Skateboarding Unveiled VOL.2 「街中のスケボーって本当に犯罪?」

2023.05.23
街中のスケートボード禁止看板。最近はこのように露骨な主張が増えている。
text & photograph by Yoshio Yoshida

今までスケートボードと接点はありましたか?

最近都市部では当たり前のように見るスケートボード禁止の看板。

「なんでわざわざ街中で練習するの⁉︎ 全く理解できない!」

「見るからに危険。わざわざ人がいるところでやらないで!!」

ごもっともな意見でしょう。

禁止にしたい気持ちもわかります。

一昨年の東京オリンピックに端を発したブーム、それに伴い飛躍的に増加したスケートパーク。競技としての環境が整ってきた今は、多くの人がこのように考えるのも仕方のないことだと思います。

でも、多くの愛好者が、なぜ街中(ストリート)でスケートボードをするのかを”真剣に”考えたことはありますか?

街中で滑る愛好者の方々と、真面目に”話し合って”解決しようとしたことはありますか?

おそらく冒頭のように思う方の大半は、今までスケートボードにほとんど触れたことがなく、イメージや見た目、またはそれに伴ったマスメディアの報道などを通して、自然とマイナスな印象をもっているのではないでしょうか。

確かにまだまだスケートボードはマイノリティな存在かもしれません。興味のない方からすれば理解し難いのもわかります。でも社会的に存在が認知された今だからこそ、多様化の進む現代だからこそ、必要なのは相互理解ではないでしょうか。

愛好者から見た「ストリート観」

昨年講師として登壇させていただいた目黒区教育委員会と行った社会教育講座「スケートボードの魅力と今後どうなっていくのか?」写真提供:ポプラ社

そういった時代背景もあってか、最近は「スケートボードと社会」といったテーマで、有識者の方を招いたトークショーや講演が増えてきました。かくいう筆者自身も、スケートボードのフォトグラファー、ジャーナリストとして登壇させてもらったことがありますし、逆に取材をさせてもらったこともあります。そこではストリートへの否定よりも「そんな目線があったんだ!」という感想が大多数を占めていた印象で、愛好者から見れば当たり前なことでも、立場が変われば、ものすごく新鮮に映ることもあるという事実を知ったのです。それは大きな発見でした。

そこで、今回は自分の立場から見た「ストリート観」をお伝えすることで、新たなモノの見方を、少しでも知るきっかけになってくれたら幸いです。

では本題の「なぜ街中で滑るのか⁉︎」ですが、端的にいうと、自分は「作品」として写真に(人によっては映像に)収めているからです。

というのも、私がスケートボードに出会った20年以上前は、スケートパークの数が今よりも圧倒的に少なかったので、できる場所を探して、もしくは作り出して滑るしかありませんでした。ですので、空き地や公園の一角にこういったお手製のセクション(障害物)を設置して練習するという光景はよく見かけたものです。

街がさらに魅力的な存在になる

以前は高架下や川沿いなど人目につきにくい場所で、このようなお手製のスケートボードセクション(障害物)を置いて練習する姿がよく見られた。

そういった環境で育つと、街の見方が今までとは180度変わってきます。

「僕はこの技が得意だから、あの場所でやってみたいな」

「自分達のチームのTシャツを作ったから、それを着て撮影しよう」

そうやって自分らしいファッションに身を包み、自分らしい技を、自分らしい場所で、映像や写真に収めたくなるのは、ごくごく自然な成長といえます。

一般の方からすれば想像もつかないことかと思いますが、中にはストリートこそ本番、スケートパークは練習、そのように捉える人もいるくらいです。

そうして撮り溜めた映像を繋いで編集し、音楽を載せてひとつの作品に仕上げる。さらに出来上がったものを皆でシェアして、喜びを分かち合う。スケートボードはそうしたストリート文化の中で発展してきました。

今はオリンピック種目の一つになりましたが、ルーツはここにあるのです。

ではそんな文化において、フォトグラファー的観点でストリートを見るとどう映るのでしょうか?
これからいくつかのサンプルを紹介していきましょう。

自然現象が上げてくれる芸術価値

満開の桜の下で撮ると、不思議とアート性が増す。

まず紹介するのはこの写真。

もうおわかりですね。桜が満開のタイミングを狙って撮り下ろした1枚です。 桜はわずかな期間しか咲かない、儚なく美しいものです。多くの人が撮影した経験をお持ちではないでしょうか。ではスケートボードのトリックというアクションが加わるとどうなるでしょうか。風景写真やポートレートももの凄く魅力的に写ることと同じように、与える印象はより強烈なものになり、さらに作品性が増すと私は思っています。

噴水にキレイに浮かび上がった虹。偶然発見して思わず撮影した1枚。

同じように自然現象という意味ではコレも良いサンプルです。

とある公園(もちろん撮影時スケートボード禁止看板はありませんでした)の噴水に現れた虹です。もちろんいつも見れるものではありません。そんな条件が目の前にあれば、カメラマンなら撮りたくなりますよね⁉︎ そこに一捻り加えて作品性をプラスするなら、スケートボードはものすごく相性が良いと思います。

水面反射もさる事ながら、万が一落下した時のリスクも考えるとトリックとしての見栄えも一級品だ

さらにこんな条件の場所があれば、より面白い画が撮れると思いませんか⁉︎

そう、水面反射です。

これもスケートボードに芸術性をもたらしてくれるひとつの要素だと思いますし、いつも同じ環境で、練習しやすいように造られたスケートパークでは、決して撮ることのできない画でしょう。

