「大きくするより、続けること」7回目のYellow Peanutsが茅ヶ崎でつなぐ、海と世代

2026.09.30
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Photo by Kenta Kawana
Text and Interview by 水野 亜彩子 / Asako Mizuno

プロサーファーとキッズが同じチームになり、サーフィンやビーチでの遊びを通して一日をともに過ごす。
神奈川県茅ヶ崎市で毎年開催されている「Yellow Peanuts」は、勝敗だけではないサーフィンの楽しさと、世代を超えたつながりを大切にしてきたイベントだ。
主催するのは、茅ヶ崎で生まれ育ったプロサーファーの松野陽斗と久米大志。幼い頃から海を通してさまざまな経験を受け取ってきた二人が、「自分たちが味わった楽しさを、今の子どもたちにも経験してほしい」という思いから始まった。

第1回の開催後、海では、それまで話したことのなかったプロサーファーと子どもたちが、自然に挨拶を交わすようになったという。一見すると小さな変化だが、それは世代の距離を縮める大きな一歩でもあった。まさに、二人がこのイベントを通してつくりたかった景色そのものだった。
2026年10月3日、Yellow Peanutsは7回目の開催を迎える。規模を大きくすることよりも続けることを大切にしてきた二人に、イベントを始めた背景や7回の開催を通じて生まれた変化、そして茅ヶ崎の海への思いや次世代に託したいものを聞いた。

Photo by Yuto Kanai

子どもの頃に受け取った楽しさを、今の子どもたちへ

Photo by Kenta Kawana

― まず、Yellow Peanutsを始めたきっかけを教えていただけますか。

久米:僕は18歳から21歳までアメリカで暮らしていました。そのときに、現地の子どもたちを取り巻くコミュニティのつくり方を見て、すごくいいなと感じていたんです。帰国してから改めて自分たちの子ども時代を振り返ると、試合の勝ち負けに関係なく、イベントが終わるまで海にいること自体が楽しいと思えるイベントがたくさんありました。そうした経験があったからこそ、今もサーフィンを続けているし、プロサーファーにもなれたのだと思います。
一方で当時と比べると、子どもたちが楽しめるイベントや、世代を超えて交流できる機会が少なくなっているように感じていました。自分が味わった楽しさを、今の子どもたちにも味わってほしい。そう考えていたときに、アッキー(松野陽斗)も同じような思いを持っていることを知って、「一緒にやろう」となったのがきっかけです。

松野:当時は、サーフィンが東京2020オリンピックの正式種目に決まり、茅ヶ崎でもキッズサーファーが増えていた時期でした。その一方で、海にいる若い子たちのことを、僕たちがあまり知らないという感覚もあったんです。
僕たちが子どもの頃は海に行けば先輩たちが話しかけてくれましたし、一緒にサーフィンをしたり、いろいろな場所へ連れて行ってもらったりすることもありました。今はサーフショップも少なくなり、そうした自然なつながりが以前より生まれにくくなっているのではないかと感じていました。
僕自身、オーストラリアで世代の異なるサーファーが集まるボードライダーズの活動を見て、世代を超えて一緒に楽しめるイベントをやりたいと思っていました。たまたま大志の実家でその話をしたときに二人の考えが一致して、そこから動き始めました。

― そうした思いを、実際の開催までどのように形にしていったのでしょうか。

松野:決まってからは早かったですね。茅ヶ崎はプロサーファー同士の仲が良く、若いアマチュアサーファー同士にも横のつながりがあります。「こういうイベントをやりたい」と話したときに、みんながすぐに「やろう!」と言ってくれました。そうした仲間の協力があったからこそ、形にできたと思っています。

久米:僕も同じです。もちろん、開催するまでにはいろいろなハードルがありました。ただ、そのハードルを下げてくれたのが一緒に育ってきた先輩や後輩、そして茅ヶ崎のコミュニティでした。「動き始めれば、みんなが協力してくれる。」そう思えたことが、最初の一歩を後押ししてくれました。

