かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」最終回。
アクションスポーツやストリートカルチャーのために、ビジネス視点を交えて提言を行ってきた本連載「FINEPLAY INSIGHT」も、今回が最終回です。
全12回を目標に続けてきた本連載。かねてより、最終回のテーマについては幅広いリクエストをいただいてましたが、やはりこのタイミングでは東京五輪を経て、これからやってくるであろうアクションスポーツの新時代、とくにここでは企業やメディアからの商業的な需要とどのように向き合っていくのか、メモ代わりに記しておきたいと思います。
商業的な需要に対して、構えきれていないアクションスポーツシーン
開催にも賛否両論あった東京五輪ですが、やはり僕たち「ストリート側」の立場からすれば、スケートボードのストリート男女金メダル、同じくスケートボードのパーク女子のダブルメダル、スポーツクライミング女子のダブルメダル、サーフィンの男女メダルなど、輝かしい成績を残してくれた新競技の日本代表アスリートによる活躍が記憶に新しいです。もちろん、メダル獲得に限らず、初開催となったこれらの競技におけるすべてのアスリートの姿に、僕もいたく感動し、励まされた一人です。
スケートボードを中心に、新しい風を吹き込んだアクションスポーツは連日メディアでも取り上げられています。メダリストたちはおそらく今後(原稿執筆時点は2021年8月)テレビCMなどの声もかかってくるでしょう。スケートボードでは、堀米雄斗選手をはじめ世界中のライダーが数多く着用した<NIKE SB>のParraデザインによるウエアが競技当日に飛ぶように売れたとか。街のスケートボード教室には、たくさんのキッズたちが見学に訪れていると聞きます。明らかに、アクションスポーツを取り巻く社会的な環境が一歩前に進んだ、そんなエポックメイキングな出来事が東京五輪でした。
また、2024年パリ五輪の新種目として採用が決まっているブレイキンでも、世界で活躍しているB-boy Shigekixが閉会式当日のIOCによるインスタライブに登場するなど、早くも世界中から注目が集まっている様子です。
この場で言うまでもなく、かつての五輪を象徴していた姿とは異なるアスリート像を、アクションスポーツのアスリートたちは体現してくれました。10代からグローバルな環境に身を置き、ユニバーサルなコミュニティの一員として、自分の表現や生き方、まさにライフスタイルとしてそれぞれのカルチャーに向き合っています。ゼッケンスポーツから、ライフスタイルスポーツへ。次世代のロールモデルとなりつつあるアクションスポーツのアスリートに企業やメディアが注目することは、時代の流れとして必然と言えるでしょう。アクションスポーツやストリートの文化には、この連載の第1回で述べたような、今の社会から見ると羨ましい性質がそもそも備わっているのです。

アクションスポーツが直面するであろう課題と対応策
手探りの消費が始まる
当面は、企業やメディアも手探りでアクションスポーツの消費を始めるでしょう。いわゆる「ツバをつけてみる」というやつです。とりあえずよくわからないけれど、若い人たちに人気があるみたいだし、CMや番組にスケーターを出してみようか、B-BoyやB-Girlを出してみようか、なんとなくストリート風味の映像を作ってみようか、みたいな企画がポツポツ増えてくると思います。
この時点でシーン側は、企業やメディア(ときには行政すら)が本当にカルチャーやシーンを支援するつもりは「ない」と思っていたほうが得策です。「今は小さい話だけど、あとから大きなスポンサーがつくかも…」という淡い期待は持つべきではありません。なぜなら企業側はビジネスのリターンがなければいつでも支援を打ち切りますし、担当者が異動になればシーンへの熱もどこかへ立ち消えてしまいます。ネガティブですが、ビジネスとは生物(なまもの)で、そういうものと割り切るのが良いでしょう。第1回でお話したように、「スポンサー」というのは甘い蜜、魔の思考停止ワードなのです。
また、もう一つ持つべきでない期待が、「競技人口が増えるかも」というものです。これは非常に多い誤謬(ごびゅう)なのですが、第7回で説明したように、競技人口が増えても、ビジネスチャンスが広がるとは限りません。むしろ、ビジネスの規模と競技人口は負の相関関係ですらあります。 競技人口そのものよりは、観戦人口を増やすように注力するべきです。 「(特にメディアで)観て面白いもの」にしていくことが、スターを産むための必要条件なのです。そのために、ルールの明確化などの努力は絶えず続けていく必要があります。(繰り返しですが、カルチャーとしての発展はこの限りではありません)
橋渡し人材の必要性
現時点では、こうした企業やメディアの熱視線とは裏腹に、アクションスポーツシーン側の体制がまだまだそれ(=商業的な需要)に対応できるものになっていないのが大きな課題です。ここまでビジネスチャンスとして注目されてくると、発展途上であるアクションスポーツ側のビジネスリテラシーの構築が急務になってきますが、ビジネスとアクションスポーツシーンとの間を橋渡しできる人材は非常にまれです。
アクションスポーツやストリートカルチャーがビジネスになっていくことの賛否は、ここでは論点ではありません。歴史が証明しているように、賛成か反対か、白か黒か、右か左か、という議論は常に分断を生んできました。ビジネスになっていくことは当然、メリットもデメリットもあります。少なくともメリットがある限り、上手くバランスを探りながら共存の道を実現していくことが、より多くのプレイヤーにとって最大幸福となるのではないでしょうか。
シーン側では、FINEPLAYで行ったワークショップのような、ビジネスリテラシーを学ぶ場がもっと増えていくと良いでしょう。広告代理店や企業がそういったワークショップを提供できれば、双方にとって中長期的にメリットが生まれます。逆にそういった場を通じて、広告代理店や企業側もシーン側の言語をすくい取り、本質的な課題の相互理解から対話をスタートしていくべきです。僕は「スポンサー」よりも、数万円で出来るそういった活動のほうがよっぽどブランド資産の向上に資すると考えています。
消費されないために、シーンどうしの横連携を
では、都合よく消費されないためのソリューションは何か。
一つの解は、アクションスポーツの各競技団体が横連携し、 特に、失敗経験の情報共有をしていくことです。場合によっては、この企業とこんなことがあった、この番組とこんなことがあった、という生々しい情報交換で良いでしょう。我々は弱者、被消費者であるという共通認識のもと、スケートボードもブレイキンもBMXも、共有知として情報交換の場を定期的に作っていくべきです。私もFINEPLAYをはじめとして、利害の無い第三者の視点からそういった仕組みづくりを支えていければと思っている一人です。
そうした情報共有を横連携で行いながら、上述したような「淡い期待」でアスリートやコンテンツを安く売らない。甘い数万円の誘いに乗らず、自分たちの価値を守る。その一方で、ビジネスとして成立するような価値算出作業(=フェアな値付け)を、共有知をベースに行う。その動きなくして、街の教室に生徒は増えても、シーン全体やトップアスリートの境遇はあまり改善されないでしょう。価値の歪みが残るからです。
