「他のライダーたちとは常に違う自分でありたい。」BMXライダー大和晴彦が表現し続ける自分だけのオリジナリティとは

2023.08.31
photograph by Jason Halayko
Interview and Text by 畠山大樹

東京オリンピックから正式種目となったことを皮切りに注目を浴び、現在人気急上昇中である「BMXフリースタイル・パーク」。近年では性別や年齢問わず子どもから大人まで幅広い年代が楽しめるスポーツとしても人気があるこの種目だが、BMXも元々はカルチャーから生まれた遊びであり、このBMXが持つストリートカルチャーも魅力のひとつとして知られている。

今回はそんなBMXフリースタイル・パーク種目の日本最高峰で活躍する傍ら、BMXライダーとしての新たなスタイルを開拓し続け、他の日本人選手とは一線を画すオリジナリティに溢れたトップBMXライダーがいる。

それが神奈川県横須賀市出身の大和晴彦選手だ。BMXやスケートボードなどのストリートスポーツの聖地でもある横須賀市の「うみかぜ公園」をホームとする彼は、物心がついた頃からストリートカルチャーに触れる生活を送ってきたBMX界の申し子。現在はBMXエリートライダーとして世界一を目指し努力を続ける一方でモデルや映像クリエイターとしても活動している。

今回はそんな自分だけのオリジナリティを世の中に提示し続ける大和選手にインタビュー。彼自身が持つBMXスタイルを始め、多分野での活動を通じて追い求める彼のオリジナリティ、そしてその様々な活動がBMXキャリアに与える相乗効果についてを今後の目標も含めて語ってもらった。

大和晴彦(おわ・はるひこ) 以下: H

BMXで表現できるスタイルはライディングだけじゃない。ファッションやバイクデザイン、自分だけのこだわり全てを持ち込む。

特徴的なスタイルを持つ大和選手ですが、最初に自分の「BMXでのスタイル」とは何か聞かせてください。

H:BMXでのスタイルというのは自分の魅せ方だと思っています。僕のスタイルとしてはライディングだけではなく、その時着る洋服や使用するバイク等も全部ひっくるめて、自分のスタイルを持ち込むことをモットーにしています。

また大会によっても、毎回できるだけ違う色のバイクで出場することや、他のライダーが着ないようなファッションをしたり、まだ他のライダーがやっていないトリックをライディングに取り入れるなど、周りとは違うスタイルを魅せるところが自分のポイントなのかなと思います。

ファッションにもこだわりがあるとのことですが、BMXに乗るときの服装で意識していることはありますか?

H:周りがまだやっていないことを先にやるのが僕のスタイルだと思っています。服装に関しても今では迷彩パンツとかカラー系のパンツを穿いているライダーを大会で目にすることもあると思いますが、昔にこういったパンツを僕が穿き始めてからBMX界隈で広まったような印象があります。

服の機能性ももちろん大事ではあるんですが、僕は周りの人とは被らないスタイルで自分がカッコいいと思うファッションをライディングの時にも取り入れるようにしています。

確かに競技として発展する上で服装の機能性も求められていますが、大和選手は特にファッションに気を遣われているのを感じます。ちなみにバイクはどういう風に変えることが多いですか?

H:今回、僕の新しいスポンサーになって頂いた(デサント社の)「MOVESPORT」さんや「Monster Energy」さん等のブランドロゴをバイクに貼らせてもらう中で、そのロゴが映えるようにバイクを塗装したり細かいこだわりを持っています。

また以前はヘルメットに色々な絵を書いてみたり、普通の人があまりやらないことをやって、とにかく人の目に映る部分はカッコよくしようっていうスタンスでやっています。

そんな自分の魅せ方にこだわりを持つ大和選手ですが、ライディングで意識していることはありますか?

H:ライディング中、僕はコンボトリックを多く入れることを重視していますね。どのジャンプでも一つでも多くのコンボを入れられるようにトリックをチョイスしていますし、他のライダーと比べた時に自分の方が少しでも高く飛んでスタイルを出すことで、周りの人より目立てるようなライディングができるように意識しています。

大会では得点も重視されますが、技の難易度だけではなく魅せ方も意識されているということでしょうか?

