2026年、新たなストリートダンスの競技化が決定! KATSU ONE×NOBUOスペシャルインタビュー【前編】

2026.08.12
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text by Takako Ito

ブレイキンがダンススポーツとして歩み始めてから、およそ10年。その間、世界大会や全日本選手権が整備され、選手たちの競技への向き合い方や、社会からの映り方も大きく変化してきた。そして今、その経験を受け継ぐように、ブレイキンをはじめとするストリートダンス全域にもダンススポーツとしての新しい道が拓れようとしている。

先日、公益社団法人日本ダンススポーツ連盟(以下、JDSF)によって「ストリートダンス部門」が新設されることが発表された。これにより、ブレイキンだけに留まらず、ストリートダンス全域のジャンルがスポーツ、いわゆる競技化される。これはストリートダンスシーンからすると歴史的な快挙である一方で、シーンへの理解を醸成することは必須だ。

スポーツ競技の側面を持つことで、ストリートダンスは何を得られるのか。長い時間をかけて育まれてきたカルチャーやコミュニティとは、どのように向き合っていくのか。
JDSF「ストリートダンスカテゴリー」のスポーツマネージャーに就任したNOBUOと、ブレイキン日本代表のナショナルコーチを務めるKATSU ONEが、ブレイキンの10年を振り返りながら、ストリートダンススポーツのこれからについて語り合う。【前編】

想像を超える時代へ|ブレイキンが拓いた道

KATSU ONE:  ブレイキンがオリンピック競技になったことで、ダンスそのものに対する世界のアンテナが、かなり高くなったと思うんです。ブレイキンも、ダンススポーツの一つのカテゴリーです。そこからストリートダンスにも目が向けられるようになって、WDSF(世界ダンススポーツ連盟)でもストリートダンスを扱う流れが生まれました。
僕としては、「やっと、この流れになったんだな」と感じています。NOBUOさんはブレイキンを外側から見ていて、どう感じていましたか?

NOBUO:  率直に「すごい時代になったな」と思っていました。僕は仕事柄、昔からブレイキンをやっている人たちが周りにいたので、そういう人たちが大きく取り上げられているのを見ると純粋に嬉しかったですね。他ジャンルのダンサーと話していても、みんな「ブレイキンはすごいね」と言っていました。
実家に帰ると「おじいちゃんやおばあちゃんが、テレビでブレイキンの大会を見ていた」という話も聞くようになりました。それまでダンスに触れてこなかった人にも届いている。そこは本当に大きな変化だと思います。

Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟

KATSU ONE:  やっぱり、そう見えていたんですね。僕たちが活動を始めた頃は、こういう未来を実現したいという想いはあっても、現実にはかなり難しかった。でも、いつか実現できるようにと取り組んできました。
世界中でブレイキンをする人が増えて、様々な国で世界大会が開催されるようになった。そして2018年のユースオリンピックで採用されたときは、もちろん驚きましたが、心のどこかでは「やっと気づいてもらえた」という感覚もあったんです。今回、ストリートダンス全域がダンススポーツの中に入っていくのも、同じようなタイミングなのかもしれません。

NOBUO:  ブレイキンが先にその道をつくってくれたことは、ストリートダンスにとって本当に大きいと思います。
10年前であれば「ストリートダンスがスポーツになる」と聞いたとき、もっと強い違和感があったかもしれません。でも、ブレイキンが歩んできた道をみんなが見てきたからこそ、「ついにストリートダンスにも、そういう時代が来たんだ」と受け止める人が多いのではないかと感じます。

スポーツ化により、ダンサーはどう変わったのか

KATSU ONE:  一番大きく変わったのは、ブレイキンに明確な目標ができたことです。以前は、何のために取り組むのか、どこに焦点を当てて活動していくのかを、一般の人にも分かる形で示すことが難しかった。正式にスポーツとして認められたことで、社会からの見られ方が変わりました。

挑戦する選手たちの意識も変わっています。大会に出る以上は勝利を目指しますが、ただ練習して技術を高めるだけではありません。目標に向けて計画を立て、自身の栄養管理やコンディショニングまで考えるようになりました。自分たちが踊っていることの意味が、社会に対して伝わりやすくなった。それは大きな変化だったと思います。

Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟

NOBUO:  特に若い世代にとって、目指す場所が見えるようになったことは大きいですよね。地方でダンスをしている子たちは、以前なら、映像やSNSなどで世界の舞台を見ても、自分からは遠い世界のように感じていたと思います。でも今は、ブレイキンをしている子どもたちの中に「自分もそこへ行きたい」と本気で頑張る子がいる。そういう環境があることを、うらやましく感じるほどです。