プロとキッズが同じチームになる「海の運動会」

Photo by Kenta Kawana

― Yellow Peanutsは、どのようなイベントなのでしょうか。

松野:現在は約70人のキッズが参加し、8チームほどに分かれます。そこにプロサーファーや若手サーファーが加わり、1チーム10人前後で競う形です。
チームリーダーを務めるプロサーファーは、当日までどのチームに入るか分かりません。ピーナッツにリーダーの名前を書き、子どもたちに引いてもらう「ピーナッツ引き」で決めています。これは、第1回から続くYellow Peanutsならではの恒例企画です。
メインはサーフィンのチーム戦ですが、パドルリレーや綱引き、ビーチフラッグなど海や砂浜で楽しめる競技も行います。波がなければビーチ競技を増やすなど、その日のコンディションに合わせて内容を変えています。

Photo by Kenta Kawana

― なぜ、個人戦ではなくチーム戦にしたのでしょうか。

松野:イベントを始めた背景には、子どもたちの意識が競技や勝敗に向きすぎてはいないか、という思いもありました。もちろん、試合で勝つことや上を目指すことは素晴らしいことです。ただ、それだけではなく競技を離れて、人とコミュニケーションを取れる場所をつくりたかったんです。
海の中だけでなく、ビーチだからこそ話せることもあります。僕たちが子どもの頃、ウェットスーツを着たまま砂浜でずっと遊んでいたように、みんなで一日を楽しめるイベントにしたいと思っています。

久米:チーム戦という形は、アッキーがオーストラリアで見てきたボードライダーズの活動がヒントになっています。競技の第一線を退いたレジェンドサーファーと地元のキッズが同じチームになり、一緒に盛り上がる。その光景がすごく良かったと聞いて、「それをYellow Peanutsでもやろう」となりました。
子どもたちは、遊びの中でも本気で勝ちたいんですよね。本当に海の運動会のような雰囲気で、チーム全員が一緒になって盛り上がれることが、このイベントの面白さだと思います。

― 子どもたちにとって、プロサーファーと同じチームになることには、どのような意味があると思いますか。

Photo by Kenta Kawana

松野:一般的なイベントでは、プロサーファーがエキシビションでサーフィンを披露して終わることも多いと思います。でも、Yellow Peanutsでは、一日を通して同じチームで過ごすため、サーフィンを見ているだけでは分からない人柄にも触れられます。
プロサーファーにも、いろいろな生き方があって、競技を続ける人もいればサーフィンと仕事を両立している人、自分で事業をしている人もいます。子どもたちには、競技だけが道ではなく、サーフィンと何かを組み合わせながら生きていく選択肢もあることを知ってほしいです。
それぞれのプロサーファーがどのような道を歩んでいるのかを知り、自分の将来を考えるきっかけにもなるイベントにできたらと思っています。

「大きくするより、続ける」7回目を迎える今も変わらない思い

Photo by Kenta Kawana

― 第1回を終えたときのことは覚えていますか。

松野:すごく覚えています。イベントが終わったあと、手伝ってくれたプロサーファーたちとの打ち上げに向かう途中、大志と「めちゃくちゃ良かったね」と話していました。たくさんのキッズが来てくれて、プロサーファーも集まってくれて、みんなで楽しい時間を過ごせた。その達成感が大きくて、二人とも感動しながら打ち上げへ向かったことを覚えています。
今も毎年、イベントが終わると「やって良かった」と感じます。その気持ちは、第1回から変わっていません。

久米:僕も、第1回が終わったときの感覚を覚えています。
自分たちが何かすごいことを成し遂げた、という達成感ではなく、参加してくれた子どもたちの笑顔やプロサーファーたちから「良かったよ」と言ってもらえたことへの充実感の方が大きかったんです。自分たちの疲れがどうでもよくなるくらい、「やって良かった」と思えました。そのときから、大きくすることより、まずは継続することを大切にしてきました。
外から見ると、規模が大きくなっているように感じるかもしれませんが、僕たちの中にある思いは第1回から変わっていません。参加した人たちに「いい一日だった」と思ってもらうことが、これからも続けていきたいと思える一番の理由です。