実際に僕の身近なところでも、世界的な企業からテストマーケティング的なアプローチを受けて、つい「あれもこれも」と安請け合いをしてしまった、という悔しい例が起きています。最初の値付けや実績価格はアンカリングと言って、その後の価格決定に無意識に影響を及ぼします。たかだか数万円でも、安請け合いの実績は、後々高くつきます。トップアスリートがエージェントとマネジメント契約をしっかり結ぶべき理由は、この点にあります。
企業とのエンドースメント契約は大きなチャレンジ
良い意味のチャレンジは、企業とのエンドースメント契約でしょう。第11回で解説したように、数十万ドル規模の賞金が設定される大会を別として、アクションスポーツアスリートの収入の多くは企業からのエンドースメント契約によるロイヤリティ収入です。ロイヤリティはティは売上の一部ですから、要するに、その契約によって売り出される商品の売り上げが大元の収入源です。
スケートボードアメリカ代表のナイジャ・ヒューストン選手は、すでに<NIKE SB>と契約し、彼の名を冠したシグネチャーモデルが世界中で販売されています。例えば、120ドル×世界で5万足(=600万ドル)が年間で販売されたとします。ロイヤリティ率が彼に知らされているとは限りませんが、<NIKE SB>からすれば、600万ドルを原資として彼にエンドースメントの契約金を払うことが可能です。仮に5%だとしたら、シューズだけで30万ドル(約3,300万円)です。本稿執筆時点(2021年8月)では未定ですが、近いうちに<NIKE SB>から堀米雄斗選手のシグネチャーモデルが発売されるかもしれません。
シューズ以外にも、アパレルやサプリメント、ギアなど、多くの周辺ビジネスでエンドースメント契約は存在します。この連載でも繰り返し述べてきたように、企業に消費されるのではなく、収益を一緒に生み出すパートナーになれるかどうか。シーン側はもちろん、企業側も、前例がなくともそうした目線で契約スキームを構築してみる、良いタイミングではないでしょうか。

2024年のパリ五輪へ向けて:変わっていくキャリア
もちろん、エンドースメント契約のようないわゆる「プロ」のキャリアだけがシーン発展の機会ではありません。第2回でも触れたように、アクションスポーツのアスリートが企業に所属しながら活動していくことも、キャリアの観点から大きな意味があります。特に親和性の高い業種の企業は、アクションスポーツ部の設立を是非検討してみてはいかがでしょうか。社員としての多様な貢献が企業にとって見通せるのであれば、「スポンサー」でお金を消費するよりも、より本質的で意義のある取り組みになるでしょう。
また、今回の東京五輪でも見られたように、10代で世界トップへ上り詰める、早熟なキャリアパターンも今後一般化するかもしれません。10代で競技キャリアの全盛期を迎え、20代でよりカルチャーへの貢献にフォーカスし、上述したように所属企業を通じてシーンの発展を支えるようなアスリート像があってもいいでしょう。引退してから大学に通ったりすることも、海外ではよくあることです。日本の学生平均年齢は世界でも最も若い部類ですが、大人になってから学生になる選択肢がもっと一般化していってもよいはずです。
コーチングの重要性が増していく
他に、コーチや指導者の専門職キャリアも今後重要性が増していきます。現代のトップアスリートには、メンタル・フィジカル両面での科学的なメソッドを構築できる、一流のコーチングが避けて通れません。メジャースポーツのトレーナーや専属コーチは年収10万ドルでは雇えないほど価値が高まっています。今は早くから海外に渡って世界最先端のシーンで腕を磨くアスリートも多いですが、その側(そば)でメンタル含めて指導でき、基礎トレーニングから競技の高度な技術まで一貫したメニューをデザインできるコーチの存在は、これから価値を増していくでしょう。
ユニバーサルなコミュニティの可能性
東京五輪では、アクションスポーツアスリートが競技へ向き合うスタンスが大変新鮮に映ったようです。怖い監督に言われるままでもなく、あくまで主体的に競技を楽しんで、ジャム的に大会へ参加する。相手の国籍には興味もくれない。男女も障害も出自も、どうでもいい。そんなユニバーサルな感覚で競技を楽しみ、10代のうちから、グローバルなコミュニティの一員となっているのです。
そんな新しい時代のスポーツ文化を、アクションスポーツアスリートがどんどん切り拓いてくれるでしょう。そしてそれは決してスポーツに限らず、社会全体に「こういう生き方もあるんだよ」「わたしはこうやって生きているんだよ」ということを投げかけてくれることでもあります。多様性が叫ばれて久しいですが、多様性とは体型や性的価値観のことではありません。78億人一人ひとりがのびのびと、自分の意志で生きてゆけることです。そんな世界に一歩ずつ近づいていくことが、楽しみで仕方ありません。僕も端くれとして、何かシーンのために力になれることがあれば嬉しいです。
AUTHOR:阿部将顕/Masaaki Abe(@abe2funk)
BOX LLC. Co-Founder
大学時代からブレイキンを始め、国内外でプレイヤーとして活動しつつも2008年に株式会社博報堂入社。2011年退社後、海外放浪を経て独立。現在に至るまで、自動車、テクノロジー、スポーツ、音楽、ファッション、メディア、飲料、アルコール、化粧品等の企業やブランドに対して、経営戦略やマーケティング戦略の策定と実施支援を行っている。建築学修士および経営管理学修士(MBA)。
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FINEPLAYはアクションスポーツ・ストリートカルチャーに特化した総合ニュースメディアです。2013年9月より運営を開始し、世界中のサーフィン、ダンス、ウェイクボード、スケートボード、スノーボード、クライミング、パルクール、フリースタイルなどストリート・アクションスポーツを中心としたアスリート・プロダクト・イベント・カルチャー情報を提供しています。
アクションスポーツ・ストリートカルチャーの映像コンテンツやニュースを通して、ストリート・アクションスポーツの魅力を沢山の人へ伝えていきます。
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skate大舞台での初タイトルをSLS SUPER CROWNで勝ち取る快挙「2023 SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」MEN’S FINAL2023.12.072023年12月2日(土)~3日(日)の2日間に渡り、世界最大のスケートボード・ストリート種目の大会として名高い、SLS(ストリートリーグスケートボーディング)の2023年シーズン最終戦である「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」がブラジル・サンパウロにて開催された。 世界中から選ばれたストリート種目の実力者だけが出場できるのがこの「SLS World Championship Tour」。そのツアーの中でも年間を通して顕著な成績を残した選手と、「SLS SELECT SERIES」という予選大会での優勝者のみが招待され、SLSシリーズにおける世界チャンピオンの座をかけて争うのがこの「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」だ。 そんな「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」の男子カテゴリーは今回波乱の展開。