日本女子ストリートの戦国時代がいよいよ本格化か?!「第7回マイナビ 日本スケートボード選手権大会」女子決勝

2024.10.08
記事提供: CURRENT

今回で7回目の開催となった「日本スケートボード選手権大会」。パリ五輪にて金メダリストの吉沢恋、同じく銀メダリストの赤間凛音など、日本人ライダーの活躍、彼女らの出場により注目が集まった今大会の女子ストリート種目。
熾烈極める日本女子ストリートの決勝に名を連ねたのは、尾関萌衣大西七海上村葵丹野莉愛松本雪聖赤間凛音吉沢恋織田夢海の8名となった。

ラン1本目】

まずランの1本目で良い動きを見せたのは次世代で注目株の一人、宮城出身の丹野莉愛だ。

丹野莉愛のライディング

スピードに乗った「フロントサイドリップスライド」でスタートしていくと、勢いそのまま減速することなく「キックフリップ」、再びハンドレールで「フロントサイドフィーブルグラインド」、ラストはバンクを利用した「バックサイドビッグスピン」と終始流れるようなフロウでフルメイクし70.37ptと決勝で最初の70点台をマークし後続選手にプレッシャーをかけた。

優勝候補の一人、熊本の松本雪聖も終盤まで完璧なランを見せたがラストトリックを決めきれず70点台には届かなかった。

1本目から貫禄を見せたのがパリ五輪女王の吉沢恋だ。

吉沢恋のライディング

「キックフリップフロントサイドボードスライド」でスタートすると、「バックサイドリップスライド」、「ブラントストールフロントサイド180アウト」などを織り混ぜながらパークの構造を上手く利用していき「バックサイドノーズスライドビッグスピンアウト」、最後はハンドレールで「バックサイドスミスグラインド」を難なく決め75.58ptとトップで1本目を終えた。

ラン2本目】

2本目では次世代注目株の一人、兵庫の大西七海が安定したランをしっかりフルメイクし71.16ptとハイスコア、丹野もハンドレールのトリックをアップデートして73.46ptとスコアを上げてきた。

松本はラストトリックのバンクから飛び出す「ビッグフロントサイド180」を狙ったが1本目同様にミス、足の怪我がまだ本調子ではないのかランでフルメイクすることはできなかった。

後続をさらに突き放したい吉沢もバンクトゥバンクのトリックを「トレフリップ」にアップデートし78.56ptとさらにスコアを伸ばした。

優勝争いにはランでのハイスコアが必須な状況で1本目にフルメイクできずプレッシャーのかかる中、見事に跳ね除けたのがパリ五輪銀メダリストの赤間だ。

赤間凛音のライディング

得意の「バーレーグラインドリバート」でスタートしていくと「バックサイドスミスグラインド」、返しのバンクトゥバンクで「フロントサイドビッグスピン」と得意トリックを確実に繋いでいく。さらには「フロントサイド270リップスライド」、ラストは下りのレッジで「フロントサイド180ノーズピックグラインド」を決めフルメイクし78.56ptと吉沢を0.04ポイント差でピッタリ付ける形でマークした。

1本目のフルメイクで感触を確かめ2本目は確実に上げてくると予想されたのはディフェンディングチャンピオンの織田

織田夢海のライディング

「キックフリップフロントサイドボードスライド」を皮切りに「バックサイドオーバークルックドグラインド」、返しで「フロントサイドブラントスライド」、ピラミッドでは「バックサイドキックフリップ」、ラストは「キックフリップバックサイド50-50グラインド」と完璧にフルメイクし76.22ptとこちらも吉沢赤間をピッタリマークした。

ランを終えて暫定首位は吉沢、次いで赤間織田丹野大西となりここまでが70点台をマークしている状況でトリックセクションへ。

トリック1本目】

1本目でいきなりハイスコアをマークしたのが地元開催となった大阪の上村葵。前日に足を痛めていた影響からかランでは精細を欠いてしまった上村だったがトリックセクションでいきなり見せた。
バンクトゥスロープレールで「バックサイドノーズブラントスライド」を完璧に決め、ファイナリスト最初の80点台となる81.24ptをマーク。身体の調子が万全ではなく歯痒い思いをしていたが、これには本人も納得の笑顔だった。

