「スケートボードは楽しいもの」を伝えるために。世界一を目指し挑戦を続ける若武者、永原悠路の今の思い。

2023.05.10
Text & Interview by 畠山大樹

東京オリンピックでの女子日本代表選手たちのメダル獲得による大活躍で認知度と人気を更に引き上げた「スケートボード・パーク種目」。日本国内では女子選手に注目が集まりがちのこの種目だが、今大注目すべきは男子選手なのだ。そんな日本のスケートボード・パークシーンをネクストレベルに引き上げるべく世界最高峰の舞台へ挑戦を続けながら、日本人男子初の快挙を次々と打ち立て今世界一に一番近い日本人若手スケーターがいる。

それが現在国内大会3連勝中の17歳、永原悠路選手(所属:太陽ホールディングス)だ。日本での圧倒的な強さはさることながら世界の名だたるトップ選手たちにも引けを取らないライディングで、世界が今大注目している彼は、東京オリンピックへの出場を逃した悔しさからパリオリンピック出場に向け、現在新技の習得と自身が得意とする豪快なトリックを日々極め続けている。

今回はそんな日本の成長株の永原選手をインタビュー。彼がスケートボードを始めたきっかけから直近の活動状況について、そして今後の目標と彼が話す「スケートボードは楽しいもの」という言葉に込められた真意に迫った。

永原悠路(ながはら・ゆうろ) 以下: Y

国内大会3連勝の実績と最高難度の新技を引っさげ挑む2023シーズン

国内大会3連勝目となった日本OPEN

先日は日本OPEN優勝おめでとうございました。今大会で国内大会3連勝という事ですが今の心境を聞かせてください。

Y:前回の日本OPENと去年の11月にあった日本選手権でも1位を獲り続けてきていたので、ここで負けたくないという気持ちが強かったです。今回の大会は個人的には不完全燃焼だったのですが、しっかり1位を獲ることができてほっとしています。

今大会は決勝が雨天で1日延期となったイレギュラーな大会でもありましたが、準備や調整は上手くいきましたか?

Y:この大会間近まで、パークで滑る技術をさらに上げるためにアメリカで練習をしていました。会場となった笠間のパークで乗っていたわけではないので現地での練習は少なかったのですが、みんなと対等に戦えたので今回は良かったかなと思います。

日本OPENでのライディング
photograph by Yoshio Yoshida

ちなみに不完全燃焼だったと仰られましたが、何がやり切れなかったのでしょうか?

Y:決勝ラン3本目の最後にトライした「バックサイドキックフリップ・リップスライド」という新しいトリックでミスしてしまったことです。準決勝でもやろうとしたんですがそこでも乗れませんでした。今回は結局一度も乗れずに終わってしまったことが不完全燃焼でしたね。

新しいトリックといえば、最近「バックサイドキックフリップ・ボディバリアル・540(以後”フリップ540”)」という大技を習得されたとのことですが、習得を決めた経緯はどういったものでしたか?

Y:個人的にパリオリンピックでは絶対必要になってくるトリックだなと感じていたので、早い段階で習得しておきたかった感じでしたね。

他にもたくさんの高難度トリックがある中で、どうして「フリップ540」を習得しようと思ったのでしょうか?

Y:仰る通り、スケートボードにはトリックが山ほどあるので、もちろん「フリップ540」だけに限らず色々な技にこれからもチャレンジしていきたいです。
ただ今回このトリックを選んだ理由としては、僕が憧れている海外のトップ選手はほぼ全員がこのトリックを大会でメイクしているので、それを見ていてカッコいいなと思いましたし、他のトリックと比べた時に自分もこのトリックをやってみたいという気持ちは強かったので習得することにしました。

フリップ540を初めてメイクした映像

このトリックを習得するまでに苦労したことがあれば教えてください。

Y:苦労したことは本当に恐怖心との戦いだったのですが、アメリカのサンディエゴに行って練習している間はトップスケーターたちと滑る機会が結構ありました。

彼らと一緒に滑っている毎日は気分が上がってすごい楽しく練習が出来ていて、そういう練習の中では怖さも忘れてこのトリックにトライできることも多かったので、格上のトップスケーターたちと一緒に滑って刺激を受けながら練習できたことがこのトリックの習得の早さに繋がったのかなと思います。

