岡山大学教育学部附属小学校にて「ブレイキンバトル」を素材とした体育授業を公開!

2025.03.04
提供:岡山県ブレイキンカルチャー協会理事・山本友志(Bboy Snufkin)

先日、ブレイキンの全日本選手権が東京都で行われていた2月15日に、この競技を学校体育の表現運動の素材として活用する試みを続けていた岡山県で画期的な成果報告があった。

2023年より一般社団法人岡山県ブレイキンカルチャー協会(岡山市北区北長瀬本町、代表理事:仲野伸行)と連携し、ブレイキンを素材にした指導法開発に取り組んできた岡山大学教育学部附属小学校体育科の松本拓也教諭が、この度、教員の指導のみで「児童生徒が主体的にブレイキンに取り組み、仲間と協力してバトルを楽しむ」授業を構築。同校の教育研究会の中で公開授業として実施され、全国から参加した教育関係者約130人に事例として提案された。

ブレイキンの公開授業を行ったのは4年生の1クラス。この日までに6時間の体育授業でトップロックなどの基本の動きやダンスバトルの流れに触れた子どもたちは、胸元に「ヒーロー」や「ヨッシー」といったダンサーネームを貼り、まずはソロバトルでウォーミングアップ。トップロックや一歩、CCなどをベースにしながら、中にはヒップスピンでくるくると何周も回る子や、体の柔らかさを生かして新体操のようなムーブをする子もいるなど、それぞれに個別のスタイルがある姿が目を引いた。

フロアに流れる曲は子どもたちに人気の 「Bling-Bang-Bang-Born」(Creepy Nuts)。サビの部分ではバトルを中断し、皆で同じ振り付けを踊って盛り上がるシーンもあり、クラス全体の一体感が伝わってきた。

本日のメインは3人1チームに分かれて行う「3 VS 3」のバトル。児童からの提案で設けられた5分間の準備タイムでは、各チームともネタを確認したり、対戦相手の出方にどう対応するか話し合ったりと、それぞれに作戦を練っていた。

バトルは3チームが1グループとなり、2チームが3ラウンドのバトルをする間、もう1チームはジャッジを務める仕組み。ソロバトルでも見られた個々のスタイルがぶつかり合うだけでなく、各チームとも2人や3人で行うルーティーンも持ちネタとしており、仲間を跳び箱のように跳んだり股の間をスライディングしたりと趣向を凝らしたムーブが次々と飛び出す。「ルーティーンにはルーティーンで返す」といったブレイキンらしい駆け引きも見られた。

バトルを終えると、両チームとも手でタッチを交わすブレイキンカルチャーの挨拶で健闘をたたえ合う。ジャッジは「スピードと場所の変化」「ノリノリ」といった、これまでに皆で作ったという「ジャッジのものさし」を手がかりに勝敗を付け、「ここが良かった」というポイントを互いに伝え合った。

その中でも印象的だったのは、ジャッジ役が手にしていたうちわ。ラウンド数を示す数字や「いいね」「サイコー」などの文字が書かれており、 バトルを盛り上げるアイテムだ。

松本教諭の選曲もブレイキンのカルチャーでよく聞く楽曲だけでなく、一般になじみがありリズムも取りやすいアニソンやJ-POPが随所に織り交ぜられ、子どもたちがしっかりと曲を聞きリズムを把握して楽しく踊れるようにする環境づくりが感じられた。何より、体育の授業の中で子どもたちが個々やチームごとに個性豊かな動きやネタを考案し、積極的に踊りバトルを楽しむという光景が実現されたことに驚かされた。

授業後にあった教育関係者によるディスカッションの場では、松本教諭が表現運動の素材にブレイキンを活用したことについて、 「立って踊るだけでなく床に手をつく、回転するといった動きの幅広さがあり、子どもたちがさまざまに組み合わせて多様でオリジナルな動きをつくるきっかけにしやすい。多様性を認め合う、しっかりあいさつするというカルチャーにも教育的価値がある」と説明した。

