Skateboarding Unveiled VOL.4「日本のストリートスケートボードはどうなっていく!?現状から未来を考察する」

2023.07.28
日本でも街中のスケボーを許可するしたイベントが開催されるようになってきた。その真意とは?
text and photography / Yoshio Yoshida

前回、前々回と「ストリート」をテーマに、スケートボードの競技ではない部分、つまりカルチャーの部分にフォーカスをあてて書かせていただいた。それは「街」をプレイグランドとしたセルフィズムの手段であったり、アート活動であることを説明したものだったのだが、読む人によっては「街中のスケボー」を題材にしたことで、表現があまりにも攻撃的に映ったのか、少なからず批判的な声も届いた。

だが日本の現状を見れば、それはある程度予想できていたことでもあった。

そこで、改めて都市とスケートボードの関わりについて考えてもらうことのできる一例として、ストリートスケートボードとの共存を選んだ都市、フランスのボルドーの実例を紹介させてもらったわけだ。

ストリートとスケートパークのバランス

画像:カンファレンス「スケートボードでまちを変える-Welcome Skaturbanism-」より。

そういった意味では、このストリートとスケートボードパークのバランスを表した相関図は、置かれた状況や人々の認識の日本との違いをとてもうまく表していると思う。

ボルドーではスケートボーダーと行政、一般市民それぞれが互いにコミュニケーションを取り、公共の場をどうシェアしていくのかという方向に舵を切り、新たな街づくりを進めているのに対し、日本は苦情対応のために禁止看板を立てたり、ディフェンシブアーキテクチャー(※1)の取り付けによって排除していくという対極の対策をとっているのが現状だ。

※1 ある場所や建物の所有者が、自分が望まない使い方をする人を排除するために作りだした構造。ホームレスが寝られないようにするため突起物が取り付けられたベンチなどがそれに当たり、縁石に取り付けられたスケートストッパーなども該当する

時代を象徴する場所

今や都市部の多くの場所にスケートボード禁止の看板が立つようになった。

ではそんな日本の現状とはどんなものなのだろうか。

これから現代の象徴といえるような場所を紹介してしていきたい。もちろんこういった対策をとるのは困っている方がいるからであり、そこを真っ向から否定し、スケートボードをやらせてほしいというつもりは全くないのだが、本来あるべき街の姿、つまりこのようになる前の何も注意看板がなかった頃の光景を思い浮かべると、真剣に考えるべき問題ではないかと思う。

まずはこの階段から。

禁煙看板もセットになってはいるが、ここまでいくつものスケートボード禁止の看板を立てている場所は珍しい。ただ、さすがにここまでいくと、都市景観という意味では美しさが損なわれてしまうと感じる人も、中にはいるのではないだろうか。

以前までこの場所は小さな禁止看板がひとつ立っていただけなので、東京五輪で話題になると共に、マスメディアの報道などから「スケーターは街中を荒らす存在」という認知ばかりが先に進んでしまったため、防御本能として追加されたのではないか。という憶測が働いたとしてもおかしくないといえるほど、はっきりとした意思表示をしている。

対して、この写真はどうだろうか。

とある風光明媚な海岸沿いにある道路なのだが、無造作に砂や花壇、植え込みが設置されたことで、全く違う景色に姿を変えてしまったのだ。

無造作に設置された花壇や砂、植え込みなど。この場所も以前までこういったものは一切なかった。

今のようになる前まで、この場所は多くの愛好者が集まるコミュニティの形成場所になっており、さらにカルチャー醸成の場にもなっていた。

この地に自然と集まった人々で結成されたクルーの映像作品は全国的な話題を呼び、当時のアンダーグラウンド文化の中で一時代を築いた、愛好者にとってはとても大切な場所でもあるのだ。

興味がない人には信じられないのかもしれないが、全国、いや世界からこの地へスケートボードをしにやってくる人もいたほど、影響力は大きかった。

そのためこの地で育ったスケートボーダーからは「僕らはこの場所が好きだし、純粋に楽しんでいるだけなのに、こうなってしまったことが辛い。悪い人間でもないのに」といった声も聞こえてきている。

多様性社会が生んだ弊害!?