過去に4度のSUPER CROWNの優勝という最多記録を持ち、今大会の優勝候補の一人であったナイジャ・ヒューストン(アメリカ合衆国)はノックアウトラウンド敗退。また東京オリンピック金メダリストで今年のSLS東京大会の優勝者である堀米雄斗は大会直前に負った尾骨を痛める怪我で出場を棄権。また日本人選手の出場者であり今年のSLSシリーズでは好成績を残した池田大暉と根附海龍も決勝進出は敵わなかった。 本決勝は全30名の出場者の中、6名1グループのノックアウトラウンドから各グループで1位通過した5人と、セカンドチャンスとして1位通過した5名を除いた出場者全体のなかでトップスコアを残した1人を加えた合計6名で競われる形。そんな狭き門をくぐり抜けた選手たちの顔ぶれが揃ったスタートリストはライアン・ディセンゾ (カナダ)、グスタボ・リベイロ (ポルトガル)、マウリオ・マッコイ (アメリカ合衆国) 、ジオバンニ・ヴィアンナ (ブラジル) 、フェリペ・グスタボ (ブラジル) 、ヴィンセント・ミルー (フランス)の順となった。 決勝フォーマットは、女子と同様にラインセクションによる45秒間のラン2本に加えて、シングルトリックセクションでベストトリック5本にトライする中で、ベストスコアである計4本(ランは最大1本のみ換算)が合計得点として採用される形に。なお今大会のコースはブラジル・サンパウロの「ジナシオ・ド・イビラプエラ」というスタジアムの中に特設された。コース内には大小様々なクオーターやステア、レッジそして特徴的なロングレールなどユニークで多種多様なセクションが設置され、各選手が持つライディングの強みやトリックのオリジナリティを十二分に発揮できるまさに世界チャンピオンを決めるのにふさわしい環境で大会が開催された。 大会レポート 【ラインセクション1本目】 ベテランを中心に歴戦の実力者が駒を進めた本決勝。ラン1本目でまず他選手を圧倒するライディングを見せたのは昨年のSUPER CROWNの勝者でディフェンディングチャンピオンとして出場したグスタボ・リベイロ (ポルトガル)。ノックアウトラウンドではいまいち納得のいくライディングができていなかった彼が決勝ではしっかり強さを見せた。ハバセクションでの「トレフリップ フロントサイド50-50グラインド」や、レールで「トレフリップフロントサイドノーズブラントスライド」などをメイク。ランの最後には彼のシグネチャートリックでもある「バックサイドクルックドグラインド to ノーリーキックフリップアウト」を決めるランで9 Clubである9.3ptをマークした。 そんなリベイロに続く形でこの1本目で唯一8点台を残したのがブラジルのジオバンニ・ヴィアンナ。他の選手には無い独特なライディングスタイルを強みとするヴィアンナは「フェイキーフロントサイドテールスライド」や「フロントサイドブラントスライド」、そしてダウンレッジを「フロントサイド50-50グラインド」で登り会場を沸かせるなど、彼のオリジナリティが盛り込まれたノーミスのランで8.5ptをマークして幸先の良いスタートを切った。 【ラインセクション2本目】 1本目のリベイロのライディングに感化されたのか、選手の多くがスコアを伸ばしてきた2本目。その中でリベイロの9.3ptに匹敵する9 Clubを叩き出してきたのはヴィアンナとヴィンセント・ミルー (フランス)だ。 長いプロキャリアを持っていながら今までほとんど大会での優勝経験が無かったジオバンニ・ヴィアンナ。しかし先月同じくブラジルで行われたSTUでは2位、9月に行われたWSTローザンヌでは3位と今シーズンを通して良い流れを作れている彼は、トリックのコンボを上手く活かし1本目を上回るライディングを見せる。中盤では「ヒールフリップフロントサイドボードスライド」をメイクし、最後には「キャバレリアルバックサイドテールスライドフェイキー」を決めると9.1ptまで得点を引き上げて9 Clubをマークした。 そんなヴィアンナに続いて、この2本目でランの最高得点を叩き出したのがヴィンセント・ミルー。オールドスクールな動きを取り入れながらも高難度ルーティンに昇華していたライディングが特徴的な彼は「キックフリップフロントサイドリップスライド」や「スイッチキックフリップフロントサイドボードスライド」など高難度トリックを次々と決めてノーミスでライディングを終えると9.4ptをマークした。 【シングルトリック1本目】 女子と同様だが、SLSルールは近年のパリ五輪予選で採用されているオリンピックルールと異なり、ランで高得点が残せなくてもこのセクションで十分に逆転が可能なフォーマット。そのため一つのベストトリックの得点次第で順位が入れ替わる可能性はあるものの、やはりランセクションで高得点を上げた選手たちが余裕を持って優位にシングルトリックセッションを進めていく様子が見られた。 シングルトリックセッション1本目は、トリックを失敗する選手と見事メイクして8点台に乗せる選手が半々に分かれる展開に。まずここでしっかり決めてきたのは前回のシドニー大会の優勝者であるフェリペ・グスタボ (ブラジル)。ラインセクションでは7点台とビハインドを負った彼が「ノーリーキックフリップバックサイドクルックドグラインド」をメイクし8.5ptをマーク。 グスタボに続く形でラインセクションでの勢いをそのまま持ってきたヴィアンナが「キャバレリアルフロントサイドノーズスライドフェイキー」で8.8ptを、そしてミルーが「キックフリップフロントテールスライド」を10段のステアのハンドレールでメイクし同じく8.8ptをマークした。 【シングルトリック2本目】 1本目を終えて徐々に選手たちのパフォーマンスの調子に優劣が見え始めた中、まず2本目でしっかりトリックをメイクしてきたのはベテランのライアン・ディセンゾ (カナダ)。1本で失敗した「ノーリーヒールフリップバックサイドノーズスライド」をハンドレールでメイクすると8.6ptをマーク。 ランセクションとシングルトリック1本目と勢いが止まることを知らないのがヴィアンナ。得意なキャバレリアルの入りからハンドレールでメイクしたのは「キャバレリアルフロントサイドブラントスライドフェイキー」。ランセクション2本目に続く9 Clubで9.1ptをマークしてリードを伸ばしていく。 そんなヴィアンナの様子をただ見ているだけにはいかないのがリベイロ。ここではしっかり「トレフリップフロントサイドブラントスライドフェイキー」をメイクして8.9ptでまとめる。また一方でヴィアンナ同様にモメンタムをキープしてきたのがミルー。ここ2本目では「スイッチキックフリップバックサイドリップスライド」をメイクすると9.1ptをマーク。神様のいたずらなのかシングルトリックに入ってから同じスコアを残していくヴィアンナとミルー。後述することになるがこの2人が最後まで熾烈な接戦を繰り広げることとなる。 【シングルトリック3本目】 9 Clubが連発した2本目だったが、3本目でもその流れは止まらなかった。6人中4人がトリックに失敗する中、シドニー大会に引き続き地元ブラジルで優勝を成し遂げたいグスタボが「ノーリーキックフリップフロントサイドノーズスライド」を綺麗にメイクすると9.3ptをマークし9 Clubの流れに続く。 その後、各選手のトリックミスが続くも自分のペースを崩さず、ミルーが「スイッチキックフリップフロントリップスライド」をメイクし9.0ptとまた9 Clubをマーク。