CHIMERA Freestyle Motocross School レポート

2018.06.20
名古屋メイ

もし、サッカーのワールドカップ代表選手から、直接レッスンを受けられるチャンスがあるとしたら。

それはサッカー選手を志す人にとっては、何としても手にしたいと思うものだろう。もしレッスンを受けることが出来たら、一生の思い出になる。そして世界を舞台に活躍する代表選手たちの姿をテレビで目にした時、自分はあの人に教わったのだと胸を熱くするのではないだろうか。

そんな夢のような話が、フリースタイルモトクロス(FMX)において実現した。世界最高峰のライダーである東野貴行選手と、日本のレジェンドと呼ばれるライダー、気鋭の若手によるスクールが行われたのだ。

フリースタイルモトクロス(以下FMX)は、モトクロスバイクのレースから派生したスポーツだ。レースから派生したと言っても、走る競技ではない。バイクで空を飛ぶのだ。キッカーと呼ばれる発射台から、15メートルの高さまで飛び上がり、空を飛んでいる23メートルの間、さまざまな技(トリック)で人々を魅了する、それがFMXだ。

photo: may nagoya

先日、東京・お台場で行われたCHIMERA GAMES VOL.5で、ひときわ大きな歓声が上がったのが、このFMXだった。まだ一般の認知度は低いが、確実にファンを増やしてきているこの競技のスクールが、2018年6月16日、17日の二日間、福島県鮫川村のモトパーク森で行われた。

モトパーク森は、日本のFMX発祥の地と呼ばれている。現在レジェンドと呼ばれるライダー達は、この地で試行錯誤を繰り返し、日本のFMXシーンを作り上げてきた。開催11年目を迎えるFMX選手権「GOBIG」も、今年はこのモトパーク森で開催されることが決定している。

そのFMXの聖地とも呼ばれる場所で、しかも日頃はアメリカで活動している東野貴行選手から直接教えを受けることが出来るとあって、急なアナウンスにもかかわらず、多くのFMXライダーを目指す人々が集まった。

また、このスクールには、現在入院しているFMXライダーを応援するチャリティーイベントの意義も込められ、スクール参加者以外の見学者の入場料は無料となった。場内にはケガと戦うライダー達へのカンパを募る募金箱が設置されていた。

 

東野 貴行(ひがしの たかゆき)選手につい

東野 貴行(ひがしの たかゆき

photo: may nagoya

精緻にして、ダイナミック。この相反する二つの要素を、ここまで見事に融合させ、自分のスタイルとして確立しているFMXライダーは、世界中を探しても彼の他にはいない。どこの誰であれ、今世界でトップクラスのFMXライダーを10人挙げよ、と言われたら、「TAKA HIGASHINO」の名前が入らないことはないだろう。

2007年から、エクストリームスポーツの最高峰とも言える大会「X-GAMES」に出場し続け、3度のゴールドメダルを手にしている。

photo: may nagoya

1985年3月生まれ、大阪府出身。マシンはYAMAHA YZ-250。

華々しい経歴とは裏腹に、とても気さくな人でもある。

■加賀晃選手『まずは一緒に乗りましょう』

筆者が訪れた17日は、前日の冷え込みが嘘のような穏やかな天候に恵まれた。前日の雨によってぬかるんだコースを、CHIMERA GAMES FMXデモンストレーションのプロデューサーであり、日本のFMXシーンの初期から活躍しているレジェンドライダーでもある加賀晃選手が、ショベルカーを使い整備していく。当初の予定開始時刻を一時間過ぎた10時には、コースはライディング可能な状態になった。

「世界のTAKA」を前に緊張した面持ちの参加者に、日本のレジェンドライダーである加賀晃選手がかけた言葉は『まずは、一緒に乗りましょう』だった。

photo: may nagoya

FMXは、自分と戦う競技だ。コンペティションともなれば順位は付けられるが、その順位はFMXの価値の全てではない。その点が、他のスポーツと大きく異なる点だろう。

空手の「型」のみを披露する種目を想像していただけると分かりやすいかもしれない。そのような競技では、ともすれば個人的な練習に終止してしまう。

photo: may nagoya

だが、ライダーたちはみな口をそろえて『沢山の人と一緒に飛ぶのは楽しい』と言う。その楽しさは、まだ23メートルの距離を飛ぶことが出来なくても、トリック(技)を決めることが出来なくても、関係ないのだろう。練習風景を眺めていると、彼らに一体感が生まれていくのが見えるような気がする。

東野選手は終了後『(アメリカに渡る前の)10年前のモトパーク森で乗っているような気分だった』と語ってくれたが、この皆で飛ぶことこそが、日本のFMXシーンの原点なのかもしれない。

■東野選手『時間をかけてやっと分かったことを、伝えたい』

photo: may nagoya

目の前で「TAKA HIGASHINO」が飛んでいる。それだけでもFMXライダーを目指す者にとっては夢のような光景だ。参加者は東野選手のライドを、目を凝らして見つめている。

コンペではなくスクールであっても、持てるトリックの全てを惜しみなく全力で披露する姿は、どんな言葉よりも参加者のやる気を引き出していた。

photo: may nagoya

photo: may nagoya

ひとしきり飛んだ後、参加者一人一人は東野選手とプロライダー達にアドバイスを受けていた。間に休憩を挟んで3回のセッションが行われ、参加者たちもプロライダー達も、大きな手ごたえを得たようだ。

スクール終了後、東野選手に話を聞いた。

東野貴行選手:

