スケーターが雪上に進出して誕生したフリースタイルスノーボーディングが世界中を席巻 Vol.2

2022.02.25
text by Daisuke Nogami / photo by Dano Pendygrasse

当コラムのVol.1 「 スノーボードで”競う”のではなく”表現”することに価値を見出した伝説の男 | FINEPLAY 」で綴っているように、クレイグ・ケリーがバックカントリーを開拓する一方、彼のホームである米ワシントン州マウントベイカーやシアトルを中心としたアメリカ西海岸のスケーターたちが雪上に赴くようになった。SNURFER(スナーファー: SNOWとSURFERの複合語)という雪上玩具がスノーボードの起源とされているように、サーフィンがバックグラウンドにありながらも、唯一、雪上でのスケートボードを創造したのがSIMS創業者のトム・シムスだった。

1983年に世界初となるハーフパイプの国際大会を開催するなど、スケートボーダーの視点からスノーボードの発展に寄与し、フリースタイルシーンを牽引。だからこそ、SIMSに所属するスノーボーダーたちの多くはスケーターでもあった。さらに言えば、クレイグの才能を発掘したのはBURTON創業者のジェイク・バートンではなく、トムである。

彼が束ねるSIMSチームの一員だったノア・サラスネックは、一時代を築き上げる原動力となったと言って過言ではない。カリフォルニア州で生まれ育ったノアは、6歳の頃からスケートボードを始め、自身のシグネチャーモデルをリリースするほどの腕前を誇っていた。15歳の頃には全米でその名が知れ渡るスケーターにまで成長を遂げ、18歳でSIMSの先輩格にあたるテリー・キッドウェルの影響を受けてスノーボーダーとしてのキャリアをスタートさせた。

1990年、ノアのスケートボードでのライディングを撮影していたマイク・マッケンタイアは、その後、スノーボード界のトップに君臨するフィルムプロダクション「MACK DAWG PRODUCTIONS」の創始者なのだが、当時はスケートボード専門だった。ノアからの依頼で初めて雪上でカメラを構え、自身もプロスノーボーダーだったデイブ・シオーネがメガホンを握る「FALL LINE FILMS」とタッグを組み、共同制作した『NEW KIDS ON THE TWOCK』でスケートライクなスノーボーディングがベールを脱ぐことになる。

ゲレンデ内のログに当て込み、降雪機をオーリーで飛び越え、前足をボーンアウト(伸ばすこと。現在ではポークと呼ばれる)する姿は、これまでのスノーボードの概念を覆し、新たに始まる“ニュースクール”時代の幕開けを意味していた。

私事で恐縮だが、筆者がスノーボードを始めてから2シーズン目にあたる1993年。ひとつの映像作品と出会ったことで人生が大きく変わることになる。現在、スノーボード業界を担う40~50代のベテランスノーボーダーたちは、このビデオから多大なる影響を受けたに違いない。先述したFALL LINE FILMSが手掛けた不朽の名作『ROADKILL』だ。

1976年式のキャデラックリムジンに、ブライアン・イグチやテリエ・ハーカンセン、マイク・ランケット、ジョン・カーディエルといった現在のレジェンドライダーたちが乗り込んだ。彼らはクレイグのお膝元であるマウントベイカー、ユタ州スノーバード、コロラド州ブリッケンリッジ、カリフォルニア州ベア・マウンテンなどアメリカ有数のスノーエリアを目指してロードトリップを敢行。後に一世を風靡することになるジェイミー・リンや、彼らの先輩格にあたるショーン・パーマーなど、多くのスノーボーダーたちとセッションに明け暮れながらストーリーは展開していく。

また、プロスケーターでもあったジョンのスケートシーンが散りばめられ、ブレイクダンスやウェイクボードのシーンも収録されていた。ストリートのニオイがふんだんに漂う、ライフスタイルが強調された作風だった。

現在のプロスノーボーダーたちはバックカントリーを中心に活動している。命を落としかねない状況や過酷な雪山の知識が、少なからず観ている側にも求められるわけだが、当時は大半のフッテージがゲレンデ内でのライディングだった。雪上ながらもストリートファッションを身にまとい、さならがスケートボードのように滑走する彼らの姿に、筆者を含めた多くの若者たちがスノーボードの虜になった。等身大のフィールドで繰り広げられるストーリーに感情移入しながら、多感だった団塊ジュニア世代に該当するボリュームゾーンが強すぎる刺激を受けた。よって、スノーボードが爆発的に流行したのだ。

これは世界同時多発的に起こった話であり、ここ日本でも10万円近くするボードが飛ぶように売れた。それを証明する事実として、東京・原宿の明治通りにあったスノーボードショップでは、真夏に開催されていた展示即売会に数百メートルにも及ぶ長蛇の列ができ、街中にスノーボードを抱えている人があふれた。スノーボードブランドからリリースされるスニーカーがファッション誌を飾り完売するなど、スノーボードが産業として確立し、市民権を得た時代である。

古くから存在するサーフィンを起点とし、波がないときの遊びとしてスケートボードが生まれ、双方から着想を得てスノーボードが誕生したわけだが、メジャースポーツとして日の目を見る順番は大きく異ることになる。2021年に開催された東京五輪からサーフィンとスケートボードがオリンピックの正式種目として採用されたわけだが、1998年の長野五輪からスノーボードはオリンピック種目と化している。

それは、ここまで述べてきたスノーボードの爆発的な人気に、IOC(国際オリンピック委員会)が指をくわえて見ていることができなかったからにほかならない。ここから、現代に通ずるスノーボードとオリンピックの“ねじれ”が始まるのである。

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