このミルーの得点により、僅差であったヴィアンナやリベイロを含む後続選手との差を広げて優勝争いが大きく動き出す展開となった。 【シングルトリック4本目】 ミルーに大きくリードを許す展開で迎えたシングルトリック4本目だったが、ここで優勝争いは固まっていくこととなる。3本目と同様に6人中4人がトリックに失敗する中でトリックをしっかりメイクしたのはヴィアンナとリベイロ。3本目でミスをしてしまいミルーにリードを許してしまったヴィアンナだったが「フェイキーフロントサイド180・バックサイドスミスグラインド」を決めると本決勝最高得点の9.4ptをマークし、ミルーを0.1pt差で追い上げて暫定トップまでジャンプアップ。 そんなヴィアンナに続いたリベイロはなんとか優勝争いに食い込むべく、3本目に失敗した「トレフリップフロントサイドノーズブラントスライド」をメイクするも9 Clubには届かない8.9ptとなった。この時点で最後1本を目前にヴィアンナ対ミルーによる優勝争いとリベイロが3位の座を守り切れるのかどうかという構図が確立された。 【シングルトリック5本目】 そんな熾烈な接戦の中で迎えた5本目。4本目を終えた時点での暫定ランキング順での滑走となり、マッコイ、ディセンゾ、グスタボ、リベイロ、ミルー、ヴィアンナの順となった。前半の3名はマッコイとグスタボがトリックを決めきれない中、ディセンゾがバンプから飛び出す「ギャップアウト・フロントサイドキックフリップ」をメイクして会場を沸かせて8.0ptをマークした。 この時点でリベイロの3位入賞は確定した一方で、ラストトリックは決めきれず2年連続のSUPER CROWN優勝とはならなかった。そして注目されたのはヴィアンナとミルーの1位2位争いだが、ミルーがラストトリックを残し逆転には9.0pt以上が必要となる状況の中「バックサイドビッグスピンバックサイドリップスライド」にトライするも失敗。ヴィアンナが0.1pt差でミルーを勝ち越して自身初のSLS優勝をSUPER CROWNで達成するという快挙を達成した。ヴィアンナは東京五輪にブラジル代表として出場しており、経験値はあるもののなかなか大舞台で結果を残せていなかった。そんな彼の大舞台での初タイトルが今回の「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」となり劇的な幕切れとなった。ヴィアンナの優勝が決まった瞬間にミルーが駆け寄りハグをして称え、ラストトリックを終えた後は周りの仲間や集まり最終的には胴上げをして彼の快挙を称えた。 大会結果 優勝 ジオバンニ・ヴィアンナ (ブラジル) / 36.4pt2位 ヴィンセント・ミルー (フランス) / 36.3pt 3位 グスタボ・リベイロ (ポルトガル) / 27.1pt4位 フェリペ・グスタボ (ブラジル) / 25.5pt5位 ライアン・ディセンゾ (カナダ) / 25.0pt6位 マウリオ・マッコイ (アメリカ合衆国) / 7.0pt 最後に 今大会で通して一番感じたのは、着実に積み上げたキャリアが身を結び、結果を残す選手が増えてきたということだ。前回のシドニー大会で自身初のSLS大会優勝を果たしたフェリペ・グスタボが特にこういう風に感じる主な例なのだが、今回優勝したジオバンニ・ヴィアンナもまだ22歳ではあるものの今までプロになってからなかなか大舞台での頂点を勝ち取れてこなかった選手の一人だ。 最近は日本の小野寺吟雲を筆頭に10代の実力者が増えてきているスケートボード・ストリート種目だが、最近のトレンドとは逆にベテランとしてシーンを牽引しているメンバーも世界大会で結果を残していることにこの業界に吹いている新たな風を感じた。 また同時にこのようなベテランライダーたちの大会での活躍は全競技者に対しても勇気や希望を感じさせるものになると思う。近年若年化し続けるこの競技だが一方で努力次第では選手としても最前線で活躍し続けて長いキャリアを作れるものということ示した大会ではないだろうか。実際に今回決勝に残っていたライアン・ディセンゾは37歳のベテランライダーだ。 特に昨今は若手や育成世代に注目が集まりやすいこの業界だが、個人的には来年のパリ五輪に向けて繰り広げられる出場枠争いにおいてもベテランたちの活躍にも注目していきたいと思う。来週から東京・有明で開催されるパリ五輪予選に該当する世界大会「ワールドスケートボードストリート世界選手権2023」でも世界各国から幅広い年齢のライダーが出場することだろう。 今回の「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」で活躍した選手たちはもちろんのこと、若手だけではなくベテランライダーも含めて、来年のフェーズ2を見据えてどんなパフォーマンスを見せてくれるのかを注目して「ワールドスケートボードストリート世界選手権2023」も観戦したい。
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skateJSL最終戦『SUPREME DANCE』浦野建隼が勝利し2023年シーズン年間王者に輝く2023.12.062023年12月3日(日)に埼玉県所沢市にあるJapan Street League (以下 JSL)のオフィシャルパートナーであるSKiP FACTORY skateparkにて2023年シリーズ最終戦 『SUPREME DANCE』が開催された。この最終戦はシーズンランキング上位10名のみが参戦できる2023年シーズンの年間王者を決める大会となっており、国内外を舞台に活躍する選手たちが熱戦を繰り広げた。今回の参戦選手は、佐々木音憧・村上涼夏・浦野建隼・齋藤丈太郎・西山奏・山附明夢・張爾洙(ジャン・イースー / 韓国)・齋藤吟平・浦野晴・柿谷斗輝の10名で争われた。 このJSLの出場者は完全招待制になっており、今回の参戦メンバーは10名。年間を通じ全4戦が国内のスケートパークで行われ、年間王者を決めるストリートツアーリーグである。採点方式はパリオリンピック予選と同じ採点方式を採用しており、ラン45秒を2本、ベストトリックを5本の合計7本で競い合うルールとなっている。点数はそれぞれ100点満点で、より得点の高いラン1本+ ベストトリック2本の3つの合計点数(300点満点)でランキング化され優勝者が決まる。 本場アメリカ仕込みの多彩なトリックで浦野建隼がJSL初優勝! 予選リーグを勝ち抜いた、佐々木音憧・浦野建隼・山附明夢・張爾洙・齋藤吟平の5名が決勝へ進出した。弱冠13歳の張爾洙と14歳の齋藤吟平は自信あるトリックで他選手を追い詰めようとアプローチするも、なかなか得点を伸ばすことができなかった。ランキングトップ3の選手たちから実力と経験の差をみせつけられ張爾洙は4位、齋藤吟平は5位でこの2023年をフィニッシュした。 昨年王者の根附海龍はブラジルで開催されていたStreet League Skateboarding (以下 SLS) SUPER CROWN出場の為、この最終戦はキャンセル。昨年王者不在の中、根附と同じ静岡県出身であり高校時代をアメリカで過ごし、本場アメリカストリート仕込みの浦野建隼が優勝候補筆頭の佐々木音憧を抑えて今シーズン王者となった。浦野はランで時間を目一杯使い、Aフレームで跳躍力あるビックスピンフリップ、フリップバックノーズグラインドなどと多彩な技をフルメイクし、ランは85.23ptと2位でベストトリックに臨んだ。ベストトリックでは大会でなかなか見ることのできないフリップバックノーズグラインドを1本目にメイクして会場を沸かせた。