Surf Voice vol.1「1966年 第1回全日本サーフィン大会」

2020.04.20
写真左、中村清一郎。名門サーフィンシャークスの若手メンバーで、抜きん出たパフォーマンスが当時憧れの的だった。(現役の中村清太郎の父である)

東京オリンピックの開催から2年後の1966年、日本サーフィン連盟(NSA)が組織され、最初のサーフィン大会が鴨川で行われた。
それはサーフィンに夢中になり始めた鎌倉のキッズにとって、ビックイベントであった。

一路、鴨川へ

「千葉、外房、鴨川、赤堤」
情報がこれだけしかないままに、私はチームメイトとともに軽自動車2台に分乗し、一路大会会場を目指した。
「鴨川? どこそれ」
今ではアクアラインの一本道だが、かつては久里浜、金谷のフェリーでしか行くしかなかった。というよりも、私たちは車ごと船に乗れることすら知らなかった。

金谷についてから一路、鴨川を目指した。未舗装の山道の牧歌的風景は、今でも鮮明に覚えている。
峠を越え、段々畑の土手から立ち上がる焚き火の煙、リヤカーを押す農家の人々、まさに日本の原風景であった。
カーナビ、地図も無し。迷ったら車を止め、道ゆく人に尋ねる以外知る方法がなかった。
おかげで見ず知らずの人にも話しかけられるようになった(この事は初めて海外に出た際に大いに役立った)。

サーファーの本能を発揮して大会会場へ到着

鴨川までの道は、簡単だった。嗅覚とでも言うのか、方角に関しては、サーファーの本能を大いに発揮したのである。
海がどの方角なのか、まずその方向に車を走らせる。そして、ポイントが分からなければ、どこでもいいから、ビーチに出てみる。後はあたりを見渡し、人だかりを捜せば、そこが大会会場だ。

サーフポイントを探すのも、だいたいこの方法でうまくいく。時には、このいい加減な勘による、ディレクションでいい波に出会ったりすることもあった。

今では、現地到着時間まで教えてくれ、潮の満ち引きから、波のサイズ、コンディションまで、腹が減ったら、どこが美味いのか、までも、先客の評価まで知ることができる。まっこと便利な時代だが、当時は親にもらった数千円のこずかいを握りしめての冒険であった。

中村清一郎
1966年 第1回全日本サーフィン大会

大会結果は……

大会の結果は聞くに及ばず。そこにたどり着くだけで、エネルギーとパフォーマンスは使い切っていたからだ。
それにボードも酷いものだった。友人のボードを黙って拝借したが、中空ボードのなかには水が侵入していて、それがテイクオフの瞬間ノーズへ移動する、という代物だった(ダックスの 故 高橋太郎作)。

初めての大会、予選10分は頭の中は真っ白。何をしていたのかも覚えていない。それよりも帰りのフェリーに間に合うかどうか。
そんな「第一回全日本サーフィン大会」であった。

写真提供/文・出川三千男

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