最近、いきなりこのトリックをメイクできるようになったのですが、海外でトップ選手たちと一緒に滑っている時も、彼らが常に難しいトリックに取り組んでいるところを見てきて「自分もやらなきゃ」っていう気持ちになったので、彼らが挑戦し続けている姿も自分の後押しになったのかなと思っています。

スケートボードが大好きでとにかく上手くなりたいと思った幼少時代

小学6年生の時に出場した国際大会「Vans Amateur CombiPool Classic」

改めてスケートボードを始めたきっかけを聞かせてください。

Y:お父さんが元々スノーボーダーで、そのオフトレのような感じでスケートボードも昔からやっていました。僕が小さい頃近くの公園へよく散歩に行くことがあったのですが、その道中もお父さんはスケートボードに乗って行くことも多くて、お父さんが滑っているところはよく見ていました。

それからある時自分もスケートボードに乗ってみたいと思うようになって、お父さんのボードを乗らせてもらったのが僕がスケートボードに乗り始めた一番最初のキッカケです。

スケートボードに出会った頃の永原

スケートボードを本格的に競技として取り組み始めたのはいつからですか?

Y:競技としてやるようになったのは小学3年生の時に初めて出場した大会がキッカケです。僕はその大会に出るために初めての県外遠征で三重県にあるスケートパークまでお父さんと車で行きました。そこで自分より年下でも上手い子たちを間近で見て、こんなに上手いスケーターがいたんだっていうのを初めて知ったんです。

それまでは週に1回、2回とかスケートパークに行って練習するような感じだったんですけど、その大会に出てからはスケートボードを毎日やりたいっていうスイッチが入って毎日練習に行くようになりました。なので大会に出場したことで凄い刺激されてもっとスケートボードが上手くなりたいって思うようになったことが本格的に始めたキッカケですね。

小学6年生の時に出場した国際大会「Vans Amateur CombiPool Classic」

そんな永原選手が思うスケートボードの魅力ってどんなところですか?

Y:スケートパークには色々な年齢の人がいて、下は幼稚園生とか小学生から上は社会人まで幅広い年齢層のコミュニティみたいなものがこのスケートボードにはあります。

このような場所で経験する他人とのコミュニケーションは学校に行ってるだけでは覚えられないものがあると思いますし、スケートボードの技術だけじゃなくて人間性も磨けると思うので、そういうところもスケートボードの魅力だと思います。

あとは色々なスポットやスケートパークに滑りに行く中で、日本全国どこでも友達が作れることもスケートボードの魅力の一つかなって思いますね。

勝利の秘訣はどんな状況でも「悔いがないようにやり切る」こと

地元の長野県白馬村にある「TRUE PLAYERS」でのライディング

普段は基本的にどこで練習をされていますか?

Y:最近は色々な大会があるので、国内外本当に色々な場所で滑ってるという感じですが、基本的には地元の長野県白馬村にある「TRUE PLAYERS」というスケートパークで滑って練習することが多いです。

その普段の練習で意識していることはありますか?

Y:最近は大会に向けた勝ちに行くためのトリックの練習が多いですが、アメリカにいた時は新しいトリックをやりたいという気持ちになって、実際にいくつか新しいトリックが出来るようになりました。アメリカにいる時は周りからたくさん刺激を受けるので色々なことに挑戦している感じです。

地元の長野県白馬村にある「TRUE PLAYERS」でのライディング

一方で大会では普段どういうことを意識して臨んでいますか?

Y:国内外関係なく、どんな大会でも毎回悔いがない状態で終わりたいと思って臨んでいます。

基本的には自分のやりたいことだったり、抑えた滑りをしないように攻め切ることが自分の中でやり切ったなと思える状態なので、時には抑えることも必要だとは思いますが、毎回やり切ったという感情になれるように滑ることを意識しています。

大会中に挑戦してミスしてしまったら仕方ないと思いますが、それよりも挑戦もせずに終わることが一番嫌だなって思っています。

「ここで決めなきゃいけない」という状況が大会では結構あると思います。そういう状況下で自分のメンタルの整え方や意識していることはありますか?

Y:先ほど話した「やり切る」ということと重なる部分はありますが、もちろん時には「ミスしてしまうんじゃないか」と思うこともあります。そういう時の対処法としては、その思いが頭をよぎった時こそミスしても良いから全力で突っ込むようにしていて、その迷いを捨てるように心がけています。

やっぱり気持ちで負けていられないので、とりあえずミスっても良いから攻め切ろうと心に決めて毎回ドロップインしています。

今までの競技活動で苦労したことや、強くなったターニングポイントはありますか?