今ちょうど日本で練習していて、帰国前に何か、ライダーたちが集まれるようなことをやりたかったんですよ。モトパーク森で乗りたかったっていうのもあるんですけど、今、片桐弘貴くんと、小林達哉君、二人のFMXライダーが怪我をして入院してしまっていて、ただ乗るのではなく、彼らを応援するようなことも出来ないかなって。そこでアキラ君(加賀晃選手)に相談したら、スクールはどうだろうって話になりました。

スクールの合間には、見学者向けの同乗体験も行われた。使用しているのは、実際に東野選手が乗っているマシンだ。photo: may nagoya

僕は、何も分からない状態で練習を始めて、かなりの時間をかけて、ここはこうしたらいい、っていうのが分かるようになりました。悩んで、誰も聞く人いなくて、長い時間かけて分かったことがある。その経験がある上でアドバイスが出来たら、分からないままやっている人は近道ができる。だから(スクールをやると決まった時は)自分が分かったことを「教えたい」「伝えたい」って思いました。

 でもFMXライダーって癖もあるし、一人一人違うんですよ。

 でもそれは見ていれば分かるんで、ライダーによってアドバイスすることは変えてます。

photo: may nagoya

今回、自分の言いたいことは、伝わったと思います。楽しかった。またやりたいです。

 この場を与えてくれたアキラ君とCHIMERAに感謝ですね。

 これからFMXを始めたいと思っている人は、まず基礎をしっかり固めて下さい。これが一番の近道です。基礎を一つでもパスしたら、のちのち困ることになります。

ステップを踏んで、一つずつ積み上げていって欲しい。

■『また参加したいです』

重ねて、参加者にも話を聞いてみた。FMXライダーを志す人にとって、今回のスクールはどんなものだったのだろうか。

鎌滝翼さん(13歳・千葉県から参加)

タカさんは滅多に会うことのできない人なので、いろんなことを聞いてみたいと思って参加しました。
自分は今、シートグラブワンハンドというトリックを練習しているんですけど、タカさんは肘の位置とか、とても細かく教えてくれたんです。タカさんの言う通りにやってみたら、今までと全然違いました。大きくトリックを出せるようになりました。
他のプロライダーさんもアドバイスをくれて、とても勉強になりました。
人がたくさん来て、いっぱい練習することが出来て、とても楽しかった。また参加したいです。

photo: may nagoya

スクールが始まったばかりの時は、片手を離すことは出来ても、ほんの少しだった翼さん。アドバイス通りに肘の位置を変え、大きく手を離すことに成功した。

猪狩遥太さん(14歳・宮城県から参加)

東野さんの凄い技を目の前で見て、自分もできる限りやろう!って思って、いつもの練習よりも気合が入りました。東野さんは『自分の限界を超えないと練習にならないよ』って皆に言っていて、それがとても印象に残りました。
個人的には、飛び出すときにアクセルを最後まで開け切りなさい、と言われました。今までは怖くて出来なかったんです。
でも東野さんに言われると説得力があって、安心して全開にすることが出来ました。やってみたら、全開にする方が飛びやすかったです。
沢山の人と一緒に飛べて、教えてもらえる人も沢山いて、今回のスクールは凄い勉強になりました。また参加したいです。

photo: may nagoya

プロライダーの飛ぶ、23メートルを飛び始めた遙太さん。恐怖心と戦い挑む姿は、立派なFMXライダーだった。

今回のスクールには、東野貴行選手、加賀晃選手の他に、日本人プロFMXライダー第一号でありながら今なお果敢に挑戦を続けている釘村孝太選手、先日ランディングランプ上でのバックフリップを成功させた金子博延選手に加え、江原大地選手、江原大空選手、藤田拓也選手も参加し、一緒に飛びながら参加者へのアドバイスを行った。

参加者は、東野選手とプロライダー達から、今後へと繋がるものを受け取ることが出来たようだ。

■加賀晃選手『日本中で開催したい』

最後に、今回のスクールの中心者である加賀晃選手に話を聞いた。

加賀晃選手:

FMXのスクールをやろうという話は、以前からあったんです。今年の夏ぐらいの開催予定でいたんですが、東野が急に相談してきて(笑)。急な開催なので参加者が集まるか心配だったんですが、沢山来てくれて良かったです。

 世界中を見ても、トップライダーに直接教わるスクールというのはそうはありません。実績あるライダーに教わることが出来たら、若手も嬉しいだろうし、勉強になる。日本のFMXシーンの為にもなると思って、急ですがスクールを開催することにしました。

photo: may nagoya

東野に直接アドバイスを求めるっていうのは、まだなかなか勇気が出ないのかな、と参加者を見ていて思う部分もありましたが、東野に自分のいいライドを見せたいという姿勢は、皆からしっかり伝わってきました。東野が飛ぶときは、みな食い入るように、目に焼き付けるように見ていました。

 これを何回も重ねていけば、こちらも教え方がうまくなったり、アドバイスする部分やフォローする部分を工夫したりしていけるんじゃないかと思います。

photo: may nagoya

日本中のランプのあるコースを回って、スクールを開催したいですね。

 FMXを始めたいと思っている人は、とりあえず、連絡を下さい!
バイクを持っていて、本気でやりたいと思っているんだったら。まずは話をしましょう!

開催概要

CHIMERA Freestyle Motocross School
2018年6月16日(土)、17日(日)
福島県 モトパーク森
講師 東野貴行、加賀晃、釘村孝太、金子博延、江原大地、江原大空、藤田拓也

執筆者について
名古屋メイ
ブライダルカメラマンになる筈がエクストリームスポーツの撮影ににハマってしまい、 日本中を撮り歩くようになる。撮り続けていれば、いつか佐藤英吾さん(日本のFMXを創った男) に逢えると信じて疑わない。趣味は木こり他、諸々ありすぎ。年齢は内緒。
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