2代目オリンピック女王は14歳の吉沢恋、銀メダルには赤間凛音とやはり強かった日本勢!「パリ2024オリンピック」スケートボード・女子ストリート種目

2024.07.30
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記事提供:CURRENT

今回の「パリ2024オリンピック(下記:パリオリンピック)」にてオリンピック競技として2度目となったスケートボード競技。初代金メダリストの西矢椛がパリオリンピック出場権を獲得出来ず、この競技新たな金メダリストが誕生することが確実となった。

22名で行われた予選を勝ち上がった8名は、予選ラストトリックで見事8位に滑り込んだポエ・ピンソン(アメリカ合衆国)、予選ランではフルメイク出来なかったがトリックセクションで見事立て直したライッサ・レアウ(ブラジル)、得意のスイッチトリックで安定したスコアメイクをしたペイジ・ハイン(アメリカ合衆国)、終始安定したライディングでしっかりプレイスメントポジションをキープした中山楓奈(日本)。

そしてランとトリック共に盤石ではなかったにも関わらずこの順位での通過は流石のスキルだったクロエ・コベル(オーストラリア)、浅いキャリアながらここ最近は国際主要大会でも決勝常連組となった今大会の台風の目となっているチェンシー・チー(中国)、独自のトリックチョイスで世界での評価もトップであり決勝ではまだ見ぬ新技の披露が期待される赤間凛音(日本)、そしてパリオリンピック予選の最終2戦で一気にブレイク、世界ランキング1位にふさわしい堂々の予選首位通過を果たした吉沢恋(日本)と誰が勝っても不思議ではない顔ぶれに。

フォーマットは「ラン」は2回トライ中の高い方のスコアを採用、「トリック」は5回トライ中の2つの高いスコアを採用、「ラン」と「トリック」の合計300点満点で優勝を競われた。

【ラン1本目】 

オリンピック独特の雰囲気の中で決勝がスタート。優勝候補筆頭のライッサは序盤で繋ぎトリックである「キックフリップ」をミス。これは予選からタイミングが合っていなかったのか本番でもいきなりミスとなったがこの1トリックのみのミスで71.66ptとまずまずのスコアでスタートした。もう一人の優勝候補であるクロエも中盤での1ミスにより70.33ptとプレッシャーをかけられなかった。

経験豊富なライダーがスコアメイクに苦戦する中、「とにかく楽しみたい」と語っていた吉沢が1本目から見せた。やはりオリンピックの緊張感からか動きの硬さは見え最初のビッグハンドレールでの「キックフリップフロントサイドボードスライド」はギリギリ耐えた、続くハンドレールでの「バックサイドビッグスピンフロントサイドボードスライド」は完璧に決めたがカーブでの「バックサイドテールスライド」も着地が少し乱れたがしっかりリカバリーし唯一のフルメイクで85.02ptのハイスコアをマークし他ライダーにプレッシャーをかけた。

【ラン2本目】 

予選、決勝ラン1本目の調子そのままにライッサは精細をかいてフルメイクならず、金メダル争いに黄色信号か。

一方で東京オリンピック銅メダリストの中山は伝説のスケートビデオ「GirlChocolate」で使われたキーナン・ミルトンの曲でスタート。筆者は個人的に非常にテンションが上がってしまった。

中山は代名詞的トリックの「フロントサイドクルックドグラインド」をビッグハバレッジでスタートしていくと「バックサイドクルックドグラインド」、「バックサイド50-50グラインド」とテンポよく繋ぎ、「バックサイドリップスライド フロントサイドテールブラントスライド」など力強いライディングを見せる。ラストトリックには「フロントサイドボードスライド」までフルメイクで79.77ptをマーク。

優勝戦線に食い込みたい赤間はハンドレールで「フロントサイドフィーブルグラインド」からランをスタートしていくと彼女の代名詞「バーレーグラインドリバート」から「フロントサイド360」、「フロントサイドビッグスピン」など独自の高難易度トリックをしっかり決めて、終盤は「フロントサイド180ノーズグラインド」まで完璧にフルメイクし暫定トップとなる89.26ptをマーク。

吉沢も1本目と同じ構成だったがより完成度上げて86.80ptとスコアアップしたが暫定2位につけた。日本人がトップ1,2,3で「トリック」セクションへ。

【トリック1本目】 

ランでの遅れを取り返したいライッサクロエはそれぞれ1本目をミス。安定してスコアメイクをしているのがスケートボード歴約3年のルーキーであるチェンシーだ。メインセクションの10段ステアでのキックフリップメロングラブを決め86.98ptとハイスコアをマーク。

ランの2本目でペースを掴んだか暫定首位の赤間は女子ライダーでは彼女しかトライしない「フロント270リップスライドフェイキー」を1発で仕留め、92.62ptとここまでのハイエストスコアを叩き出す。ここで離されたくない吉沢はハンドレールで「キックフリップフロントサイドボード」にトライするもミス。