いい流れを自ら引き込み、キャバレリアルフリップフロントボードフェイキー・インワードヒールノーズスライド・バックサイドフリップノーズブラントと、これまで自らメイクできていなかった技まで繰り出し、見事優勝を果たした。勝利者インタビューでは『楽しかったです。最後のトリックも自分に流れがきていると思いアプローチしました。メイクできるとは思ってなかったが、メイクできて本当に気持ちぃぃーー!!』と歓喜の声をあげた。 決勝が始まった時点で右足に違和感を感じ始めた佐々木音憧だったが、ランでは持ち前のスピードと跳躍力を活かした迫力ある360フリップ・キャバレリアルリップスライドなどのコンビネーションをフルメイクし、88.97ptの高得点をマークした。ベストトリックでは1本目にキャバレリアルノーズブラントフェーキーで85.47pt。2本目、3本目はミスするも4本目にノーリー180スイッチスミスグラインドtoレギュラーが83.30ptで、ラストトリックの5本目に86.46ptの得点を出せば佐々木が逆転優勝という状況に。緊張の5本目、足をストレッチするシーンもあり疲労が蓄積されていた佐々木はノーリーヒールフロントサイドノーズブラントがインコンプリートとなり、惜しくも2023年シリーズは2位でフィニッシュとなった。『最後乗り切れなかったので、そこは悔しいですね』と悔しい表情を見せたが、佐々木の来年の活躍にも期待したい。 笑顔と脱力感が特徴的な山附明夢。山附のランを見ている者は皆、簡単なトリックを難なくこなしているだけのように見えるだろう。だが実際はバンクを大きく使っての360フリップ、流れるようなカーブトリック、そしてレールにステアとパークの隅から隅まであらゆるセクションでトリックを決める高難度なスキルが備わっており、それが高得点をたたき出す理由の一つだろう。 ランでは82.37ptをマーク。ベストトリックでは1本目にハンドレールでフロントサイド180スイッチKブラインドをメイクし79.07pt。ランの5本目にはメインセクションのハンドレールをレールオーバースイッチヒールで79.17ptとなり、今シーズンは3位となった。表彰式インタビューでは上田豪氏の『来年も出場してくれるかな?』といった問いかけに、『まぁ、スケジュールが空いてれば..』と山附らしいコメントで会場を沸かせた。 SLSへの登竜門として若い世代のスケーター達に夢を! 今年のJSLは日本で唯一SLSへの切符を手にできる試合となり、根附海龍が目標であり夢でもあったSLSへの参戦を叶えた。初参戦とは思えない活躍で ”NETSUKE“ の名を世界に知らしめた。JSLは今後もSLSへの登竜門であり、若い世代のスケーター達に夢を、そして日本スケートボード界のさらなる発展を目指し、日本から世界へと活躍する選手を送り出すべく活動していくとのこと。2024年はどんな選手達が招待され、誰が世界へと羽ばたくのか!? オリンピックイヤーの2024年もJSLから目が離せない! 優勝 浦野建隼 260.90pt2位 佐々木音憧 257.74pt3位 山附明夢 240.61pt4位 張爾洙 153.90pt5位 齋藤吟平 150.77ptPowered by LiveHeats 大会概要 【タイトル】 SUPREME DANCE【日程】 2023年12月3日(日) (12月2日(土)公開練習を設定)【会場協力】 SKiPFACTORY 〒359-0016 埼玉県所沢市新郷220【招待選手】 佐々木音憧 / 村上涼夏 / 浦野建隼 / 齋藤丈太郎 / 西山奏 / 山附明夢 / 張爾洙 / 齋藤吟平 / 浦野晴 / 柿谷斗輝 / (順不同) 【特別協賛】 FOD / Seiko 5 Sports / Columbia / SKiPFACTORY / ステンレスアート共栄 / Red Bull【協力】 4s sound / Liveheats / Tufleg / GREENFUL 【 MC】 上田豪 (メインMC) / 寺井裕次郎 (サブMC) 【ジャッジ】 謝花明徳 / 橋本貴興 / 宮島大介 【ライブ配信】 FODプレミアム(フジテレビオンデマンド) 【主催】 JAPAN STREET LEAGUE実行委員会
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skate自国ブラジルに捧げた2連覇。ライッサ・レアウが悲願のSLS大会優勝「2023 SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」WOMEN’S FINAL2023.12.05世界最大のスケートボード・ストリート種目の大会であるSLS(ストリートリーグスケートボーディング)の2023年シーズンを締めくくる、「2023 SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」がブラジル・サンパウロにて2023年12月2日(土)~3日(日)に渡り開催された。 世界中のストリート種目に出場するライダーたちが目指すSLSの舞台。その中でもSLS World Championship Tourで年間を通して顕著な結果を残した選手、及び「SLS SELECT SERIES」という予選大会の優勝者のみが招待され、世界チャンピオンの座を争うのがこの「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」だ。 今回は今シーズン2勝を上げているオーストラリアのクロエ・コベルや、地元ブラジルの若きスーパースターのライッサ・レアウをはじめ、日本人選手勢からは東京オリンピック金メダリストである西矢椛や、国際大会で最近好成績を残している織田夢海、そして今シーズンからSLSシリーズに参加しているルーキーの上村葵が出場し、世界の名だたる競合を相手に日本人選手たちが一矢報いることにも注目された一戦となった。なお今回出場予定だった東京オリンピック銅メダリストの中山楓奈は怪我の回復状況から大事をとり直前で出場を見送った。 そして本決勝は全12名の出場者の中、6名1グループのノックアウトラウンドを勝ち上がった各上位3名である合計6名で競われる形。そんな世界最強のライダーを決める一戦のスタートリストは織田夢海(日本)、上村葵(日本)、ペイジ・ハイン(アメリカ合衆国)、西矢椛(日本)、クロエ・コベル(オーストラリア)、ライッサ・レアウ(ブラジル)の順となった。 決勝フォーマットは、ラインセクションと呼ばれる45秒間のラン2本に加えて、シングルトリックセクションというベストトリック5本にトライする中で、ベストスコアである計4本(ランは最大1本のみ換算)が合計得点として採用される。 なお今大会のコースはブラジル・サンパウロの「ジナシオ・ド・イビラプエラ」というスタジアムの中に特設で作られた。コース内にはクオーターやステア、レッジそして特徴的なロングレールなど様々なセクションが設置され、ライダーたちの高難度かつオリジナリティのあるトリックをメイクするためにふさわしい環境の中で、SLSシリーズの世界チャンピオンを決めることとなった。 大会レポート 【ラインセクション1本目】 決勝の後半戦でポイント争いが繰り広げられることを見込んでか、ラインセクション1本目は全体的にミスを少なくして着実に得点を残すような展開が見受けられた。5点台のランが続く中、最初に6点台へ載せたのは西矢椛。