勝負の分かれ目はパークの使い方と対応力にあった!? X Gamesのスケートボードパークを総括。

2023.05.17
X Ganmes初優勝を果たした開心那。彼女が優勝できた最も大きな要素が、パークの使い方と対応力だ。
text by Yoshio Yoshida / ©Yoshio Yoshida/X Games

あまりにも強かった開心那

ランが終わった瞬間、もう1位通過は確定かな。

そう思えるほど圧巻の滑りを見せてくれたのが開心那選手だ。

レイバックバンクで見せたバックサイドテールスライド。彼女はこういったストリート要素の強いトリックを得意としている
©Yoshio Yoshida/X Games

5月13日に開催予定だったX Games Chiba 2023の競技は悪天候のため中止となり、男女共にパークスタイルは前日に行われた予選結果を最終リザルトとすることが決定。予選1本目でいきなりパーフェクトな滑りを見せてくれた彼女が優勝を飾ることとなった。

代名詞でもあるノーズグラインドはディープエンドと呼ばれるボウルの最も深い部分と、今年の目玉のひとつでもあった富士山セクションで披露。さらにランのラストには女子全選手で唯一パーク中央部分のレールセクションを攻め、見事50-50グラインドに成功。唯一の80点台をマークし、2位に10点近くの大差をつけての優勝と内容も完璧だった。

しかし、それが本番前のウォーミングアップ含め、わずか3時間弱の練習で作り上げたルーティーンだと聞いたら、より凄さが伝わるのではないだろうか。

彼女の強さの秘密はどこに!?

予選前日の夜に完成したパークスタイルのスケートパーク
©Yoshio Yoshida/X Games

そもそも今回はパークが完成したのが木曜日と予選が行われる前日のことだった。スケジュールの都合上本格的に制作に入れたのが前週の日曜の夜で、コンクリート作業は月曜から。急ピッチで作業を進めても、悪天候になると完成も遅れてしまう。

それでもストリートは木曜の比較的早い時間に完成したので少しは滑ることができたのだが、パークはそうもいかず、当日予選前の僅かな練習時間でコースに慣れるしかなかったのだ。

こういった特設会場の場合は事前に練習日を設けることも多いが、それがないとなると当然求められるのは「対応力の高さ」になってくる。常設のスケートパークが会場に選ばれているのであれば、事前に滑り込んでラン構成を考えるなど対策を立てることもできるのだが、できないとなると、自力の差が結果に現れてくるともいえるのではないだろうか。

そう考えると、普段からアメリカにも足を運び、いろいろなセクションで練習しているという彼女の築き上げてきた小さな積み重ねが、念願の初優勝を生んだのではないかと思う。

さらに言えば、最近のパークはストリートの要素を織り交ぜたトリックが高く評価される傾向になってきているので、540やキックフリップインディーといった、現在女子のシーンで勝つために必要とされているトリックに頼らず、ノーズグラインドやエクステンションを使ったトリックを疲労してきた彼女との相性も良かったのではないかと思ってしまう。

昼間の練習中に鼻血が出るというアクシデントに見舞われながらも、きっちり決め切るところに、彼女の更なる成長を感じた。

制限時間の最後にメイクした50-50グラインド。女子でここを成功させたのは、彼女ただ1人 ©Yoshio Yoshida/X Games

豊富なトリックバリエーション

続いて2位のルビー・リリーだが彼女はトリックバリエーションの幅広さが目立った。ディープエンドでの開同様のバックサイドノーズグラインドや、富士山でのバックサイドディザスター、そしてリーン to ディザスターなど、リップ系と呼ばれる頂上部分を削らせたり滑らせるトリックと、エアーを非常にバランスよく組み込んで見事シルバーメダルに。

豊富なトリックバリエーションを持つ2位のルビー・リリー。フロントサイドクレイルスライド ©Yoshio Yoshida/X Games

エアーの高さは随一

3位の藤井雪凛に関して特筆すべきは、やはりエアーの高さだろう。そこに関しては出場選手No.1だったのではないかと思う。ただコンテストでは攻めすぎて決めきれずに勝てないという続いていたところもあったので、今回は成功率を優先しながらも徐々に難易度を上げていったのではないかと思う。

エアーの高さは今大会ガールズNo.1。3位の藤井雪凛によるリーン to テール
©Yoshio Yoshida/X Games

パーク男子は昨年以上の豪華顔ぶれに

今大会の表彰台。左からキーガン・パルマー、コーリー・ジュノー、ギャビン・ボッガー
©Yoshio Yoshida/X Games

続いては男子パークだが、こちらは昨年と比べてコロナ禍が緩和された影響もあってか、メンバーが大幅に強化されたされた印象だ。残念ながら昨年の覇者で今年の世界選手権も制したジャガー・イートンは不参加となったが、それでも東京五輪金メダリストのキーガン・パルマーやコーリー・ジュノー、オスキーなどなど、さすがは世界大会という豪華陣容となった。

それだけに雨天による決勝の中止は非常に残念ではあったが、それでも見どころは十分にあったのではないかと思う。

正攻法の最高峰

このメイクには会場から歓声が。キーガン・パルマーのキックフリップインディ
©Yoshio Yoshida/X Games

優勝したキーガン・パルマーに関しては、”パークスタイルらしい”滑りが評価されたのではないかと思う。

というのも、この種目ではトリックの難易度もさることながら、トリックはシンプルでもスピードとエアーの高さが加点対象になるからだ。

そういう意味でいうと、彼は最も高得点に相応しかったのではないかと思う。

というのも、彼の場合はとにかくスピードが落ちない。そのためトリックの繋ぎもスムーズになるし、エアートリックも高くなる。すると他の選手が攻めないようなところも跳ぶことができるのだ。

