復活とリベンジ。第二回日本オープンはドラマチックな幕切れに

2023.04.17
text & photo by Yoshio Yoshida

「パリ五輪へ向けたラストチャンス」

2023年4月12日~16日にかけて開催された第2回スケートボード日本OPEN、ストリート種目の立ち位置はそんなところだろう。
今後本格化していくパリ五輪出場権獲得レースだが、そこに参戦するためには、まずは強化指定選手に選ばれることが非常に重要になる。今大会はその選考を兼ねた今年最後のチャンスになり、国内での戦いはここで一旦決着となる。

そのためすでに強化指定選手枠をゲットしている堀米雄斗や白井空良、西矢椛といった世界ランカーは出場していないので、一般の方からしたら盛り上がりに欠けるのかもしれないが、裏を返せば新たなスター候補生の出現、シンデレラストーリーの序章になる可能性を秘めた大会でもあるのだ。

現在のスケートボードシーン、特に女子においては短期間で目まぐるしく状況が移り変わるので、そのようなことが起こっても決して珍しいことではない。

ただ、今回はそれ以上にドラマチックな戦いが待っていた。

ニューヒロインの誕生

今大会一躍脚光を浴びた松本雪聖。キャバレリアルフロントサイドボードスライド

まず今大会台風の目となったのが、決勝では惜しくも2位に終わったものの、予選、準決勝ともに1位で通過した松本雪聖だろう。
決勝進出者の中では最年少の11歳と、まさに新星という言葉が似合う存在ではあるのだが、その滑りの中身、特にビッグトリックにおける安定感はすでに日本トップクラス、いや世界レベルといって差し支えない。

そもそも彼女は昨年7月に行われた日本スケートボード協会の九州地区アマチュアサーキットにて、並み居る男子の猛者を抑え、見事優勝を果たしたことで一部関係者の間では注目を浴びる存在だった。

ただアマチュアの地区予選の出来事だったので大々的に報道されることはなかったが、同年にプロ昇格を果たした選手を抑えての出来事であったし、西矢椛や西村碧莉といった世界のトップに立った選手も成し得なかった女子史上初の快挙だったので、筆者として個人的に注目はしていたのだが、ここにきて更なる進化を見せたことでようやく花開いたといった印象だ。

その彼女の進化が、複合系と呼ばれる複数の技を組み合わせたトリックを取り入れるようになったこと。それは決勝のラストで成功させたキャバレリアル・フロントサイドボードスライドというトリックから見て取れる。これは通常とは逆の進行方向に進み、お腹側に360度回りながらボードのボトム部分で滑る技なのだが、昨年までの彼女なら、アプローチの際にトリックを加えることがなかったので、そこが最も進化した部分になる。

ただ今回はメインの大きなレールではなく少し小さめのレールだったので、今後世界で勝つためには、大きなレールでもできるように完成度を高めることや、違うトリック系統で複合技のバリエーションを増やすことが必要になってくるだろう。

伸び代とポテンシャルは十分なだけに、今後どう進化していくのかが最も気になる選手のひとりである。

ギャップ to フロントサイドノーズグラインド。こういったセクションの安定感はピカイチ。

劇的な復活を遂げた元日本チャンピオン

本人曰く「まさかの勝利」でもその裏にはしっかりとした成長を感じることができた。

だが今回そんな松本を抑えて優勝したのは、予選も含めて出場最年長の藤澤虹々可だった。今回の優勝はまさに紙一重の勝利ではあったのだが、その裏には彼女の成長も感じとることができた。
そもそも彼女はWORLD SKATE JAPANの前身であるJRSF時代に開催された2019年のジャパンオープンを制した経験を持ち、数々の世界大会の出場経験を持つトップスケーターなのだが、そのキャリアはケガとの戦いでもあった。

もともとポテンシャルは十分だったものの、安定感という意味で勝ちきれない時期もあったのだ。緊張から頭が真っ白になってしまい、本来の力を出しきれない。挙げ句の果てにはケガまでしてしまう。そんなところを今までに何度も見てきた。だがそんな彼女も20歳を過ぎ、いろいろな経験を重ねたことでメンタル的に非常に逞しくなったのだろう。

今回はベストトリックで4本目からの大逆転勝利だったのだが、もう後がない状況に追い込まれても「頭で考えても仕方がないので、いつも通りラフにやろう」と切り替えたことが大逆転勝利を呼び込んだのだが、それこそが経験の成せる業といえるのではないだろうか。

潜在能力は十分なだけに、メンタルの成長が今後どういう成果をもたらしてくれるのかが非常に楽しみだ。

少しトリックがわかりづらいかもしれないが、それも彼女のオリジナリティ。フェイキー・バックサイドリップスライド

安定した実力を披露した銅メダリスト

今回のメンバーでは抜きん出た実績の中山楓奈。バックサイド・オーバークルックドグラインド。

そしてその2人には及ばなかったものの、中山楓奈は今回も安定した実力を見せてくれた。
相変わらず彼女のフロントサイド・クルックドグラインドはスペシャルだし、バックサイド・オーバークルックドグラインドなどの進化も見られた。

ただ今回の大会は、彼女ほどの実績がある選手であれば出る必要はないのでは!? と思った方もいるのではないだろうか。そこに関してはWORLD SKATEのポイントは多く持っているものの、昨年11月の全日本選手権で上位5名に与えられる強化指定選手の枠に入れなかったことなどが理由にあったのではないかと思う。
ただ今回3位に入ったことでそこもクリアできたので、今後は世界との戦いに向けて、自身の滑りをさらにグレードアップしていってくれることだろう。