その上で指導について「難しい技を追い求めるのではなく、リズムダンスの目標であるリズムに乗っておへその位置に変化を付けて動きをすることに意識を置く」「リズムダンスは評価に困るという声も聞かれるが、子どもたちがジャッジ役を通じて『その場だけでなく色んな所で踊った方が良い』など、動きのよさの価値基準を自分たちのジャッジ体験を根拠に集約していくことで、運動経験にとらわれることなく、学校体育における表現運動の動きのものさしができていくのでは」と語った。

参加した他県の教諭からは「踊るのが苦手、恥ずかしい子にどう対応すべきか」「バトル中に止まってしまう子がいなかったのは印象的」といった質問や意見があった。児童がジャッジもする点に関しては賛否があり、「ジャッジ役が曲の変化に合わせて足踏みしながらリズムを取っていたので感心したが、結局は側転などの派手に見える技にジャッジが寄りがちで、せっかく作った動きのものさしが生かされていない場面もあった」「人間関係を考えると子どもにジャッジはさせないほうが良いのでは」などの声が聞かれた。

ダンスは2012年から中学校で男女とも必修化されたが、小学校はそれ以前より「表現運動」として組み込まれ、学習指導要領では「友達と様々な動きを見つけて踊る」「ひと流れの動きで即興的に踊ることが大切」と明記している。しかし、こうした要素はダンス経験がない大半の教員にとってハードルが高く、実際の授業では運動会の表現種目のように「あらかじめ決められた曲と振り付けで画一的に踊る」形式で終わることも少なくないという。

この課題を解決する手段として松本教諭は、2024年パリ五輪で採用され注目を集めていたブレイキンに着目した。DJが流す即興の音楽に合わせ、オリジナルの技を組み合わせたダンスをぶつけ合うスタイルに加え、互いにリスペクトして高め合う多様性にも価値を感じ、協会に指導法開発への協力を打診。

2023年は5年生を対象に、岡山のBBOYやDJを講師として招いた全6回の授業を行い、「児童が自分たちで考えた動きや技の組み合わせで踊り、バトルをする」「キレや独創性といった評価の観点を踏まえ、 勝敗もジャッジ役の児童が判断する」実践例を作り上げた。

松本教諭はその後も、こうしたリズムダンスの授業がダンサーによる協力や教員のダンス経験の有無を問うことなく学校現場で広く実践できるよう、一般化に向けた改良を検討。
今回の公開授業はブレイキンのカルチャーをリスペクトした上で、学習指導要領に基づいた指導案にそのカルチャーや要素を織り込み、また子どもたちが取り組みやすい形にうまく教材化し、創造性や積極性、 仲間と協力して作り上げる姿を引き出そうとしていたように感じた。

ブレイキンは五輪を契機にメディアへの露出が拡大し、一般の認知度も飛躍的に高まった。ダンサーによる学校訪問も各地で行われるようになったが、こうした機会を全ての学校で作ることは不可能であり、また時間の限られた交流では「オリジナルの技を考えて自分らしく踊り、バトルをする」といったレベルまで実践してもらうことは難しい。

このたび考案されたブレイキンを素材にした表現運動の指導法が広く普及することにより、ブレイキンならではの楽しさをより多くの子どもたちに感じてもらえること、また単なるダンススポ ーツにとどまらないブレイキンの魅力や価値の発信につながればと願う。

協会概要

名称:一般社団法人岡山県ブレイキンカルチャー協会
設立日: 2022年4月
本部:岡山県岡山市北区北長瀬本町 16-2-2
代表理事:仲野伸行(RABI=日本ダンススポーツ連盟ブレイクダンス部岡山県支部長)

当協会はブレイキンの体験会の開催や練習場所の整備といった活動を通じて岡山県内での普及発展を進めるととともに、これまでクラブやアリーナといったクローズドな場で行われてきたイベントをパブリックな場で開催することにより、県内外からの誘客を地域の賑わい創出につなげ、スポーツを通じた地域活性化に貢献して参ります。また各種教育機関との連携を通じて、ブレイキンを活用した青少年の健全育成や教育課題の解決にも務めます。

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