今回も富士山での540や、パーク中央のレイバックバンクからディープエンドの端へキックフリップインディートランスファーなど、王道のスタイルを最高峰の完成度でこなしたことが優勝に繋がったのではないかと思う。

遊び心ある独特の滑り

コーリー・ジュノーの美しいフロントフリップ。ここまで完璧なエアキャッチとエアドライブはそうそう見れるものではない
©Yoshio Yoshida/X Games

対して2位のコーリー・ジュノーは、正反対のスタイルと言えるのではないか。

彼はパークでは主軸となる540系のスピントリックはあえて出さない、ストリートの要素を兼ね備えた遊び心ある滑りが持ち味の選手。実際にコンテスト中もヘルメットなどのセーフティーは一切つけていなかったので、良い意味で競技志向ではなく、人と違うトリックで魅せる、軽さとスタイルで勝負するスタイルを持つといえる。

パークスタイルやバーチカルでは、近年グラブを入れないノーハンドの回しトリックが高く評価される傾向にあるのだが、彼はまさにその典型的なスタイルといえるだろう。パークスタイルでは彼に勝る使い手はいないといって良いほど、フロントフリップは美しい放物線を描く。こういったスタイルの選手がいることもまた、パークという競技を面白くしてくれるひとつの要素なのだろう。

予選敗退も各々のスタイルで攻め切った日本勢

本人は一番メイクしたいといっていたトリックは有言実行。永原悠路のフロントサイドスミスストール
©Yoshio Yoshida/X Games

ではそれら世界トップの選手たちに対して日本勢はどうだったのかというと、残念ながら3名全員が予選敗退という結果になってしまった。

それでも、それぞれがそれぞれのスタイルで攻める滑りを見せてくれた。櫻井壱世は1本目の序盤で激しい転倒を見せるも、細かく技をつなぐスタイルで十分に見せ場を作ったし、笹岡建介も本番ではメイクできなかったものの神社の屋根へ飛び移ってからのキックフリップインをきっちり仕留めている。そして今や日本のエースとなった永原悠路は、2本目に今回一番決めたかったというボウルから神社へのフロントサイドスミスストールを見事成功。

しかし全員フルメイクまでは至らず予選敗退となってしまった。

神社セクションを使わない方が点数が高い!?

軽々と神社セクションの上に乗るキーラン・ウリー。それでも今大会は6位に沈んでしまった
©Yoshio Yoshida/X Games

だがそういった中で興味深かったのが、笹岡のようにディープエンドのボウルから神社への飛び移ったり、永原のように掛けたりするトリックを使ったライダーの点数が思った以上に伸びなかったことだ。昨年大会2位のキーラン・ウリーと、3位のリアム・ペースも使っていたのだが、彼らはそれぞれ6位と7位に終わっている。

そこには今大会の神社が特設目玉セクションであるがゆえに、多くの選手が同じような使い方をしたから印象点として多少低い評価になってしまったのか、そこは定かではないが、そういったところにも毎回違うコースで競い合うスケートボードの奥深さが詰まっていたのでないかと思う。

究極のエンターテインメントがここに

日本にルーツを持つオウグスト・アキオ。今年の世界選手権で2位に輝き、一気にブレイク。
©Yoshio Yoshida/X Games

そして最後に小ネタをひとつ。

今回本番前にジャグリングをしていたこのスケーターが気になった方もいるのではないだろうか。

彼の名は日系ブラジル人のオウグスト・アキオ。今年の世界選手権に2位に輝き、突如シーンに現れた期待の新星だ。

今大会も表彰台まで後一歩の4位に輝いているのだが、人柄も本当にナイス。

X Gamesはコンテストでもあるが、それ以上にイベントでありお祭りだ。

彼のジャグリングしている姿も、そんなX Gamesのエンターテインメント性やスケートボードの自由な雰囲気を象徴するひとつのシーンといえるのかもしれない。

そんなX Gamesは、来年も日本で開催される予定となっている。

時期はまだ定かではないが、オリンピックイヤーでもある来年は更なる盛り上がりが期待される。

願わくば天気に振り回されることなく、世界最高峰の滑りを最高の環境で披露してもらいたいと、心から願っている。

RESULTS

©Yoshio Yoshida/X Games

女子パーク/

1.開心那(日本)83.33
2.ルビー・リリー(米国)73.66
3.藤井雪凛(日本)72.00
4.アリサ・トルー(日本/オーストラリア)70.00
5.ブライス・ウェットスタイン(米国)67.66
6.長谷川瑞穂(日本)65.00
7.手塚まみ(日本)62.00
8.イサドラ・パチェコ(ブラジル)58.00
9.グレース・マーホファー(米国)57.00
10.中村貴咲(日本)48.33
11.小川希花(日本)45.00
12.ジョーディン・バラット(米国)43.33
13.ミナ・ステス(米国)41.66
14.草木ひなの(日本)35.00
15.リジー・アーマント(フィンランド)31.00

男子パーク/

1.キーガン・パーマー(オーストラリア)83.66
2.コーリー・ジュノー(米国)79.66
3.ギャビン・ボッガー(米国)78.00
4.オウグスト・アキオ(ブラジル)77.66
5.アレックス・ソルジェンテ(米国)76.33
6.キーラン・ウリー(オーストラリア)75.66
7.リアム・ペース(米国)74.66
8.トレイ・ウッズ(米国)74.33
9.ハンパズ・ウィンバーグ(スウェーデン)73.00
10.オスカー・ローゼンバーグ(スウェーデン)64.00
11.櫻井壱世(日本)62.33
12.テイト・キャロウ(米国)60.33
13.笹岡建介(日本)53.66
14.トム・シャー(米国)53.66
15.永原悠路(日本)49.00
16.キーファー・ウィルソン(オーストラリア)41.33

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