「カルチャー」は、どこまでマーケティングに貢献できるか |【連載】FINEPLAY INSIGHT 第8回

2020.03.25
FINEPLAY編集部
「カルチャー」は、どこまでマーケティングに貢献できるか

かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」。

アクションスポーツやストリートカルチャーのために、ビジネス視点を交えて提言を行う本連載「FINEPLAY INSIGHT」。

前回までの3回はわりと数字っぽいお話でしたので、今回は企業側の視点について、あまり数字っぽくなりすぎずに僕なりの考えを述べてみたいと思います。

マーケティングの役割は極論「もっと売ること」

いきなりですが、マーケティングほどビジネスの世界であいまいに使われている言葉もそうそうないのではないかと思います(笑)。ある人は広告のことを指し、ある人はデジタルでの集客ないし客単価アップを指し、ある人はデータ分析やマーケット理解の作業を指します。

以前、企業が営むビジネスの(哲学的になる前の)ゴールは利益を生むことだと端的に述べましたが、利益を増やす方法には単純に2通りあります。売上を伸ばすか、コストを減らすか、です。小学生のようですが本当です。なかなかビジネス書やビジネススクールではそうとは言い切ってはくれないのですが、自分で商売をしてみれば、よく解ります。

僕の考えでは、マーケティングはそのうち前者、つまり売上を伸ばす活動だと理解するとわかりやすいと思います。また売上を伸ばすということは、お客さんの数を増やしたり、客単価を上げる(より多く、ないしより高いものを買ってもらう)ことです。その一つ一つの役割や手段を細分化していったものが◯◯マーケティングと呼ばれ、局所化とトレンド化を繰り返していますが、僕にとってはマーケティングはマーケティングです。◯◯マーケティングは存在しない。マーケティングは売上をより伸ばす総合的な活動、ということに尽きると思います。

カルチャーはマーケティングに貢献できるか

FINEPLAY INSIGHTをご覧になってくださっている方々の中には、いかにアクションスポーツやアーバンカルチャー(と便宜的に呼びます)が企業のマーケティングに貢献出来るか、その緒(いとぐち)を模索している方も多いことと思います。かくいう僕も、一応の元プレイヤー目線ではその一人だと言えます。

反対にプレイヤー目線ではなく、企業やブランドの中で、アクションスポーツやアーバンカルチャーに携わる機会のある方もいらっしゃると思います。企業によっては「ミレニアム世代やZ世代にフォーカスせよ。そのためにはアクションスポーツやアーバンカルチャーを攻めていくゾ!」という方針が下されている環境の方もいらっしゃるかもしれません。

しかしこれまでの連載をお読みになってきた方々は薄々お気づきのとおり、結論をいうと、アクションスポーツやアーバンカルチャー「だけ」ではマーケティングになりません。

なぜでしょうか。

理由は単純に、それだけでは母数が少なすぎるのです。第6回で取り上げたように、アクションスポーツやアーバンカルチャーは観戦人口にレバレッジがかからず、その人数はメジャースポーツの数十分の一以下だといえます。僕たちが生息しているカルチャーは残念ながら、日本全体にとっては微々たる影響力しかないのが現状です。

ですから冷徹に考えれば、一見若い世代やアーバンカルチャーを主軸にマーケティングが成功しているように見えるブランドも、単純に日本参入時に競合がいなかったとか、実はマススポーツで誰もが知るスーパースターをしっかり抑えているとか、価格が安くて配架が取れるとか、低価格帯商品×量販店で大部分の売上を作っているとか、実に複合的な要因でマーケティングの成果が出ていることが多いのです。

僕自身、かつてはこうした視点を冷静に見ておらず、稚拙な議論を繰り返してしまっていた反省を持っています。ちなみに、(日本にある)企業やブランドがついつい若い世代に着目するのには2つの理由があると思います。

ひとつは、日本全体、特にそもそも若い世代の支出が減っていることで、相対的に若い世代の売上や好意度がどのブランドも下がっていると観察されてしまう点です。これによって多くのブランドにとって若い世代の売上や好意度の向上が「喫緊の課題」に感じられてしまうのです。しかし現状はマクロでの支出意欲減ですから、欲しいブランドも減っていきます。僕はこの「課題」は多くのブランドで共通して起きているのではないか、と思いますが、自社固有の課題として錯覚してしまうのです。

給料は増えても、20代の支出は増えていない
給料は増えても、20代の支出は増えていない

もうひとつは特にグローバルブランドの場合で、世界的にみればまだまだこの世代のボリュームはウエイトが大きく、引き続き成長していくため、重要度が高いのです。今後数年、数十年を考えたときに、若い世代に今のうちから自社を好きになってもらえれば、生涯で自社に消費してくれる合計の金額はきっと大きくなるはず。ビジネス上そう考えて若い世代にフォーカスしている最も典型的な組織が、オリンピックを主催するIOCだと思います。

世界では若者の重要度がまだまだ高い
世界では若者の重要度がまだまだ高い

「横軸」で考える必要性

では、アクションスポーツやアーバンカルチャー側の僕たちは、どうしたらいいか。

僕なりの今の所の答えは、「横軸」で考える、ということなのかなと思っています。「横軸」というからには「縦軸」もあるのですが、それぞれは次のようなことです。

まず縦軸とは、「アーバンなライフスタイルを送るZ世代」や「週◯回は運動に汗を流し、キャリアも追求する女性たち」など、企業が追い求める理想的な顧客像です。よく言う「コアターゲット」ですね。

