Skateboarding Unveiled vol.12 ~ストリートとパーク~

2024.05.29
同じスケートボードでも、この2枚の撮影意図は全く違う。そこを紐解いていこう。
photograph by Yoshio Yoshida

フォトグラファーの多様化

スケートボードが世の中に広く認知されたのは東京オリンピック。
これに異論がある人はいないだろう。

それに伴い、最近はスケーターを撮影するカメラマンも多様化してきたと感じている。ではどう多様化してきたのか。今回はそこを2タイプに分け、特性を分析していきたいと思う。

ストリートとパーク

ストリートとパーク。この2つはロケーションだけでなくカメラマンの特性も変わってくる

最もわかりやすいのが撮影ロケーションにおける分類だ。ストリートとパークに分けると、二極化ともいえる現状があると思っている。ただ気をつけていただきたいのが、オリンピック競技種目の「ストリート」と「パーク」ではないということ。

ここでは、社会に存在する皆が共有している公共空間としてのストリート(そもそも滑るべきではないという主張は、今コラムでは置いておく)と、スケートパークという意味でのパークを指す。

この2つは撮影場所もシチュエーションも大きく異なるので、カメラマンの特性も大きく異なってくるのだが、ストリートは、ほぼ100%の確率でカメラマン側もスケートボーダー。より専門的で尖った芸術家タイプが多く、後者のパークはスケートボードをスポーツのひとつとして撮影しており、マスに向けた写真を撮る商業家タイプが多いと感じている。

多くの方がよく目にするのは、間違いなく後者だろう。今やX GAMESなどの国際大会はもちろんのこと、全日本選手権にも多くのマスメディアが駆けつけるようになったし、優勝者が囲み取材を受ける光景も決して珍しいものではなくなった。ただこういったコンテストを撮影するフォトグラファーは、実はオリンピック種目になって以降増加した後出の部類になる。

ただ今はそこから発展して、アクションスポーツ(アーバンスポーツ)フォトグラファーと名乗る人も増えてきているように感じるので、そういったところからも社会的認知度が上がったと感じている。

求められるのは即時性

先日の全日本スケートボード協会の関東アマチュアサーキットより。皆の喜ぶ表情がライディング写真の価値を高めている。

このパークという区分におけるカメラマンの仕事の特徴は即時性が求められるところだろう。1日何千枚という写真を撮って、そこからいかに素早くセレクト・編集するか。撮影から納品までの効率的なワークフローが重要なファクターを占めている。そのためイベントフォトグラファーと言い換えることもできるだろう。

ただそれはどんなスポーツでも同じこと。スケートボードの世界においてストリートの撮影と決定的に違うところは、自分の狙ったアングルで撮影できるかどうかにある。

コンテストは当然自由に撮影はできない。オフィシャルカメラマンで入っているならまだしも、外部からメディアとして取材に入る場合、大概は指定されたわずかな取材エリアでしか撮影できない。そうした限られた条件の中で納品レベルの写真を数多く撮影できるかが重要になってくる。

さらに選手のトリック写真はもちろんのこと、その裏には多くの喜怒哀楽が詰まっているので、そういった要素も踏まえて全体をドラマのように記録できるかも大切だ。そうすることでトリック写真の価値も上がってくるだろう。

またこういった条件下では必然的に納品枚数が多くなってくる。その分一枚に対する比重は低くなるので、言い換えればそこまでスケートボードの知識が深くなくてもこなせるが、スケートボードを知ってるだけでもこなせない多方面でのスキルが必要になるのが特徴であると思う。社会に認知されてきた分、社会性のある仕事(=商業写真)が加味されたのがパークで写真を撮る人物に求められていることだとも思う。今の自分は、こちらの仕事をこなすことの方が多い。

一枚の芸術の追求

ライティング、構図、ボケ、それら全てにこだわった一枚を追求する作品作りがストリート

対してストリートでの撮影は、人数でいえば今は少数派ではないかと思う。そのため、これから述べることに対して理解を得ることは難しいかもしれない。そういう方も”双方を比べた違い”という観点だけで捉えていただけたら幸いだ。

そこを一言でいうなら「一枚の芸術の追求」になると思っている。ストリートは基本的にどこで何をやるのも自由(もちろん他人に迷惑をかけてはいけないという前提のもとで)なので、場所だけでなく時間帯や季節、時間帯にまでこだわった絵作りをするケースもあるし、カメラマンから見ても、アングルはもちろん使うレンズやライティングも、基本的に自らの好きなように組み立てることができる。

だからこそ撮影する側も楽しく、スケートボーダー側も撮れた時はコンテストで優勝した時と同じくらい嬉しいと多くの選手が語っている。プレイヤーとクリエイターの共同作品作りというとわかりやすいだろうか。

そういった条件下であれば、当然コンテストほど多く撮影することはないし、プレイヤーと1対1でトリックを撮るなら、多くても数十枚だろう。一枚に対する比重がコンテストよりも格段に重くなるのが特徴だ。

しかも共同作業になるので双方でしっかりとコミュニケーションをとる必要があるだけでなく、スケートボードの専門知識やライティング技術も身につけておかなければならない。

撮影後のレタッチも含め、時間を費やして1枚の写真を仕上げる。そこにオリジナリティや個性も加味してオンリーワンに仕上げていくのがストリートの撮影であり、こういった写真がスケートボードブランドの広告として専門誌やホームページに大々的に掲載される。

これはオリンピック競技に採用されるはるか前からずっと行われ続けてきているものなので、現在ストリートをメインに活躍しているフォトグラファーは、少なからず過去のそういった創造性ある写真のカッコ良さに魅かれてキャリアを歩み始めた人が多いのではないかと思う。かくいう自分もその1人だからだ。

スケートボードのハレーション

スケートボードは社会においてハレーションが起こりやすい現状がある

以上がスケートボードフォトグラファーのタイプ別分析になる。
では最後になぜこのようなことを書いたの述べて締めたいと思う。

自分はフォトグラファーとして、業界のメインストリームがストリートからパーク(コンテスト)に移り変わる様を、専門誌というフィルターを通してメディア側からリアルに見てきた。それは社会的に見てアンダーグラウンドからメジャーへの階段を駆け上がっていった過程でもあったと思う。

それと同時に、スケートボードは日本社会においてものすごくハレーションを起こしやすいものであることも身に染みて感じている。

だからこそ双方にとって良い未来が実現できるように、間に立ってクッションとなる存在が必要であると思うし、それができるポジションのひとつが、業界の深いところからマスまでを見てきた自分ではないかと思っている。

実は今回が「Skateboarding Unveiled」コラムの最終回。

もともとハレーションという言葉は写真用語のひとつで、強い光の影響を受けて発生する現象を指すことから、「悪影響を及ぼす」といった意味でビジネスでも用いられている。そこでスケートボードで起きやすい社会的なハレーションを、自分の専門分野である写真から間接的に表現し、これから解決すべき課題を挙げさせていただいたつもりだ。自分はこれからもスケートボードの明るい未来のために活動していきたいと強く思っている。

皆さんがもしスケートボードに興味があれば、これからも私の写真や記事を目にすることがあるはずです。その数が多ければ多いほど明るい未来に進んでいると思ってください。これからもそのために全力で突っ走ります。

どうもありがとうございました。

吉田佳央 / Yoshio Yoshida@yoshio_y_
1982年生まれ。静岡県焼津市出身。
高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。
大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。
2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本の監修や講座講師等も務める。
ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている。

執筆者について
FINEPLAY編集部
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