インライン世界王者の安床ブラザーズが見たRed Bull Crashed Iceの魅力とは?

2018.12.05
shuhei kaneko
Red Bull Crashed Ice © JOERG MITTER / RED BULL CONTENT POOL

© Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

世界トップのスケートチャンピオンでも「自分の足元が信用できない」!?異種アスリートが氷上レースに出場してみた結果は・・・

今季のRed Bull Crashed Ice最終戦で、あの安床ブラザーズが急きょ参戦した。兄の栄人(エイト)、弟の武士(たけし)ともに、インラインスケートの世界大会でそれぞれ100を超えるメダルを保持する最強ブラザーズ。鳴り物入りでやってきた2人だが、意外にもアイススケート歴はほぼ皆無だった(!)。

アイススケートの刃のように細いウィールを1列に並べたインラインスケート。素人目で見て勝手ながら「ほぼ同じなんじゃ…」と思っていた。実際に氷上を滑る彼らの勇姿からも「さすが!」と唸っていたところなのだが、当人たちは

“ブレーキがかけられない!”

“自分の足元が信用できない!”

と悪戦苦闘していたことが判明。その裏話を赤裸々に語ってくれたので、お伝えしたい。

© MARK ROE / RED BULL CONTENT POOL

【ワクワク型の弟・武士、データ採集型の兄・エイト】

「ブレーキがかけられないから、180度ターンはミニ四駆走行で行けばいいと気づきました。それで行きます!」

見つけたとばかりに表情を輝かせてこう語ったのは弟・武士。モーターを搭載した四輪駆動の模型であるタミヤのミニ四駆は、壁に当たることで曲がらされている。そこで、武士は急カーブで敢えてフェンスに激突し、その勢いで”ターン”してしまうというトンデモ走行を思いついたというのだ。

練習から見ていて滑るごとに勢いも増していると感じていたが、そんな奇想天外な突破口を見出していたと知り、思わずのけぞった。滑る時のワクワク感、新しいことに挑戦することが大好きという天才スケーターが、この競技に参戦したのは自然な流れだったのかもしれない。

 

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一方の兄・エイトは「僕はもとが不器用なので、一つ一つ動作を確認して積み上げる」と慎重派。「データを集めて設計図を描くように滑りを作り上げるんです」と語る。

自身が運営するバランススポーツを指導する”ASC運動教室”で子どもたちが「かっこいい」と言ってくれたことが参戦のきっかけの一つにもなったといい、自分がトライしてみることで子どもたちや、インラインスケートに専念している若い世代にとって、世界が広がる道しるべになるのかもしれないと未来予想図を描く。

2人は対称的なほど、アプローチも考えも違うのだ。

インラインスケートとアイススケートは、似ていてまったく違うという。

「しかも、このアイスクロス・ダウンヒルは、ダウンヒル競技なので減速のスポーツなんですよ」とスキー競技も経験する武士は語る。「ウインタースポーツって大体がダウンヒルなので、いかに自分のスピードをコントロールして落とすかなんですね。オリンピックのスロープスタイルもそうですけども、選手たちは自分のスピードにしたいから、わざと減速して次の技に入ったり、そういう技術が大事になってくるんです」

ところが、今まで安床ブラザーズが取り組んできたインラインスケートは、その逆で”加速”のスポーツ。「いかに自分で加速するための技術を身につけるか」が大事なのだという。

「だから、僕たちはスピードというと、ハーフパイプのスピードには慣れてるし、もしかしたらより速いかもしれない。けれども、こうやって勝手に加速する別のスピードの難しさ、怖さを感じてます」とエイト。いわく、

「例えるなら、人の車に乗ってる、もしくは自動運転の感じ。『何これ、あれどこにあるっけ?』みたいな状況で高速を走らされてる感じなんです」。

それは怖い…。

そもそも、エッジの違いは最も大きい。足元に不安があるのは、感覚がまるで違うからだという。アイススケートは、インラインスケートと比べてホイールベースが短く、接地面が短い。だから小回りこそ効きやすいけれども、その分うんとブレやすいのだという。足元の感覚もおぼつかなく、ブレーキも練習中とは、予想だにしなかった。

【”ファミリー”の一員として迎えられて】

そんな状態からのスタートに、最大の理解者が味方した。Red Bull Crashed Iceの選手たちだ。昨季までシーズン3連覇のキャメロン・ナーズ、そして今季カナダで総合優勝を果たしてスコット・クロクソールら、トップ選手が中心になって、安床ブラザーズを大歓迎したのだ。

© JOERG MITTER / RED BULL CONTENT POOL

「参戦するなら、その前に一緒にスケートリンクに行って練習しよう」「ブレーキが出来ないなら教えるよ」と声を掛けてもらうと、実際にリンクで時間をつくって基礎から教えてもらったのだという。選手たちのほとんどが世界の安床ブラザーズのことを知っていて、練習中も休憩時間になると「一緒に写真を撮ってくれ」とせがまれたりと、互いにリスペクトし合いながら、すぐに打ち解けた。

