アクションスポーツの人口を推測してみよう(下) |【連載】FINEPLAY INSIGHT 第7回

2020.02.06
FINEPLAY編集部

かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」。

アクションスポーツやストリートカルチャーのために、ビジネス視点を交えて提言を行う本連載「FINEPLAY INSIGHT」。

さて今回は第5回から続く、アクションスポーツの人口をさまざまな視点から推測してみるシリーズの最終回です。今回は前回からさらに、競技団体の収益を手がかりにビジネス規模の側面を観察してみたいと思います。

主要スポーツのビジネス規模を観察してみる

僕も一応は元プレイヤーとしてカルチャーやアンダーグラウンドの良さを多分に理解しているつもりですが、これまでにも述べてきたとおり、この連載はあくまでもシーンの発展を多角的に捉え、特に経済性の獲得(ようするにビジネス)の視点をさまざまな方に共有出来ればと思っています。

さて、その中で他の主要スポーツをベンチマークとして、他のスポーツのビジネス規模を観察する方法はいろいろあるかと思いますが、今回は各スポーツの競技団体の収益規模を一つのベンチマークとしてみたいと思います。これについてはもちろん、いろいろな切り取り方があると思いますので、ぜひみなさんも色々な観点から考えてみてください。

いったい世の中のいわゆるメジャースポーツの競技団体は、年間いったいどれくらいの収益(収入)があるでしょうか?数億円でしょうか?はたまた、数十億円でしょうか?3ケタ億円ともなれば、相当大きな企業と肩を並べる規模感です。ここからは、みなさんが勤めている会社や勤めたい会社の売上高を頭に入れながら見ていきましょう。

文字通り「ゼロが一つ違う」アクションスポーツのビジネス規模

早速ですが、第6回で観察した主要スポーツ11競技と、アクションスポーツ5競技について、その競技団体について僕なりにまとめた一覧表が下記になります。

表を見ていただくとわかりますが、主要11競技の年間収益は一番多い日本サッカー協会で189億円、次いで日本相撲協会の120億円など、すべての団体が2ケタ億円以上の収益で運営されています。みなさんの想像と同じくらいだったでしょうか?それとも全然違う数字でしょうか。

表の下で網掛けしてある5競技は、いわゆるアクションスポーツの競技団体になります。スノーボード(のオリンピック競技)は日本スキー連盟という母体が大きな競技団体が運営しているため、唯一10億円以上の収益となっていますが、他の4競技は軒並み数千万円〜数億円の規模であることがうかがえます。

やはりメジャースポーツはビジネス規模もケタ違いでした。文字通り「ゼロが一つ違う」規模で組織運営されていることがうかがえます。言われてみれば当然で、「そりゃメジャースポーツは競技人口も多いんだから収入多くて当たり前デショ!」という人もいらっしゃいますよね。

しかしここで、前回述べた「ファン人口」を思い出してみてほしいのです。競技団体の収益は果たして「競技人口」からのみもたらされるものなのでしょうか?もう少し観察してみました。

競技人口が増えても、ビジネスチャンスは広がらない

下の図は、主要11競技について、競技人口、メディア観戦人口、現地観戦人口、そして競技団体の収益額、あわせて4つの尺度を分析した関係図になります。

詳しい説明は割愛しますが、ここで載せている数字は相関係数と呼ばれるもので、あるデータともう一方のデータがどれくらい関係しているか、を示すバロメーターだと思ってください。値は-1から1までを取り、-1が完全な負の相関(一方が上がれば(下がれば)一方が下がる(上がる)関係)、0が無相関(関係なし)、1が完全な正の相関(一方が上がれば(下がれば)一方も上がる(下がる)関係)です。

図から読み取れることは、こうです。

まず競技団体の収益と競技人口の関係。相関係数が-0.36ですので、関係が無いばかりか、少なくとも主要11競技については「競技人口が増えて(減って)も競技団体収益はむしろ下がる(上がる)」という弱い関係が観察された、ということを示しています。他の競技にも当てはまるとは言えませんが、これは「競技人口を広げることが多くのビジネスチャンスを生むんだ!」という言説と全く反対の意味合いを示しています。-0.36は無関係(0)にも近い数字ですが、少なくとも正の関係ではないことは確かです。

次に、競技人口とメディア観戦ファン数や現地観戦ファン数の関係。それぞれ相関係数は-0.02、-0.03ですから、はっきり言ってこの11競技に関しては「競技人口とファン数は全然関係ない」ということが言えます。これも、競技人口が増えればファンが増えそうなイメージとまったく反対のことを示しています。

