Skateboarding Unveiled vol.6 ~ムラサキパーク東京の軌跡を辿る~

2023.09.26
コンテストのみならず、東京オリンピック追加種目発表記者会見もムラサキパーク東京で行われた
text and photography / Yoshio Yoshida

「想い出が詰まった場所です」
「青春時代を共に過ごしました」
「私たちの憩いの場所でした」

無くなってみて、初めて当たり前にあった場所の大切さに気付く人も多い。

“伝説のスケートパーク”と捉えている人もいるだろう。
『ムラサキパーク東京』のことだ。

前回のコラムでは2009年にムラサキスポーツに経営権が移り、Map’s Tokyoからムラサキパーク東京へ名称変更、2014年に全天候型の屋内パークが完成したところまでをお届けしたが、今回は今年5月7日の営業終了までに行われたコンテストやイベントの写真から、一時代を築いたスケートパークの軌跡を辿っていきたいと思う。

未来の金メダリストの一日

ムラサキパーク東京をホームとしていた当時16歳の堀米雄斗

といったところで、いきなり変化球から入らせてもらうのだが、まずは「The Days Inn」という、トップスケーターの1日を追う企画から紹介していきたい。

これはかつて自分が在籍していた専門誌、「TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN」の人気コーナーで、2015年2月に撮影したもの。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで国内シーンのトップに上り詰めていった堀米雄斗に密着させてもらったのだが、後のオリンピック金メダリストを育てたという事実は、ムラサキパーク東京がどれだけシーンに貢献をしてきたのかがわかる重要な証拠となるだろう。

メジャーブランドも次々にコンテストを開催

MAKE IT COUNT 2015で優勝した田中陽

次は同年5月に開催されたElementによる「MAKE IT COUNT」。

もともとElementは、この前年に富山の「NIXSスポーツアカデミー」で同イベントを開催するなど、国内で話題性あるパークがオープンしたら真っ先にコンテストを行ったり、映像作品をリリースしてきた。この年の会場にムラサキパーク東京を選んだのも自然な流れだろう。

当時は並いる若手有望株を抑え田中陽が優勝。瀬尻稜や松尾裕幸といった、同社が抱える様々なブランドに所属する豪華ライダー陣によるデモも行われ、盛大な盛り上がりを見せた。

デモンストレーションで圧倒的な存在感を見せつけた瀬尻稜

そして7月にはVOLCOMが「WILD IN THE PARKS」を開催。これはアメリカ各州や世界各地で行うコンテストの日本ラウンドにあたり、“OPEN”と“14 and UNDER”の2クラスの優勝者にはThe Berricsで行われるチャンピオンシップスへの出場権が与えられ、現地までの航空券と宿泊が用意された。

優勝は堀米雄斗と池田大亮で、彼らが世界へと足を踏み出す最初の一歩となったのだが、この時は10歳以下のLIL’ MONKEYクラスも行われ、見事池田大暉が制覇している。

彼らの今の活躍を見れば、誰もが納得する結果と言えるのではないだろうか。

またこちらは余談になるのだが、このイベントからパーク中央部のセクションがリニューアルされており、以後この三角形型のセクションがパークの定番となっていった。

優勝した堀米雄斗(左)のライディングと、池田大亮(右)。
このコンテストは両者の世界進出の足がかりとなった。
LIL’ MONKEYクラスで優勝した池田大暉(右端)

当然海外のプロスケーターも来日

左からユーン・サル、エリック・コストン、ショーン・マルト。彼らからの声掛けでリラックスしたポートレートが撮影できた

続いては海外から来たライダーのデモとスクールイベントを。これは同年12月にSkull Candyクルーとして来日したエリック・コストンとショーン・マルト、さらにフォトグラファーのユーン・サルという面々。

最近ではRed Bullチームの来日が記憶に新しいが、それでもブランド単位のジャパンツアーは以前と比べれば少なくなったように思う。

以前は毎月のように様々なブランドの来日ツアーが行われていた時代もあったし、筆者もその情報に心を躍らせていたひとりだ。

だがそれ以上に、今はX GamesやSLSといった国際大会が日本で開催されるようになり、あらゆるトッププロを一挙に見れるようになったのだから、時代の進歩は凄まじい。