H:はい。大会は競技の場である一方で、個人的には1分間のショーだと思っています。そのためその1分間の中で見せる自分の仕草だったり、トリック中にバイクを回す角度、人からのあらゆる視線を意識した上で「どれだけ観客を楽しませられるか」を重視したライディングをしています。

僕はいくら上手でメイクするトリックが凄くても、人目につかなかったりカッコよくなかったらダメだと思っているので、自分のスタイルとしては目立つことカッコよさをずっと追求していきたいと思っています。

たとえ大技がすごくて技術が高くても、スタイルがカッコよくないライダーには絶対なりたくないので、どんなトリックでもメイクする時のスタイルは特にこだわりを持っています。

ストリートカルチャーが身近にある生活の中で、ある海外BMXライダーのライディングが彼のBMXライフに火を付けた

改めて大和選手がBMXを始めたきっかけを聞かせてください。

H:僕はお父さんの影響でスケートボードを最初に始めました。お母さんもこういうストリートカルチャーが好きでしたし、特にお父さんが結構クレイジーな感じだったので、僕をベビーカーに乗せたままうみかぜ公園のパークに連れて行ったと聞いています(笑)

そんな感じの環境で育ったので1〜2歳頃にはもうスケートボードに乗っていました。子どもながらに覚えているのですが、スケートボードは自分にとっては当たり前にある遊びだったので何の抵抗もなく楽しんでいました。

BMXもスケートボードと同じストリートカルチャーの発祥で身近なものでした。小学校3年生くらいの時にたまたまお父さんとうみかぜ公園に行った時にプロBMXライダーのライディングを見てから、無性に自分のBMXが欲しくなって誕生日に買ってもらったんです。これが僕のBMXライフの始まりでした。

それからBMXに乗り始めて、遊びから競技へどのように本格的にシフトしていったのですか?

H:僕が最初に出場したのは「ペルージャカップ」という大きな大会だったのですが、その大会に知り合いみんなが出るというノリの中で僕も誘われました。本当は出たくなかったんですけど、みんなに「出たら絶対面白いよ」って言われてほぼ強制的に出ることになりました。

その後も当時の僕は本気で競技をやるつもりはなかったのですが、周りが僕のことを本気でプッシュしてくれたことで徐々に大会へ出ていくようになりました。今本格的に取り組んでいるパーク種目にガッツリハマったのは小学6年生〜中学1年生の頃だったと思います。

パークにハマり出したのも友達や周りのライダーが後押ししてくれたことがきっかけですか?

H:実は違うんです。僕自身あまり人に憧れることはないのですが、初めて心からカッコいいなと思ったのがHarry Main(ハリー・メイン)という海外のBMXライダーでした。たまたま知り合いから彼の動画を見せられた時に凄く衝撃を受けて、「本当にパークでこんなトリックをするライダーがいるんだ!」って思いました。それまではストリートしか知らなかったんですけどそこで初めて「パーク種目」の存在を知りましたね。

それから四六時中、彼の動画を見るようになって「俺もパークで乗りたい!」って思い始めて色々なパークへ親に連れて行ってもらったり、友達にも「パーク行こうよ!」って言って一緒に各地のパークを回るようになりました。トリックも海外ライダーたちの動画を見て、見よう見まねでずっと独学でやってきました。

そういう意味では本当にハリー・メインの動画がターニングポイントです。その動画に出会ったのが小学校5年生くらいだったのですが、そのタイミングで今では親友になっているフクシマ シュンとコウスケの二人に出会ってさらに僕のBMXライフに火が付きましたね。

photograph by Naoki Gaman / JFBF

火付け役になった友達は大和選手のスタイルや感覚に似ていたんですか?

