熊本県菊陽町で刻まれたアーバンスポーツシーンの新たな1ページ「KUMAMOTO URBAN SPORTS FES 2025」イベントレポート

2025.03.01
photograph by Jason Halayko

来年2026年の春に西日本最大のアーバンスポーツパークがここ熊本県菊陽町でオープンされることが決定している中、さらにアーバンスポーツの機運を高めるべく今回「KUMAMOTO URBAN SPORTS FES 2025」が2025年2月22日(土)〜2月23日(日)の2日間にわたり開催された。

本イベントはアーバンスポーツパーク建設予定地の目の前にある菊陽町総合体育館にて開催され、熊本で人気のスケートボード大会である「くまモンカップ」をはじめ、特別ゲストとしてオリンピック選手である吉沢恋(スケートボード・ストリート女子日本代表)・中村輪夢(BMXフリースタイルパーク男子日本代表)の2名を迎えたスペシャルトークショー、そして様々なアーバンスポーツのパフォーマンスと体験会の数々が、老若男女かかわらず来場者全員にアーバンスポーツを全身で楽しんでもらえる機会を提供した。

以下は2日間にわたり、熊本県菊陽町をアーバンスポーツの熱狂の渦に巻き込んだ「KUMAMOTO URBAN SPORTS FES 2025」の様子だ。

オープニングセレモニー

熊本県菊陽町でオープンされるアーバンスポーツパークの名称が発表された

本イベントの開催に先立って行われたオープニングセレモニーはMC NORIの呼び込みの元、熊本県知事の木村敬氏と菊陽町町長の吉本孝寿氏の挨拶から始まり、また熊本を代表するゆるキャラの「くまモン」と菊陽町マスコットキャラクター「キャロッピー」がスケートボードに乗ってステージに登場するなど会場を盛り上げた。そして熊本出身のトップライダーである松本雪聖も登壇し、地元熊本でアーバンスポーツイベントが開催されることに対して喜びの声をあげた。

さらにこのオープニングセレモニーでは、ここ熊本県菊陽町で来春にオープンする西日本最大のアーバンスポーツパークの名称が発表された。「くまモンアーバンスポーツパーク」というこの名称が今回初めて公にお披露目となると、会場内は来年の施設開業への期待も含めてボルテージが高まり、最高な雰囲気の中で本イベントがスタートした。

左からキャロッピー、菊陽町町長の吉本孝寿氏、松本雪聖選手、熊本県知事の木村敬氏、くまモンの順

スケートボード

決勝後にお互いを称え合う松本雪聖と吉沢恋

熊本県を代表するトップライダーである松本雪聖の存在もあり、今回のメインコンテンツとなったスケートボード。本イベントではコンペティションの「くまモンカップ」、チャレンジ企画の「くまモンチャレンジ」、そしてスケートボード体験会の3つが開催された。

くまモンカップ

世界で戦う日本人トップライダーたちも招待選手として参加し、昨年よりパワーアップして帰ってきた「くまモンカップ」。今回はLowクラス、Openクラス、女子クラスの3カテゴリーで競技が行われ、1日目の予選を勝ち上がった選手たちが2日目へ進む形となった。

Lowクラスは予選を勝ち上がった8名が決勝にて45秒のランを2本走り、ベストスコアで順位を争う形に。スケートボードの未来を担う様々なスキルを持ったライダーたちが自分たちのトリックを披露しあった。

楢原新のライディング

3位入賞を果たしたのは「アラレちゃん」の愛称で呼ばれる楢原新。様々なトリックを兼ね備える楢原は決勝で「スイッチキックフリップ」や「キックフリップフロントサイドボードスライド」などを綺麗に決めていくも、ラストトリックでトライしたクオーターでの「キックフリップドロップイン」に失敗。最後にミスはあったものの全体のライディングが高評価を受けて3位となった。

山崎優希のライディング

3位の楢原との接戦を勝ち切り、2位入賞を果たしたのは山崎優希。小柄な身体から繰り出される豪快なトリックが特徴的な彼は、ファーストトリック前にルーティンを間違えるハプニングがありながらもリスタート後は冷静に対処。綺麗な「キックフリップ」やバレル越えの「オーリー」などスタイリッシュなライディングを見せて終盤には「バリアルフリップ」もメイク。楢原同様に惜しくもラストトリックに失敗したが1点差で勝ち越し2位となった。

