【体験会レポート】第3回静波パラサーフィンフェスタ・サーフィン体験イベント

2024.05.20
text by Kentaro Kondo/photograph by Shuji Izumo

読者の皆さんはじめまして!ぼくは、日本代表パラサーファーのけんたろうです。2022年・2023年のISAパラサーフィン世界選手権に上肢欠損のクラス(Stand1)で出場し、最高成績は4位です。静波パラサーフィンフェスタも選手として第1回から参加しています。

今回は、5/11(土)に行われた医療的安全性が担保されたオールインクルーシブなサーフィン体験イベントに、体験会サポーターとして参加してきましたので、その様子をぼくならではの視点も交えて、レポートしたいと思います!

まず、サーフィン体験会には、障がいのある方39名と地元の小学生6名の計45名が参加しました。イベント顧問を務める参議院議員の平山さんをはじめ、車いす参議院議員でバンクーバー・パラリンピックアルペンスキー日本代表の横沢さんや、ゲストでお越しの乙武さんもサーフィンに初チャレンジされました。会場は、“だれもが波に乗れる街” を掲げる、静岡県牧之原市のにある静波サーフスタジアム。来場者は約600人と、多くの方に足を運んでいただき、インクルーシブでピースフルな時間を共有できました。

人工波を活用した誰もが平等に、安心して楽しめるサーフィン

当日は天候に恵まれ、気持ちのいい日差しのなか、絶好のサーフィン日和でした。静波サーフスタジアムのスタッフが、的確に波を見極めて体験者をプッシュし、体験者全員が気持ちよく波に乗れていました。サーフィン体験者は自分のサーフィン経験や、身体的特徴に応じて、各々のスタイルで挑戦していました。

中にはプールの中で不安な表情を浮かべる参加者もいましたが、「Nami-nications(ナミニケーションズ)」を中心としたベテランサポーターが、「ひっくり返っても3秒以内に救助に行くから!」など心強い声掛けで体験者を安心させていました。ライディングを終えてスタート位置に戻る際、体験者の挑戦をたたえるサポーター全員とのハイタッチ姿が印象的でした。

当初「水が嫌い。小学校のプールでトラウマになった。」と 言っていた乙武さんは人生で初めてサーフィンに挑戦。ぼくと一緒に、ボードに立つ位置やライディング姿勢を研究し、立った状態でテイクオフするという、オリジナルの乙武スタイルで波に乗ることにしました。(周囲の人は腹ばいで乗ることを予想していたが、予想を裏切る大挑戦!)

1本目で立った状態でうまくテイクオフし、綺麗にロングライドをメイク。波待ちポイントに戻ってくる頃には、達成感と自信に溢れた顔になっていて「2本目はなにか違うことをしたい」と当然のように自分越えをする姿に感服しました。2本目は、新たな挑戦として、ライディング中にジャンプすることを宣言し、見事2回ジャンプを成功させ、会場を沸かせました。

体験者の声

・去年まではボードの上に立てなかったが、今回初めて立てて嬉しかった。
・波に乗れたこともさることながら、乗り終わった後のサポーターとのハイタッチで一番テンションが上がった。
・陸より水中のほうが自由になれた。
・1日中、水中でサポートしてくれた方に感謝。

ぼくも、身体的特徴から様々なチャレンジを抱える多くの体験者たちが、自分越えをする瞬間に立ち合えて幸せでした。

サポーターの様子

サポーターはぼくを含めて合計50名が参加しました。体験者全員が去年の自分を超えること、1本前のライディングを超えることに挑戦し、目を輝かせる姿に、ぼくを含めたサポーター全員が心を動かされ全力で応援していました。
サポートする側が逆にパワーをもらえたとサポーターのみんなが口を揃えてたことが印象的でした。

トークショーで印象に残ったこと

<体験会の感想>
「サーフィンを初めて体験してみて、障がいを打ち消してくれるスポーツかもしれないと思った。不安定な板に、二足歩行の人が立つより、足のない自分がべたっと乗るほうがバランスが取れるので、むしろ自分のほうが健常者より有利とすら思った。」(乙武さん)

「波の上でボードの上に乗ってしまえば、手足のあるなし・目の見える見えないって関係がなくなる。水の中ってとてもバリアフリー。車いすに乗っている人も目の見えない人も自由に動ける空間。」(板嶌さん)

<障がいについて>

「世界102か国を訪問して、日本は街中で障がいのある方を見かけたときのリアクションとして“とまどい”というのが前面に出る。理由ははっきりしていて、日本は先進国で唯一、分離教育といって健常者と障がいのある方を分けて教育をしている。健常者の中で小さいころに障がいのある方と一緒に教育を受けた経験がある人は少ない。本当の意味の共生社会を実現するためには教育から変えていくべきだと考えている。」(乙武さん)

「日本って障がい者支援となると点字ブロックや音響式信号機などマシーン(機械)に頼りがち。でも、近くの人が声をかけてくれれば大抵のことは解決するんですよね。静波パラサーフィンフェスタでは、みんな自然に声を掛け合ってインクルーシブな空気に包まれている。この空気が世の中に広がれば、それでかなりの壁がなくなると思うんだよな。」(板嶌さん)

一回でも障がいのある方と遊んだり話したりすると、分け隔てなく接することが実体験を通して身につくと思うんですよね。ぼく自身が、もっと健常者との”接点”となれるように、今回のようなイベントや大会への参加はもちろん、SNSやこのような記事による情報発信をがんばっていこうと改めて思いました。

レセプションの様子

凸凹広場という、自閉症など個性的なメンバーの就労継続支援を行っている施設にてレセプションパーティーを開催しました。女性レゲエシンガーソングライターMetisなどが美しいサウンドで会場を盛り上げるなか、各人が普段接点のない人との交流を深め、ぼく自身もとても有意義な時間となりました。

PHOTO BY イシズカマコト

ジャパンオープンについて

2024年5月25日(土)、5月26日(日)に日本最大規模となるパラサーフィン国際大会「JAPAN OPEN 3rd」が、同会場にて開催されます。インクルーシブでピースフルな空気を体験するため、また一選手として、多くの方に足を運んで見ていただけると嬉しいです。ぼくも選手として出場予定です!

最後に

静波パラサーフィンフェスタは、まるで健常者がマイノリティだと感じるような異世界空間です。そういう意味では、人と違うことが当たり前の空間なので、“偏見”とか“人からネガティブにジャッジされるかもしれないという不安”が排除されやすいのかもしれません。例えば、手助けが必要だと思った時に、日本人特有の「やり方が間違っているかも」「どう思われるかな」など行動を阻害するような不安要素がないので、誰もが積極的に声掛けやサポートができちゃうんだと思います。

きっと今回来場いただいた600人は、異世界の余韻を自分の生活圏に持ち帰り、オープンな接し方を自然と実践しているはず。より多くの人がこの異世界を体験して、偏見のない世界がいつか日常となることを夢見ています。

執筆者について
FINEPLAY編集部
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