安床ブラザーズは、「僕ら、変にXゲームチャンピオンって肩書きだけあるので、どう受け入れられるか不安だったんですけど、全然違った。優しさがすごい」「スコットからここではみんなが大きなファミリーだからって言われて。本当にホッとしました」と感動冷めやらぬ様子で語る。

それだけではない。選手みんなで競技を盛り上げていこうというムードが浸透しているのに、いざレースとなればライバル同士として迫力のせめぎ合いをみせることにも、2人は感心しきりという。

【人に当たることが(クラッシュ)できるか…】

氷上で勝つか負けるかのせめぎ合いを繰り広げるRed Bull Crashed Ice。安床ブラザーズには、そうしたレースのモチベーションに壁があるという。

インラインスケートの大会では、他の選手と”同時に”滑らないので、ガチンコで”戦う”ことはない。「だから、一人で走るタイムトライアルまでは楽しいなって行けるんですすけど、レースになると至近距離で他の選手が滑ってて、『危ない危ない』って引いちゃう自分がいるんです」と武士は明かす。

「人にあたったらダメっていうのが根っこにあるんですよね」とエイト。選手たちに歓迎された時、思い出したのは、95年にインラインスケートで初めて世界大会に参戦した時のことだ。「たまたま似たような状況があって、アメリカ人の選手が試合後に『明日、どこどこのスケートパークでやるから一緒に行くか』って誘ってもらった。当時まだ僕ら、9歳と12歳の子どもだった。今思えば、それがきっかけでここまで来られたんじゃないかって思うほどなんです」

だから、(トップ選手の)彼らに勝つぞとか、負けるとかいうモチベーションじゃない。彼らと同じところに行って、彼らが見てる世界を見てみたい、あの自由感を身に付けたい、そう思って、頑張ろう、上達しようってモチベーションだったんですよ」と分析する。

© ANDREAS LANGREITER / RED BULL CONTENT POOL

そう言いながらも、レースで戦う”スイッチ”の場所は分かっているのかもしれない。「まずは技術面の”壁”を超えること。やっぱり気持ちだけでは、2人ともそんな前のめりには行けない。アイススケートの技術が身につけば、焦らずに対応して、じゃあ次のターンでこっち狙おうとかできると思うんです」と武士は語る。

そうして、技術面の壁、接触プレーの壁を乗り越えたら、最終的に自分のスタイルの滑りを作りたいと明かす。「インラインスケートでも滑らかな着地だったり、飛び方にもいろいろこだわりがあるんですけど、ここでも競争しながらフリースタイルの技を入れていきたい」と目標を語る。

© JOERG MITTER / RED BULL CONTENT POOL

スティーブン・コックスやデレク・ウェッジをはじめ、Red Bull Crashed Iceでは、多くの選手が時に華やかな技を繰り出しながら氷上を駆け抜ける。今、安床ブラザーズにはいくつもの”壁”が立ちはだかっているかもしれないが、経験豊富な2人なら乗り越えてみせるに違いない。日本の最強ブラザーズがクールなジャンプをキメながら、氷上を駆け抜ける日がやってくることが今から待ち遠しい!

© ANDREAS LANGREITER / RED BULL CONTENT POOL

大会概要

名称: Red Bull Crashed Ice Yokohama 2018
レッドブル・クラッシュドアイス横浜 2018
会場: 臨港パーク特設会場(神奈川県横浜市⻄区みなとみらい 1 丁目 1-1)
日時: DAY1 予選日 2018年12月7日(金)OPEN 15:00 START 17:15
DAY2 決勝日 2018年12月8日(土)OPEN 15:00 START 18:00
※雨天決行・荒天中止
※予告なく変更になる場合があります
内容:アイスクロス・ダウンヒルの世界選手権、ATSX Red Bull Crashed Ice World
Championship
(ATSX レッドブル・クラッシュドアイス・ワールドチャンピオンシップ)
2018-19シーズンの開幕戦
主催:レッドブル・クラッシュドアイス実行委員会
後援:横浜市
協賛:BFGoodrich、FWD 富士生命保険株式会社、ジャガー・ランドローバー・ジャパン株式会社

執筆者について
shuhei kaneko
愛知県出身。学生時代、ハードコアパンクにのめり込み、ストリートカルチャーやアクションスポーツに興味を持つ。自動車ディーラー勤務を経て、現在は福祉系の会社に勤務しつつ執筆、編集を行う。全ての人の心を揺さぶる、ストリート・アクションスポーツの素晴らしさやアスリートの魅力を伝えていくために日々研鑽中。
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