「挑戦し続けることが、自分の軸」渡邉壱孔が見据える世界

2026.08.11
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Text and Interview by 水野 亜彩子 / Asako Mizuno

World Surf League 2025 Men’s Junior Asia Championを獲得し、2024年 ISA World Junior Championship U18では日本代表のキャプテンを務めながら、個人として4位という結果を残した渡邉壱孔。

幼い頃から海外の波に憧れ、世界で戦うことを意識してきた一方で、競技人生の中では勝てない時期やサーフィンから離れた時間もあったという。
ライバルの存在、世界大会での経験、日本代表キャプテンとして感じた責任、そして大舞台で自分自身をコントロールする難しさ。
その一つひとつが、渡邉を次のステージへと向かわせている。

現在見据えているのは、 WSL CS(Challenger Series)、CT (Championship Tour)、そして世界のトップ選手たちと同じ舞台で戦う未来だ。

渡邉壱孔に、これまでの歩みと今後のビジョンを聞いた。

「海外で試合をしてみたい」幼い頃からの思い

― 改めて、WSL Men’s Junior Asia Champion獲得おめでとうございます。2024年のISA World Junior Championship U18でも4位に入るなど、世界の舞台で経験を重ねてきた渡邉選手ですが、世界を意識し始めたきっかけはいつ頃からありましたか

サーフィンを始めた頃からYouTubeとかいろいろな動画で海外の波を見ていて、海外で試合してみたいという気持ちはずっとありました。最初は漠然とした感じだったんですけど、最近はだんだんその目標が具体的になってきて、世界を目指したいという思いがより強くなりました。

― サーフィンを始めた頃のことを教えてください。

5歳ぐらいから始めて、本格的に大会を回り始めたのは小学4年生ぐらいです。始めた頃は大会があることすら知らなくて、小学4年生ぐらいの時にお母さんが大会を探してくれて、何も知らないまま試合に出たのが最初でした。

― 子どもの頃、サーフィン以外にも興味を持ったスポーツはありましたか。その中で、サーフィンはどんな存在でしたか。

サッカーと水泳をやっていました。でもサッカーは全然ダメで、あまりはまらなくて。サーフィンは、はまったというか気がついたら海にいました。僕が始めた頃は地元の海に同世代のキッズサーファーが全然いなくて、周りにいたのは30代くらいの年上の人たちでした。そこに紛れてやっていたんですけど、今思うとそれがすごく面白かったですね。

ライバルの存在と、サーフィンの楽しさを取り戻した時間

― 子どもの頃からサーフィンを続けていく中で、競技者としてスイッチが入ったきっかけはありましたか。

同世代と戦っていくうちに、悔しいという気持ちが出てきました。大会に出て、負けたら悔しい。そこに天獅 (岩見天獅) が出てきて。自分の中で天獅は目標の選手というか、ライバル的な存在でした。天獅がいたから、どういう技をした方がいいのかを小さい頃から考えるようになりましたし、ここまで来られたというのもあります。すごくいい存在でした。

― 試合を重ねる中で、自分のサーフィンのスタイルが変わっていった感覚はありますか?

僕はそんなに早い段階でエアーができた選手ではなかったんですよね。エアーができたのが中2ぐらいだったので、多分今のサーファーに比べたら遅い方だと思います。そこからどんどんエアーを磨いていきました。今はマニューバーが足りないので、マニューバーを練習しています

― 特に印象に残っている試合や経験はありますか

ボーイズクラスに上がった時に全然勝てなくなってしまった時期があり、その頃は自分の中でサーフィンがあまり面白くないなと思うこともありましたが、そこから少しずつまた勝てるようになっていきました。
その後、16歳ぐらいの時に強化指定選手としてアメリカに行き、WSLのUS OPENを観戦する機会がありました。そこで、CSサーファーのすごさを感じました。
大会会場で練習している時に、たまたまイーライ・ハネマンが入っていて、僕がドルフィンする時に、目の前でバックサイド・エアリバースをしたんです。
それを見て、本当にバックサイド・エアリバースを覚えて帰ってきました。やっぱり間近で、臨場感のある場所で見たものは、体に染みついて帰ってくるんだなと思いました。

― 先ほど、キッズからボーイズに上がる時期に勝てない時期があったと話していました。その期間は、どのような気持ちで過ごしていましたか。

その時は本当に試合も勝てないし、練習しても伸びている感覚が全くなくて、エアーもできなくて、サーフィンから少し離れていました。しばらくは学校が終わると、隣町の友達と遊んでいました。でも、その友達の中に少しサーフィンをやっている子たちがいて、その子たちから「絶対やった方がいいよ」と言われているうちに、年上の友達と競技用のサーフボードではなく、スポンジのサーフボードで、みんなで海に入ったんです。そしたら「あ、やっぱり楽しいじゃん」と思って、そこからですね。また一から始めたみたいな感じです。