KATSU ONE:  全日本選手権のような公式大会も生まれました。その結果を学校に示せるようになり、強化選手として活動したことが大学進学に繋がった例もあります。僕たちが若い頃は、ダンスの実績が進学に繋がるなんて考えられませんでした。そこにも、ブレイキンが社会に認められるようになったことの価値を感じます。

それと、僕自身、最初の頃は「なぜメダルを取らなければいけないんだろう」と感じていたんです。でも、日本を背負って世界大会に出て、金メダルを獲得したときに国歌が流れる。その光景を目の当たりにしたときは、本当に感動しました。国を背負って挑戦すること、そのためのプロセスを考えること、そして結果が公のものとして多くの人に届くこと。それも、スポーツとして取り組む中で得た大きな経験でした。

スポーツか、カルチャーか

NOBUO:  ブレイキンでは、世界選手権や強化選手という言葉が、今では浸透していると感じています。でも、これから始まるストリートダンスでは、「強化選手とは何だろう」「どの大会を目指せば、どこに繋がるんだろう」というところから説明していかなければなりません。

ストリートダンスはジャンルも幅広いですし、「何をストリートダンスとするのか」という議論も出てくると思います。ブレイキンの10年を経験してきたKATSU ONEさんが、最初から大切にしてきたことは何ですか?

KATSU ONE:  ひとつは、ブレイキンとは一体何なのかを理解し、伝えることです。どのように生まれ、なぜ40年以上に渡り世界中の若者に支持されてきたのか。ブレイキンやヒップホップの歴史、背景、そこにある価値を大切にしてきました。もう一つは、スポーツの側面を理解することです。僕たちにとってはゼロからのスタートで、スポーツの世界では当たり前のことも分からなかった。一方で、スポーツに携わる方々は、僕たちのカルチャーを知らないこともあります。

正直、最初は「ブレイキンはスポーツじゃない」と反発する気持ちもありました。でも、スポーツにはスポーツの素晴らしさや、積み重ねてきた仕組みがあります。そこに入っていくのであれば、僕たちのカルチャーが持つ素晴らしさと、スポーツが持つ素晴らしさの両方を理解する必要があると思ったんです。
「スポーツなのか、カルチャーなのか。」と聞かれたら、僕の答えは「どちらも」です。ブレイキンはブレイキンだから、どちらの形でもできる。その考えはずっと大切にしています。

Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟

NOBUO:  その考え方は、ストリートダンスでも大切にしたいです。ストリートダンスはとても幅が広いので、最初から「これがストリートダンスです」と狭く定義するのは難しい。僕自身、まだ知らないジャンルがありますし、地方と都市部では考え方に違いがあるかもしれません。
だからこそ、様々な人の意見を聞き、自分も学びながら進めたいと思っています。日本のストリートダンスには、世界から見ても独自の文化がある。その文化を大切にしながら、ダンススポーツとしてのストリートダンスを、社会と繋がるきっかけの一つにしたいんです。

KATSU ONE:  ストリートダンスはブレイキン以上に複雑で、形にしていくのは大変だと思います。でも、ブレイキンが先に経験したことを生かしながら、スポーツとしての道をきちんとつくることができれば、社会に向けて新しい可能性を拓くことができると思います。大切なのは、ストリートの部分を忘れないことですよね。それを忘れて、ダンススポーツをつくることはできないと思います。

バトルとコレオグラフィー|具体的な種目について

KATSU ONE:  ブレイキンは1対1のバトルを中心に進んできましたが、最初のユースオリンピックでは、男女混合の2対2も行われました。今では2対2や3対3もあり、ブレイキンだけを見ても、ひとつの形式に限られなくなっています。ストリートダンスでは、バトルと、複数人で作品を見せるコンテスト形式が考えられているんですよね。

NOBUO:  はい。大きく分けると、ダンスバトルとコレオグラフィーの2つです。バトルについては、様々なジャンルを最初からひとつに混ぜてしまうことに、僕自身は少し抵抗があります。それぞれのジャンルに対するリスペクトを持ちたいからです。
まずはジャンルごとの1対1のバトルを入り口にしたいと考えています。ただし、一度決めた形をずっと変えないということではありません。実施しながら意見を聞き、時代やシーンの変化に合わせて育てていくものだと思っています。

Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟

KATSU ONE:  コレオグラフィー部門のほうは、チームで作品をつくり参加する形式ですか?