H:おもしろいことにそれが全然似てないんです!最初は自分とのモチベーションの違いに「なんだよこいつら」ってずっと思っていたんですけど、だんだんお互いを理解し合って受け入れることでその環境が今度は楽しくて仕方なくなっちゃって。

俺がこの技をメイクしたら誰かが喜ぶんじゃないかとか、あいつがこの技やるなら俺もやろうとか、そういった相乗効果が友達と一緒にいる中で生まれてきたんです。そのおかげで僕はドップリBMX沼にハマっていって今がある感じですね。

自分の原動力はどんなことでもオリジナルを追求し没頭すること

お話を聞いていると、大和選手の原動力は周りがまだやっていない新しいことを開拓することなんだろうと感じます。

H:そんな感じですね。周りを気にせずにとにかく自分のスタイルでずっと楽しんでいることが良かったのかなと思っています。

ちなみに大会で結果を残すために練習中に意識して取り組んでいることがあれば教えてください。

H:練習に行く時は必ず自分の中でその日の目標を決めるようにしています。例えば、大会でやりたい技やまだ完成度が低い技のメイク率を上げることを目標に入れて「このトリックを自分のものにするまで帰らない」と決めて練習したりしています。

その中でも「決めた回数をメイクするまで絶対に帰らないというルール」を自分に課して、毎回なんとか達成するということを繰り返して続けていたら、大会でも表彰台付近までは行けるようになっていました。

また僕は長時間練習することが苦手なのでパークに行ったら1~2時間だけ集中して、その自分ルールの中で同じトリックや大会をイメージしたルーティーンを練習しています。

photograph by Jason Halayko

自分に合ったやり方を見つけて突き詰めている大和選手ですが、自分の強みは何だと思いますか?

H:やっぱり僕は誰からも教わらずにここまで来たことが、自分の強みの一つなのかなと思っています。昔から他の人と違うことが好きで、むしろ同じことが嫌だったので、絶対周りと同じようなライダーにはならないと決めていましたし、これからも自分自身のオリジナルのスタイルを貫いていこうと強く思っています。

一方で、BMXから降りた私生活の中で趣味はありますか?

H:僕はBMXを降りても何か他に没頭できるものが欲しくなるタイプなので、その時ハマっているものが自分の支えになることが多いです。ファッションも好きなのですが、今は車をいじるのがすごく好きでハマっています。BMX以外でも常に何かに没頭していたいんです。

ちなみにその自分の愛車にはどんなこだわりを持っていますか?

H:男心をくすぐるような男の子なら絶対好きな車を作っています(笑)その中でも僕は絶対に車屋さんに出さないと決めていて、自分の理想の車を自分の手で作り上げるというこだわりをブレさせずにやっています。

洋服から車へと創作技術のレベルがどんどん進化していますね。やっぱり自分で作っていくうちに新しいアイデアが次々に湧いてくる感じでしょうか?

H:はい。やっぱり僕は自分で作ることが好きなんですね。創作活動を通じてどの業界にも魅力はあるんだなと感じる一方で、周りと一緒は絶対嫌なので他の人がしていないことを僕はすると決めています。「オリジナル」という言葉が自分に一番しっくりくるなと感じています。

BMX業界だけに止まらず、多分野でも発信し続ける自分のオリジナリティ

そのオリジナリティを発信する場としてSNSがあると思います。どのように活用されていますか?

H:常に自分が納得できるカッコいいものをインスタグラムに投稿するようにしています。それはライディング動画や自分の写真を含めてですが、ダサいものは絶対投稿したくないので素材選定は常に意識しています。個人的にはインスタグラムに投稿することは大きいイベントなので、そこで自分のカッコよさを引き出せるような写真選びと映像作りは常に大事にしています。

なぜならインスタグラムも自分を表現する一つの作品だと捉えているので、投稿一つ一つにエンターテイメントとスタイルを詰め込んで自分だけのカッコいいものを作り上げることを意識しています。

また大和選手はモデルや映像クリエイターとしても活動されていますが、モデルとしてはどんな魅せ方を意識していますか?

H:自分の一番カッコいい表情はもちろんですが、ありのままの自分をカメラマンさんに撮っていただけるように心がけています。たとえTシャツ一枚であっても自分が着ればこれだけカッコよくなれるんだよということを心から思うようにしています。またどんなに小さい仕事でもいかに自分をアピールできるのかを考えたり、常に頂いた仕事に対して全力で臨んでいます。

映像クリエイターとしてはどういったことを意識して活動していますか?