Y:大腿骨の骨折もそうですが、東京オリンピック予選を回っていた時も全然結果を残せなかったので苦労も悔しい思いもしてきました。当時、中学生という年齢で単身海外に行って大会へ出場したことを振り返ると苦労した思い出がたくさんあります。

またこの競技をやっている中でたまたま自分の同世代がいなく、気の合う人もいなかった環境の中で東京オリンピック予選を転戦してきた経験は今にすごく活かされているなと感じています。その経験があったからこそ、ようやくその苦労を今乗り越えられているんだと思います。

色々な経験を経て永原選手が思う自分の強みってどんなところだと思いますか?

Y:僕は大会の時にランが3本ある中でいつも最後の3本目でメイクすることが多いのですが、本当に追い込まれた時にメイクできるのは自分の強みかなという気はしています。ドバイの世界選手権の時も、先日の日本OPENの時も結局最後の最後で決めたので。。でもこれは強みとは言えない気もしますけどね(笑)

世界最高峰の戦いで感じたことと、経験から見えてきた勝ち筋

現在世界を舞台に戦っている中でトップ選手たちと対峙して感じたことはありますか?

Y:トップ選手たちは本当にラン1本目から高難度のトリックをメイクしてくるんです。トリックの難易度自体は僕と海外のトップ選手たちとで大差はないと思いますが、彼らの方がメイクする能力が高いのでそういったメイク率の差は凄く感じています。

これからそんなトップ選手たちに世界で勝っていくためにはどんなことが永原選手に必要だと思いますか?

Y:やっぱりパリオリンピックに向けて、まだまだトップ選手たちがメイクするトリックの難易度は上がってくると思うので、まずそこで差がつけられないようにすることと、トリックの成功率を上げることが必要になると思います。パリオリンピックでトップ選手たちに負けないようにしっかり準備していきたいです。

トリックの難易度とメイク率が世界との差ということですが、彼らに追いつくために具体的に意識していることはありますか?

Y:大会ごとで毎回コースが違うので、大会練習時間中にいち早くそのコースに順応することが大事だと思っています。X Gamesもそうですが、特に国際大会は少ない練習時間でコースに合わせていかないといけない中で今はまだ僕もその時間の中ではコースに適応しきれないことが多いです。

最近は海外等の初めて滑りに行くパークで、大会の時のことを意識しながら最初の1~2時間で自分の持っている技をどこまで出せるのかという練習をよくしています。

ちなみに先日の日本OPENを含め、最近はハイエアーが大きな加点対象になっている印象がありますが、実際に世界大会ではどういうポイントが評価対象になっていると感じますか?

Y:確かにハイエアーなど技のデカさは得点に大きく評価されていると感じています。他には他選手が使っていないセクションで飛ぶということも加点対象の一つだと思います。特にトランスファー系のトリックが該当するのですが、誰も飛んでないところを飛ぶことが実は技の難易度よりも見られているのかなと感じますね。

photograph by Yoshio Yoshida

永原選手もそういったポイントは結構意識されていますか?

Y:そうですね。前回の日本OPENもドバイの世界選手権の時も、誰も飛んでないようなセクションを飛ぶとか、とにかく技の難易度だけじゃないクリエイティビティや表現の仕方は意識しています。そこが自分の一つの武器でもあるので。

もう少し踏み込んで聞いてみたいのですが、実際そういったライディングを世界大会でやってみて手応えはどうですか?

Y:ドバイの時はパークの真ん中のセクションからディープエンドのほとんど垂直の着地面まで「バックサイド・インディー」で飛びました。ちなみに自分以外でそのセクションをしっかり飛んでるのはキーガン・パーマーだけでしたね。

自分の肌感としてもそのセクションを飛んでから、その後のエアーでデカい540が入っただけで得点の出方は違ったような気がするので、本当に技の難易度だけでジャッジは評価しているわけじゃないというのは感じています。

そのような気付きから世界を獲るための活路は見出せそうでしょうか?