NOBUO:  そうです。チームや団体など、複数人でひとつの作品をつくり、コンテスト形式で参加してもらうことを考えています。こちらは幅広い表現を受け入れられるものにしたいです。小中高のダンス部や同好会で活動している子たちにも、ぜひ参加してもらいたいと思っています。

KATSU ONE:  学校でダンスをしている子たちにとって、甲子園のような目標になる可能性もありますね。

NOBUO:  本当に、そうなってほしいです。僕自身が地方で育ったからこそ、地域で活動する子たちが目指せる大会にしたいという想いがあります。自分の学校や地域、都道府県を背負って全国に出ていく。そして、地域のみんなが熱量を持って応援できる。そこまで育っていったら素晴らしいと思います。

Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟

世界へ繋がる明確な道に

NOBUO:  元々、僕自身岩手出身で、大学時代にストリートダンスに出会いました。最初から「ダンスをやりたい」と思って始めたわけではありませんでした。大学の仲間に誘われて、何となくやってみた。でも、そこから夢中になった。ダンスを通して先輩や友達と繋がり、後輩もできました。県外のイベントに参加すれば、そこでも仲間が増えていった。どこへ行っても、自分の中には「青森の弘前でダンスをしている」という軸がありました。

卒業して東京で就職することも考えましたが、そのとき、ダンスとの向き合い方だけでなく、ダンスを通して出会った人たちとの関係も変わってしまうような気がしたんです。それほど、僕にとってコミュニティは大きな存在になっていました。だから今回の取り組みでも、全国のどこにいても「自分も本気で頑張っていいんだ」「日本一を目指していいんだ」と思える環境をつくりたいと思っています。
学生だけではありません。社会人になってからも、自分の地域を背負って挑戦できる。競技を離れた後には、後輩を育てたり、地域で大会を運営したりすることもできる。そうやって経験を地域に還元する流れが広がってほしいと思います。

KATSU ONE:  ブレイキンも10年取り組んできて、同じことを考えています。競技の仕組みについては、僕たちが経験した事例を伝えたり、助言したりできる。でも、根本にある想いは、ブレイキンもストリートダンスも一緒なんだと思います。NOBUOさんにとって、ストリートダンスの一番大きな価値は何ですか?

Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟

NOBUO:  たくさんありますが、ひとつを挙げるならコミュニティです。大会に出なくても良いし、体を動かすことが楽しいというだけでも良い。ダンスを通して友達ができたり、誰かを応援したり、誰かに教えたりする。人によって、ダンスとの向き合い方は色々あります。
でも、ストリートダンスが持つコミュニティは、本当に素晴らしいものだと思うんです。一度やってみれば、人生が変わるかもしれない。それくらいの力があると思っています。

今、ストリートダンスに関わっている人たちは、それぞれ信念を持って活動しています。その姿や価値を、ダンスを知らない人たちにも伝えたい。そして、踊る人だけでなく、応援する人も含めて、何らかの形でこのコミュニティに関わる人が増えてほしいと思っています。

KATSU ONE:  僕たちも、ブレイキンをライフスタイルにすることを大切にしてきました。生活の中に当たり前にブレイキンがあることで、仲間との関わり方や、様々な学びが生まれる。そこはストリートダンスも同じですね。
スポーツでは、ときに「結果が全て」という見方をされることがあります。でも、僕たちはその考え方を変えたい。勝ち負けではないところにも素晴らしさがあり、取り組んでいること自体に意味がある。そこにも光が当たるようにしたいと思っています。

NOBUO:  今のダンスシーンでも、バトルに出て、予選で負けたらすぐにその場を後にするという姿を見かけます。でも、ストリートダンスの魅力は、結果だけではありません。「なぜ自分は踊っているんだろう」と一度立ち止まって考えれば、ダンスを通して友達ができたことや、人を応援する楽しさに気づくかもしれない。ダンススポーツという新しい道をつくることが、ストリートダンス本来の魅力を改めて考えるきっかけにもなれば良いと思っています。

Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟

選手だけではない|ダンスから広がるキャリア網

NOBUO:  ブレイキンはダンススポーツとして取り組むことで、競技者にはどのようなキャリアが生まれましたか?