H:常に退屈しないような映像を作ることを意識しています。例えば1分間の映像であっても、そのうち3秒くらい無駄な映像が流れているだけでつまらないと思っちゃうんです。なので、たかが1分なんですけど「あ、もう1分たったの?」って思われるくらい視聴者を退屈させない映像編集をして一つの作品として作り上げるようにしています。

僕が作る映像はBMXはもちろんのこと、最近は車の映像も作りましたし、以前は一度洋服の映像を撮って外部提供した経験もあります。僕は何かの映像を専門で撮るっていうより、色々な映像を自分の色に作り上げることが得意ですね。今後は映像を通して自分をよりカッコよく見せることと、独創性にあふれた自分らしい映像を作っていきたいと思っています。

今後はモデルや映像クリエイターなど多分野でどんな活躍をしていきたいですか?
H:もう何でもしますし、とにかく自分の生きているこの人生に後悔がないようにしたいです。今後も枠にはまらない活動をどんどんしていきたいですね。

photograph by Jason Halayko

このような多分野での活動は、自身のBMX活動にどう活かされていますか?

H:BMX活動だけではなく、僕の全ての活動が土台となって自分自身を支えているような感じがします。なぜなら必ずしも「BMXやりたい」という気持ちだけではライダーとして上手くなれないですし、趣味や友達の存在が「BMXもっと頑張ろう」という意味を与えてくれることもあるからです。

例えば、大会で優勝して友達が喜んでくれることが僕のBMXをやる意味にもなりますし、大会の優勝賞金が車を改造する資金となり自分の趣味が充実することでさらにBMXのやる気にも繋がります。もちろんBMX単体でもすごい技をメイクできた時に周りから「超カッコいいじゃん!」と言われることがモチベーションにもなります。

このように自分を取り巻く全てのものがお互いに支え合うことで大和晴彦が成り立ってるんだと思います。どれかが欠けてしまうだけで、もう僕ではなくなるので本当に一つ一つが僕にとって大切な存在です。

大和晴彦が目指す今後の目標と理想のBMXライダー像

photograph by Naoki Gaman / 81BMX

BMXライダーとしての今後の目標を聞かせてください。

H:とりあえず大会で世界一になりたいです。世界一になれば「この時は自分が世界で一番上手かった!」と言えるのでその揺るがない称号が欲しいですね。この称号は僕がBMXを引退してからも話せることですし、周りからも認められる文句なしの成績なので引退後の話題作りとしても最高だと思います。
将来自分が父親になった時にお酒の席で、子どもとこの話ができたらお酒も進むんじゃないかなと思ったりもします(笑)

やっぱり僕の根本的な思いとして、自分が没頭して取り組んでいることでは何でも一番を取りたいですし、今一番その座に近いのはBMXだと思うので引き続き頑張っていきたいと思います。

大和選手にとってBMXはどんな存在ですか?

H:大和晴彦の人生を切り拓いてくれた存在ですかね。BMXがなければ僕が今こうやってインタビューを受けることもなかったですし、色々な人たちに知ってもらうこともなかったと思います。BMXがあって僕がいるっていうのは事実なので、BMXは僕を常に高みに引き上げてくれる大切な存在です。

photograph by Naoki Gaman / JFBF

最後に大和選手が目指している理想のBMXライダー像を教えてください。

H:いわゆるBMXライダーっぽくないBMXライダーになりたいですね。。僕が一番輝けるこのBMXというステージで「ストリート」「パーク」「フラットランド」「レース」といったジャンルに縛られず、全く別の自分だけのオリジナリティを作っていきます。今後も自分だけのスタイルを世間にぶつけていきたいと思います。

大和晴彦プロフィール

photograph by Jason Halayko

2002年7月26日生まれ。神奈川県横須賀市出身のBMXライダー。8歳の時に父の影響でBMXを始める。13歳で「ペルージャカップ」に最年少で出場し表彰台2位を獲得した。2020年東京オリンピック強化選手に選抜され、2021年にChimera a-sideで優勝を飾るなど数々の主要大会で頭角を現す。現在はファッションモデルや映像クリエイターとしても活躍しBMXライダーの新たな可能性を切り拓いているBMXフリースタイル界の若きパイオニア。スポンサーはMOVESPORT、Monster Energy、モトクロスインターナショナル、CounterAttractionなど。

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