しかもこれらはスケートボードが滑走できる路面と、特定の自然条件があれば、ある程度どの地域でも撮影することができるので、探してみるのも面白いかもしれません。単純に夕暮れやマジックアワーのタイミングを狙うだけでも、印象はガラッと変わりますよ。

風景写真の要素も取り込める

右奥に見える富士山。しかもこの形状だと、どの県から撮影したのかもわかる。この場所だからこそ撮れる一枚といえる

次に、より作品性を上げてくれる他の条件を挙げてみましょう。それは「地域性」です。

この写真に写り込んでいるのは、もちろん富士山。それだけで風景写真の要素も足されますし、特定の地域でしか撮影できないものになります。

スケートボードの世界では、よくブランドやチームで各国、各地域を巡る撮影ツアーが行われているのですが、そこで訪れた地の特性が現れた写真や映像が撮影され、後日ビデオ作品や広告として世に出ることは、実は長年行われている当たり前のことなのです。 すると、その映像や写真を見た人が、今度は「自分もここでスケボーしたい!」となり、撮影に訪れるようになるのです。そんな形で地域の活性化に役立っているという事は、愛好者でなければ知る由もないでしょう。

国や気候で、乗りこなす街並みは変わる

年季の入った重厚感ある骨組みや、レンガ造りのレトロ感ある建物は、いかにもNYらしい街並み

では今度はそれを世界に広げてみます。

この写真にチラッと写り込んだイエローキャブや、趣ある建築を見れば、アメリカ東海岸、しかもNYであることがおわかりいただけるのではないでしょうか。

当然日本とは雰囲気がガラッと変わりますし、都市構造も気候も別物です。
すると、乗りこなさなければいけない街の障害物も、全然違うものになってきます。

LAはNYと比べても広大で開放的な街並みが広がっている

対してこちらは西海岸のLAの写真。燦々と照りつける太陽と広大な空、道路沿いに並ぶヤシの木が、いかにもカルフォルニアっぽいなと思った方も多いのではないでしょうか。

こちらはより開放的な雰囲気になっていますが、そういう条件なら、当然日本ともNYとも乗りこなす障害物(街並み)が違ってきます。

ではこれらから何がいえるでしょうか⁉︎

各地域で違う建築を乗りこなしているだけだと思うかもしれませんが、見方を変えると、生まれ育った地域の街並みが、スケートボーダーのスタイルに大きな影響を与えることになると捉えることもできると思いませんか。

地元で育まれたスキルが自らの個性となり、その個性を集約した映像作品を皆で讃えあう。そんな文化が昔から成り立っているのです。

ですので、東京五輪で話題になった岡本碧優選手の滑走後に抱き抱えられたあの一幕などは、根本にそんな文化があるからで、愛好者からみればごく自然、当たり前な行動でもあったのです。

そう考えると、街とスケートボードはとても密接な関係にあるといえるのではないでしょうか。

普段は撮影できない有名な場所だから良い

横浜の赤レンガ倉庫にて。奥の建物で雰囲気がガラッと変わる
普段から多くの人が行き交う新宿のコマ劇場前の広場。明らかにスケートパークとは異なる雰囲気だ。

ただ現在の日本は、多くの人が行き交う公共の場でのスケートボードは大半が禁止されています。

だからこそカメラマンとしては、多くの人が知る場所で、許可を得て行うイベントが、より特別感のある画になって好きなのです。

これは新宿のコマ劇場前の広場と、横浜の赤レンガ倉庫で行われたイベントになりますが、背景に特徴ある街並みや建物が写り込むだけで、与える印象はガラッと変わりますし、私はそれだけで写真に惹き込まれてしまいます。
その度に、やっぱりストリートは最高に魅力的だなと思ってしまうのです。

以上がスケートボードを専門的に撮ってきた自分からみた「ストリート感」になります。もちろんストリートで滑走する全ての人が作品作りをしているわけではないですし、いくら魅力的だからといって、どこでも自由に撮影していいだろうというつもりもありません。

ストリートだから起こった心温まる話

隣で真剣にスケートボードを見つめる子供たち。その後どうなったのかというと……。

でも、最後にストリートだからこそ起こった心温まる話をして締めたいと思います。

とある住宅地の公園の滑り台で撮影したライディングカットになるのですが、隣の子供達の真剣な眼差しを見てほしいです。この時、突如現れたスケートボーダーのお兄さんに興味津々になった子供たちは、トライする姿を目を丸くして見学。そして成功した瞬間に大興奮!

皆で一斉にサインを求め始め、記念撮影もお願いし、即興のスクールまで行うことに。

その時の「俺、絶対お母さんにスケボー買ってもらおー!」と興奮しながら嬉しそうに話していた子供の顔は、10年以上経った今でも忘れられません。

サインを求め、スケートボードに乗せてもらい、笑顔でピース! スケートボードには人を笑顔にする力がある

現在はスケートボードをすることで、公共物に傷がつくことが問題視されているが、市民が平等に使うために造られたものが多少傷つくという理由で禁止にするよりも、こうした子供の笑顔がたくさん見れることの方が、よっぽど大切なのではないかと思うことがある。規則に縛られすぎたら、子供本来の自由な発想にまで影響を与えることにならないだろうか。

「スケートボードを前提にした街づくりが出来れば良いのにな」
次回はそんな未来について、もう少し深く切り込んでいきたいと思っている。

吉田佳央 / Yoshio Yoshida@yoshio_y_
1982年生まれ。静岡県焼津市出身。
高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。
大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。
2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本の監修や講座講師等も務める。
ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている

執筆者について
FINEPLAY編集部
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