マイノリティを武器に 関西注目HIPHOPチーム「Drip nuts JAM」

2019.08.23
FINEPLAY編集部
左からRYUKIさん、AYAKA ASADAさん、TOMMYさん、せんじょうこうすけさん

8月24日に行われる、日本最高峰と称されるダンスの大会JAPAN DANCE DELIGHT(略:JDD)の出場も控える注目HIP HOPチーム「Drip nuts JAM」をご存知だろうか。独自の世界観と音の質感、型にはまらないグルーヴに、ある種のチーム独自のジャンルを確立しつつある。どこにも似つかないこのチームは、どのような経緯で成り立ったのだろうか。JDDに向けて練習を重ねる彼等に取材をした。

全員、はみ出し者。ものづくりが好きなクリエイターチーム

現在、Drip nuts JAMを構成するのは、サウンドメーカーとしても活躍するTOMMYさん、デザイナーとして顔を持つAYAKA ASADAさん、NPO団体で活動も行うせんじょうこうすけさん、教員免許の資格を持ち、高校ダンス部のコーチも担うRYUKIさんの4人。2チームが活動を拡大したいタイミングが重なり、偶然TOMMYさんが両チームに所属していたことから「一度一緒に活動してみては」と合致したことが始まりだという。活動当初はMeduseさんを含めた5人だったが、チーム始動後に病気が発覚し、現在は遠方から貢献に取り組むことになったため、4人での活動となった。

2チームが1つになったDrip nuts JAM 

「4人とも感性が似ているんですよね。」と話すせんじょうさん。「全員ダンスがすごく好きで、先人たちをものすごくリスペクトしているんです。踊りや音楽へのこだわりが強すぎて、業界の中で多少はみ出していますね(笑)。アートやクリエーター的なものづくりの視点からダンス作品を作りたいという確固たる個々の信念が、チームになったといえます。」

「ダンス界のはみ出しものなのかも」と話すせんじょうさん

個性を搾り取って抽出する 実験的な独自のショー

英訳で“抽出する”という意味を持つ「Drip」、”変人”というHIP HOPスラングの「nuts」、”日本ものづくり協会”の略称で使われている「JAM」をかけ合わせて「Drip nuts JAM」という名称で始まったのが昨年の3月。それから3ヶ月でまたたく間に西日本最大級のダンスコンテスト「TRUE SKOOL」で優勝し、一気に注目を浴びた。

Drip nuts JAMの作品の特徴は、HIP HOPの枠組みのギリギリを攻める独自のパフォーマンスだ。コンテンポラリー的要素も取り入れ、「誰もやったことのないショー」を創り出す。独創性と実験性を併せ持つパフォーマンスは、「ダンスをツールに、見ている人と作り手の化学反応により成り立つ」という4人の意識だ。

最年少のRYUKIさん

「全員の個性がそれぞれ強いので、その個性を形では抑えず、音の表現の質感で『合わせる』ことを意識しています。おもしろいのは、スタジオに入って体を動かすより頭を動かしていること。躍り込みは本当に最後で、創ることに時間をかけています。」と話すRYUKIさん。音の質感を表現するという抽象的なイメージを、いかに体で具体化できるかという研究に時間をかけ、パフォーマンスを練り上げるのだという。

音楽も、TOMMYさんが一音ずつ手打ちで創り出す。「色んな身の回りの音からインスピレーションを受けて作っています。鍵の音とか、体の中の音とか。音が好きなんですよね。普段何気なく聞いている音にも耳を傾けるようにしています。チームのメンバーも音にこだわりが強く、作品の音源になると、毎回何度も音を作り変えます」

音源の編集は全て、TOMMYさんが手掛ける

インスピレーションを受けるために行動を欠かさないのも特徴の一つ。AYAKAさんは、作品の中で屋久島の太鼓岩を叩く音などを使った音を聞いた時に、実際に本物の音を聞くために現地に訪れたという。「屋久島で触れたものや得た感覚を、帰ってきてすぐメンバーに共有しました。写真や映像、録音した山の音とかをみんなで見たり聞いたりして…。そういう時間がこのチームにとって、大事なんですよね。音楽にしろ、作品にしろ、より解釈を深めることによって更に良いものを生み出せるんじゃないかなと思っています」。