ISA World Junior Championshipで学んだ、チームを支える難しさと自分をコントロールすること

― 2024年のISA World Junior Championship U18では4位という結果を残しました。この時、渡邉選手は日本代表のキャプテンも務められていました。個人競技でありながら、チームとして戦う部分もあるISAで、キャプテンを務めて感じたことを教えてください。

一番大きかったのは、前年に天獅と亜音(松岡亜音)がキャプテンを務めて、メダルを取って日本に帰ってきていたことです。日本チームとしてメダルがある状態が続いていたので、その翌年に自分たちがメダルを取れないというのは自分の中ではありえませんでした。何が何でもメダルを取らなきゃいけない年だったので、本当に必死でした。やっぱり、キャプテンは大変でしたね。

― どのようなところに難しさを感じましたか

一人が負けると、その選手の気持ちにチーム全体が引っ張られてしまうこともあるんです。負けた選手が増えてくると雰囲気も少しどんよりしてくる。そういう空気をどう変えるか、どうやってもう一度前を向かせるかは難しかったですね。
天獅と亜音は本当にすごかったです。ファイナルデーまでに他の選手が負けてしまっても、まだ勝ち残っている選手のために最後までフォローしていました。そういう姿を見ていたので、自分もキャプテンとして、どうチームをいい方向に持っていくかはすごく考えていました。

― 若い年代で、チーム全体の空気や他の選手の気持ちまで考える経験は、とても大きかったのではないでしょうか。

そうですね。サーフィンは個人競技で普段の試合では、基本的に自分のことだけを考えることが多いので。ただ、僕はチームが結構好きなんです。チームで動くのは楽しいです。

― キャプテンとしてチームを見ながら、個人としても決勝の舞台に立ちました。あの大舞台での経験は、今の自分にどのようにつながっていますか

あの大舞台で決勝まで行った時、自分をコントロールできなくなってしまいました。事前に立てていた作戦も、その時は全部きれいに忘れてしまって。でも最近は決勝でも決勝だと思いすぎずに、100%を出せるように自分をコントロールしながらできるようになってきています。

WSL Men’s Junior Asia Champion獲得の先に芽生えた、次のステージへの焦り

WSL 2025 Men’s Junior Asia Championを獲得したことについて、率直な気持ちを聞かせてください。

結構嬉しいですね。でも、インドネシアとかも今、本当にレベルを上げてきているので、自分ももっともっと上がっていかないといけないなと思っています。
今のうちに上がっていかないといけないという気持ちもありますし、少し焦りも出てきた年ですね。

― 実際にワールドジュニアという舞台に立って、特に印象に残っていることはありますか。

ここまで来たからには優勝したいと思っていました。オープニングセレモニーの時に大きなトロフィーが前に置いてあって、試合が始まる前に「うわ、あれめっちゃいいな」と思ったんです。そのトロフィーのためだけに頑張りました、ワールドジュニアは。本当にあれが欲しくて戦いました。

― その大会で、今までの自分と比べて成長を感じた部分はありましたか。

ISAの時と比べると落ち着いて自分をコントロールすることは、だいぶできていたと思います。そこは自分の中でも成長を感じた部分でした。試合の中で熱くなることも大事なんですけど、やっぱり冷静さを保つこともサーフィンでは大切で。力んでしまうと動きが引っかかってしまうこともあります。だからこそ、落ち着いていることはサーフィンではすごく大事なんだなと思っています。

― WSL Men’s Junior Asia Championを獲得して、周囲の反応や自分自身の中で変化はありましたか。

変化はこれからですね。もちろん、トロフィーを持った瞬間は嬉しかったです。でも、自分が目標としているのはもう少し先なので。また今年のワールドジュニアにも行きたいですし、CSにも入りたい。ワールドジュニアも大事ですけど、今はCSに入りたい気持ちが強いです。

CS、CTへ向けて磨く、体と技術と向き合い方

― 現在の目標としてCSに出ることがありますが、その先にはどのような目標がありますか。

はい。QS、CSは日本人でも勝てる選手は多いと思うんですけど、本当に紙一重の差だと思います。CSにはずっと出てみたいという気持ちがあって、CSでしっかり勝ってCTに上がりたいという目標があります。CTの舞台で、今自分が尊敬しているデーン・ヘンリー選手と戦うことが、今の目標です。