女子ストリートシーンの傾向

伊藤美優と原田結衣のキックフリップ・フロントサイドボードスライド。 彼女たち以外に中山楓奈もヒールフリップ・フロントサイドボードスライドにトライしていた

以上が女子ストリートのリザルトとなったわけだが、決勝のベストトリックでトリックを分析すると、いよいよ女子も本格的に複合トリックの時代になってきたことがわかる。
この2枚の写真は伊藤美優と原田結衣双方が披露したキックフリップ・フロントサイドボードスライドなのだが、それが状況を的確に表しているのではないだろうか。このトリックは彼女たち含め、決勝で3名がトライしていたことが何よりの証拠。

数年前までの女子の世界は、ハンドレールなどのビッグセクションは「できるだけで凄い」時代だったのだが、世代が入れ替わった現在は、できるだけでは勝てなくなっている。そこから発展した結果が「回しトリックから入る」というひとつの流れを作っているのだと感じた。

ただ他の人と同じことをやっても、勝利には結びつきづらい。今後はいかにオリジナリティあるトリックをメイクできるかが重要になってくるだろう。藤澤虹々可がベストトリックで逆転できたのは、その点で勝っていたから薄氷の勝利につながったのではないかと思う。

“その時”メイクできた選手が勝つ!?

優勝した長井太雅。バックサイド270・ノーズブラントスライド

続いては男子ストリート。
こちらはスケートボード全種目の中で最も層が厚く、群雄割拠という言葉がピタリと当てはまる。それゆえ誰が優勝しても決しておかしくない状況であったかと思う。

「その時乗れた人が勝つ」

今大会の立ち位置もあって、非常に不確実性の高い状況にあったかと思うが、今回は長井太雅がリベンジに見事成功するという結末となった。

圧倒的なハンドレールトリックレパートリー

土壇場で執念のメイク。バックサイドビッグスピン・ハリケーングラインド。

今回彼が優勝できた最大の理由は、中央にあるメインのハンドレールでの高難度なトリックを何本も持っていたことだろう。
その証拠に通常ならビッグトリックで披露するレベルのビッグスピン・フロントサイドブラントスライド・ショービットアウトをランで披露。そしてベストトリックではバックサイド270・ノーズブラントスライドと、バックサイドビッグスピン・ハリケーングラインドを披露。

各トリックの解説までするとかなりの文字数になるのでここでは割愛させてもらうが、自身の得意とする動きを熟知した上で、それを活かしつつも多彩なバリエーションで構成できたことが見事勝利につながったのではないかと思う。

喜びのあまりハグ。仲間と喜びを讃えあう姿は今も昔も変わらない

たった1トライのほんの少しのズレ

佐々木音憧のビガースピンフリップ・フロントサイドボードスライド。左には同じく決勝に進んでいた実兄、来夢の姿も

そして惜しくも2位となってしまった佐々木音憧。
彼も滑りの中身では全く引けを取っていなかったが、ベストトリックでバックサイド270キックフリップ・ボードスライドがメイクできなかったことが、今回は勝敗を分けることとなってしまった。
それが乗れていればカウントされる3トリックの全て90点以上となり、優勝を果たしていた可能性も大いにあったと思うが、たった1トライのほんの少しのズレが勝負の綾となってしまった形だ。
それでもここ最近の彼はどんなコンテストにおいても安定した成績を残しているので、そういった意味では今後のコンテストでも必ずや上位に食い込んでくるだろう。

幅広くなった採点の傾向

池田大暉による奥のバンクを使って、かなりの幅を跳んでのフロントサイド・フィーブルグラインド。最近はこういったセクション使いも高得点に繋がるようになってきた

3位の池田大暉だが、彼に関してはベストトリックの3本目に披露したギャップ to フロントサイドフィーブルグラインドにフォーカスしてお届けしたい。

もともと彼は、上位2名のようなテクニカルな動きや組み合わせで勝負するというよりも、技はシンプルでもひとつひとつのトリックの完成度がものすごく高いことに特徴がある選手なのだが、そういった意味でのこのトリックは、ある意味的を得たセレクトだったと言える。ただ興味深いのは、このトリックが90.11ポイントで今回の彼の最高得点となったことだ。

そしてそこには最新のジャッジングにおけるひとつの傾向があると思っている。今まではどのパークにもメインとなるハンドレールやハバレッジがあり、そこで誰もやったこのないトリックに成功した人が勝つという流れのようなものがあったと思う。しかし今は会場全体をいかにうまく使うか、そしてどれだけトリックバリエーションを増やすかといったところにも重きが置かれるようになってきたのではないだろうか。

点数自体も今回から300点満点でより細かく点数化されるようになったが、その背景には、おそらくではあるが最近の男子ストリートで繰り出すトリックレベルが非常に高くなり、甲乙つけがたいところにまで到達したからというのが一因ではないかと思う。ゆえに、より総合力が求められる時代になったことは間違いないだろう。

今後の戦い

これをもってパリ五輪へ向けた戦いは世界へ舞台を移していくこととなる。これから強化指定選手たちが目指すのは、2024年1月31日までに設定されているフェーズ1でポイントを稼いで上位44選手へと入り、2024年2月1日から2024年6月23日の間に開催されるフェーズ2への出場件を獲得することになる。

そこにはいったいどんなドラマが待ち受けているのだろうか。
さらに進化を遂げた選手たちの戦いが今から楽しみだ。

【RESULT】

ストリート女子/

1位 藤澤虹々可 Nakala FUJISAWA 198.99 pt
2位 松本雪聖  Ibuki MATSUNITO 198.87 pt
3位 中山楓奈  Funa NAKAYAMA 189.50 pt

ストリート男子/

1位 長井太雅  Taiga NAGAI 278.07 pt
2位 佐々木音憧 Toa SASAKI  271.23 pt
3位 池田大暉  Daiki IKEDA  266.93 pt

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