最後までこだわり続けて「抽出する」のが、Drip nuts JAMの姿勢だ。

紅一点のAYAKAさん

味わう挫折 自分達に向き合う転機

しかし、昨年の夏は思うように結果が出ず、挫折を味わう。JDDの予選に出続けたが、毎回あと一歩というところで本選には届かず悔しい思いをし続けた。「その後、JDD本選に招待してもらって、自分達に足りないものの答えを見つけるために見に行きました。そしたら、ステージに立つ人はスキルも身体能力も化け物級で圧倒されました。自分達は作品に偏りすぎてスキルの研究が追いついていないことに気づき、もっとコントロールとか、筋トレが必要と感じたので、それぞれが自分を磨くことに時間を費やしましたね」と笑いながら、昨年を振り返るせんじょうさん。これまで以上に、全員が「このステージに立ちたい」と心の底から思ったという。

昨年の挫折を振り返る

そこから、4人のJDDの舞台へ向けた怒涛の日々が始まる。「改めて自分のダンスと向き合うことで、気付いたこともたくさんありました。やっぱりスキルが無いと自分達の表現したいことが相手に伝わらない。それがすごく悔しくて、辛かったです。自分たちのこだわりは曲げず、作品力もスキルも上げ続けて、絶対に予選通過すると誓って出た広島予選で、初めての本選を決めることができました。その瞬間、自然と涙が溢れ出ましたね。『やっとここまできたか』という気持ちと、『あのステージに立てる』という興奮で、全身の毛穴がブワーっと開いたような感覚でした。」とAYAKAさん。

昨年は何度も悔しい思いをしたのだという

ダンサーの夢のステージへわずか1年と4ヶ月ほどの結成時期で手に入れた切符は奇跡ではなく、最後まで戦い続けた4人が確実に得たものだった。

昨年は何度も悔しい思いをしたのだという

ダンスを越え、個人が生きやすい社会づくりへ

Drip nuts JAMの公式Instagramにかかれているのは「アート活動を通して価値を発信し、個人が生きやすいコミュニティ・社会を目指す集団」という文言だ。

TOMMYさんは「僕たちは、ゆとり教育を受けて社会構造的に『失敗だったね』って言われている。社会が与えたものが正解ではなかったということは、今ある社会も正解では無い可能性があります。『息苦しい』とか『居場所が無い』とか感じている人は、どの世代でもいるのではないでしょうか。そういった人たちを自分達の作品を通して、『ありのままでいいんだ』とか『自分たちの価値はこのままで良いんだ』とか、おこがましいですけど救えたらなって思います」と話す。

胃袋の音でも音楽をつくるというTOMMYさん

リーダーを務めるせんじょうさんはこう語る。「僕たちはダンスの歴史も文化も愛していますが、界隈ではマイノリティだと思います。慣習にとらわれることや、『こうじゃなきゃいけない』ってことに違和感を感じるんです。でも、それが新しいライフスタイルや時代を切り開くんじゃないかなって思います。自分達はダンスというツールで投げかけることができますけど、そういった苦しい思いを表現できない人もたくさんいるのではないでしょうか。次は、そういう人たちが体現しやすい社会を作っていきたいです。」

『喧嘩はほとんどない』という4人

「将来的には自分達の活動を通して社会に貢献していくことができたら良いなと考えています。ですが、まずはJDD。応援してくれている人がたくさんいるので、頑張らないといけないですね。」と意気込む。

今後、新時代を切り開く4人のダンサーは、ダンス界を飛び出し広い世界で多くの人の希望となることが予見される。今回のJDDでどんなショーをするのか、ぜひ体感してほしい。

Film by Ryoma


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