ナッシング・イズ・インポッシブル! 片脚のBMXライダー!

2019.03.26
FINEPLAY編集部
アンデスの小さな町に住むジュリアン © FRED MURRAY / Red Bull Media House

「息子を本当に誇りに思うよ」 − 自分の横に座るBMXライダー、ジュリアン・モリーナを優しく見守りながら彼の父親ルーベン・モリーナが言った言葉だ。
ルーベンは、自分が修理したジュリアンのシューズのソールからはみ出しているボンドを取り除くと、愛息ジュリアンのストーリーを話し始めた。
ジュリアンは幼い頃、スケートボードに乗っている時にバスとの交通事故に遭い、左足に重傷を負った。その後、病院から壊疽を引き起こしていると診断されたジュリアンはその脚を付け根から切断し、義足生活を送ることになったのだ。
しかし、片脚を失ったジュリアンはストリートスポーツから離れることはなかった。上の映像をチェックしてBMXライダーとして活躍する彼の姿をチェックしたあと、以下のストーリーを読み進めてもらいたい。
Julián Molina - Crutch Free

ライディングの準備をするジュリアン © FRED MURRAY / Red Bull Media House

アンデス生まれ

ジュリアンと彼の家族に出会う数日前、僕たちはコロンビア・アンデス地方の山奥に位置するアンティオキア県の小さな町へ辿り着いた。
僕たちはその町の中央広場で、友人たちと言葉を交わしリラックスしているジュリアンと出会った。中央広場周辺の通りは彼同様にリラックスしたムードだったが、コーヒー製造業に従事するポンチョやカウボーイハットに身を包んだ地元の労働者たちが行き交っていて、独特の忙しなさもあった。
しかし、タータンチェックのパンツに着古したパンクバンドのTシャツを合わせ、満面の笑顔を浮かべていたジュリアンは、その中でもすぐに見分けがつく存在感を放っていた。

アンデスの小さな町に住むジュリアン © FRED MURRAY / Red Bull Media House

BMX愛

僕たちと出会ってすぐにライディングをした方が良いのかどうか訊ねてきたジュリアンがBMXを愛していることは明らかだった。そこで僕たちは豆、卵、トルティーヤで簡単に食事を済ませると、最初のスポットへ向かった。とはいえ、そこはスポットと呼べるようなものではなかった。その場所は、上部がわずかに傾いているだけで、その上は金網になっている低い壁があるだけだった。

どんなスポットでもクリエイティブなライディングを披露 © FRED MURRAY / Red Bull Media House

パワー&スタイル

僕たちはソーシャルメディア経由で彼のライディングを事前にチェックしていたが、18歳のジュリアンに秘められたパワーとスタイルは、実際に会わなければ絶対に理解できない高いレベルにある。
ジュリアンは五体満足なライダーでも苦労するような勢いのあるライディングを簡単に披露できる。バーホップ、フルキャブ、180°など、ジュリアンのフラットランド系トリックは全て素晴らしかったが、彼がランプやウォールがほとんど存在しない小さな町で育ったことを考えれば、それは当然のことだった。

ジュリアンのライディングにはカラフルな町並みが似合う © FRED MURRAY / Red Bull Media House

家族の絆

モリーナファミリーの絆は強い。町外れの集合住宅に住む両親、2人の姉、そしてジュリアンは、昼になれば全員が家で一緒に食事をする。
父親のルーベンは靴の修理が仕事だが、家に帰ってからも仕事が続く時が多い。なぜなら、ジュリアンはブレーキなしのバイクでライディングしているため、シューズの靴底がすぐに傷んでしまうからだ。しかし、お互いを思いやる家族の愛に限界はない。モリーナファミリーもお互いに無償の愛を注いでいる。

愛息のシューズを修理する父親ルーベン © FRED MURRAY / Red Bull Media House

ローカルヒーロー

ジュリアンの存在を町の誰もが知っていることは到着後すぐに理解できた。僕たちがどこへ向かっても、人々は笑顔で彼に挨拶をした。その中には彼が目の前でトリックをメイクするのを楽しみにしている人もいた。
町から伸びているある急坂で、僕たちはジュリアンと同じく片脚が義足の彼の友人に出会ったが、ライディングを見ている彼の表情も、ジュリアンへの敬意に溢れていた。

ダートパークへ

ジュリアンにはBMXライダーに共通する特長がひとつある。それは「旅をして新しい人や新しいスポットに出会いたい」という熱い気持ちだ。ジュリアンは地元から車で4時間の距離にある、メデジン近郊のダートパークの存在を教えてくれた。当然僕たちは彼と一緒に車に飛び乗り、そのパークへ向かうことにした。

地元から4時間の距離にあるパーク © FRED MURRAY / Red Bull Media House

ノーハンダーを再びメイク! © FRED MURRAY / Red Bull Media House

バックフリップ

パークへ向かう車内で、ジュリアンは、頻繁に「バックフリップへのチャレンジ」を口にしていた。その時の彼は、まるでその言葉を繰り返し言うようにプログラミングされているかのように思えるほどだった。
よって、巨大なダート製スケートパークに到着後、すぐにパーク全体をライディングしてバックフリップの可能性を追求し始めたジュリアンを僕たちが止めることはなかった。
結局、そのパークで1日を過ごしたジュリアンが休憩したのは20分のランチ休憩だけだった。ジュリアンがその才能を制限なく発揮している姿から僕たちは大きなインスピレーションを得ることができた。そして、言うまでもなく、彼はバックフリップを易々とメイクした。

バックフリップ! © FRED MURRAY / Red Bull Media House

「体の一部を失ったなんて思っていない」

片脚を失う怪我は、メンタルに大きな負担がかかる怪我のひとつで、義足生活を強いられている人の中には、自分の中に疎外感や孤独感、怒りなどを感じてしまう人も多い。
しかし、ジュリアンは自分が置かれている状況を全く異なる視点から捉えている。
「僕は体の一部を失ったなんて思っていない。BMXに乗り始めた時も、バランスを失うことや転倒の心配をしたことはなかったし、自分にはできないなんて一度も思ったことはなかった。自然にライディングしていただけなんだ」
BMXを華麗に乗りこなすジュリアンの姿を眺める彼と同世代の少年たちの中には、そのテクニックに羨望の眼差しを送っている者さえいた。

ナッシング・イズ・インポッシブル © FRED MURRAY / Red Bull Media House

ネバー・ギブアップ

ジュリアンはライディングを求める気持ちはもちろん、アドベンチャーを求める気持ちも強い。今回の撮影中も、良く泳いでいるという近所の川へ僕たちを連れて行ってくれた。
コーヒー色に染まった川の流れもジュリアンには敵わない。ジュリアンは川で何回もダイブやフロントフリップを披露してくれた。
人とは違う状況に置かれながらも、ジュリアンの目は前だけを見つめている。そして、その視線の先へ彼を向かわせているのがBMXだ。父親ルーベンの次の言葉が彼の全てを語っている。「憤りは人間の魂を劣化させる」 − 勇敢なジュリアンがダークサイドに堕ちることはない。
Written by Fred Murray / Red Bull Contents
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