世界最大級のBMXストリート種目の大会 「SIMPLE SESSION 23」が示すBMXストリートの魅力とは

2023.10.04
text by 畠山大樹 / photograph by Hikaru Funyu

世界最大のBMXストリートの大会「SIMPLE SESSION」が今年も2023年9月23日(土)~24日(日)の2日間に渡り、エストニアはタリンのプヤラ・ファクトリーにて開催され、日本から大霜優馬選手が出場。また女子カテゴリーである「SISTER SESSION」には大池水杜選手が出場し5位入賞を果たした。

「SIMPLE SESSION」は今年で23回目を迎えるBMXとスケートボードの世界最大級のストリートコンテスト。この大会はコンテスト形式で行われるメインコンテンツだけではなく、約1週間の期間中に様々なサブコンテンツが開催されており、毎日パーティー状態で進められるこのイベントは終始大盛り上がりで、それが世界中から多くのライダーが集まる理由となっている。

本大会は以前までパークとストリートの2種目が開催され、2020年には東京オリンピック日本代表の中村輪夢が本パーク種目で優勝したことから日本国内でも名の知られた世界大会の一つである。なお現在はストリート種目のみの開催であり、今年は3年ぶりに4回目の女子カテゴリーである「SISTER SESSION」も開催された。

なお今大会の模様はSIMPLE SESSION及びX GAMESの公式Youtubeチャンネル、そして同じく公式のTwitch Web Televisionでの視聴が可能となり、リアルタイムで世界中に配信された。

以下は、今大会男女決勝におけるTOP3のライダーと、今回出場した日本人選手たちのライディングからBMXストリート種目の魅力に迫る。

今年のSIMPLE SESSIONを制したのは、ボイド・ヒルダーが2連覇達成。スキルに裏付けられたスタイルが彼の強さか。

SIMPLE SESSION 決勝

男子カテゴリーである「SIMPLE SESSION」決勝は全58名の中から予選を勝ち上がった15名で争われた。この大会には過去の成績などは基本的に加味せずストリートシーンで活躍する世界中のBMXライダーに参加資格がある世界大会。今回もヨーロッパを中心にBMXストリートシーンを盛り上げる実力者が決勝に集まった。

ヒルダーのライディング
photograph by Hikaru Funyu

今回、そんなハイレベルな戦いを制し2連覇を達成したのはオーストラリアのボイド・ヒルダー。ヒルダーはラン1本目から、ディフェンディングチャンピオンとしての強さを見せる。クオーターなどの一般的なセクションはもちろんのこと、レールでのフットプラントや特大ウォールライドなど細部までスタイルが散りばめれたランの中で「360・フットプラント」「バースピン・ウォールライド・テールウィップ」そして「バレルロール」などをメイクする見事なパーフェクトライディングで90.33ptをマークし暫定1位へ。その後もそのスコアを守り切り2本目を迎える時点で優勝が確定。

ヒルダーのライディング
photograph by Hikaru Funyu

ウィニングランとなった2本目では、観客を沸かすために挑戦的なランを魅せる。会場の真ん中あたりに設置されたボックスジャンプの上にレールのついた特徴的なセクションでは、飛び出して180からのフロントペグを引っ掛けるような超高難度のトリックに挑戦するも失敗。その後は全体的に細かくスタイルの詰まったライディングで会場を沸かせてランを終えた。ラン後は他の選手も近寄り彼の優勝を称えた。今年の「X GAMES CHIBA 2023」のストリート種目でも優勝し、今年はストリート種目で無双している彼が今後もBMXストリート界のレジェンドであるギャレッド・レイノルズらに続きストリートシーンを盛り上げてくれるだろう。

レイのライディング
photograph by Hikaru Funyu

準優勝は前回出場した2019年大会に続き表彰台の座を手にしたマット・レイ。ラン1本目は「RADIOBIKECO」のブランドネームが書かれたクオーターの上にあるボックスから「270・バースピン」でライディングをスタートするも、観客席と同じ高さに設置されたボックスへ「バースピン to マニュアル」飛び乗るトリックでミスし、自分だけ観客席の方に落ちるハプニングが起きる。その影響から得点を伸ばしきれずスコアを73.66ptとした。