― 海外の選手と自分との違いは、どのようなところで一番強く感じますか。

やっぱりレベルが高くて、まだ追いつけていない部分は感じます。ヒートの組み立て方では結構いい試合ができる感覚はあるんですけど、サーフィンの技術の差を感じます。

― 今後の目標に向けて、課題として取り組んでいきたい部分はありますか。

やっぱり足腰を鍛えることですね。最近はトレーニングを結構しています。日本にいる間は、サーフィンよりトレーニングをしているくらいです。一番大事にしているのが「初動負荷トレーニング」というトレーニングで、12歳ぐらいから通っています。終わった後に、足の裏の感覚というか、板に足が吸いついている感覚がすごくあるんです。サーフボードの上でフラつかないようにするためにも、自分にとって大事なトレーニングです。海外の波はパワーもあるので、そこでしっかり戦える体を作っていきたいと思っています。

― トレーニング以外に、技術面で特に磨いていきたい部分はありますか。

今は、天獅が持っているカービングが欲しくて、聞いたりしています。「どうやってあそこでカーブできるの?」って。あのスピードの中で、僕は板を傾けることがまず難しくて、「どうやってやるんだろう?」って思うんです。天獅に聞くと教えてくれるんですけど、「ブーンっていってブーンだよ」とか言います(笑)。ライバルでもあり、同じハーレーでもあるので、本当にいい関係性ですね。

― 遠征中や日常的に必ずやるルーティーンはありますか。

毎日寝る前は、体を伸ばしたりしています。でも、どっぷり入りすぎると自分は飽きてしまうタイプなので、あまりそのことだけを考えすぎないようにもしています。本当に飽きたらやらなくなるタイプなので、そこはうまくコントロールしています。

― 思うような結果が出ない時は、どのように切り替えていますか。

切り替えるというより、負けた原因を絶対に調べます。何回でも自分の試合を見返します。負けた時も、「あ、原因これじゃん。」みたいな。それを友達と見ながら、「うわ、これじゃん。お前ここ、こけてるじゃん。」みたいな感じで、楽しみながら原因を探しています。そうしているうちに、気づいたら切り替わっています。

「挑戦」し続けることが、自分の軸

― 大切にしている言葉や考え方はありますか。

挑戦。挑戦ですね。僕はずっと挑戦側にいるタイプです。

― 挑戦する時に、怖いと思う瞬間はありますか。

ハワイの波とかを思い浮かべると怖いです。でも、人と戦うとなったら何が何でも行くタイプですし、自分の限界を求めている時に自分の頭の中で「挑戦」という言葉が出てきます。大きい波は海に入る前が本当に怖いです。でも、入ったらどんどんアドレナリンが出ていけます。

― 競技を続ける原動力は、やはり楽しさですか。

そうですね。楽しさと、ライバルがいること。勝った時が何よりも気持ちいいので、その瞬間のためだけにトレーニングしたり、そういうことができるんだと思います。

2032年ブリスベン五輪、CT、そして五十嵐カノアと同じ舞台へ

― この先のビジョンを教えてください。

2032年のブリスベン五輪には絶対に出たいです。今はデーン・ヘンリー選手を一つの目標にしていて、デーンと同じトレーナーにも教えてもらっています。オーストラリアに行っていた時に知り合って、今はアプリでトレーニングのメニューを組んでもらっています。日本にいる時も、その動画を見ながらコミュニケーションを取りながらやっています。

― 日本のサーフィン界の中で、自分はどうなっていきたいですか?若い世代に伝えたいことはありますか。

サーフィンでお金を稼いで、キッズのサポートもしていけたらと思います。
僕はCTになるまでの近道を頑張って探します。その道は整えるから、頑張って練習してほしいですね。嫌いにはなってほしくないです。自分の好きな技を見つけるのが、一番楽しいことだと思います。最終的な目標は、五十嵐カノア選手と戦うことです。

最後に

最後に、インタビューを通じて印象的だったのは、言葉の端々から伝わるまっすぐな素直さだった。
幼い頃に抱いた海外の波で戦ってみたいという思い。ライバルの存在、勝てない時期、世界大会での経験、そしてタイトル獲得を経て、その思いは今、より明確な目標へと変わっている。CS、CT、2032年ブリスベン五輪と、見据える舞台は大きい。それでも挑戦し続けることを自分の軸にしながら、周囲から素直に学び、吸収し続ける姿勢は変わらない。そのまっすぐさを持つ渡邉壱孔が、これからどんな景色を見るのか。これからの歩みにも注目したい。

プロフィール

渡邉 壱孔

千葉県旭市出身のプロサーファー。
12歳からオリンピック強化指定選手に選ばれるなど、日本サーフィン界を担う次世代の若手として注目を集めている。スピードとパワーを生かしたダイナミックなサーフィンを持ち味とし、攻めのライディングで存在感を放つ。
2024年のISA World Junior Championship U18では4位入賞。2025年にはWSL 2025 Men’s Junior Asia Championを獲得し、2026年1月のワールドジュニア・チャンピオンシップでは5位タイに入るなど、世界の舞台で躍進を続けている。

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