Skateboarding Unveiled vol.11 ~シーズンイン~

2024.03.29
春は本格的なスケートボードのシーズンインを告げる季節。今年はオリンピックを始めビッグイベントが盛りだくさん
text and photography / Yoshio Yoshida

日本のスケーターを育てているコンテスト

2024年コンテストシーズンの幕開けはすぐそこ

皆さんは春といったら何を思い浮かべるだろうか?

卒業式や入学式といったイベントにともない、出会いや別れを連想する人が多いかもしれないが、一方ではスポーツシーズンの幕開けを告げる季節でもある。

スケートボードにおいても同じで、この時期になると決まってサーキット形式のコンテストが開幕する。

今はWORLD SKATE JAPANやJSF(Japan Skateboarding Federation)、JSL(Japan Street League)にFlake Cupなど数は増えたが、最も歴史があり、多くのスケーターに門戸が開かれていて、身近な存在であるという点でAJSA(日本スケートボード協会)は外せないだろう。
なぜなら、日本で明確なピラミッド型のコンテストシステムを確立している唯一の組織だからだ。

まず多くの方が最初に出場するのが全国各地のアマチュアサーキット。3戦行われる東北、関東、中部、関西、九州の5地区を勝ち抜いたランキング上位10名と、北海道、北陸、中四国、沖縄選手権の上位5名に全日本アマチュア選手権の出場権が与えられ、そこで上位8名に入ると晴れてプロライセンス獲得となる。

2019年の全日本アマチュア選手権よりプロ昇格が決まった瞬間。この喜び方がハードルの高さを物語っている

ただここのハードルがかなり高い。特に東京オリンピック以降はエントリー数の増加が顕著で、関東では100名オーバーが当たり前になりつつある中で、地区予選を勝ち抜き、全国の猛者たちと8枠の座を争うのだから想像に難くない。

それにプロライセンスを得たからといっても、当然そこがゴールではない。今度は国内No.1の座をかけた年間3~4戦行われるプロ戦が待っているし、そこで上位に入ることで、世界が現実として捉えられるようになるといって差し支えないだろう。

他は基本的に映像審査や実績などを通じて出場選手を決める「招待制」をとっていたり、一方で地区大会はあっても各地域に実行委員会が存在しておらず、本部が各地に赴いて運営しているのが現状だ。だからこそ年間20戦以上行われているAJSAは、最も「日本のスケーターを育てている」存在であり、世界的スケーターへの登竜門になっていると言えるだろう。

それはたった5~6年前の写真を振り返るだけで、強く実感していただけると思う。

過去には多くのトッププロが参戦

背景にはハングル文字やASIAN OPENのバナー。AJSAは過去に韓国で開催した実績を持つ

まずは先日のWORLD SKATEドバイでの優勝が記憶に新しい根附海龍。2018年6月に韓国のYONGIN JUKJEON X-PARKで開催されたASIAN OPENにて、夕陽に映えるバックサイド・ヒールフリップ。当時の彼は決勝に進出してはいたものの、11位という結果に終わっている。この6年でどれだけ成長したのかがわかる。

全日本アマチュア選手権のバナーが背景に見える。彼女はレディース選手権にも出場し、2位に輝いている

続いては2018年の全日本アマチュア選手権での織田夢海。男子の猛者も入り交じった中、中部地区を8位で通過した彼女は、予選敗退に終わったものの紅一点での出場となった。また同時開催のレディース選手権にも出場しており、そちらでは2位に。ちなみに当時の優勝は赤間凛音で、3位が西矢椛、5位が中山楓奈と、今見ると凄まじいメンバー構成になっている。

東京オリンピックに出場した白井空良、青木勇貴斗の2名。
2019年に行われたJRSFと共催で行われたJAPAN OPENとプロツアーのムラサキカップより

そして東京オリンピックに出場した2名、白井空良と青木勇貴斗も過去に幾度となくAJSAに出場している。これはどちらも2019年にムラサキパーク東京で撮影した写真になるが、コンテストは異なる。白井空良は2月に開催されたJRSF(Japan Roller Sports Federation 現 WORLD SKATE JAPAN)との共催となったジャパンオープンで、オーリー・セックスチェンジ(ボディーバリアル)トランスファーを披露。青木勇貴斗は11月に開催されたAJSAプロツアーのシーズン最終戦、ムラサキカップでトレフリップ・トランスファーをメイクしている。ちなみに彼はこのときがプロ戦初優勝となった。

2022年7月の関東地区アマチュアサーキット第一戦に出場し、ぶっちぎりの優勝となった小野寺吟雲

それなら最近はどんな有名選手が出ていたの? と思う人がいるかもしれないので、2022年の関東地区アマチュアサーキット第一戦の写真をピックアップ。これは数々の最年少記録を塗り替えている小野寺吟雲の写真になるのだが、実はこのときがアマチュアサーキット初出場。そこで91.33ptと、2位に11ptもの差をつけて優勝を果たしているのだから、さすがという他ない。