まだ残り4本あるが、ここまでは赤間が優勢の流れで次のトライに。

【トリック2本目】 

巻き返しを狙うライッサは「キックフリップバックサイドリップスライド」をハンドレールで2回目でしっかり決め92.88ptとこの日のハイエストスコアを更新、メダル争いにしっかり踏みとどまった。

アメリカのペイジは得意のスイッチスタンスで「フロントサイド50-50グラインド」をハンドレールで決め86.82とこちらもハイスコア。勢いに乗る新鋭、チェンシーは「キックフリップバックサイド50-50グラインド」をビッグハバレッジで決め89.11ptとスコアを揃えた。

後続にプレッシャーを与えておきたい赤間は「フロントサイド180スイッチ50-50グラインド」をハバレッジでトライ、片方のトラックが掛かっておらず多少の減点になったと思われるが84.07ptのハイスコア。
メダル争いに離されたくない吉沢は「キックフリップフロントサイドボードスライド」をハンドレールで2回目のトライ。これを上手くリカバリーし86.34ptとこちらもまだまだメダル争いの射程圏内につけた。

2本目終了時点で暫定首位は赤間、2位にチェンシーで、共にスコアをフルマークしている2人が勢いをつける。

【トリック3本目】 

このトライで唯一スコアをマークしたのがアメリカのスタイラー、ポエのみ。
スピードをつけてセクションに向かうとバンクトゥでの「トランスファーバックサイド5-0」をギャップレールで決め88.43ptをマーク。3人目のフルマークライダーとなった。

【トリック4本目】

メダル争いに後がないライッサは3本目でもトライした「キックフリップバックサイドスミスグラインド」をハンドレールで試みたがミスし最終トライに全てを賭ける。
中山クロエは共に1トライ目から挑戦している「フロントサイクルックドグラインドをトランスファーハンドレール」 、「フロントサイド50-50グラインドキックフリップアウト」を共に4本目もミスしメダル争いから脱落となった。

このチャンスにメダル圏内を確実にしたいチェンシーも「キックフリップバックサイド5-0グラインド」を果敢に乗りに行くがミス。一気に突き放したい暫定首位の赤間は本人がこだわっていると言っていた、「フロントサイドフィーブルグラインドフロントサイド180アウトフェイキー」に挑んだが惜しくも回転不足となりミス。

優勝争いにはなんとしても決めなければならない、女子の現状での世界最高難易度級のトリック、「ビッグスピンキックフリップフロントサイドボードスライド」をハンドレールでトライする吉沢は「ビッグスピンフリップフロントサイドボードスライド」を2トライ目にして見事にメイクし96.63ptと本日のハイエストスコアを更新すると共に逆転で首位に立った。

この日一番の歓声となった会場とは裏腹に吉沢は非常に落ち着いた表情とリアクションで両手を突き上げた。

【トリック5本目】

約3年に及ぶパリオリンピックの集大成となるラストトライ。
アメリカのポエはアールトゥバンクでの「バックサイド540ノーズグラブ」にトライし会場を盛り上げたがミスし、合計222.34ptの5位で今大会を終えた。

ランでの出遅れが響き優勝は難しいポジションとなったライッサは暫定3位のチェンシーまで77.02ポイント差。このポイント差を詰めるべくハンドレールでの「キックフリップフロントサイドボードスライド」にプラン変更し見事一発でメイクすると、88.83ptと暫定3位に順位を伸ばした。

アメリカのペイジ・ハインは「スイッチフロントサイドスミスグラインド」をハンドレールでトライするもミスとなり6位で今大会を終えた。ペイジのスイッチトリックは今後非常に楽しみだ。

中山は「フロントサイドクルックドグラインド」をトランスファーハンドレールで今回のトリックでは一貫して挑戦したが決め切ることはできず7位で2回目のオリンピックを終えた。しかし、彼女の表情は非常に晴れやかでやり切った印象だと筆者には見えた。

今大会予選から波にのきれていない印象だったクロエ中山同様最後まで自分のトリックを貫き通し「フロントサイド50-50グラインドキックフリップアウト」を挑んだが決めきれず8位で初めてのオリンピック大会を後にした。

逆転で3位を狙うチェンシーは、ターゲットとなるライッサとは11.81ポイント差であるため98.80ptが必要となった最終トライ。徹底して「キックフリップバックサイド5-0グラインド」をハバレッジでトライしたが決めきれず。ただスケートボード歴約3年のオリンピック初挑戦は堂々の4位フィニッシュとなった。
ペイジ同様今後が非常に楽しみなライダーの一人であることは最近の国際大会、そしてこのパリオリンピックでも十分に証明してみせたのではないだろうか。