― ここまで続けてくる中で、大変だったことはありますか。

松野:当日は僕たち自身も楽しんでいますし、周りのみんなが手伝ってくれるので、開催すること自体を大変だと思ったことはあまりありません。ただ、協賛してくださる方が増える中で、その応援にどのように応えていくかは、より強く考えるようになりました。お金や商品を提供していただくことは、決して当たり前ではありません。僕たちの自己満足で終わらせず、活動を意味のあるものにすること。協賛してくださる方々に、どのような形でお返しできるかを考えること。その意識は、イベントの運営を続けてきたからこそ身についたものだと思います。

久米:今年は、直接お会いできる距離にいる協賛者の方々のもとへ、できる限り足を運びました。毎年のことだからと、「今年も協賛お願いします」というやり取りだけで終わらせるのではなく、僕たちが今もどのような思いで続けているのかを、改めて伝えたかったんです。手間はかかりますが、イベントの趣旨や思いを直接伝えることで、新たなつながりも生まれていると感じています。

イベントの翌日、海で始まった「おはよう」

Photo by Kenta Kawana

― Yellow Peanutsを開催したことで、子どもたちとプロサーファーの関係に変化はありましたか。

久米:それは第1回を終えた直後から感じました。
イベント後に海へ行くと、Yellow Peanutsに参加していた子どもたちがいたんです。それまでは、子どもたちの輪に自分から入っていくことはあまりなかったのですが、自然とその輪の中に入り、「おはよう」と声をかけていました。
アッキーも同じように感じていましたし、ほかのプロサーファーと子どもたちの間にも、それまでにはなかった会話が生まれていました。
Yellow Peanutsだけがきっかけだったとは言い切れないけれど、子どもたちが上の世代にも声をかけやすくなる、大きな一歩になっていたらうれしいなと思います。

松野:7回目になると、すでにYellow Peanutsを卒業した子もいます。第1回に参加していた小さな子どもたちが成長し、今は競技などで活躍している姿も見られるようになりました。
Yellow Peanutsがきっかけで先輩とつながったり、話を聞いたり、一緒にサーフトリップへ行ったりする機会は生まれなかったかもしれません。
僕たちがしたいのは何か一つの結果をつくることではなく、子どもたちの中にきっかけをいくつもつくることです。
7年間そうしたコミュニケーションが生まれる場所をつくり続けてこられたことは、僕たちにとっても大きな意味があると思っています。

茅ヶ崎でもらったものを、次の世代へ

― Yellow Peanutsを茅ヶ崎で開催することには、どのような意味がありますか。

松野:茅ヶ崎は僕たちが生まれ育った場所です。僕自身、今はサーフィンを通して受け取ってきたものを、地域に還元していきたいという思いがあります。その中で僕にできるのが、この街の子どもたちを大志と一緒に見守り、自分たちが受け取ってきたものを次の世代へつないでいくことです。茅ヶ崎の子どもたちだけが楽しければいい、ということではありません。まずは、この地域で育つ子どもたちに経験してもらい、その子たちが成長したときに、受け取ったものを別の誰かへ渡していく。その積み重ねが、やがて茅ヶ崎だけでなく、ほかの地域にも広がっていけばいいなと思っています。

久米:以前、「ほかの人を幸せにしたいなら、まず自分の近くにいる人を幸せにしなさい」と言われたことがあります。
Yellow Peanutsも同じで、まずは茅ヶ崎の子どもたちに目を向ける。その子たちが満たされ、受け取ったものを次の誰かへ渡していくことで少しずつほかの地域にも広がっていくのだと思います。
僕たち二人とも、茅ヶ崎で多くの経験をさせてもらいました。だからこそ、その経験を次の世代へ返していきたいという気持ちは強くあります。