レッジでの「クルックドグラインド to ノーリヒールフリップアウト」や「フロントサイドサラダグラインド」などをメイクしたランで、中盤にトリックミスもあったが6.3ptをマークした。 そんな西矢に続いたのは東京大会とシドニー大会の覇者であるオーストラリアのクロエ・コベル。自身の得意とする「キックフリップ」を主軸としたランを展開し、レールセクションでの「フロント50-50グラインド to キックフリップアウト」などメイクし安定したランで6.0ptをマーク。 ただ今大会で彼女らを上回るライディングを見せ続けたのは、地元ブラジル出身でかつ昨年のSUPER CROWNの王者であるライッサ・レアウ。落ち着いたライディングの中に完成度の高い「バックサイドリップスライド」や「フロントサイドノーズグラインド」、最後は10段のステアのハンドレールでは「フロントサイドブラントスライド」をしっかり決めて8.1ptと1本目から大きく優位に立った。 【ラインセクション2本目】 1本目のレアウのライディングにプレッシャーを受けたのか、各選手にミスが多く見られた2本目。ほとんどの選手が1本目より得点を上げられない中、1本目のミスをカバーし得点を伸ばしたのがアメリカのペイジ・ハインだ。 シドニー大会に合わせて行われたセレクトシリーズを勝ち上がりSLSに出場したルーキーであるハイン。スイッチ系のトリックに定評のある彼女は「スイッチフロントサイドボードスライド」を綺麗にメイクすると、その後も様々なグラインドやスライド系のトリックをメイクし1本目のミスをカバーして5.1ptまでスコアを引き上げた。 そして1本目の勢いそのままに、この2本目で本決勝の最高得点を叩き出したのがライッサ・レアウ。1本目でメイクしたトリックの難易度を上げて得点を塗り替えるようなライディングを見せた彼女は「バックサイドスミスグラインド」や「キックフリップフロントサイドボードスライド」などセクションの特性を活かして高難度のトリックをメイクしていき、最後は1本目と同様に「フロントサイドブラントスライド」を決めてノーミスでライディングを終えると9.0ptという9 Clubをマークした。大会後の優勝者インタビューで話していたことではあるが、レアウが9Clubを出したのは今回が初めてだったこともあり、このスコアが表示された瞬間は口を開けて喜び、どこか涙ぐむような様子も垣間見れた。またランセクションを終えた時点で選手全体のパフォーマンスを見ても、レアウはトリックの難易度、完成度、安定感で頭ひとつ抜けている印象で9 Clubが出るのも納得できるランだった。 【シングルトリック1本目】 近年のパリ五輪予選で採用されているオリンピックルールと異なり、ランで高得点が残せなくてもこのセクションで十分に逆転が可能なのがSLSルール。そのため一つのベストトリックの得点次第で順位が入れ替わる接戦が予想された。ただ依然としてランセクションで高得点を上げておくことが、自分のベストなベストトリックをメイクする上で必要な精神的安心材料であることには変わりない。 シングルトリックセッション1本目は、ラインセクションを終えて上位に立ったコベル、西矢、レアウによるトップ争いに注目が集まった。コベルが10段のステアセットで「キックフリップ」をメイクし7.3ptをマークすると、西矢が「サスキーグラインド」で7.2ptでリードをキープ。そんな2人の争いを横目に更にリードを広げたのはレアウ。彼女らよりも高難度な「バックサイドテールスライド」を10段のステアのハンドレールでメイクし8.0ptをマークした。 【シングルトリック2本目】 1本目を終えて各選手がそれぞれ異なる状況の中で、2本目では暫定トップ3の座を乱すような7点台が飛び出す。まず2本目のトップスコアである7.4ptをマークしてきたのはハイン。彼女が得意とする「スイッチフロントサイドボードスライド」をハンドレールでメイクした。 そんなハインと同じくSLSルーキーであり、シドニー大会のセレクトシリーズの優勝者である上村葵もハンドレールで「バックサイドスミスグラインド」をメイクすると7.1ptをマークし、1本目のバンプから飛び出してハンドレールでメイクした「フロントサイドボードスライド」の7.0ptに加えて7点台でまとめていく。 一方で暫定トップ3であったコベル、西矢、レアウの3名は、コベルが「フロントサイドフィーブルグラインド」をメイクするも、西矢は「ビックスピン・フロントサイドボードスライド」に失敗。レアウも「フロントサイドノーズグラインド」をメイクするも6.4ptとスコアをあまり伸ばせず、トップ争いの展開が分からなくなる雰囲気が漂い出した。 【シングルトリック3本目】 しかし3本目ではそんな雰囲気を一蹴する8点台の高難度トリックが連発。まずは以前2019年と2022年でSUPER CROWNの舞台に立っており、SLS女子史上最高得点の9.4ptを過去「キックフリップ・フロントサイドフィーブルグラインド」で叩き出した織田夢海がその強さを見せる。2本目で失敗してしまった「キックフリップ・フロントサイドボードスライド」を綺麗にメイクすると8.6ptをマーク。 そんな織田に触発されたか西矢も織田と同じハンドレールにて2本目で失敗した「ビックスピン・フロントサイドボードスライド」をメイクすると8.8ptと高得点をマーク。さらに西矢の後にライディングしたレアウも、反対側のハンドレールで「キックフリップ・フロントサイドボードスライド」をメイクすると8.5ptをマークした。 【シングルトリック4本目】 シングルトリック3本目を終えた時点で暫定トップのレアウを除く2位以下の順位がトリック1本ごとに大きく変動した中で、4本目ではほとんどの選手がメイクできない展開に。そこで唯一メイクしたのはハイン。3本目でミスをしてしまった「スイッチフロントサイド50-50グラインド」をしっかり決めると8.4ptをマーク。大きく表彰台争いに食い込むスコアを残した。 【シングルトリック5本目】 そんな最後までどうなるか分からないまま迎えたこの5本目では波乱の展開となった。暫定トップを守るレアウを追う形で最後にスコアを伸ばしてきたのは上村、西矢、ハインの3名。4本目を終えた時点での暫定ランキング順での滑走となり、惜しくも織田とコベルはトリックを決めきれず表彰台争いから離脱した一方で、3名がどんな表彰台争いをするのかが注目となった。 まず最後の1本で8.0ptの高得点を残したのは上村葵。3~4本目で失敗していたギャップアウトからハンドレールへかける豪快な「バックサイドリップスライド」をメイクし、暫定2位までジャンプアップした。この座を守り切れるかは後にライディングする残りの選手たちのパフォーマンスに託された。 上村に続いたのは今年のSLSシーズンの全大会でコンスタントに表彰台に乗り続けている西矢椛。ここまでシーズンを通して2位か3位を行ったり来たりしてきた中で、このSUPER CROWNでは是非優勝したいという思いが強くあったはずだろう。ただ5本目を迎えた時点でレアウを上回るには9.7ptが必要であった。そんな5本目で選んだのはバンプから飛び出す「ギャップアウト・フロントサイドサラダグラインド」。見事メイクして8.3ptをマークして上村を超えて暫定2位となった。ラストトリックをメイクした時には笑顔もこぼれ自分のライディングには納得して終えられているように見受けられた。 レアウを残してライディングしたのは暫定4位のペイジ・ハイン。最後も彼女が得意とするスイッチ系のトリック「スイッチバックサイドボードスライド」を見事メイクし7.0ptをマーク。