これに続いたのが赤間。「ハリケーングラインド」を決め80.82ptをマーク。

赤間凛音のライディング

トリック2本目】

2本目ではランで出遅れた松本が「キックフリップフロントサイドボードスライドフェイキー」を完璧に決め81.20ptのハイスコアで遅れを取り戻しにかかる。
一方で1本目でスコアメイクしたライダーが次々とミスする中、ここで織田が伝家の宝刀を披露。

織田夢海のライディング

前回大会もこの技で制し、数々の世界大会でも世界最高得点を叩き出してきた「キックフリップフロントサイドフィーブルグラインド」を完璧に決め92.30ptと今大会女子で初の90点台をマークした。

そしてファイナル最初のフルマークを達成したのが赤間だ。ハンドレールで「フロントサイド270リップスライド」を1発で仕留め1本目同様80.82ptをスコアすると暫定首位に立った。

トリック3本目】

3本目では、大西が「バックサイド50-50からのキックフリップアウト」をスロープレールで決め80.33ptとスコアをフルマークした。続く丹野は「バックサイド270リップスライド」を決め86.71ptとここまで織田に続く2番目に高いスコアを出し優勝争いに可能性を繋いだ。

丹野莉愛のライディング


さらに松本がこれを凌ぐスコアを叩き出した。「キックフリップバックサイドリップスライド」をハンドレールで決め、88.04ptのハイスコアを出しフルマークし暫定2位に浮上。ここまで暫定首位は赤間、続いて松本丹野大西とここまでがフルマークして折り返す展開に。

トリック4本目】

そして勝負が動いたのがこの4本目だ。まずは上村がハンドレールで「フロントサイドブラントスライドショービットアウト」をお手つきしながらも決め80.07ptをマーク。お手つきがなければ90点近いスコアの可能性もあっただけに今後に期待を寄せられるトライとなった。

ここまで苦戦していた尾関萌衣も「キックフリップフロントサイドボードスライド」をバランスを崩しながらもなんとか持ち堪え69.24ptとスコアをフルマークし今後に繋げた。これからの活躍が楽しみな岐阜出身の12歳だ。

一気に勝負を決めたい織田。「バックサイドクルックドグラインドノーリーキックフリップアウト」を寸分の狂いもなく完璧に決め93.35ptとフルマークと同時に首位に浮上。

織田夢海のライディング

ここまで3回の失敗で後がなくなった吉沢。トライし続けるのはパリ五輪で金メダルを掴み取った技だ。

吉沢恋のライディング

「ビッグスピンフリップフロントサイドボードスライド」をここでようやく成功し90.30ptをマークし優勝争いに望みを繋いだ。ここ一番の勝負強さはやはり彼女の持ち味だろう。

優勝争いに食い込むためにも、さらにスコアアップを狙いたいのは赤間

赤間凛音のライディング

「フロントサイドフィーブルグラインドフロントサイド180アウト」を決めた。
本人も乗れると思わなかったのか驚きの表情が溢れ出した。スコアは89.24ptと僅かに90点台には届かなかったが暫定3位につけた。

トリック5本目】

勝負をかけなければならない最終トライ。暫定首位を走るディフェンディングチャンピオンの織田はスロープレールで「キックフリップバックサイドスミスグラインド」を狙うも決められず後続の結果を待つことに。

表彰台圏内を狙うべく大西が繰り出しのは「フロントサイドブラントスライドキックフリップアウトフェイキー」だったが惜しくも決められず。

次々とミスする中、上村も「バックサイド180スイッチフロントスミスグラインドリバースアウト」、通称ベネットグラインドリバートを狙ったが惜しくもトラックがしっかりかからず18.72ptとなった。

逆転での優勝には92.98ptが必要な吉沢
彼女の実力なら十分出せる可能性のある得点差で選んだトリックは。

吉沢恋のライディング

「ハリケーングラインド」でスコアは80.78ptと暫定2位に浮上。
後がないトライだったので成功率の高い得意技で確実に表彰台を狙ったのだろう。このあたりの勝負勘鋭さは15歳とは思えない非凡なものを感じ、数々の世界大会で優勝争いをし身につけてきたものだろう。

女子決勝の締めくくりとなる赤間。優勝するには96.08pt、2位を獲得するのは81.89ptが必要な状況だ。彼女が最後に選んだトリックはスロープレールでの「バックサイドスミスグラインドフロントサイド180」だったが決めきれなかった。この瞬間織田の日本スケートボード選手権2連覇達成が決まった。