レイのライディング
photograph by Hikaru Funyu

ラン2本目では見事に修正し、1本目でミスした「バースピン to マニュアル」を見事メイクすると、レールでの「クルックド・グラインド」をメイクし、その後は低いクオーターで「540・バースピン」を加えると、立て続けにレールで「ダブルペグ・180アウト to 180・バースピン」をメイク。その後も「スーサイド・ノーハンド」「フレア」など細かくも爆発力のある様々なトリックを詰め込みと会場を沸かした。このランが88.00ptと評価され、順位を暫定2位までジャンプアップ。今大会を過去5回優勝しているトップライダーのドリュー・ベンザンソンも高く評価するレイが最終的に2位入賞という形となった。

ゴッドウィンのライディング
photograph by Hikaru Funyu

3位は左右のペグをうまく使い、レール上をスライドさせながら回転を加えたルーティンを得意とするジョーダン・ゴッドウィン。持ち前のペグの切り替えの器用さと安定した回転力のあるライディングで様々なトリックを連発。レール上でペダルとリアペグをグラインドさせたりグラインドから180で飛び出したりとレースを使ったトリックだけでも数えきれないバリエーションを魅せた。特にラン2本目では1本目より落ち着いたライディングで「540・フェイキー」やレールオーバーの「ペダルペググラインド to 360アウト」など完成度の高いランを披露した。

ゴッドウィンのライディング
photograph by Hikaru Funyu

優勝したヒルダーとはどちらかというと対照的なレール細かな高難度トリックのコンビネーションを得意とする彼だがそのスタイルとスキルの高さを見せつけた。なお今回はトップスコアを87.50ptとしてマット・レイに2位の座を譲ることとなったが、今年の「NORA CUP 2023」にて今年のBMXストリートライダー選ばれたその称号に恥じない見事なライディングだった。

SISTER SESSION 決勝

女子カテゴリーである「SISTER SESSION」の決勝は全8名で争われ、世界中から集まった実力者が若手とベテラン関係なく同じ土俵で今年の「SISTER SESSION」のチャンピオンの座を男子と同様に1分間のラン2本のうちのベストスコアで争い決定する形となった。

ヘンドリックのライディング
photograph by Hikaru Funyu

そんな中、今年「SISTER SESSION」タイトルを獲得したのは今大会最年少18歳のベサニー・ヘンドリック(アメリカ合衆国)。ヘンドリックの主戦場はパーク種目であるため全体的にトランジションを意識したジャンプやクオーターを大きく活用することを得意としているのが今回はレールでのペグを使ったグラインドトリックも披露した。1本目では序盤のクオーターでの「テールウィップ」で失敗するも、リップでの「バースピン・トランスファー」、クオーターでの「スミス・ストール」、そしてクオーターで「360・フェイキー」をメイクし見事にまとめて見せる。

ヘンドリックのライディング
photograph by Hikaru Funyu

2本目では「ダブルペグ・グラインド」で2度足が付くも最終的には「バースピン・トランスファー」をメイクするなど全体的にレベルの高いトリックを盛り込んだランが印象的だった。そんな彼女は1点差でマリノを上回り18歳にしてこの「SISTER SESSION」で優勝を収めた。きっとこの経験が今後パーク種目での活躍にも活かされてくることだろう。

マリノのライディング
photograph by Hikaru Funyu

準優勝は女子BMXフリースタイル界では言わずと知れたベテラントップライダーのアンジー・マリノ(アメリカ合衆国)。彼女はラン1本目からスピードを乗せて攻めのライディングを魅せる。一発目に大きな「ウォールライド」メイクし勢いをつけると、トランスファーを中心に見せるライディング。中盤からはクオーターのコーピングで「ダブルペグ・グラインド」をメイクしスタイルを変えるも「フィーブルグラインド」で転倒。うまくランをまとめられずいた。

ランをさらにインプルーブするためにトライした2本目では序盤は1本目のランの完成度を高めたライディングを見せる。中盤では1本目同様にボックスのレッジ部分でグラインドに失敗してしまうも再トライで見事「スミスグラインド」をメイク。ラン後にはビックレールに挑戦する時間も設けられ、2度目の挑戦で「バニーホッブtoダブルペググラインド」をメイクして会場を沸かせた。しかし彼女のベストスコアは61.33ptで一歩トップに及ばず2位入賞を果たした。

ヴァレンティナのライディング
photograph by Hikaru Funyu

3位は、以前背中や脚に痛みや怪我を負っていたことから、復帰後第1戦として今回を迎えたアナヒ・ヴァレンティナ (エクアドル)。1本目では見事な「フィーブルグラインド」をメイクするも「クルックドグラインド」で大きく転倒。そのランを塗り替えるために迎えた2本目では序盤「フィーブルグラインド」の失敗はあったが、1本目にメイクできなかった「クルックドグラインド」を見事メイク。その後はセクションを大きく使い様々なトリックを組み込みで1本目の悔しさを晴らすランとなった。それが評価されてか54.00ptをベストスコアとし3位で今大会を終えた。