暫定3位だった上村を上回る形で表彰台の座を獲得した。ハインもラストトリックのスコアが確定した瞬間に口を手で押さえて喜びを露わにし、そのハインを称えるように上村がハグする姿も見られスケートボードならではのスポーツマンシップを感じられた。 そして最後は1位の座を守り切り、ラストトリックをウィニングランとしたライッサ・レアウ。今年はSLSに関していうとシカゴ大会の優勝以降なかなか勝てていないシーズンを過ごした彼女だったが、今回は地元ブラジルにて観客から声援や期待をプレッシャーではなく力に変えることができていた。今大会ではノックアウトラウンドから決勝まで終始自分のペースを崩さず、常にベストトリックを見せることができる安定感を感じさせるライディングをしていた彼女は今大会の優勝によりSUPER CROWN2連覇を見事達成した。 大会結果 優勝 ライッサ・レアウ (ブラジル) / 31.9pt2位 西矢 椛 (日本) / 30.6pt 3位 ペイジ・ハイン (アメリカ合衆国) / 28.8pt4位 上村 葵 (日本) / 27.9pt5位 織田 夢海 (日本) / 20.7pt6位 クロエ・コベル (オーストラリア) / 20.4pt 最後に 今大会で通して一番感じたのは、やはりライッサ・レアウが見せた圧倒的な強さであったことは間違いない。それは高難度トリックをコンスタントにメイクできるスケートスキルはもちろんなのだが、SUPER CROWNというSLS World Championship Tourの中でも一番大きな舞台で、かつ自国開催という他の選手とは比べものにならないプレッシャーのかかる環境の中で、しっかり勝ち切ることができるその彼女の精神的な底知れぬ力について感服した。 またレアウ自身が感じていたであろう勝ち切れないことへの悔しさは東京大会、シドニー大会を通して我々にもひしひしと伝わってきていたので、改めて今回の優勝が意味するものは彼女にとっても去年のSUPER CROWN優勝よりも特別なものだと思う。 そして一方で言及しておきたいことなのだが、シドニー大会時の記事にてクロエ・コベル(オーストラリア)、ライッサ・レアウ(ブラジル)、西矢椛(日本)のトップ3の実力が頭一つ抜けていることを再認識したと記載したが、その勢力図に関しても遠からず大きな変化が起きるのではと今大会を通して感じた。実際今大会の決勝に残っていた織田夢海とSLSルーキーの上村葵とペイジ・ハイン(アメリカ合衆国)の強さもトップ3に引けを取らないものであった。 世界中の各選手のスキルや実力が瞬く間も無く向上している昨今。来年のパリ五輪を控えて来シーズンは今まで以上に拮抗した戦いになることは想像するに容易い。また今年はストリート種目としてシーズン最後の世界大会である「ワールドスケートボードストリート世界選手権2023」が東京・有明で開催される。 SLSとは異なり世界中からトップ選手たちが出場するこの大会を通じて、来年のSLS World Championship Tour及びパリ五輪予選大会など世界大会での台風の目になりうる選手たちを、日本人選手を含めてチェックしながら来年のシーズンを迎えたいと思う。
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bmxUCI BMXフリースタイルワールドカップ/ミュージックライブ/地域グルメが楽しめる複合イベント 「FUJITA Presents ENOSHIMA WAVE FEST」が来年2月に開催!2023.12.04小田急電鉄株式会社はENOSHIMA WAVE FEST実行委員会を立ち上げ、2024年2月23日(金・祝)から25日(日)まで、小田急沿線が世界に誇る観光地・江の島エリアにて、日本では5年ぶりとなるBMXフリースタイル種目の世界大会「UCI BMX FREESTYLE WORLD CUP ENOSHIMA JAPAN」を中心とした複合イベント「FUJITA Presents ENOSHIMA WAVE FEST」を開催することを発表した。 「FUJITA Presents ENOSHIMA WAVE FEST」は、国際自転車競技連合(UCI)が主幹する男女BMXフリースタイル2種目(BMXフリースタイル・ パーク、BMX フリースタイル・フラットランド)の公式世界大会を開催すると共に、アーバンスポーツと相性の良いさまざまなジャンルのアーティストによるミュージックライブと、地元湘南・藤沢エリアにちなんだ食材を用いた店舗が出店するフードイベント「湘南-Food Festival」を併催する複合イベントとして、神奈川県や藤沢市などの地域関係者や企業による協力の下で開催が決定した。 photograph by by Naoki Gaman /Japan Cycling Federation/JFBF 「BMX フリースタイル・パーク」は、ステージ内に設けるさまざまなサイズのジャンプ台等のセクションで技の難易度・完成度・高さなどを競う種目であり、2022年世界選手権優勝者の中村輪夢(なかむら りむ) 選手や地元茅ヶ崎生まれのガールズライダー内藤寧々(ないとう ねね)選手などが活躍している。 photograph by Satoshi Saijo/Japan Cycling Federation/JFBF 「BMX フリースタイル・フラットランド」は、平坦なステージで選手とBMX が一体となって回転したりバランスを取ったりして芸術性を競い合う種目。ここ2年間は連続で日本人選手が世界選手権で優勝しており、 どちらの種目も多くの日本人選手が世界で活躍することで、国内での人気が高まっている自転車競技である。 なお、「UCI BMX FREESTYLE WORLD CUP ENOSHIMA JAPAN」とミュージックライブの観覧は有料チケットが必要となり、チケット販売の詳細や BMX 競技出場選手、ライブの出演アーティスト情報などは決定次第、順次発表となる。 イベント概要 開催日程: 2024年2月23日(金・祝)~25日(日)開催場所:江の島島内特設会場開催概要:(1) UCI BMX FREESTYLE WORLD CUP ENOSHIMA JAPAN 日本では5年ぶりの開催となるUCI公認世界大会(2) ミュージックライブ さまざまなジャンルのアーティストによるスペシャルライブ(3) 湘南-Food Festival【入場無料】 地元湘南・藤沢エリアのグルメが集結※ (1)(2)の観戦・観覧には有料チケットが必要です※ チケットの販売方法、BMX 競技出場選手、ミュージックライブの出演者 などの詳細は、順次発表します。 主催:ENOSHIMA WAVE FEST 実行委員会 共催:一般社団法人全日本フリースタイルBMX連盟後援:神奈川県、藤沢市、公益社団法人藤沢市観光協会、湘南藤沢活性化コンソーシアム、 一般社団法人日本アーバンスポーツ支援協議会協力:株式会社湘南なぎさパーク、江の島振興連絡協議会、江の島防災対策協議会スポンサー:ゴールドパートナー 株式会社フジタ シルバーパートナー 株式会社関電工 ブロンズパートナー 株式会社京三製作所