田中晴乃亮のライディング

今回、Lowクラスを見事制したのは田中晴乃亮。バリエーションの多いトリックを持つ彼は、他のライダーがなかなかトライしないトリックを連発。その中でも「フロントサイドテールブランドスライド」やロングレールでの「フロントサイド50-50グラインド to ボードスライド」そしてラストトリックの「フロントサイド5−0グラインド to ショービットアウト」が高評価を得て優勝を果たした。

Openクラスと女子クラスのダブルエントリーとなった松本雪聖

一方、OpenクラスはLowクラスと異なる競技フォーマットとなり、ベストラン方式の準々決勝を経て、準決勝からは1対1のトーナメントのジャムセッション方式に。なお勝敗は3人のジャッジによる多数決で決まる近年では珍しい「くまモンカップ」の特別フォーマットで争われた。

また2分30秒という時間の中で行われるジャムセッションはランと異なり、ランの完成度よりも時間内にいかにハイレベルで会場を沸かせられるトリックをメイクできるかといった、スケートボードの本質的なコンペティションスタイルで公式大会とは違う賑やかな雰囲気の中でトーナメントが進んだ。

3位になった小西偉登のライディング

3位決定戦では女子クラスに招待選手として出場している松本雪聖と、奈良出身の13歳の若きスタイラーの小西偉登の一騎討ちに。ここまでに何本も滑ってきていることもあり、かなり疲れは見えながらも大技を決めていく両者。小西は「ビックスピンフロントサイドボードスライド」や「バックサイドノーズブラントスライド」などメイクしていく一方で、松本は小西に勝つために「キックフリップバックサイドスミスグラインド」にトライしたがメイクできずタイムアウト。3位決定戦は小西に軍配が上がる結果となった。

優勝した濱村大征のライディング

そして決勝戦はOpenクラス唯一の招待選手であり国内外の大会で活躍している濱村大征と13歳の若き実力者で準々決勝では1位通過を果たした酒井太陽の戦い。決勝までほぼノーミスのライディングを見せてきた両者であったが、ここまで来るとやはり疲れもありミスが多くなる展開に。この2分30秒の尺の中でどちらが高難度のトリックでジャッジと会場を魅了できるかが勝敗を分けた。

濱村は「トランスファーバックサイドテールブランド」や「ノーリーフロントサイドクルックドグラインドのレール全流し」を見せると、終盤では豪快な「キックフリップフロントボードスライド」を決めて会場を沸かせた。

2位の酒井太陽のライディング

一方、酒井は細かくトリックを決めていきながら自分のペースを作っていくライディングで戦う。その中でも「バックサイド270ボードスライド」、「キックフリップバックサイド180」をメイク。最後には「スイッチキックフリップフロントサイドボードスライド」を決めるもこれは惜しくもタイムアウト後だったため加算されず、優勝の座を濱村に譲ることとなった。

中島野々花のライディング

女子クラスもOpenクラスと同様に準決勝からは1対1のトーナメントのジャムセッション方式で争われた。そして今回ここまで勝ち上がったのは招待選手となった熊本の期待の星である松本雪聖、世界最高峰の舞台で活躍している上村葵、パリオリンピック金メダリストの吉沢恋の3名に加えて、全日本選手権で強さを見せており世界大会への出場経験を持つ中島野々花とまさに世界で活躍するメンバーたちが名を連ねる展開。

上村葵のライディング

3位決定戦では上村葵中島野々花のダウンレールを使った大技合戦に。完全にどちらがベストトリックを決め切るかで勝敗を分けるようなワントリックに注力した戦いとなった。上村は早速「フロントサイドフィーブルグラインドの全流し」をメイクすると、複数回のトライで「フロントサイドノーズブラントスライド」を見事メイク。一方で中島は準決勝でメイクできずにいた「トランスファーフロントサイドリップスライド」にトライ。何度も転倒しながらも執念のアタックを見せたが今大会で決め切ることができず、3位の座は上村が勝ち取った

