そんなことを感じた男子パークだった。

激闘の裏に隠れた平野歩夢のケガとの戦い

膝のケガと戦いながらも最後まで滑り切った平野歩夢のバックサイド540

そして最後に今大会最も注目を浴びた平野歩夢について。
実は大会2日前に右膝内側の靭帯を痛めており、今大会も予選当日朝まで出否を迷っていたという。だが彼の存在はすでに一選手の枠を超えており、仮に欠場となれば大会全体に影響を及ぼしかねない。

そこで最終的には出場を決断し、予選・準決勝ともに1位通過だったのは見事という他ない。ランの合間は常にコンディショニングルームで膝をケアしながらの参戦であり、決勝まで進めば1日に6本の滑走という過酷な条件であったため、最後はフルメイクとはならなかったが、その精神力はやはりトップに立つアスリートそのものだったことは付け加えておきたい。

以上今年も間もなく終わりを告げるが、来年からはパリ五輪出場をかけたポイントレースがいよいよ本格化していく。ストリート・パークともに日本勢がどんな活躍をしてくれるのか楽しみでならない。

そんなポジティブな感情を抱かせてくれた第5回日本スケートボード選手権大会だった。

[RESULT]

女子パーク/

1. 草⽊ ひなの       55.10
クサキ ヒナノ(茨城県)

2. 菅原 芽依        50.53
スガワラ メイ(新潟県)

3. 菅原 琉⾐        45.43
スガワラ ルイ(新潟県)

4. ⻑⾕川 瑞穂       45.30
ハセガワ ミズホ(群馬県)

5. 溝⼿ 優⽉        44.20
ミゾテ ユヅキ(神奈川県)

6. 藤井 雪凛        44.00
フジイ ユリン(神奈川県)

7. 武⽥ 星         41.93
タケダ アカリ(大阪府)

8. ⼩川 希花        31.93
オガワ キハナ(神奈川県)

男子パーク/

1. 永原 悠路         69.77
ナガハラ ユウロ(長野県)

2. 笹岡 建介         64.57
ササオカ ケンスケ(岐阜県)

3. 栗林 錬平         57.93
クリバヤシ レンペイ(長野県)

4. 三⽵ 陽⼤         56.67
ミタケ ヒナタ(愛知県)

5. 猪⼜ 湊哉         55.70
イノマタ ソウヤ(神奈川県)

6. 岡⽥ 光瑠         53.23
オカダ ヒカル(滋賀県)

7. 平野 歩夢         51.07
ヒラノ アユム(新潟県)

8. 徳⽥ 凱          19.00
トクダ ガイ(神奈川県)

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