ただ彼ほどの実力があれば、もっと早くから出場してもアマチュア戦なら勝てたのではないか? と思う人もいると思う。実際に本人も2019年の全日本アマチュア選手権ジュニアクラスを経て2020年から出場の意志を示していたのだが、同年から始まった新型コロナウイルスのパンデミックにより2年間AJSAのコンテストは全て中止に。そこでようやく出場できたのがこのタイミングだった。

コロナ禍で変わったものと変わらないもの

コロナ禍、東京五輪を経てアマ戦は参加者が急増。練習時間にて我先にとトライする光景も当たり前となった

コロナ禍は世の中に大きな影響を与えたが、それはAJSAも例外ではない。その最たる事例がエントリー数の増加だろう。

関東地区アマチュアサーキットで見ると、コロナ前の2019年の83名、59名、74名のエントリーだったのに対し、再開した2022年は東京五輪によるブームも相まって107名、141名と急増。さらに昨年は149名、114名、84名(ランキングがほぼ確定した最終戦だったためエントリー数は控えめ)と勢いはさらに増した。

同時に組織編成も行われ、エントリーやジャッジングのオンラインシステム導入も一気に進み、今は各エリアの地区サーキットも現場運営以外は事務局が管理をするようになった。また全体の統括を担う事務局長も昨年引継ぎが行われ、公式HPもリニューアルされた。

今年はそんな新体制の2年目となる。パリオリンピックも控え例年以上の盛り上がりが期待されるが、どうなろうとも「選手ファースト」の精神はそのままに、世界で活躍したいと思う選手の登竜門としての位置付けは壊さないように守り続けていくと発信してくれた。

去年の全日本アマでプロ昇格を決めた大場蓮選手。ケガを乗り越えた会心のランに思わず頭を抱え、選手たちが駆け寄る。今年もこんなドラマが見たい

スポーツ化の流れにあっても写真文化はそのままで

昨年のプロ昇格権を獲得した選手たち。現在のコンテストシーンはスポーツ化、アスリート化が進んでいる

このような状況下にある現在のコンテストシーンを見て個人的に思うことがある。
それは「スポーツ競技化」がどんどん進行していることだ。もちろんAJSAは大会の運営を通して普及活動をしている団体であり、HPにもしっかりと明記しているので、目を背けるわけにはいかないというか、見方によっては歓迎すべきという意見もあって当然だろう。
ただ自分が若い頃に魅せられたカルチャーとしてのスケートボードのカッコ良さと、今のスポーツ競技としてのスケートボードはそれぞれ別の道を歩んでいるように感じているのだ。

そこで正直なことを言わせてもらうと、自分はスケートボードコンテストの撮影を「スポーツ大会に赴きスポーツ写真を撮っている」感覚で行ったことは一度もない。それこそマスメディアのスポーツカメラマンとスケートボードフォトグラファーが同じ現場でシャッターを切ったら、全く違うものになるだろうし、マスメディア的なスポーツ写真を撮る方は、あくまでわかりやすさを重視した記録の範囲で切り取っていると思う。
でもスケートボードは元来アートと隣り合わせであり、一枚の中に選手の個性やスタイルを詰めることが本質だと思っている。

そういう写真が撮りたいと長年活動してきたし、コンテスト写真においてもそこは同じだ。その部分を少なからず評価してくれる人がいたからこそ今の自分があると思っている。だとしたら、次はその写真文化をスポーツから入った多くの人と共有していくことが重要ではないだろうか。

今年から新しく始まること

AJSAでは今年から参加選手は全員写真の共有・購入ができるようになった

そこで今年から新しく始まるのが参加選手限定の写真の共有・購入になる。

コンテストの撮影に行くと、今や撮影枚数は1日数千枚に達する。そこをどれだけセレクトして絞っても、毎回数百枚は残る。
すると大半の写真は人目に触れることがないままお蔵入りになってしまうのだが、当然使われなかったものの中にも良い写真はたくさんある。

「どうにかしてもっと多くの写真を共有できないだろうか?」このような想いと共に、最近は参加者の方々から「いつも写真楽しみにしています!」という声を聞くことが増えた。

それらが全て解決するようになったのだ。
手始めに昨年の関東サーキットと全日本アマチュア選手権の写真は参加選手にアナウンスしているのでお気づきの方もいると思うが、自分はスケートボードの写真文化を伝える上で、とても大切なことだと思っている。

では最後にこんな話で締めくくりたい。
ストリートの撮影が一枚の芸術の追求であるならば、コンテストはドラマを切り取っていると思っている。そこに前述の個性やストーリー性のあるライディングカットが欠かせないのはもちろんだが、老若男女問わず現場で見せる笑顔や、時には悔し涙も含めることで、ライディングカットの価値も上がるのではないだろうか。今年はそんな写真も数多く残していきたいと思っている。

シーズンインが待ちきれない。

昨年のAJSA関東地区サーキットの開幕戦にて。老若男女多くの笑顔が溢れた

吉田佳央 / Yoshio Yoshida@yoshio_y_
1982年生まれ。静岡県焼津市出身。
高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。
大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。
2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本の監修や講座講師等も務める。
ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている。

執筆者について
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