ただし計算してみると解りますが、こういった縦軸の人数は数万人程度、場合によっては数千人しか日本に生息していない、ということも多いのです。企業は自分のブランドをこういった縦軸の人たちに好きになってもらうように頑張るのですが、それだけでは目標の売上は立つすべもない。僕は実際のクライアントに「このコアターゲットだと目標の1%しか売上が立たないですね」というような話をして、よく嫌がられます(笑)。マーケティングの一般論で「ターゲティングをしなさい」というのはセオリーなのですが、ターゲティングは諸刃です。ターゲティングすることはすなわち、自社の潜在的な顧客のマトを狭めることに他ならないからです。実際に、ターゲティング自体が間違っているのではないかという疑問が、統計学的な分析を主軸にしたマーケティングの学派から近年よく提出されています。

そこで工夫するのが、横軸です。

横軸はいわば「縦軸の人たちも含めた世の中のできるだけ多くの人たちが共感し得るテーマ性」です。縦軸の人たちを「含めた」ということがポイントです。つまりこの横軸を考慮することで、好きになってもらいたいコアターゲットの人々を切り捨てず、むしろ彼らも味方につけた上で、さらに多くの人たちに好きになってもらう機会が見えてくるのです。

例えば、ナイキはこの横軸の設計に秀でたブランドの一つだと思います。試合前の国歌斉唱で起立を拒否したコリン・キャパニックを起用したキャンペーンでは、「人種差別」という太い横軸を見事に通し、アメリカンフットボールファンやスポーツファンの縦軸を超越した効果を発揮しました。また母親でもあるセリーナ・ウィリアムズを起用したキャンペーンでは「ジェンダーフリー」や「現代の母親像」という、こちらも現代人にとって重要度の高い横軸を通したといえるのではないでしょうか。

不謹慎ですが、震災時や今年の疫病に対して企業が取るアクションに大きな反響や共感が集まるのも、横軸の力の一例だと思います。

僕もあるクライアントでアジアのカルチャーに関するプロジェクトを手掛けた際、主軸の文脈として組み立てたのは「(音楽に限らない)世界の重心としてのアジアシフト」でした。ともすればニッチなまま終わりかねなかったそのプロジェクトは、多くのビジネスメディアや一般メディアからも関心を持ってもらうことが出来ました。現在も様々な企業のプロジェクトをお手伝いしていますが、戦略上の主眼にあるのはつねにこの横軸です。商売にとって必要十分な人数を味方に付ける機会があるかどうか。縦軸だけでは、マーケティングの成果はまず出にくいと思っています。

アクションスポーツやアーバンカルチャーにおいても、僕たちのニッチなカルチャーやシーンにどんな横軸を掛け算すればより太くなるか、を考えていく意識が大切です。例えばダンスやスケートでいえば、「スポーツのユニフォーム文化」をガラっと変えていくようなことが出来るかもしれません。2024年や2028年のオリンピックでは、ゼッケンや紋切りユニフォームのスポーツは減り、パーカーやTシャツ、好きなスニーカーで競技を行う種目が大幅に増えているかもしれません。スポーツのあり方、ユニフォームのあり方が変わっていく様を社会に対して見せていけると、スポンサーにつく意味合いや世間から関心を持ってもらえる確率も、ぐっと増すのではないかと思います。

他にもスキー・スノーボードのフリーライド大会「Freeride World Tour」の日本支部は、日本特有の上質なパウダースノーに観光資源として着目し、白馬村をはじめとした自治体と立体的な取り組みを進めています。中国人を皮切りに世界から高い注目を集めている日本のスノーリゾート特有の機会を活かしつつ、地方資源の価値化という、日本全体が抱える大きなテーマを横軸として掛け算している好例といえると思います。

縦軸だけでなく、横軸のテーマを通す
縦軸だけでなく、横軸のテーマを通す

この横軸発想は、「カルチャーかマスか」という二項対立ではなく、できるだけ多くの人に届くテーマを通じてそれらを両立させる視点です。現代のメディア環境は、嗜好をベースに極めて細分化されていて、縦軸の面積も年々狭まっているのではと思います。その時代において、企業側とカルチャー側の双方にとって、この横軸視点が非常に有効であるように思います。

AUTHOR:阿部将顕/Masaaki Abe(@abe2funk)

大学時代からブレイキンを始め、国内外でプレイヤーとして活動しつつも2008年に株式会社博報堂入社。2011年退社後、海外放浪やNPO法人設立を経て独立。現在に至るまで、自動車、テクノロジー、スポーツ、音楽、ファッション、メディア、飲料、アルコール、化粧品等の企業やブランドに対して、経営戦略やマーケティング戦略の策定と実施を行う。
現在、戦略ブティックBOX LLC代表、NPO法人Street Culture Rights共同代表、(公財)日本ダンススポーツ連盟ブレイクダンス部広報委員長。建築学修士および経営管理学修士。

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