堂々と掲示された球技禁止の看板。都市部の公園ではあらゆるところで見られるが、楽しく遊んでいる子どもの姿を見ると、本当に正しい対策なのか疑問に思わざるをえない。

こういった社会の対応と愛好者の相反する声を聞くと、「なぜこうなってしまったのだろう」と思うのだが、根本を探ると、やはり愛好者と世間の「コミュニケーション不足」が原因である気がしてならない。 五輪以前までスケートボードは、特にマイノリティな存在であったため、それまでに歩んできた道が、愛好者と社会で水と油のような関係だったのだろう。双方が歩み寄り、話し合う機会のないまま、迷惑だと感じた人から管理者側へ苦情の連絡が入り、その対応に追われた結果ではないだろうか。

ただ、今やこのような禁止看板はスケートボードだけに限らず、ボール遊び禁止、大声禁止、飲食禁止などなど、都市部の公園では、禁止看板がないところを探すほうが難しいだろう。

そしてこういった禁止看板の多さは、地域のコミュニケーション不足を示すバロメーターになっているのだという。重要なのは住民同士の対話による合意形成。最近ではもっと住民を巻き込んだ公園運営を考えては!? という声も上がり始めている。

「カルチャー」を伝える動き

©Rakuten Sports
5月に開催された「UP RISING TOKYO」。このふたつのセクションは実在するスポットを再現したものだった。
©Rakuten Sports

そのような事情も相まって、スケートボードの世界でもスポーツだけでなはなく、「カルチャー」の側面を理解してもらう動きが多方面で始まっている。

そのひとつの例として、5月に開催された「UP RISING TOKYO」という世界大会を見てみよう。
このイベントは、直前まで「スポーツ」と「カルチャー」のふたつをどうクリエイティブしていくかが最も大きな焦点となっていたのだが、そこで出した答えのひとつが「実在するストリートスポットを再現」することだった。

©Rakuten Sports
©Rakuten Sports

それがこれらのセクション(障害物)になるのだが、実はLAにあるハリウッドハイスクールの手すりと、SFのクリッパー通りにあるジェームス・リック・ミドルスクールにあるハバ(階段脇の下った縁石)を再現したものなのだ。

そしてこの3段+3段の階段は新宿某所に実在しているものをオマージュしている。

もちろんこれらは、愛好者からすれば多くの人が知る有名な場所。

「あそこで誰々が何々の技を成功させた」その技の難易度が高ければ高いほど多くの人の話題となり、同時に成功させた人は尊敬を集めるようになる。すると今度はそれに触発された別の人物が現地に赴き、さらにその上をいく技を成功させようとチャレンジする。そうやってストリート特有の文化は育まれてきた。

こういったところで、社会的には競技会に括られるコンテストの中にも、スケートボード特有の「カルチャー」要素を詰めこんでいるのだ。

「UP RISING TOKYO」をオーガナイズしていたMILLENNIAL EVENTSのハスさん。練習日に彼が多くのメディアにカルチャーとしてのスケートボードを伝えていた
©Rakuten Sports

ただ、それらは事前に説明がなければ、一般で気付く人は皆無だろう。

だからこそ運営側は、練習日に多くのメディアを招き、スケートボードのカルチャーや本質について説明する時間を設けていた。

実際に記者会見では、選手達もことあるごとに実在するスポットを模したセクションで滑れること喜びを語っていたが、この部分をピックアップしたメディアは、自分の知る限りひとつもなかった。

やはりまだまだ双方が理解し合うのには時間がかかるのだろう。ただこういった動きはストリートへの規制が強まれば強まるほど、盛んになっていくのではないかと思う。

日本で街中のスケボーを許可した実例

現にそういった動きに合わせ、実際のストリートスポットを期間限定で開放するという、さらに一歩進んだ動きも始まっているのだ。

その最たる例がNike社と、ZOZO社による「BLOCK PARTY」というイベントだ。

これは幕張にあるワールドビジネスガーデンという敷地を解放したものだったのだが、”熱気ムンムン”という言葉がピタリと当てはまるほど盛大な盛り上がりとなった。 次から次へとなだれ込むようにトライをかさねるスケートボーダー。その様子をスマホ片手に興奮しながら見守るオーディエンス。現場の一体感は写真の通りだ。