KATSU ONE:  競技者としてナショナルチームに入り、プレイヤーとして活動する道があります。でも、それだけではありません。公式の審査員や指導者、地域の選手を育てるコーチ、さらにナショナルチームの指導に携わる道もあります。大会ではMCやDJとして出演する人もいれば、運営スタッフとして支える人もいる。
連盟の仕事や大会運営に加えて、スポーツビジネスやスポーツマネジメントを学ぶきっかけにもなります。ブレイキンがダンススポーツになったことで、新しいキャリアの選択肢は確実に増えたと思います。

ただ、僕は、ヒップホップを心の底から経験した人は、どの業界に行っても通用すると思っているんです。人と向き合い、自分で考え、挑戦を続ける。その中で培われる人間力は、ダンス以外の世界でも生きてきます。

NOBUO:   ストリートダンスでも、学生から社会人になるときに、踊ることをやめなくていい環境をつくりたいです。競技を続けてもいいし、地域で指導者や運営側になってもいい。Dリーグのようなプロの舞台を目指す道もあれば、自分の生活に合った形で踊り続ける道もあります。ダンススポーツが、長くストリートダンスに関わるためのプラットフォームのひとつになれば良いなと感じています。

Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟

新たな歴史を、全員で創っていく

KATSU ONE:  カルチャーとして取り組むことと、ダンススポーツに挑戦することは、別々の世界に見えるかもしれません。でも、どちらかをやめなければいけないわけではありません。ダンススポーツとして挑戦することで、新しい価値や、まだ知らない世界に出会える可能性があります。
それはキャリアの中でのひとつの大きなチャンスです。少しでも挑戦してみたいという気持ちがあるなら、ぜひ一歩を踏み出してほしい。一緒に戦いながら、新しい世界を創っていきたいと思います。

NOBUO:  ダンススポーツとしてのブレイキンが歩んできた10年があったからこそ、今、ストリートダンスにも新しい部門が生まれようとしています。道を創ってきてくださった皆さんへの感謝を忘れず、僕自身ももっと勉強しなければならないと思っています。
この取り組みが、ストリートダンスに関わるすべての人と社会が、よりよく繋がるきっかけになってほしい。そして、これからもっとダンスを頑張りたいと思う子たちにとって、目指せる環境のひとつになってほしいです。ダンススポーツとしてのストリートダンスに一歩足を踏み入れて、ここからまた新しい歴史を、みんなで一緒に創っていきましょう。

プロフィール

KATSU ONE(石川 勝之)
ブレイクダンス本部長として2018年に就任。国内外の大会での優勝経験と豊富なワークショップ実績を持ち、世界のブレイキンシーンに大きな影響を与え続けてきたBBOY。現在は公益社団法人日本ダンススポーツ連盟(JDSF)ブレイクダンス本部長として、日本における競技ブレイキンの発展と国際競技力向上を牽引している。
 ブレイキンがユースオリンピック、そして2024年パリオリンピックの正式追加種目へと発展していく過程においては、日本国内の体制構築や競技化の推進、選手強化・サポート体制の整備を主導。パリオリンピックではブレイキン種目のコーチとして日本代表選手を支え、女子種目において金メダル獲得という成果に貢献した。カルチャーとスポーツの両立という難題に向き合いながら、日本の取り組みは国際的なモデルケースとして評価されている。
 自身の活動の根底には、ストリート文化が「人々の間での共通言語」であり、「グローバル人材を育てる機会」であり、「人格形成のための教育」であるという信念がある。その思想のもと、ストリートダンスおよびストリート文化の発展と、次世代の育成に力を注ぎ続けている。
 2018年には川崎市にて「WDSF世界ユースブレイキン最終予選」の招致と2025年久留米市にてWDSF世界ブレイキン選手権を実現し成功へ導いたほか、同年のブエノスアイレスユースオリンピックではブレイキン日本代表監督として金メダル2つ、銅メダル1つを獲得。以降も日本代表の強化・育成に深く関わり、世界トップレベルの競技力を支える体制づくりに貢献している。
 また、教育的視点からのアプローチにも力を入れており、体育教員免許を背景に、ダンスを通じた人間力の育成や国際的視野の醸成を重視。ブレイキンの持つ文化的価値とスポーツとしての可能性を融合させ、日本と世界をつなぐ存在として活動を続けている。

NOBUO(岩渕 伸雄)
岩手県出身。弘前大学ストリートダンスサークルA.C.T.に所属し、ダンスを始める。大学院修了後、2008年にダンススタジオ「FUNKY STADIUM」をオープン。2012年、弘前市で芸術舞踊に関する活動を発展させるため、「ひろさき芸術舞踊実行委員会」を設立。
2016年、弘前城本丸にて大規模野外フェスティバルSHIROFES.を開催。2021年、国が主催する「スポーツ文化ツーリズムアワード2021」で SHIROFES.が国内最高賞「スポーツ文化ツーリズム賞」を受賞。自身もダンサーとして活動し続け、更には育成などにも力を注いでいる。
ダンススタジオ事業・イベント事業、レッドブルジャパン(株)のダンスコンテンツプロジェクトディレクターも務める。2023年10月より弘前大学大学院博士課程に進学。「カルチャーに対する熱量が及ぼす影響について」をテーマに研究も行っている。

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