デモでライディングを披露するエリック・コストンとショーン・マルト。
写真からも彼らのスタイルが伝わる

JSFによるストリートのコンテスト

2016年に入ると、今度はJSF (Japan Skateboarding Federation)がストリートのコンテストを開催している。

今はストリートがAJSA、パークスタイルがJSFというイメージを持つ人が多いと思うので、もしかしたらこの事実には驚きを持つ人もいるかもしれない。

だが優勝は池田大亮、2位に堀米雄斗という顔触れは当時の他のコンテストと変わらない。

彼らがいかに突出していた存在だったかがわかる一枚だ。

優勝した池田大亮(中)のライディングと、2位の堀米雄斗(左)、3位の根岸空。
集まっているメンツも今を代表する豪華スケーターばかり。

オリンピック追加種目発表記者会見の場にも選出

そしてこの年で忘れてはいけないのが、オリンピック種目への採用が正式に決定したことだろう。

実はその記者会見場に選ばれたのもムラサキパーク東京だったのだ。これはおそらくではあるが、当時はスケートボードの社会的認知度がまだまだ低かったため、世間一般にどんなものなのかを見てもらおうと。デモンストレーションも兼ねた記者会見となったのでないかと思う。

ただ日本のスケートボードの歴史においては、ものすごく重要な一瞬であったことは間違いのない事実だ。

おそらくこの時がメディアも含め、世間がスケートボードを目にした最初のタイミングではないだろうか。それもあってか、当時はマスメディアも摩訶不思議そうなに見つめていた記憶がある。

東京五輪に向けた国内大会も多数開催

優勝した池 慧野巨と参加選手たちの面々。よく見るとあんな人やこんな人も発見できる

その後はオリンピックに向けて、徐々にスケートボードシーン全体が社会からの注目を浴びるようになってくる。これは2018年5月に開催された第2回全日本選手権の写真になるなのだが、第1回と第2回の開催場所に選ばれたのもムラサキパーク東京だったのだ。

ただその後はムラサキパーク笠間や、村上市スケートパークといった、新たにオープンしたコンクリートのスケートパークへ徐々に移行していったので、ビッグコンテストの開催は減っていくのだが、東京五輪に向けた戦いの初期を支えていたのは間違いなくココだった。

当時の優勝は池 慧野巨(左)と伊佐風椰(右)。この優勝をきっかけにちょうど現在開催中のアジア大会への出場権を獲得した。

それでも2019年はまだまだ国内のコンテストシーンのど真ん中に居座っていたことがわかる。

なぜなら2月にはWORLD SKATE JAPANの全身であるJRSF(Japan Roller Sports Federation)によるJAPAN OPENが初開催されているからだ。

この年はオリンピックを翌年(その後コロナ禍により一年の延期となったのは皆さんが周知の事実)に控え、いよいよ本格的なライダー選考の始まったタイミングであり、強化選手選出を兼ねたコンテストだった。そこでAJSA(日本スケートボード協会)との共催で行われ、5月の村上での第3回日本スケートボード選手権大会と合わせて絞り込まれていった。

2019年の優勝は池田大亮(左)と、藤澤虹々可(右)。

時代には左右されないAJSAのムラサキカップ

2018年のムラサキカップは優勝が池田大亮で2位が白井空良なのだが、実はこの数ヶ月後に行われたJRSF JAPAN OPENも同じ並び。堀米雄斗がアメリカに拠点を移してからは、この2名が国内の覇権を争っていたことがわかる。

ここまでの話を聞くと、ムラサキパーク東京は見事に時代の波に乗り、次々にコンテストを開催、そして成功させていった場所だと思うかもしれない。

だがその一方で、昔から変わらないものもある。AJSAのムラサキカップだ。

これはオリンピック競技の採用が決まる前から開催されているもので、当然2018年も2019年も、もちろん今(今年はムラサキパーク立川立飛のこけら落としイベントの一環で行われた)も開催され続けている。多くの皆さんもご存知だと思うが、AJSAは日本一の、しかもぶっちぎりで長い歴史を持つ団体だ。そこには世の中の流行り廃りに左右されず、しっかりとした基盤とピラミッド型の育成システムを創り上げ、コンテストを通して業界の底上げを図っていくという意思表示の表れでもあると思っている。そんなAJSAを、自分は可能な限りずっと協力していきたいと思っている。