この図の中で最も関係性があるのは、相関係数が0.80である現地観戦ファン数とメディア観戦ファン数です。正直、僕は「メディア観戦の人数は現地観戦の人数とは関係ないだろう」と思っていたのですが、これは意外な結果です。メディアで見ることが現地観戦の動員を後押ししていたり、逆に現地観戦の動員を伸ばすことでメディアも番組や中継を行い、より多くの人が目にするようになる、という強い正の関係がうかがえます。

最後に、競技団体の収益につながる3つの矢印を見てみましょう。競技団体の収益と最も関係性が深いのが、メディア観戦のファン数(相関係数0.55)ということになります。相関係数は因果を示すものではないのですが、仮説としてはメディア観戦のファン数が増え=第4回で説明したメディア環境が整い、→メディアや企業にとってお金を出すメリットが増え、→競技団体の収益を一気に押し上げる、という構造になっていると言えるのではないでしょうか。ここでも第4回のメディア環境の重要性をぜひ思い出してみてください。

今回観察されたことを、シーン側の行動として素直に落としてみると、僕としては下記のような順番になるのではないかと思います。

まずシーンとしてできることは、①スタープレイヤーの輩出(PRを通じた世間への露出、ライフスタイルなども含めたスター性の獲得)でしょう。これにはもちろん母数としての競技人口もある程度必要です。しかしすでに述べたようにそれだけでは何にもなりません。次にシーンが進められる大切なステップは、イベントや大会における②現地観戦ファンの地道な積み上げでしょう。それからようやく③メディア環境を整える素地ができ、テレビないし他メディアとの放映やコンテンツ化の交渉土台に入れます。そしてメディア環境が整えば一気にメディア観戦ファン数を獲得でき、放映権収入ないし露出を担保にしたスポンサー収入が集めやすくなり、④シーンとしての収益に結びつきます。そして収益が生まれれば、⑤プレイヤーにも還元できるでしょう。この順序をいま一度共通認識として持っておいても、損はないのではないでしょうか。

「拡大かカルチャーか」という二項対立を捨てよう

今回示したビジネス規模(競技団体の収益)とファン構造の関係は、スポーツ界隈で一般的に言われていることや、アクションスポーツシーンの人たちに多く見受けられるプレイヤー中心の見方とは、正反対の結果だったかもしれません。

プレイヤー目線が強い人こそ「稼げるようになること」を無意識的に強く意識していると思いますが、稼ぐためにこそニワカ目線や素人目線が不可欠である、ということを今回のデータは示してくれたと言えるでしょう。

これまでの連載でも述べてきたとおり、カルチャーとしてのコアな魅力やエッセンスを残すことと、ニワカや素人のファンを獲得することを両立する意識をシーン全体として持っていくことが、これからのアクションスポーツの道しるべになると言えます。メディア環境はもちろん、観戦に行ったときの数時間の体験がメジャースポーツに比べて本当に面白いものになっているのかと言われれば、僕にとって身近なダンスシーン一つを取っても「まだまだ」と言わざるを得ないと思います。

同じ5000円や1万円のチケットでどんなエクスペリエンスが得られるか、相手はディズニーランドかもしれませんし、素敵なアーティストのコンサートかもしれません。僕たちが持つべきは過度なプレイヤー目線やカルチャー目線ではなく、広い視野でのバランス感覚なのだ、と繰り返し述べておきます。

カルチャーを愛するからこそ、この連載では引き続き多くの人に嫌われる覚悟で(笑)そうした視点を僕なりに紹介しています。次回以降は、「じゃあどうしたらいいねん!」という声にお応えする視点を少しずつ開いていけたら良いな、と考えています。

AUTHOR:阿部将顕/Masaaki Abe(@abe2funk)

大学時代からブレイキンを始め、国内外でプレイヤーとして活動しつつも2008年に株式会社博報堂入社。2011年退社後、海外放浪やNPO法人設立を経て独立。現在に至るまで、自動車、テクノロジー、スポーツ、音楽、ファッション、メディア、飲料、アルコール、化粧品等の企業やブランドに対して、経営戦略やマーケティング戦略の策定と実施を行う。
現在、戦略ブティックBOX LLC代表、NPO法人Street Culture Rights共同代表、(公財)日本ダンススポーツ連盟ブレイクダンス部広報委員長。建築学修士および経営管理学修士。

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