これで金メダル争いは日本勢の2人に絞られた。逆転での金メダルには87.20ptを出す必要がある。赤間が4トライ目から挑んでいるハンドレールでの「フロントサイドフィーブルグラインドフロントサイド180アウト」はそのスコアを出す十分な可能性を持っている。しかし逆転をかけた注目の最終トライは無情にも着地でミス、この瞬間吉沢の金メダルが確定となった。

4トライ目でのミスから精神的に少し追い込まれたか、涙を浮かべていた赤間
最終トライでも立て直せないままの滑走になったか初めてのオリンピック挑戦は悔しい2位、銀メダルとなった。

ウイニングランとなった吉沢はラストもハンドレールで「ハリケーングラインド」をしっかり決め、89.46ptとさらにスコアを伸ばし、最終予選大会から勢いそのままにオリンピック2代目女王となり金メダルを獲得した。

大会結果

1位 : 吉沢恋(日本)272.75pt
2位 : 赤間凛音(日本)265.95pt
3位 : ライッサ・レアウ(ブラジル)253.37pt

4位 : チェンシー・チー(中国)241.56pt
5位 : ポエ・ピンソン(アメリカ合衆国)222.34pt
6位 : ペイジ・ハイン(アメリカ合衆国)163.23pt
7位 : 中山楓奈(日本)79.77pt
8位 : クロエ・コベル(オーストラリア)70.33pt

最後に

パリオリンピック最終予選となったOQS2024の勢いそのままに金メダリストとなった吉沢は終始安定した滑りを見せての初挑戦で頂点に立った。一方で独自のトリックチョイスとセンスで惜しくも銀メダリストとなった赤間も非常に紙一重の戦いだった。

明暗を分けたのは「メンタル」だったように感じた。当然プレッシャーはあったと思うが、終始本人も公言していた「楽しむ」ということに徹していた吉沢とメンタルでは非常に強い印象の赤間が4トライ目で少し動揺が見えたその差がメダルの色を分けたのではと推測する。本当に紙一重だった。

ライッサもこれまでは一度崩れると大会中ではなかなか立て直せない傾向にあったが今大会ではしっかりプレイスメントを意識した戦い方で見事2大会連続のメダル獲得となった。

クロエも同様ランで掴めなかった流れを再び引き戻すことはできず8位で今大会を終えた。一方で古豪アメリカ勢は今後の兆しを見せる5位と6位へランクイン。ペイジは次大会も非常に楽しみな存在だ。またポエは終始自身のスケートボード感を貫き通して結果的にも決勝に進む、スケートボード本来の姿で評価を得ていたように感じた。

ライッサ同様2大会連続メダルが期待された日本の中山もランでは良いポジションにつけたがトリックセクションではスコアを残すことができず7位で2回目のオリンピックを終えた。

最終予選からパリオリンピック本戦で話題として欠かすことのできないのが中国勢の存在だ。再三言っているがスケートボード歴約3年でオリンピック4位になったチェンシー

他にも後一歩で決勝進出を逃した13歳のシュなど新世代の活躍は今後の世界での勢力図を大きく動かしてくるだろう。また12歳で最年少出場となったタイのスカセムなどアジア全体のレベルが日本だけでなく非常に上がっているので、今後はブラジル、アメリカ、ヨーロッパ勢などがどのようにこの「アジア強国」時代をひっくり返しにくるかも楽しみだ。

そして何よりオリンピックとして、スケートボード競技では初めての有観客開催となった。予選からスタンド席は超満員でライダーの1トリック1トリックに大きな歓声が上がりこれも本来のスケートボードの良さではないだろうか。さらには国を超えて他国のライダーにもトリックを決めると大歓声が起き、ライダーもそれに応える。まさに会場が一体感となっていた。

ルール面では「ラン」がスコアのマスト採用となり、東京オリンピックでは「ラン」でスコアメイク出来なくても「トリック」セクションでの逆転の可能性があったため最後の最後まで諦めないライダーも多く、観ている人たち(無観客なので視聴者)も最後まで逆転の可能性に手に汗握る展開だった。

一方で今回のパリオリンピックでは「ラン」でフルメイク出来なかったライダーは相手のミス待ちという傾向のため、「ラン」をフルメイクしたライダーが序盤のトリック2トライでスコアを揃えてしまうとモチベーションを維持するのが難しくなっっているように感じた。

これにより「ラン」の時点でのある程度の順位が見えてしまうレギュレーションは筆者としては少し物足りなく感じてしまった。ただそれだけシビアに正確性と技術が要求されるためレベル自体は非常に上がっていることは間違いない。

東京オリンピックからパリオリンピックでルール変更が行われた。
今後これらのルール改正がどのように行われるかも非常に注目要素である。

そして、目まぐるしく世界のトップ争いが変わる女子ストリート。
新たなオリンピック女王となった吉沢恋も一転終われる立場になったことでまだまだ上手くなる要素だらけだ。

4年に一度のオリンピックは一旦幕を閉じたがスケートボード女子ストリートの戦いはまだまだこれからも続いていく。

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