松本雪聖のライディング

そして全プログラムの最後に行われた女子クラスの決勝戦吉沢恋松本雪聖の戦い。前半の1分間はどちらも一歩も譲らず入れ替わり立ち替わりで次々と高難度トリックをメイクしていく。吉沢が「ビックスピンフロントサイドボードショービットアウト」を決めれば、すぐ松本が「キックフリップバックサイド50-50グラインド」を決め返すといった一進一退の互角の攻防が続いた。

吉沢恋のライディング

そして後半の1分半はワントリックにこだわる展開に。吉沢はヘルメットを被り戦闘態勢で「ビックスピンテールブラントスライド」へ、松本はOpenクラスではメイクできなかった「キックフリップバックサイドスミスグラインド」にトライ。拮抗した戦いの中、タイムアウト後に特別に設けられたラスト一本で見事松本が決め切り優勝を勝ち取ったが、その後の泣きの一回で吉沢もしっかりトリックをメイク。世界レベルのトリックバトルをここ熊本県菊陽町で披露してみせた。

くまモンチャレンジ

くまモンチャレンジの様子

くまモンカップ」の合間で2回にわたり開催された「くまモンチャレンジ」。レベルを問わず、子どもたちが今回クリアしたいことをMCに宣言して60秒間の中でチャレンジ。見事チャレンジを成功させたり大健闘を見せた子どもたちには認定証が手渡された。

実際に大会が行われているスケートパークエリアで、今回初めてスケートボードにチャレンジする子どもたちもおり、その顔には緊張の色が浮かびながらもどこかこの会場の雰囲気に後押しされて楽しくトライしている姿も印象的だった。

スケートボード体験会

スケートボード体験会の様子

また屋外では終日スケートボード体験会が開催され、寒空の下ではあったが子どもたちを中心に多くの参加者が集まった。参加者の中には初めてのスケートボードに怖がりながらトライしていた子どもたちもいたが、講師陣が手取り足取りサポートして最終的には楽しく滑る様子もうかがえた。

SPECIAL TALK SHOW:吉沢 恋

吉沢恋のトークショー

「くまモンカップ」にも招待選手として参加したパリオリンピック金メダリストの吉沢恋によるトークショーでは、スケートボードを始めたきっかけからパリオリンピック金メダル獲得に至るまでのストーリーをはじめ、練習方法や強さの秘訣など、スケーターはもちろんファンが聞きたい吉沢恋のあれこれについて色々な角度から話を聞くことができた。

SPECIAL TALK SHOW:中村 輪夢

中村輪夢のデモラン

イベント1日目の吉沢恋のトークショーに続いて、2日目にスペシャルゲストとして会場を盛り上げたのは、BMXフリースタイルパーク・パリオリンピック日本代表の中村輪夢。登場早々にスケートパークのセクションを使って「ダブルテールウィップ」などの豪快なトリックを披露して会場を盛り上げた。

中村輪夢のトークショー

トークショーでは東京オリンピック・パリオリンピックと2大会の出場を経験した中村にだからこそ聞ける様々な質問がMCから投げ掛けられ、自身のトリックに関しては「誰もやっていない技を考えるようにしている」と話し、来年オープンする「くまモンアーバンスポーツパーク」についても期待を寄せ、自身の目標としては2028年のロスオリンピックでメダル獲得に対する強い意向も示した。

ダブルダッチ

FLYDIGGERS feat. JUMPROCKのパフォーマンス

スケートボードの「くまモンカップ」が横で開催される中、その合間で2日間にわたり会場を盛り上げたのはプロダブルダッチチーム「FLYDIGGERS feat. JUMPROCK」。今回はFLYDIGGERSのメンバーに加えて、同じく日本のダブルダッチシーンを牽引するプロチーム「REG☆STYLE」のメンバーであるJUMPROCKが特別参加。豪華メンバーによるパフォーマンスはまるでロープを使っているとは思えないほどの流れるようなステップと豪快なアクロバットで会場を沸かした。

ダブルダッチ体験の様子

毎パフォーマンス後に開催された体験会では、多くの子どもたちや親御さんが列をなすほど集まりダブルダッチに挑戦。参加者はプロダブルダッチャーによる見事なロープ回しに身を委ねて、ロープの回転に合わせてジャンプし、時にはオリジナルなムーブも交えたりとダブルダッチを楽しんだ。