会場内はとにかく多くの人でごった返していた。現場の熱気が写真からも伝わってくる。

これは昨年に続き開催されたX Games Chibaに合わせて行われたものなのだが、実際に大会の方に出場していた選手も飛び入りで参加していたので、それだけでもどういった空気感であったのかがお分かりいただけるのではないかと思う。観客席と滑走スペースが区切られた競技会では、決して感じるのことのできない一体感がそこにはあったし、こういったところこそ、スケートボード元来の姿といっても差し支えないだろう。

そのため一般の方からしたら信じられないかもしれないが、競技者として第一線で活躍している人にとっても、ストリートは大きな自己表現の場になっているのだ。

X Games Chiba 2023の男子パークで4位入賞となったオウグスト・アキオ選手。彼も会場の盛り上がりから飛び入り参加したひとり。

新しい文化の”空間”の必要性

このように街中を笑顔で滑走する若者の姿は、今後も迷惑と捉えられてしまうのだろうか!?

そしてストリートでのスケートボードには大きな話題性があるのなら、ついこんなことも想像してしまう。

「いっそのこと許可の方向に舵を切ったら、街おこしに繋がるのではないか」

もし仮にそうなったとしても、割れ窓理論というものがあるように、そこに便乗して関係ないところでも見境なく滑走したり等、度を超えた行動をする人が出てくる可能性も十分にあるし、治安の面を不安視する方もいて当然だと思う。一筋縄ではいかないことは百も承知だ。

だが現在の日本は、東京五輪におけるメダルラッシュが物語るように、世界的に見て最もスケートボードがホットな国のひとつでもある。

それなのに本質であるはずのストリートが、世界の流れと逆行した禁止政策ばかりに傾倒してしまっているとなると、この地で育つスケートボーダーからは創造性が失われて、それがシーンの衰退へと繋がってしまわないだろうか。

現に最近のコンテストにおけるセクション構成の傾向のひとつに、セオリー通りではない、ストリートにあるような癖のあるセクションをあえて織り込んでいる節があり、そこをいかに乗りこなすかが高得点に繋がるといった流れも見えてきている。

そんなところからも、スケートボードは街と密接な関係にあるアクティビティであることがわかるのだ。

とはいえ、これからもスケートボードはオリンピック種目として採用され続けていくことが決まっているので、それであれば、愛好者と社会がいかにして街をシェアしていくのかを話し合い、日本なりの解決策を見出していくことの方が、禁止の一辺倒という現在の対策よりも、よっぽど最適解になるではないかと思うところもあるのだが、人々の目にはどう映るのだろうか。

では最後にこんな言葉で、3回にわたってお届けしてきたストリートスケートのコラムを締めくくりたいと思う。

画像:YouTube『 One Week of CPH OPEN 』Thrasherマガジンより

『文化を切り離してしまうと社会は貧しくなってしまう。
特に子供たちは夢を見ることを恐れてしまう。
より良い教育を受け、より良い市民になることが全てになってしまう。
それでどうやって夢を見ればいいの?
若い世代は自分の人生を理解するために、アンダーグラウンドを含めた文化の”空間”が必要だ』

これは「Copenhagen Open(コペンハーゲンオープン)」と呼ばれる、街を使った世界最大のスケートボードボードの祭典から、主宰の文化レジャー市長のコメントを切り取ったものだ。

ではここであらためて社会に問いかけてみたい。

「これから日本の街はどうなっていくと思いますか?」 その行く末は、我々のこれからの行動にかかっていることは間違いない。

 

吉田佳央 / Yoshio Yoshida@yoshio_y_
1982年生まれ。静岡県焼津市出身。
高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。
大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。
2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本の監修や講座講師等も務める。
ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている

執筆者について
FINEPLAY編集部
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