2019年は青木勇貴斗、山下京之助、白井空良による三つ巴の戦い。本当に僅差であったため、まさかの優勝に青木勇貴斗は驚きの表情を見せていた

近年広がりを見せるフォトセッション

撮った写真を即座に編集して当日中に本人へ渡す。撮影後は画面を食い入るように見つめていた参加者たち

その後世界がコロナ禍に見舞われたことで、しばらくイベントの開催はなくなり、自分が足を運ぶことも減っていったのだが、久しぶりに訪れたのが、2021年3月に行われたJASA (ジャパン・アクション・スポーツ・アソシエーション)によるフォトセッションになる。

これは現在徐々に広がりを見せている形式のイベントで、撮影した写真データを当日中に編集し、その場でもらえるという試みだ。

というのもプロスケーターにでもならない限り、普段の生活では大判印刷できるようなカメラで、しかもプロカメラマンにライティングまでして撮ってもらう経験は、そうそうあるものではないと思う。現にこの時も多くの人が、「僕も(私も)撮ってくれ! 」声をかけてくれたし、実は今も現在進行形でこういったイベントの企画は進めているので、開催した際はぜひ皆さんにもご参加いただけたら幸いだ。お子さんの成長の記録としてもピッタリではないかと思う。

そしてこの年の7月にあったビッグイベントといえば、まだまだ記憶に新しい東京オリンピックだろう。

本番会場は有明アーバンスポーツパークだったが、これはその直前にボードライダーズ社の主催で、メディア向けの公開練習が行われた時のものだ。

同社に所属する西矢椛、中山楓奈、岡本碧優、青木勇貴斗が華麗なライディングを披露し、マスコミからの質問に答えていたのだが、中には岡本碧優が滑っているのを疑問に思う人もいるだろう。なぜなら彼女は女子パークの選手であり、ムラサキパーク東京はストリートのパークだからだ。

だが、そこにも当然理由はあって、この日は本来ならムラサキパーク笠間で行われる予定だったのだが、降雨により急遽屋内施設であるムラサキパーク東京に会場が変更されたのだ。

だからこそではあるが、ストリートのパークで滑る岡本碧優というレアな一枚を撮影することができた。

クォーターではあるが、岡本碧優(左)がストリートのパークを滑るというレアな一幕。そして西矢椛(右)はご存知の通り、この数週間後に日本史上最年少の金メダリストとなった。

継続は力なり

藤澤虹々可とPOD CorporationによるPOD Games

そして次がムラサキパーク東京の営業終了前に、自分が撮影した最後のイベントになる。

POD Coporationと藤澤虹々可によるPOD Gamesだ。

ただ彼女はこのコラムにも載せた2019年のJRSF JAPAN OPENの覇者で、まだまだ現役バリバリのトップガールズスケーターだ。

しかも自分は彼女の10歳にも満たない頃の写真も撮影しているので、まさかこんなに早く彼女と裏方の立場で一緒に仕事することになるとは思っていなかった。

でも今思うと、そんな出来事もお互いスケートボードが好きで続けてきたから実現したのだと思う。

今やその数も増えたガールズイベント。今後もきっと増加の一途を辿っていくことだろう

ここまでの流れを辿れば、やはり世の中は「諸行無常」であると思わざるを得ない。だがそれと同時に「継続は力なり」という言葉の意味も、時を重ねることで感じ取れるようになってきた。

残念ながら今はもう「ムラサキパーク東京」は存在しないが、そのレガシーは「ムラサキパーク立川立飛」に立派に受け継げれている。これからも『ムラサキパーク』の名はそのままに、時代の最先端をひた走っていくのだろう。

一個人が撮影した写真だけで、これほどのストーリーが出来上がってしまうのだから。

吉田佳央 / Yoshio Yoshida@yoshio_y_
1982年生まれ。静岡県焼津市出身。
高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。
大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。
2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本の監修や講座講師等も務める。
ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている

執筆者について
FINEPLAY編集部
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