ブレイキン

九州男児新鮮組によるショーケース

そして本イベントには九州を拠点にするトップダンスチーム「九州男児新鮮組」が来場。彼らのブレイキンショーケースパフォーマンスは会場内で一際大きな盛り上がりを見せた。小学生から大人までそれぞれ違ったスタイルを持つBBOYたちが大勢で音楽に合わせて繰り出す豪快なムーブの数々は観客の目を釘付けにしていた。

ブレイキン体験の様子

またパフォーマンス後に開催された体験会には、その熱も冷めあらぬまま、多くの来場者が訪れ簡単なフットワークやフリーズなどを体験。初めてブレイキンを体験する参加者でも楽しく学べるように「九州男児新鮮組」のメンバーが動かし方やムーブの名前を分かりやすく丁寧に指導。最後には習ったことをおさらいしてみんなで実際にワンムーブを披露する時間も設けられた。

パルクール

パルクール体験の様子

パルクールは「走る」「跳ねる」「乗り越える」「掴まる」「バランスを取る」という基礎能力を伸ばし、イメージした通りに動ける機能的な身体作りを目指すアクティビティとして生まれたスポーツであるため、身体ひとつで楽しめる子どもたちにとっては人気の体験会であった。屋外に設けられた専用エリアで参加者はトップパルクールアスリートのTAISHIによるサポートの下、細い一本橋を走ったり、パルクールの技術であるヴォルトなどにトライしながら障害物を飛び越えていった。

シニアパルクールパフォーマンスの様子

また2日目にはシニアパルクールパフォーマンスとして、年配のトレーサーが子どもや若者顔負けの動きを披露。パルクールは若者だけのスポーツではないことを示すパフォーマンスでアーバンスポーツがここ菊陽町で幅広い年代に浸透していく様子が垣間見られた。

パルオニ

パルオニの様子

『鬼ごっこ』×『パルクール』の究極の鬼ごっこスポーツであるパルオニは、アーバンスポーツイベントでも大人気のコンテンツ。今回はパルクール体験会の横で専用のエリアが設けられ、親子や兄弟、小学生の友達同士など様々な組み合わせで1対1の「20秒間鬼ごっこ」が繰り広げられた。

鬼ごっこであるため、早く捕まえた方が勝ちというルールで、どちらが早く捕まえられるのかハラハラドキドキの手に汗握る戦いもこのコンテンツの魅力。参加者各々が結果に一喜一憂する姿を見せて、気づけば楽しみながらパルクールを体験している様子がうかがえて、終始その列は途切れることなく大盛況だった。

フードエリア

フードエリアのブースの一部

イベント期間中、様々なスポーツ体験を終えてお腹を空かせた大勢のお客さんで賑わっていたのがこのフードエリアのブースの数々だ。当日は熊本名物から子どもに人気なイベントフードまで様々なキッチンカーが出店。来場されたお客さんは美味しいフードを楽しみながら温かいドリンク等で身体を温めて引き続き一日中イベントを楽しんでいた。

最後に

老若男女問わず来場者全員が「KUMAMOTO URBAN SPORTS FES 2025」を楽しんだ。

今回の「KUMAMOTO URBAN SPORTS FES 2025」を通じて特に感じられたのが、アーバンスポーツが若者だけではなく老若男女に楽しんでもらえるものになっているということ。実際に今回の会場にも幅広い年齢層の来場者が一堂に介して同じ時間を楽しんでいる姿が垣間見れた。

そんな中でついに来年は「くまモンアーバンスポーツパーク」がオープンする。今後どういう形でここ熊本県菊陽町がアーバンスポーツの町として発展していくのか、トークセッションで中村輪夢が語っていた「地方が盛り上がれば、日本が盛り上がる。熊本からスターが出てほしい」という思いにも沿って、さらにこの町がアーバンスポーツを盛り上げていく中心地になることを期待したい。

イベント概要

■日時:2025年2月22日(土)、23日(日)10時~17時
■場所:菊陽町総合体育館 (熊本県菊池郡菊陽町原水5352番地3)
■主催:くまもっと旅スポコミッション(熊本県)
■協力:菊陽町

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