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dance【SAKAI DANCE FES.】世界レベルのダンスバトルが大阪・堺市にて開催!2023年12月2日(土)、3日(日)の2日間わたって【SAKAI DANCE FES.】が大阪府のららぽーと堺にて開催され、Day1となった2日(土)は、POPPIN’ 1on1 Battle “SAMURAI” と、KIDS 1on1 Battle “NINJA” のコンテンツが実施された。 観覧無料で世界レベルのダンスを体感できる本イベント。休日の大型ショッピングモール「ららぽーと堺」は多くの家族連れなどでにぎわい、偶然立ち寄った方も足を止めて観戦していたのが印象的であった。 【NINJA】U-10・U-15部門ではBGIRL RENとKO-KENが優勝に輝く 世界的にもトップレベルとされている日本のキッズダンサー業界において、日本のキッズダンサーの頂点が決まるALLSTYLE KIDS 1on1 Battle “NINJA”。今回はSPECIAL EDITIONとして実施され、U-10部門・U-15部門の2部門が行われた。優勝者には来年の「SHIROFES.2024 - NINJA」のシード権(宿泊費や交通費などを含む)が与えられ、関西をはじめ中国・四国地方からも多くのキッズダンサーが参戦した。 U-10部門ではBGIRL RENがBaby Lus1tとの決勝戦を制して優勝。Breaking vs KRUMPの対決となったが、小学生とは思えないほどハイレベルなパワームーブを見せつけたBGIRL RENが勝利した。 U-15部門ではKO-KENがJOEとのポッパー対決で勝利して優勝を掴んだ。KO-KENとJOEは互いにチームメイトでもあり熱量がこもったハイレベルな決勝戦を展開したが、KO-KENの動きの質感や発想力豊かな動きの数々が会場に集まった多くの観客を魅了していた。特にU-15部門ではスキルだけでなく個々のスタイルが見えるダンサーも多く、改めて国内キッズダンスレベルの完成度の高さを感じさせる内容となった。 BGIRL REN / © Jason Halayko KO-KEN / © Jason Halayko 【SAMURAI】MACCHO & Ringo Winbeeが優勝! 毎年、青森県 弘前市で開催される「SHIROFES.」にて実施されているPOPPIN’ 1on1 Battle “SAMURAI”。こちらもSPECIAL EDITIONとして、FEMALE部門・OPEN部門の2部門にて実施された。両部門の優勝者は、本イベントのメインコンテンツとなる「7 to Smoke(招待されたゲストダンサー6名が出場)」の出場権を獲得することとなった。 日本国内からのエントリーに加えて韓国からの参戦もあり、予選オーディションから本戦トーナメントまで大きな盛り上がりを見せた中、FEMALE部門ではRingo Winbee、OPEN部門はMACCHOが優勝に輝いた。 FEMALE部門 優勝 Ringo Winbee / © Jason Halayko OPEN部門 優勝 MACCHO / © Jason Halayko 【7 to Smoke】ではベトナムのMT POPが優勝! 7 to Smoke 出場者 © Jason Halayko メインコンテンツとなった「7 to Smoke」では、トーナメント優勝者のRingo Winbee、MACCHOに加えて、HOZIN(韓国)、KIDBOOGIE(アメリカ)、LOCO YOKO(日本)、MT POP(ベトナム)、GUCCHON(日本)、VINEET(インド) の6名が招待ダンサーとして出場。 7 to Smokeとは、制限時間(今回のSAMURAIは1時間)の中で出場者の8名が1on1 Battleを行い、勝ち抜き形式で勝者が決まるオランダ発祥のバトル方式だ。一回の勝ちで1ポイントが加算され合計7ポイントを獲得したダンサーが勝利、または、制限時間が経過した際に最も多くのポイントを獲得しているダンサーが勝利、といったルールになっている。 MT POP © Jason Halayko エンターテイメント要素が強く、ダンサーにとっては体力の消費も多い過酷なフォーマットにおいて優勝に輝いたのは、ベトナムからのゲストダンサー MT POP。 スタート直後から日本のGUCCHONが5連勝を記録し、一気に優勝が決まるかと思われたが、当日のOPEN SIDEの優勝者 MACCHOが王手となる6連勝を阻止。そこからは一時、8人のダンサーによる一進一退の攻防が続いたが、バトル時間が30分を経過したあたりからMT POPが連続でポイントを獲得して巻き返しを図る。 終盤には両者5ポイントを獲得しているMT POP と GUCCHONの対決となったが、MT POPが勝利して6ポイント目を獲得して王手。その勢いのまま7ポイント目も獲得して優勝に輝いた。今年の7月に開催された「SHIROFES.2023 - SAMURAI」でも優勝に輝いているMT POPは、細かくクリアなボディコントロール能力に加えて独創的なミュージカリティを武器に今回の7 to Smokeでも存在感を見せつけた。 【SAMURAI】OPEN & FEMALE 優勝者 コメント Ringo Winbee / © Jason Halayko ■FEMALE SIDE 優勝 Ringo Winbee 優勝した感想をお願いします! R:まず優勝できたことが本当に嬉しかったです。このイベントを凄く楽しみにしていたので、参加できて良かったし、SAMURAIは本当に好きなイベントなので結果を残せたことが嬉しいです。FEMAL SIDEで優勝できたこともそうですが、7 to Smokeなど貴重な体験をさせて頂いたことに本当に感謝しています。 7 to Smokeで印象に残っているバトルはありますか R:もちろんすべてのバトルが印象に残っていますが、GUCCHONさんやHOZINと目の前で戦えたことが嬉しかったし、特にGUCCHONさんは誰が相手でも真剣に向かってバトルしてくれるのでとても楽しかったです。 MACCHO / © Jason Halayko ■OPEN SIDE 優勝 MACCHO 優勝した感想をお願いします! M:今日は本当に楽しんで踊りたいなと思っていました。トーナメントで当たるダンサーも若い子が多かったですが、一緒に楽しめたと思うので、とても良い機会でした。 7 to Smokeに出場された感想はいかがでしたか M:やっぱり予選が終わってからの参加だったので、体力的にキツかったですね(笑)でも出場していたダンサーも知ってる人間ばかりで、いろんなシェアをしながらバトルできたことが良かったなと思います。この経験から得た内容で、もっと自分の踊りを追求していきたいと思っています。最高でした! 「SAKAI DANCE FES.」イベント概要 イベント名:SAKAI DANCE FES.(サカイダンスフェス)日程:2023年12月2日(土)~12月3日(日)観覧:無料時間:12月2日(土)11:00 開場 20:00 終了12月3日(日)15:00 開場 17:30 終了場所:〒587-8577 大阪府堺市美原区黒山22番1 ららぽーと堺 1F Fansta XROSS STADIUM(ファンスタクロススタジアム)開催コンテンツ:12月2日(土)・世界No.1を決める世界最高峰のPOPPIN’の世界大会 “SAMURAI(サムライ)”・キッズの日本一を決める全国大会 “NINJA(ニンジャ)”12月3日(日)・セイコー初のブレイキンイベント “Seiko 5 Sports Showdown”主催:一般社団法人Performing Arts Community後援:堺市協賛:SEIKO/三井不動産/Dickies/BreaKin’ “NinJA”