注目するは日本人選手が見せた新たな一面

決勝進出した大池の姿
photograph by Hikaru Funyu

大霜優馬:
日本を代表するBMXストリートライダーの一人で、レーシング種目やパーク種目を背景に持つ彼は今回初めて「SIMPLE SESSION」に出場。この2種目のスキルを兼ね備える彼の強みはスピードとバイクコントロールである。今回もそれをフルに活かした速く距離のある「ウォールライド」や「リップでの飛び切り180」。さらに高く難しい位置に設置されたセクションに向かってトライした「フファニュー」や「ウォールタップ」で観客を大きく沸かした。日本ではストリート関連のイベントにしか参加しない彼だが、是非この機会に今後彼がどのように日本のBMXストリート界を盛り上げていくのかも注目してもらいたい。

大池水杜:
怪我などの様々な要因から国内大会に出場していなかった彼女がここで登場。まさかストリート種目の大会に出るとは思っていなかった方も多いのではないだろうか。自分の人生で大きな分岐点となったのがこの大会と語る彼女は、改めて自分のBMXキャリアとして次の挑戦をするためにこの大会を選んだのかもしれない。

そんな大池は1本目では普段国内大会で見ることができる「ターンダウン」や「テールウィップをはじめ、「ダブルペグ・グラインド」、「スミスストール」、「ウォールライド」などのストリートのトリックも披露し新たな一面を見せる。2本目では観客を盛り上げるため時間をかけてトリックのコンボに挑戦。それはボックスのレッジ部分で「フィーブルグラインド」そこからレッジに飛び乗り「180アウト」というコンビネーション。今回は残念ながらメイクできなかったもののそこには終始笑顔の大池がおり、今後の活動に向けて色々な刺激や価値観の変化があったように見受けられた。

最後に

優勝したヒルダー
photograph by Hikaru Funyu

今回、世界最大級のBMXストリートの大会である「SIMPLE SESSION」を通じて感じたことは、ストリート種目は他の種目以上にスタイルやカルチャーが重視されているということだ。実際に大会のプログラムにアフターパーティーが含まれていたりと、競技というよりカルチャーの側面が大きいこのストリート種目。比較対象としてスケートボードストリート種目があるがまだまだ本種目はスケートボードに比べると知名度は低い。

しかし、近年は国内で「X GAMES CHIBA」を筆頭に大小含めストリート種目の大会は開催されはじめており、今大会の入賞者を含め世界で活躍している外国人選手たちが日本に訪れる機会も増えている。そんなこれから注目されるであろう種目に今回「SIMPLE SESSION」という世界大会に2人の日本人選手が出たことはさらにこの業界を加速させるきっかけであると言えるだろう。

各BMXフリースタイル種目の中でもスタイルやカルチャーの面を特に重要視しているストリート種目はBMXの本質的な魅力を伝えていると思うので今後も更に国内外で発展していくことを期待したい。

大会結果

photograph by Hikaru Funyu

<男子>
優勝: ボイド・ヒルダー (オーストラリア) 90.33pt
準優勝: マット・レイ (アメリカ合衆国) 88.00pt
第3位: ジョーダン・ゴッドウィン (イギリス) 87.50pt
第4位: コーレッジ・アダムス (スペイン) 85.00pt
第5位: マーレー・ロウサー (南アフリカ) 84.33pt
第6位: リード・スターク (アメリカ合衆国) 82.66pt

photograph by Hikaru Funyu

<女子>
優勝: ベサニー・ヘドリックス (アメリカ合衆国) 62.33pt
準優勝: アンジー・マリノ (アメリカ合衆国) 61.33pt
第3位: アナヒ・ヴァレンティナ (エクアドル) 54.00pt
第4位: リンダ・グラブナー (オーストラリア) 52.33pt
第5位: 大池 水杜 / 所属:ビザビ (日本) 48.00pt
第6位: ジーナ・ぺトレーラ (アメリカ合衆国) 44.66pt

大会概要

⼤会名称 :「SIMPLE SESSION 23」
開催期間:2023年9月21日(木)~26日(月) – 6日間(コンテストは内2日間) –
※詳細は公式HPをご覧ください。
大会会場:プヤラ・ファクトリー/エストニア・タリン

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