Y:はい。ただ技の難易度が高いだけでなく、技をメイクする場所も難易度が高くないといけないというのは感じたので、今後は誰も飛んでないセクションで高難度のトリックを決めていきたいと思います。

また個人的には誰も飛んでないセクションを上手く使えるのがこのパーク種目の魅力だと思ってます。バーチカルの場合は同じ面だけしかないですが、パークは色々なセクションがあるので技の難易度だけではなく、そこでトリックしたらやばいよねっていう部分はパークの魅力だと思うのでそういったところも今後は皆さんに見せていけたらなって思います。

そんな2023年、今シーズンの目標を聞かせてください。

Y:今年の目標は、来月にある「X Games Chiba 2023」で表彰台に立つことと、国際大会もまだあと何戦かあるのでそこでしっかり結果を残し続けることです。前回のドバイの世界大会の成績が23位だったのですが、今後の大会はその成績を越えられるように頑張りたいですし、毎回成績を更新していき結果を残しながらパリオリンピックに向けて準備していきたいと思っています。

直前に迫った国内開催の「X Games Chiba 2023」について

昨年は他選手とは違った永原選手のセクションの使い方が注目されましたが、今回も「 永原悠路のこれを見てくれ!」というような周りを驚かせるライディングを考えていますか?

Y:もちろんやるつもりです!何をするかは当日までのお楽しみということで、是非期待しておいてください(笑)

そういうサプライズを考えているときって楽しいですか?

Y:楽しいですね。本当に小さい頃からみんなが予想していないようなことをするのが好きなんです。多分もうクセなんですけどね。そういうことができるのもスケートボードの楽しいところですね。

永原悠路が目指す今後の目標と将来の姿

来年に迫ったパリオリンピック出場に向けて挑戦していることや、取り組んでいることはありますか?

Y:やっぱり「バックサイド・キックフリップ・ボディバリアル・540」は完成度は完璧なところまで上げていきたいですし、一つ一つの技のデカさもまだまだパリオリンピックまでに磨いていかないといけないと思います。

自分の魅力は誰も飛ばないセクションを飛ぶことや技のデカさ、またクリーンな技をメイクできることだと思っているので、そこは絶対パリオリンピックまでにもっと極めていきたいです。そこに加えて、今いくつか取り組んでいる新しい技もしっかりパリオリンピックに向けて完成度を上げていきたいです。

最近スケートボードの注目度が高まって、スケートボードをやっていない人も観戦する機会が増えてきたと思いますが、永原悠路のここを見て欲しいっていうのがあれば教えてください。

Y:スケートボードを「楽しんでやってるぞ」っていうところですかね。大会に出ていると辛いこともありますが、それも含めてスケートボードは楽しいということを伝えたいです。スケートボードをやっているかどうかに関わらず、観ている人たち全員にこの楽しさが伝わってくれたら嬉しいです。

永原選手にとってスケートボードはどんなものですか?

Y:スケートボードは競技関係なく自分の人生になくてはならないものだと思っています。元々公園での遊びで始めたところから、今では競技としてオリンピックを目指すようになっている中で、昔遊びでやってた頃の楽しさや当時の感覚はずっと忘れてはいけないと思っています。その「遊びとして楽しんできた感覚」を忘れずにこれからもスケートボードをやっていきたいです。

最後に永原選手が目指している理想のスケーター像を聞かせてください。

Y:やっぱり「スケートボードは楽しいもの」ということを皆さんが自分を見ていて伝わるスケーターになりたいですね。あとは大会で勝ち続けて色々なスケーターから憧れられるようなしっかりしたスケーターになれればと思っています。

永原悠路プロフィー

2005年6月10日生まれ。長野県白馬村出身のスケーター。太陽ホールディングス所属。スノーボーダーとして活動をする父の影響で、小学校一年生の時にスケートボードと出会う。小学校3年生の頃から大会に出場し始めると、小学6年生の時には世界から36名しか招待されない「Vans Amateur CombiPool Classic」の14歳以下の部で日本人として初招集される。その後、東京オリンピック出場を目指していたが夢を叶えることができず。さらに2021年6月には大腿骨開放骨折の大怪我を経験。それでも見事復活を果たすと、2022年4月に行われた日本オープンでは初優勝し日本一に輝く。さらにその後、日本初開催の「X Games Chiba 2022」では日本人過去最高位の4位に入り一躍世界トップ選手の仲間入りを果たした。「世界一を取る」と意気込む永原は、2024年パリオリンピックで日本人初の男子パーク種目メダル獲得を目指す

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