織田の優勝を称えるライダーたち
優勝した織田と準優勝の吉沢
※3位の赤間は都合により表彰式へは不参加

【大会結果】

パリ五輪出場を逃して悔しい思いをしていた織田夢海が連覇という形で終えたマイナビ日本スケートボード選手権大会女子。やはり一発の爆発力では織田が優勢だった。またパリ五輪女王の吉沢恋も勝負所をよく理解しており、戦略家であることを今大会で示した。

独自のトリックチョイスで世界から高い評価を受けている赤間凛音も「ビッグスピンヒールフリップ」や最後に見せた「バックサイドスミスグラインドからのフロントサイド180アウト」という可能性がさらに広がる動きを見せ今後にも期待させる動きを見せた。

次世代筆頭株である上村葵も足の怪我が惜しかったもののベストトリックで見せた「バックサイドノーズブラントスライド」、「フロントサイドブラントスライドショービットアウト」、さらには「ベネットグラインドリバート」などこれまでより一皮剥けつつある印象でこちらも非常に楽しみな要素となった。

そして、次世代でさらに新鋭の登場となった今大会。まずは徐々に頭角を表していた兵庫出身の大西七海。ランでも70点台と着実にベースをあげてきており、トリックセクションではレールでの「バックサイド50-50からのキックフリップアウト」は世界女王のクロエ・コベルを彷彿とさせる動きであり、さらにはスロープレールでみせた「フロントサイドブラントスライドキックフリップフェイキー」(こちらは惜しくも決まらずだったが)など日本女子トップ常連組を脅かすトリックを持っていることを証明した。驚いたのがこのトリックを思いついて初めて成功したのがこの大会の1週間前だったという。これを本番でトライするスケートボーダーマインドも今後の可能性、期待を持たせる逸材だ。

もう一人、宮城出身の丹野莉愛も今後の注目ライダーだ。スピード感のあるライディングで一つ一つのトリックの完成度が非常に高い。ランではベーシックなトリックが中心だが決してスピードで誤魔化しているようなライディングではなくしっかり成功させると同時にフロウも持ち合わせている。

ランで見せた「バックサイド360」や「バックサイドビッグスピン」も女子ライダーではあまりトライするライダーはおらず非常に楽しみだ。トリックセクションでも同郷の先輩である赤間とは逆の「バックサイド270リップスライド」をハンドレールで決めるなどこちらも非常に今後楽しみなスキルだと筆者は感じた。ただ、これら以外のトリックがまだ発展途上なのか見受けられず今後に期待といった評価となった。

今大会のファイナリストに加え、不出場となった東京五輪女王の西矢椛、東京五輪銅メダリストでパリ五輪ファイナリストの中山楓奈、今年X Gamesなど数々の世界タイトル獲得や表彰台に登っている伊藤美優など世界ランカーを多く有する日本女子ストリートの戦国時代がいよいよ本格化していく予感を強く感じさせる大会となった。

最後に

最後に一つ筆者が大きく気になったのが、ジャッジがスコアを付ける際にリプレイ検証がなかったことだ。これだけ複雑化してきた難易度の高いトリックが連発している中、リプレイを見ずにトリック判定が正確に出来るものなのだろうか?

現に準決勝で赤間がトライした技で本人はスコアマークの意思を示していたが、ジャッジの判定はしっかりトラックがかかっていなかったということで非常に低い点が出て赤間自身が困惑している表情が映し出されていた。

現在のルール上、完璧に決まっていなければ減点となり次に同じトリックを完璧に決めたとしても前のトライが練習とみなされ大幅な減点となる。このためライダー自身がスコアをマークしない意思を表示することによって次に同じトリックを完璧に決めればしっかりフルで得点が出せるのである。

このため赤間はしっかり決まっていないのであれば意思表示をするものと思われたが、これをしなかったということは本人の中では決まっているという判断だと推測した。ジャッジ次第では本人も違うトリックで挽回しようと切り替えたのかもしれないが、日本代表に入るなど結果を大きく左右しかねないジャッジのスコアに掛かる部分だと思うのでこちらはなんとも疑問の残る部分だったと感じてしまう。今後の大会はもっと選手たちに寄り添った形で大会運営がなされることを期待している。

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