Photo by Kenta Kawana

― 今後、Yellow Peanutsをどのようなイベントにしていきたいですか。

久米:一番の目標は、やはり継続することです。
茅ヶ崎以外の子どもたちやプロサーファーから、「参加したい」と言ってもらうことも増えています。いつ実現できるかは分かりませんが、いつか茅ヶ崎という枠を少し広げてみたいという思いもあります。ただ、それによって地元の子どもたちが参加できなくなったり、今の楽しさが失われたりするのであれば、慎重に考えなければいけません。外へ広げることが継続するうえでプラスになるのであれば挑戦したい。今の形を守ることが必要なら、まずはそこを大切にしたいと思っています。

松野:イベント自体の規模を大きくすることよりも、内容の質を高めていきたいです。
昨年から日中のイベント後にイオンシネマ茅ヶ崎で、表彰式とサーフムービーの上映会を行っています。日中は同じチームの仲間として過ごしたプロサーファーが、映像の中ではどれほど格好いいサーフィンをするのか。それを大きなスクリーンで見てもらえます。サーファーによって、スタイルや生き方も異なります。子どもたちが映像を見て、「こういうサーファーになりたい」と思えるきっかけにもなるはずです。規模は変わらなくても、Yellow Peanutsで体験できることの質は、これからも高めていきたいと思っています。

― 最後に、7回目の開催に向けた思いを聞かせてください。

久米:第1回から変わらず、子どもたちやプロサーファー、応援してくださる方々と一緒に、最高の一日をつくりたいです。イベントが終わったときに、「今年もいい一日だった」と思ってもらえることが、僕たちにとって一番うれしいことです。

松野:サーフィンの技術や勝敗だけではなく、人とつながることや、海で一日遊ぶ楽しさを感じてほしいです。
Yellow Peanutsで過ごした時間が子どもたちの記憶に残り、いつか次の世代へつながっていけばうれしいです。

Yellow Peanutsは2026年10月3日、神奈川県茅ヶ崎市で開催される。エントリーの受け付けは終了しているが、イベントの観覧は可能だ。日中のチームチャレンジに加え、アフターイベントとして、イオンシネマ茅ヶ崎で表彰式とサーフムービーの上映会も予定されている。
上映作品は、『economy tourist1.5 -ensoku to Krui-』。約20年前、茅ヶ崎のプロサーファーたちによる台湾への旅を収めた『economy tourist -ensoku to Taiwan-』が発表された。その新たな作品となる今作では、岡野漣と武藤波流をメンバーに加え、インドネシア・クルイを訪れたサーフトリップの様子が映し出される。世代を超えたサーファーたちのセッションや交流、旅の中で見せる素顔も見どころの一つ。当日は、トリップに参加したメンバーによるトークショーも予定されている。

【サーフムービー上映会情報】

Photo by Kenta Kawana

日時:2026年10月3日(土)
会場:イオンシネマ茅ヶ崎
18:00~ Yellow Peanuts表彰式・抽選会
19:00~ 『economy tourist1.5 -ensoku to Krui-』上映
入場料:1,000円
世代を超えて海に集まり、同じチームで笑い、競い、言葉を交わす。その一日から生まれたつながりは、イベントが終わったあとも、茅ヶ崎の海の中で続いていく。

プロフィール

松野 陽斗

1993年12月生まれ 茅ヶ崎市出身
幼少期から父・兄の影響でサーフィンを初め、アマチュア時代を過ごす。18歳でISA世界選手権日本大師に選出。
大学卒業とともにプロへ転校し、国内リーグを転戦。コロナを機に兼ねてより勤めていた花屋をやめ、「松野緑店」をはじめる。
現在はSNSなどでサポートメーカーのインプレッションを行いながらフリーで活動し、草花とサーフィン両方の魅力を伝える仕事をしています。

久米大志

1997年1月生まれ(満29歳)
茅ヶ崎市出身
1番大きな遊び場が海であった茅ヶ崎で生まれ育ち、砂遊びから始まり4歳の頃には父や周りの人の影響でサーフィンを楽しんでいた。試合や波を求めて国内外を行き来し16歳でプロへ転向と共に3年間カリフォルニアへ拠点を移す。
色々な人生の経験を経て、現在は平日はサラリーマンをしながらサーフィンという型のないカルチャーを映像やコンテンツそしてYellow Peanuts を通して表現し活動しています。

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